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サクラからのご褒美

過去(1)

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 「キク!起きて!」
 誰かに呼ばれて目を覚ました。
 「・・・おはよう。」
 「おはよう!・・・?どうした?」
 「何か夢を見てた気がするけど覚えてない・・・・・」
 ボーッとしているとサクラが僕の顔を覗き込んで来た。
 「大丈夫?」
 「うん・・・」
 僕は立ち上がってサクラに向き直り「じゃ、行こうか」と言うとサクラは「うん!」と言った。前日に準備しといた荷物を持って部屋を出た。
 「お父さん、お母さん。・・・・心配かけました。また、暇になったら顔を見せに来るね。」
 僕の口が言うとお父さんは何かを言おうとした瞬間お母さんが指パッチンをした。お父さんは口をパクパクしていたが声は出ていなかった。
 「ほら、お父さんは私は抑えているから行って!手紙頂戴ね!約束よ。ばいばい」
 僕とサクラは「はい」と言って家を出た。
 「・・・キク。行こうか。やっと、やっと行けるね。」
 「ちゃんと説明してよね?」
 「分かってるって・・・」
 どこか楽しそうにサクラは歩みを進めて行く。僕達は僕が迷子になった森に入った。サクラは迷わずに小屋に向かって行った。
 「着きましたね。」
 小屋に近づいてサクラがノックした。すると奥から「はーい!」と言う声が聞こえた。
 僕は後ずさってしまった。体がガタガタと震えて来た。
   あ、会いたくない・・・・会いたくない・・・
 「キク?」
 心を読まれたのか振り返ったサクラは首を傾げていた。するとドアが開いた。
 「サクラさん!久しぶり。説得できたの?」
 「ツバキさん。はい!説得できました。それで、それで・・・キク!来て!」
 サクラに呼ばれたが足が動かない。
   椿・・・・なんで・・
 「キク?どうかしましたか?」
 「・・・・ど、どうして椿がここにいるの?」
 知ってたはずなのに納得、信じることが出来なかった。
 「キク君?どうして名前・・・・あ!もしかして・・・サクラさん!」
 「エヘヘ・・・そうです。キク!ツバキさん!私からのご褒美は『助けた妹さんとまた家族として異世界で生活出来る』と言うものです。」
 サクラは胸に手を当てて言う。椿は目を輝かせて
 「何、なにそれ!サクラさんありがとう!嬉しい。お兄ちゃん!お兄ちゃん。久しぶり!」
 「・・・・・」
 近づいてくる椿。それを喜びながら見ているサクラ。僕は下を向いたまま。自分を抱きしめる。
 「・・・・来るな・・・・。」
 「え?」
 「・・・どうして、どうして異世界に来た・・・・お前は轢かれなかったんだからあっちの世界で暮らしなよ。どうして・・・どうしてここにいる?・・・・・」
 目を逸らしながら椿に言う。椿は戸惑ったように立ち尽くしながら
 「だって・・・だってお父さんもお兄ちゃんもいない世界でどうやって暮らせばいいの?お、お兄ちゃん言ってくれたじゃん。お父さんの葬式で私が『ずっと一緒にいてね』って言ったら『うん』って。だから・・・だから私ッ。」
 「・・・・・僕は知り合いがいない世界で過ごしたい。椿・・・・お前は知らないだろうな。お父さんがどんな理由で僕に暴力を振るっていたか。僕がどんな気持ちでお前と接していたか。お母さんがどんな風に死んだのか。お前は僕のどんな気持ちを知っているんだ?家族と過ごしたくない・・・だから、僕の前から消えて欲しい・・・・」
 僕は叫ぶように言う。
   ・・・・椿。ごめん。もうお前の兄ではないんだ。だから・・・僕から離れて・・・
 僕は目をつぶる。過去を思い出していた。
 僕は昔・・・前世、都倉とくら 泉華せんかだった時。
 泉華と名付けてくれたのは母だった。泉と書いてせん。華と書いてか。幼い時はこの名前が好きだった。世界に僕だけの名前だと思っていたから。ある日、父に由来を聞いた。
 『泉華の由来は鳳仙花。意味は『私に触れないで』。』
 お父さんは僕の由来をこう言った。どうしてこの意味から取ったのか不思議だった。だから幼い僕はお父さんに質問した。「どうしてこの言葉を選んだの?」とお父さんは黙った。その時のお父さんは仕事がうまくいっていなくて酒を飲んでいて僕からの質問責めにイラついていた。何か言う前にお父さんは僕を殴った。「うるせー」と言いながら何回も、何回も。僕は泣きながら「ごめんなさい」と言う。その日はお父さんが僕を殴るのに飽きて寝るまで痛い思いをしていた。
 その日から数日経ち、妹が、妹の椿が生まれた。お父さんは椿には優しかった。あの日を境にお父さんは僕とお母さんに暴力を振るうようになった。何日か経った後、お母さんは僕に言った。
 『泉華・・・椿を、妹を待って、それがお兄ちゃんの役目だから・・・お願いね。』
 次の日。お母さんの部屋を覗くと・・・・お母さんが首を吊ってをしてしまった。僕は膝から崩れ落ち泣いた。泣きながら届かないけどお母さんに訴えた。
 「どうして、どうして。僕を置いて行くの?僕は一生耐えないといけないの?お母さん!お母さん!僕を見捨てないでよ!自分だけ楽にならないで・・・・・お母さん!お、お母さん・・・・・お、かぁ・・・さん。」
 妹の泣き声だけが聞こえる。
 お母さんが死んで、3人家族になって暮らしていた。椿は優しいいい子だった。暴力を振るわれて怪我を負った僕の手当は勿論、お父さんに何が悪かったのか聞いてしまうほどに優しかった。
 ある日、お父さんがどこかに出掛けて行った。数時間経って知らない誰かから電話がかかって来てお父さんが交通事故に遭ったと聞いた。一応、お葬式は小規模で行った。涙は出ない。妹は大泣きだった。僕も妹も信号を気にする余裕がなかった。これからどう生きていこうか、ずっと考えていた。妹が轢かれそうになったのを助けて僕は轢かれた。


 「お兄ちゃん?何を言ってるの?お兄ちゃんの気持ち?お父さんが暴力振るっていた理由?お母さんが死んじゃった理由?・・・・分かんない。私じゃ、お兄ちゃんが抱えているの分かんないよ。」
 椿が言葉を発し意識が戻って来た。
 「・・・・・椿・・・どこかに言ってくれ・・・・」
 首を横に振る椿。
 「・・・キク・・・私、何をして・・・」
 「サクラは何も悪くないよ・・・・こっちの問題・・・・椿、僕の泉華って言う由来何か知ってる?」
 「・・・・うん。『心を開く』『誰とでも仲良く心を開けるように』ってお父さんが言ってた・・・」
 「うんん。お父さんは僕に言った。『私に触れないで』って。その由来が原因っていう訳じゃないんだけどその由来を聞いた日から僕とお母さんに暴力を振るうようになった。お母さんはお前を産んで暴力にたいきれなくて自殺をした。・・・・・・お前が生まれる前は幸せだったんだ。・・・・・・サクラ・・・・サクラごめん。サクラの名に由来はないんだ。本当は僕の一番の思い出があっちの世界の桜の木なんだ・・・・。椿が生まれる前三人で毎年桜が満開になると公園に見に行った。でも椿が生まれてから椿としかいかなくなった。僕は、僕はッ。お父さんに「行こう」って言ってもらいたかった。・・・・・・僕はもう一度お父さんと桜が見たかった。」
 僕は自分に言い聞かせるように言う。
 「お兄ちゃん・・・・お兄ちゃん・・・・・」
 僕達は泣き会う。お互いの気持ちはまだ分からない。ただ分かることはお互いに吐き出したい気持ちがあると言うことだけ・・・・・



   ・・・・お母さん・・・どうして僕を置いて行ったの?僕はいつまで我慢すればいいの?・・・お母さん・・・
   ・・・・お母さん・・・・お、お母さん・・・お、母さ・・・ん
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