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第172話
しおりを挟む「──じゃあ真樹君は……今はご両親とは疎遠なんだね。」
丙さんにそう言われ、少し考えてから返事をする。
「疎遠と言いますか……もう勘当されました。暫く経った事もあるし、何より凪さんが居てくれたので、もう気にしてません。」
「そう。……それにしても辛かったね。」
眉を八の字にする丙さんだけれど、今はそこまで辛いとは思っていない。
「その時は辛かったけど、でもずっと凪さんが励ましてくれました。傍に居てくれたし、だから寂しくはなかったです。寧ろ幸せで……こんなに思ってくれる人がいるんだって、初めて知りました。……凪さん、ありがとう。」
改めてお礼を言いたくなって、凪さんにそう言うと、彼は柔らかく微笑んだ。
「うん。二人が幸せそうでよかった。ね、信英。」
「ああ。」
凪さんが前に言っていた通り、彼のご両親は優しくて、オメガの俺を嫌がる事も無かった。
むしろ、凪さんのように優しくて、居心地がいい。
「真樹君。君が良ければずっと凪と一緒にいてあげてほしい。」
「ぁ、え、も、もちろんです!俺の方こそ、ずっと一緒にいてほしいです。」
「ふふっ、よかったなぁ、凪。」
穏やかな空間に包まれる。
二時間ほどすると、ご両親は帰って行った。
緊張が解けて、食器を洗っていると、後ろから凪さんに抱き締められる。
「突然ごめん。驚いただろ」
「うん。でも話せてよかったよ」
「そう?ならよかった。ありがとう」
手をタオルで拭き、振り返る。
抱きしめられているから、すぐそこに凪さんの顔があった。
「ん……」
唇を重ねられ、舌を絡める。
頬を撫でる手が温かくて、唇が離れてから、彼の手に顔を擦り寄せた。
「凪さん、俺はね、凪さんとずっと一緒にいたい。さっきは丙さんが言っていたけど、凪さんの気持ちを聞きたいな。」
「俺も真樹とずっと一緒にいたいよ。」
「嬉しい」
ギュッと凪さんの背中に手を回し、肩に顔を押し付ける。
聞こえてくる心音のおかげで眠たくなって、ふわぁーっと欠伸を零した。
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