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修学旅行
修学旅行 3
しおりを挟む修学旅行2日目の今日は、待ちに待った自由行動の日。朝8時にレストランで食事をして、9時には全員が集められ先生達からの説明が行われた。
「それでは、今日の自由行動を撮影して下さる須屋 凛仁さんです♪」
「どもーよろしくッ!」
女性教師に紹介された凛仁さんは、いつもの明るいノリで私ら生徒へ挨拶をする。だがさすが人気俳優。凛仁を知ってる人は大はしゃぎして、中には気絶する生徒まで現れた。
「はい、静かに!須屋さんはご多忙の中、わざわざ足を運んで下さってます。失礼のないように」
そうして自由行動が開始となると、須屋は生徒に囲まれサイン会スタートとなる。私達は先に街を回ろうと思った時、一緒のはずの健人が居ないことに気づいた。
「あれ、健人と隼人は?」
「向こうで綾城と話してるね」
葵の言葉でレオを見ると、健人と隼人は得意げな顔になってレオを困らせていた。
「隼人、何してるの?」
「あっ莉緒!今から先生と記念撮影取ろうと思ってさ」
私がレオと思い出作る手助けのつもりだったのだろう。当の本人レオは「俺仕事あんだけど?」と言いながらも、どこも行こうとしない。そんなレオ見た葵はニコリと笑って、少し離れた場所にいた金木先生に声をかける。
「金木先生も撮ろ!」
「え、私もですか?」
「健人は須屋さん呼んで来て♪」
「おう!」
こういう時の葵の行動力は素晴らしい…。
この中で人混みをかき分けて、人目を気にせず凛仁さんを読んでこれるのは健人だけだと把握した上で素早く話を進めていく。
思惑通り、健人はすぐに凛仁さんを連れてきた。ある意味この葵の才能欲しいと思えるよね。
「んじゃ撮るよォ並んで並んで!」
「おい凛仁、下手くそだったらやり直しな」
「えぇぇレオ鬼!俺撮る側初めてなのに!」
「知るか、嫌なら一発で決めろ」
生徒がバラけたとはいえ、みんなの前で仲良さげに話して怪しまれない?と思ったけど、文化祭で凛仁さんが来た時点で知り合いなのはみんな知ってるか。
「ほい、1+1は?」
「写真撮るのにそれ古くない?」
「だなw」
「ぇぇぇ葵ちゃん達これ言わないの?!」
「言わなーい」
そんな事を言いながら、しっかり皆で写った写真を撮ってくれた凛仁さん。私達は1度レオ達と別れて、4人で自由行動を楽しむ事にした。
「とりあえず商店街を歩いて、昼食ってから水族館まわるか?」
「さんせー!」
「ちょうど10時だしね」
「少し小腹減ったァ」
「莉緒、買い物しまくろうね!」
「うん!」
商店街を見て回りながらご飯屋さんを探す事にした。私と葵は途中で何店舗か見付けたお土産屋さんに入っては、色々と買い漁って「可愛い」を連呼していた。
「見て見て莉緒ッこれ可愛い!」
「本当だ」
「お前らホント仲良いよな」
「二人って何でペアとかしないの?」
「あ、確かに」
「言われてみれば無いよね?」
「うん、葵どっちの色がイイ?」
「私はもちろんピンク!」
「なら私は青ね」
そうして買い物とご飯を終えた私たち四人は、仲良く水族館へと向かった。
「スッゲェ!」
「健人はしゃぎ過ぎw」
「でも噂通り綺麗な水族館だね」
「ホント」
受付を済ませ中に入った葵たちが感想を呟く中、私は葵の袖を掴んでその場に屈んでみる。
「莉緒?」
「ごめん葵…私ちょっと体調悪いかも」
「えッ大丈夫?先生呼んでこよっか?」
「大丈夫か?」
違うッ!隼人…早く気付いて!
そう内心叫ぶと隼人は私を見て苦笑いを浮かべ、葵と健人に話をしてくれた。
「せんは呼ばなくて大丈夫だよ。莉緒はランニング中もたまにあるんだ」
「そうなの。少し休めば良くなると思う」
「ホント?じゃそこの椅子で休も?」
葵は優しいなぁ、これ仮病なのに…
「莉緒は俺が見てるから、葵は健人と先に回ってたら?」
「え?でも莉緒置いて行けないよ」
「そうだぜ、4人で回るって決めたろ?」
「大丈夫。俺は生まれた時から莉緒と居るんだ、俺と莉緒なら大丈夫」
「そうだよ、せっかく来たんだし楽しんで?気分が落ち着いたら私も隼人とまわるから」
何とか説得に成功すると、しぶしぶ先に進んだ葵と健人ペア。やっと二人になってくれた安心感に私は「はぁぁ」と大きく息を吐いて力を抜いた。
「まさか仮病で2人と離れるとはね」
「うぅ、二人とも優しいから心が痛い」
「でもこれで俺も莉緒とデート出来るし、俺は良かったけど」
「それはどうだろ」
「ん?」
「凛仁さんを同行させたのレオだし」
「俺ってレオさ…綾城に警戒されてる?」
「うん、デートとか言ってるからでしょ」
椅子に座ったままそんな話をしていると、タイミング良く笑顔を浮かべた凛仁さんが此方に向かってくる。
「やぁ二人とも偶然だねぇ♡」
「偶然じゃ無くて待機してたんすよね」
「あれ、坂島君にもバレてる?」
「私がさっき話した」
「こうして、一生徒が抱く青春への想いは鬼教師によって打ち砕かれたのだった…」
わざとらしく嘆く隼人の言葉に「誰が鬼教師だ」と反応したのは、この場に居るはずの無いレオだった。
「綾城ッ…とガイドさん」
「どうも♪」
「でも先生、二人が何で此処に?」
「あぁ、見回り頼まれてな」
そう言うレオの横で「私は入口で偶然会ったの、何かの縁かしら」なんて微笑むガイドさん。
ガイドさん、アナタ今日は休みって聞いてますけど?なんの縁だよ、意図的だろ?ってか胸元開けすぎ…レオに見せるように近寄んなよ…オバサン。
「水族館でバカした奴が居るらしくてな、そいつの指導終わったら持ち場に戻らねぇと」
「ふーん」
私が1人で拗ねていると、隼人はバスガイドさんに無邪気な笑みを浮かべ質問を投げかける。
「ガイドさんは好きな人とかいますか?」
「え?唐突な質問ねッん~、内緒かな♡」
いや、レオを見んなしッ!
確かにレオはイケメンだし
優しいしカッコイイけどさッ!!
私が警戒心剥き出しにすると、困った様子で溜息を吐いたレオは「…俺は行くぞ」と逃げる様にその場を去って行った。もちろんガイドさんも着いて行こうとしていたが、それは隼人の笑顔で阻止される事となる。
「俺、もう少しガイドさんと話したいなァ♪」
「え?えぇ…良いわよ」
「あの子かなり性格真っ黒だw」
「隼人の面倒くささに勝てる人まだ見た事ないと思う」
「そりゃ凄いw」
それから1時間
まだガイドさんを足止めし楽しんでる隼人。
「まだ話してるよあの2人」
「しつこさだけは天下一品だもん」
「なら俺と水族館まわる?」
「レオだけじゃなくてミアに嫌われる勇気あるならデートしてあげる」
「ハハッそれは勘弁だw」
凛仁さんと共にケラケラと笑って話していると、突然聞こえた隼人の「もしかして綾城先生の事っ!!」というわざとらしい大声。
「シーっ!!声が大きいわよッ」
「あッ、すみません」
「彼は本当に生徒思いで、それでいて力強いじゃない?今までガイドしててあんな人初めてなの」
そりゃあハリウッドスターなるだけの
実力超エリートハーフなんて
日本にレオくらいだもんッ!!
心の中の叫びは私の顔に出ていた様で、凛仁さんは「深呼吸深呼吸」と笑って居た。
「私、あのガイドさん嫌い」
「もうそれ5回は聞いたよw」
そんな私たちを他所に、隼人はさらにガイドさんへ攻め入る。
「でも噂だと綾城先生って彼女居るよ?」
「あら、そうなの?」
「この前も記念日のお祝いしたって金木先生と話してたの聞いたし」
「なんだぁ残念♪」
「あッ須屋さんは?ほら須屋さんは俳優だしカッコイイし」
「私、色白の人とか有名人はダメなの」
「あれ?俺いま振られた?」
「だね」
「何もしてないのに…」
「ハイハイ」
聞こえて来た言葉に凛仁さんが嘆いていると、ガイドさんと話しを終え別れた隼人が満足気な顔で近寄ってきた。
「莉緒、噂だけ流しといたよ」
「全部聞こえてたっての、凛仁が勝手に振られて傷付いたじゃん」
「急な呼び捨てッ!俺、焼いた方がいい?」
「知らない」
「そのままで良いと思いますよw少なくともミアさんはそう思ってます」
「何で隼人がミアの好み知ってるの?」
「俺を誰だと思ってる?ミアは頻繁に言ってるよ、インタビューで好み聞かれた時に色白で面白い人がイイって」
「俺じゃないか!」
「うわぁ凄い自信…」
その後、生徒に呼ばれ凛仁さんと別れた私と隼人は結局二人で水族館を見て回り、レストランで葵達と合流し昼食を食べた。自由行動が終わりホテルに戻ると、不貞腐れているレオと励ます金木先生を見掛けた。
どうせまたレオのお悩み相談でも聞いてたのだろう。私達は広間に集められると工作を行うため、別の場所へ移動しシーサーの色塗りを始めた。
「はい、それでは今から目の前のシーサーに色付をしてもらいます。塗った作品は足元に名前を描き、提出して下さい。後日、焼かれた物が届きます」
金木先生の説明が終わると、生徒はそれぞれ思うままに色付けしていく。
「シーサーはやっぱ赤だろッ」
「健人それ、赤過ぎない?」
「これくらいが良いんだって♪」
「ふーん?莉緒はどんなのにする?」
「んー、どうしよ」
「私はもちろんピンク」
2人が塗り始めると私は無難な色を選んだ。暫く塗り続けていれば、クラスの子達に声を掛けていたレオが私達の元までやって来る。
「お前ら塗るの上手いな」
「綾城おっつー」
「私は美術得意だもん♪」
「俺は全塗りしてるだけだけどなw」
「ねぇ綾城、これ塗り終えたら足の裏に好きなの書いていいの?」
「おう、好きにしていい」
「了解」
私は足の裏に“R&R eternity”と書くことにした。すると体験が終わり回収したレオは足の裏を見て微笑んだ気がする。
もしかしてだけどスペル間違えた?
って不安なのなったけど、レオが何も言ってこないから大丈夫なんだろう。明日は飛行機に乗って帰るだけ…ようやくレオをガイドさんから引き離せることにホッとした私は、ゆっくり爆睡出来た気がした。
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