蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第十三章 三姉妹

13ー9 エドナサイド

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 ロンド村から見当たすと、まだ、遠くいるんだけど、あたしの目でも、ドラゴンの姿が見えるところまで、来たんだよ。

「ドラゴンが目の前に現れたな」
「お姉ちゃん、何ていったの~。もう一回言って~」
「私が聴き取れているから、カチュアは静かに! 話が進まない! ……というか、アンリはここから見えるのか? エドナならともかく」
「わたし達姉妹は五感のいずれかが極端に発達しているのよ。わたしが、視力。チーちゃんが聴力。リリカが嗅覚って感じ。チーちゃんは、視力も嗅覚もわたし達程ではないけど、優れているのよ」

 ドラゴンはロンド村へ向かってくる様子はないんだよ。あれ、よく見たら、人がたくさんいるのが見えたんだよ。それに、どこかで、見たことある人もいたんだよ。

「今ドラゴンは帝国軍らしき軍団と交戦中ね。でも、チーちゃんと再会した時に、ドラゴンと交戦していた人達とはまだ違う気がする」
「もしかして、シグマ様の軍ですか!」
「はうう。以前あったことある人もいます。間違いないんだよ、シグマさんなんだよ。でも、何だか危ない気がするんだよ」

 遠くから見た限り、シグマさん達は押されているんだよ。

「シグマ軍が全滅したら、ドラゴンがこっちに来るんじゃねえのか!? 妾達もドラゴンを倒しにいくか?」
「え? 勿論よ~。でも、ここは、わたし達が行くわ~。マリンちゃんは、この村に残っていて~」
「え! 確かに、妾は、カチュアと比べたら、戦闘力は劣る。それでも、民の安全を守らないと」
「でも、それはドラゴンを殺すことよね~」
「何躊躇ためらうんだよ? 村を守るなら、あのドラゴンを倒さねぇと」
「そうよ。でも、だからと言って、マリンちゃんの目の前で、マリンちゃんのお父さんを殺されるところを見せたくないわ~」
「え?」

 マリンさんが、固まっちゃったんだよ。

 でも、カチュアさんの言っていることってどういうことなんだよ。ドラゴンを倒すのと、マリンちゃんのお父さん……皇帝様を殺すことになるのと、どう関係しているのかな?

「カチュアさん、それ? どういうこと?」
「あの、ドラゴンがマリンちゃんのお父さんよ~」
「まさか、あのドラゴンは魔物化した皇帝様!?」
「いや! 何の冗談だよ!」
「いいえ、チーちゃんは嘘を着けない。それに、あのドラゴンが、あなたのお父さんという、根拠があってこそ、言えたことよ」
「微かに、聞こえるわ~。『マリン、すまない』って、人の声で」
「いや、ここからでも、聞こえてくるが、咆哮しか聞こえない……。人の言葉なんて出ていない……」
「普通の人なら、そう聞こえれでしょうね。でも、チーちゃんなら、そう聞こえたみたいね」
「そんな! 親父が……親父が……」

 マリンさんは混乱している見たいなんだよ。無理もないんだよ。あのドラゴンがマリンだったんだから。

 あたしは、また、ドラゴンの方へ見ると、まだ、交戦中なんだよ。はう? よく見たら、ドラゴンと戦っているのは一人だけなんだよ。その一人は……。

「はわわ!! 今は、シグマさんが一人で、ドラゴンに交戦しているんだよ!」
「抑えきれてない見たいだ……。こうなったら」
「何するんですか?」
「とにかく、ドラゴンを撃ち落とすか」

 アンリさんは、カチュアさんの扱う大剣よりではないんだけど、大剣を取り出したんだよ。でも、カチュアの大剣と比べたら、変わった型をしているんだよ。

「重たそうなんだよ」
「リリカ! 矢を!!」
「それよりも、ドラゴンキラーの矢があるなら、そっちを使った方がいいじゃないの?」
「二本しかない。それに、ドラゴンキラーとはいえ、一発、二発の矢で、あの禍々しいオーラを纏ったドラゴンを倒せるとは、思えない! できる限り、温存して置きたい!」
「お姉ちゃん。速すぎて聞き取れなかったわ~。もう一回言って~」
「チーお姉ちゃん! わたしにお願いされたことだし、そのわたしが聞き取れたから、いいよ!」

 リリカさんの手の平中心が冷えてきたんだよ。すると、リリカさんの手元には、氷で出来た巨大な矢が現れたんだよ。

 これはあたしがよく使っている、魔術で構成した矢の氷バージョンなんだよ。

「リリカちゃんは魔術使えるのね~」
「チ―お姉ちゃんがいなくなった後に、魔術を学んだんだ」
「リリカは三姉妹の中では、唯一魔術が扱えるってことよ」
「でも、何で矢を? あなたは弓を持っていませんよね?」
「ああ。この剣が……」

 アイラさんの大剣が大きな弓になったんだよ。

「このように弓に変形できるのよ」

 アンリさんは、リリカさんが作ってくれた巨大な氷の矢を弓で引いて、ドラゴンに狙いを定めているんだよ。

「ところで、あなた達はドラゴンキラーを持っているんですね」
「ドラゴンキラーってなに?」
「ドラゴンの鱗を破るのは、ドラゴンの爪が牙。ドラゴンキラーはドラゴンの体の一部を使って武器として加工した、竜殺しの武器を指します。とは言っても、それでも、ドラゴンの体を傷つけるのは難しいです」
「じゃあ、カチュアさんが、その武器を使えば」
「チーちゃんは無理よ。ドラゴンは魔物。チーちゃんが触れたら、使い物にならなくなる」
「そっか。やはり、そう都合よくいかないか」
「さて、皆、戦闘準備を! 後、二十秒後に、ブレスは放つために、口を開ける。そこを狙う」

 アンリさんは鋭い目つきで、狙いを定めていると、ドラゴンの姿勢が下向きになったんだよ。

「今だ!!」

 ピッシューーーン!!!

 アンリさんは氷の矢を放ったんだよ。

 氷の矢が放たれると、冷たい風が吹いてきたんだよ。氷の矢はドラゴンの方へ向かっていったんだよ。

 一方、ドラゴンは、ブレスを吐こうと口を開け始めただよ。口が開いた僅《わず》かの隙間にアンリさんの氷の矢が入ったんだよ。

 飛んでいたドラゴンは、口を大きく開けながら落ちて行ったんだよ。

「あのドラゴンを弾き飛ばしたよ」
「さすが、カチュアさんのお姉さんッス」
「いや。わたしはカチュア程、力持ちじゃないよ。わたしは、射抜くだけで精一杯だから」
「じゃあ~。いくわ~」
「カチュア、申し訳ないけど、私はこの村に残って、村人を守らないとだから」
「ロゼッタ。ドラゴンはわたし達姉妹に任せて。ロゼッタはあなたの使命を果たして」
「ありがとう。シグマ様をお願いします」

 ロゼッタさんはお辞儀をしたんだよ。

「向こうに怪我人がいるなら、助けないとなんだよ! あたしも行くんだよ! 治癒が役に立つんだよ!」
「でも、危険ですわ。エドナさん」
「そこは、わたし達三姉妹が守るよ。それに、仮にシグマとかいう奴が無事でも、速めの応急措置をしなければ、手遅れになるかもしれない」
「妾もいく」
「マリンさん! でも……」
「あれが、親父なら、妾が後処理するぜ」
「なら、僕もいく」
「アイラ! 復讐なら」
「おバカ! 復讐とかじゃない。それは、過去を打ち消したわけではない。だが、このままにして置けないし、親友を死なせる訳にはいかない」
「……分かったわ~。じゃあ、いきましょ~」

 こうして、あたしと、カチュアさん、アンリさん、リリカさん、サリナさん、マリンさん、アイラさんでドラゴンの元へ向かったんだよ。

 後の皆は村人の避難誘導をするため、ロンド村へ残ったんだよ。 
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