アルカディア ～初代女帝の転生記～

序章 第一幕

0 初代女帝、5歳

「〈浄化転生アルトリア〉」

手を大きく広げて、息を吸って。
魔力で魔法術式を描いていく。

「魔法は絵、魔法は歌、魔法は花、魔法は蝶。自由に羽ばたき希望を生み出す」

愛する世界へ、愛する人へ、魔法を届ける。希望のために。

「―――さようなら、世界」

目の前の少女を見やる。
その少女は泣いていた。
金色の綺麗な瞳を潤ませて、その白い手を懸命に伸ばして。

「アナ……！」
「またね、リスティア」

指先が光る。
リスティアの手が私に触れないまま、私の体が消えていく。

魔法は絵、魔法は歌、魔法は花、魔法は蝶。自由に羽ばたき希望を生み出す。

私はまたここにやってくる。

「…ありがとう、アナ」

彼女が笑った。
ようやく笑ってくれた。よかった。
最後に、私はありったけの力を振り絞って、ぽんっと一輪の花を生み出した。

「ばいばい」

花が舞う。光が降り注ぎ、風が凪ぐ。
中枢世界アルムエデン、それが私の墓場であり門出の場所。

しゅわっ、と光の粒子が渦を巻く。
そうして、私という存在は「死んだ」のだった。



＊＊＊＊



そして。

「ふああ……」

そのときから何百年かがすぎた頃。

「よく寝た…」

ふかふかのベッドから起き上がった5歳の少女、ルシア・レヴィアル・ゼルフォードはうーんと伸びをした。
彼女の魂、具体的には初代女帝アナの魂が、子孫の第2皇女として転生して5年。
アナ改めルシアは、前世の記憶と魔力を保持しながら、充実した毎日を送っていた。
とはいえ、公務が始まる歳になるまでは皇都郊外の屋敷て過ごすことになっているので皇宮にいるわけではないが。

ベッドから降りて髪に櫛を通してから、ルシアは自分の足元に手を翳した。

「〈衣装交換コーディネート〉」

ふわっと足元に魔法術式が浮かび、光が小さな体を包み込む。
次の瞬間には、彼女はネグリジェから淡い黄色のワンピースに着替えていた。
（さてと。今日は何をしようかなー）
ルシアは皇宮にいるわけではないことをいいことにやりたい放題である。
皇都の孤児院を支援して大きくしたり、死にそうな牧師を助けたり、お忍びで出かけて知り合いを作ったり。
いくら気をつけてもいつの間にかいなくなっているので使用人たちは気が気でない。
るんるんと鼻歌でも歌いそうな足取りでルシアは食堂へと向かっていった。