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アスレ編
妻が妊娠したが俺の子ではないらしい
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「妊娠した」
目の前にいる妻は冷めた目つきで俺に告げた。
「貴方の子ではないのよ」
数ヶ月前の妻から手紙で既に妻の子は俺の子ではない事など知っていた。
それも魔王の子である事も。
魔王に脅されて……なんて一縷の希望に賭けて家を飛び出して数ヶ月の旅の果てに魔王城に着くと城の王の間に通された。
魔王の玉座に通された俺の目の前には魔王と妻、アリシアが並んで玉座に座っている。
「魔王に脅されているんだろ!?なぁアリシア!」
「愛想尽きたのよ。私は自由に冒険したかった。でも貴方は束縛したわ。だから家を飛び出して、魔王イベルマン様と出会ったのよ」
怒り憎しみ憎悪それら全ての感情から全身の血の気が引いて絶望感が湧き上がり自然と涙が溢れる。
俺は剣に手をかけた。
「イベルマン様、やって!」
魔王イベルマンは立ち上がり杖を振り上げた。
すると俺の体は黒いオーラに包まれ、身動きを封じた。
オーラと共に縛り上げるように宙に浮く。
「ぐぅわぁぁ!」
「最後の愛よ」
アリシアが呟いたのを最期に俺の意識は消えた。
「逃がして」
その一言と共に真っ暗な世界から突然目の前が明るくなった。次第に視界がはっきりすると上半身を起こした。
薄暗い部屋の硬い木製のベッドの上から周りを見回す。木造の部屋には大した物は置いてない。
俺が住む地域では石造りの家が一般的だから、おそらく最北に位置する魔王城から西の地方の家に助けてもらったのか。
どうも胸と頭がズキズキ痛む。
胸を見ると傷に効くリーキの葉が貼ってあった。額にもリーキの葉が貼ってある。傷を癒したら魔王城に乗り込み、今度は魔王を倒して妻を取り返そう。そう考えていた矢先、突然部屋の扉が開いた。
「おはよう。大丈夫?」
扉を開けて部屋に入ってきた子ども。
長髪の髪を三つ編みにした女の子は俺の伸ばした脚の上に勢いよく乗り、胸のリーキの葉を手際良く取り替えた。
「君が看病を?」
子どもの手が止まった。
不思議そうに青い瞳で顔を覗き込み、眉間にシワを寄せて眉をハの字にした。
「君?」
「君は君だろ?」
「私の名前は?」
「会ったばかりだから、分からないよ」
みるみる内に青ざめて、部屋を飛び出すと部屋の外から「お母さーん!」と叫び声が聞こえてきた。
今度は先程の子どもが連れてきた大人が部屋に入ってきた。
子どもに似た大柄の女性。鼻は高く目鼻立ちは良い。眉は細くて唇は薄く、耳がツンと長い。
おそらくエルフかエルフのハーフだろう。
「自分の名前は分かる?」
「グリムス・アーリエット・リュウベンバーグです」
女性は驚いて大きな叫び声を上げた。
なぜだ?俺は一応大陸の四大国家が一つ、リュウベンバーグ家の遠縁でありリュウベンバーグ随一の冒険者のグリムス。大陸では結構有名な方だと自負しているが知らないのか?
「歳は?自分の歳は?」
「32歳」
「ここは?」
「リュウベンバーグではなさそうだ。西のアルムス地方ですか?」
大人は急いで部屋を出た。そしてローブを着た魔術師の老婆を連れてきた。
老婆は杖を俺の額に当てるとゴニョゴニョと呪文を唱えた。
そして杖の先が光り部屋全体を照らした。
「桶に水を一杯入れて持って来なさい」
老婆の指示通りに大人の女性は動いた。
桶に張った水は俺の伸ばした脚の上に置かれた。
「さぁ覗き込みなさい」
俺は水が張った桶を覗き込むと、知らない顔が映っていた。
「だれ?」
卒倒した大人を支える子ども。
魔術師の老婆は大人に杖を当てると大人は目覚めた。
「すみません」
「しっかりしなさい。母親である貴女には聞いてもらわねばならない話だよ」
「はい。アスレが名前さえ忘れてしまったのが不憫で」
母親……老婆は悲しむ大人の女性を母親と言った。
それにアスレとは俺のことか?
「お前さんは魔王しか使えない転生魔法で転生したんじゃ。このアスレの体にな」
「俺はリュウベンバーグの……俺は俺の記憶がある。ならばアスレの記憶や魂は?」
「おそらくロスト……失われた」
またも卒倒しそうな母親。しかし今度は堪えた。
「アスレの事を教えてやりなさい」
「ありがとうございます。ロキ様」
俺は母、マーレからアスレの事を教えてもらった。
アスレは14歳。西の国の辺境の地のゴモラ村出身で農耕をしながら母親マーレと妹のペリシアと過ごしている。
父親は冒険者で冒険に出たきり帰ってこないという。
アスレは働き者で農耕をする傍ら、村を守る兵士見習いも務めていた。
見習いの訓練で森に入った際、魔獣に襲われて頭と胸を怪我した。
そして目覚めたら転生した俺、グリムス・アーリエット・リュウベンバーグの意識がアスレの体に入っていた。
目の前にいる妻は冷めた目つきで俺に告げた。
「貴方の子ではないのよ」
数ヶ月前の妻から手紙で既に妻の子は俺の子ではない事など知っていた。
それも魔王の子である事も。
魔王に脅されて……なんて一縷の希望に賭けて家を飛び出して数ヶ月の旅の果てに魔王城に着くと城の王の間に通された。
魔王の玉座に通された俺の目の前には魔王と妻、アリシアが並んで玉座に座っている。
「魔王に脅されているんだろ!?なぁアリシア!」
「愛想尽きたのよ。私は自由に冒険したかった。でも貴方は束縛したわ。だから家を飛び出して、魔王イベルマン様と出会ったのよ」
怒り憎しみ憎悪それら全ての感情から全身の血の気が引いて絶望感が湧き上がり自然と涙が溢れる。
俺は剣に手をかけた。
「イベルマン様、やって!」
魔王イベルマンは立ち上がり杖を振り上げた。
すると俺の体は黒いオーラに包まれ、身動きを封じた。
オーラと共に縛り上げるように宙に浮く。
「ぐぅわぁぁ!」
「最後の愛よ」
アリシアが呟いたのを最期に俺の意識は消えた。
「逃がして」
その一言と共に真っ暗な世界から突然目の前が明るくなった。次第に視界がはっきりすると上半身を起こした。
薄暗い部屋の硬い木製のベッドの上から周りを見回す。木造の部屋には大した物は置いてない。
俺が住む地域では石造りの家が一般的だから、おそらく最北に位置する魔王城から西の地方の家に助けてもらったのか。
どうも胸と頭がズキズキ痛む。
胸を見ると傷に効くリーキの葉が貼ってあった。額にもリーキの葉が貼ってある。傷を癒したら魔王城に乗り込み、今度は魔王を倒して妻を取り返そう。そう考えていた矢先、突然部屋の扉が開いた。
「おはよう。大丈夫?」
扉を開けて部屋に入ってきた子ども。
長髪の髪を三つ編みにした女の子は俺の伸ばした脚の上に勢いよく乗り、胸のリーキの葉を手際良く取り替えた。
「君が看病を?」
子どもの手が止まった。
不思議そうに青い瞳で顔を覗き込み、眉間にシワを寄せて眉をハの字にした。
「君?」
「君は君だろ?」
「私の名前は?」
「会ったばかりだから、分からないよ」
みるみる内に青ざめて、部屋を飛び出すと部屋の外から「お母さーん!」と叫び声が聞こえてきた。
今度は先程の子どもが連れてきた大人が部屋に入ってきた。
子どもに似た大柄の女性。鼻は高く目鼻立ちは良い。眉は細くて唇は薄く、耳がツンと長い。
おそらくエルフかエルフのハーフだろう。
「自分の名前は分かる?」
「グリムス・アーリエット・リュウベンバーグです」
女性は驚いて大きな叫び声を上げた。
なぜだ?俺は一応大陸の四大国家が一つ、リュウベンバーグ家の遠縁でありリュウベンバーグ随一の冒険者のグリムス。大陸では結構有名な方だと自負しているが知らないのか?
「歳は?自分の歳は?」
「32歳」
「ここは?」
「リュウベンバーグではなさそうだ。西のアルムス地方ですか?」
大人は急いで部屋を出た。そしてローブを着た魔術師の老婆を連れてきた。
老婆は杖を俺の額に当てるとゴニョゴニョと呪文を唱えた。
そして杖の先が光り部屋全体を照らした。
「桶に水を一杯入れて持って来なさい」
老婆の指示通りに大人の女性は動いた。
桶に張った水は俺の伸ばした脚の上に置かれた。
「さぁ覗き込みなさい」
俺は水が張った桶を覗き込むと、知らない顔が映っていた。
「だれ?」
卒倒した大人を支える子ども。
魔術師の老婆は大人に杖を当てると大人は目覚めた。
「すみません」
「しっかりしなさい。母親である貴女には聞いてもらわねばならない話だよ」
「はい。アスレが名前さえ忘れてしまったのが不憫で」
母親……老婆は悲しむ大人の女性を母親と言った。
それにアスレとは俺のことか?
「お前さんは魔王しか使えない転生魔法で転生したんじゃ。このアスレの体にな」
「俺はリュウベンバーグの……俺は俺の記憶がある。ならばアスレの記憶や魂は?」
「おそらくロスト……失われた」
またも卒倒しそうな母親。しかし今度は堪えた。
「アスレの事を教えてやりなさい」
「ありがとうございます。ロキ様」
俺は母、マーレからアスレの事を教えてもらった。
アスレは14歳。西の国の辺境の地のゴモラ村出身で農耕をしながら母親マーレと妹のペリシアと過ごしている。
父親は冒険者で冒険に出たきり帰ってこないという。
アスレは働き者で農耕をする傍ら、村を守る兵士見習いも務めていた。
見習いの訓練で森に入った際、魔獣に襲われて頭と胸を怪我した。
そして目覚めたら転生した俺、グリムス・アーリエット・リュウベンバーグの意識がアスレの体に入っていた。
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