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6章
128話 なぜそれを使ってしまったのか
しおりを挟む「金銭的に価値のあるもの……?」
僕はサシャの言葉に聞き返す。
サシャはゆっくりと頷いた。
「はい。そうかもしれないと思っております」
「確かに、それならさっきの……院長先生の態度も分かる……かな」
「ええ、その生き物に価値がある……ということはあまりないと思います。すぐに金銭に変えればすみますので。ではどうなのか。その生き物が大事な物を守っている。もしくは、大事なものに繋がっている。というので考えるのが自然かもしれません」
「悪い事をしちゃったな……」
そう考えてさっきの会話を思い返すと、隠してあるあなたの大事なものの場所を調べた。
本当に大事なものにつながる生き物を食事にしようよ!
という事を僕は言ってしまったことになる。
院長先生が怒るのも無理はない。
「しかし、不思議で仕方がありません」
「どうして?」
「孤児院ですよ? もし金銭的に価値があるのであれば、それを売って金に変えてもいいでしょう? それをしていない。ということは、何か……それをしたら危険な状態になるのかもしれません」
「孤児院が大金を持っていたら危ない……っていうことじゃないのかな?」
「それであればディオン様を介して金銭を得ればいいと思います。毎週来られている様ですし、メーテル様もディオン様の事はとても信頼しておられましたから。領主の屋敷で大金を管理することくらい簡単でしょう」
「そっか……」
じゃあどうしてなんだろうか。
考えていると、サシャがさらに口を開く。
「なので、私はこれからもここにきます」
「サシャ? どうして?」
「エミリオ様やロベルト様がここに来られるのをやめるつもりはないでしょう?」
「多分……もしもそれが勘違いだったら、申し訳ないし。来なくなって子供たちを悲しませたくないし……」
第一、孤児院が大事な物を持っている、じゃあ来るのをやめますね。
というのは話が繋がらないと思う。
「なので、私が少し調べてみようと思います。なにか孤児院に危険が迫る様な秘密かどうか……それを調べてからでも遅くはないでしょう。それに、エミリオ様は明日からまた治療ですよね?」
「うん。その予定だよ」
「では、私はロベルト様についてこの孤児院に来ようと思います。よろしいですか?」
「兄さんをよろしく」
「はい。勿論でございます」
「それとサシャ。無理はしないでね」
「……ええ。心配して頂けるとは、ありがとうございます」
そうして、後はいつものように孤児院で過ごし、その日を終えた。
******
次の日、僕は師匠とクレアさんと一緒に、とある個室に訪れていた。
個室の中には最初に治療した患者の女性と、その婚約者の人がいる。
今日は体調が安定したということで、マーキュリーを使っていた患者に話を聞くということになった。
どんな情報でもいいから、マーキュリーに関する情報が欲しいからだ。
患者はベッドの上で上半身をおこしていて、婚約者の人は僕達の反対側でイスに座っていた。
クレアさんがベッド側のイスに座り、僕と師匠はその後ろのイスに腰を降ろす。
「さて、それではマーキュリーをどうして使ったのか。どうしてマーキュリーを使い続けたのか。その理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「……はい。私は……地方の男爵家の出です。なので、出来るだけ多くの情報を領地に持ち帰らなければなりません。ですが、それはここにいる小領地の貴族は皆一緒。いかにして大貴族の目にとまるか、大貴族の覚えを良くして、必要な情報をもらうかということを考えます」
「ええ。それが貴族の……この街での重要な要素でしょうから」
「はい。ですが、私は……与えるものがないのです」
「与えるものがない?」
「私の家はしょせん男爵家。ドルトムント伯爵様達が知りたくなるような重要な情報を持っていると思いますか?」
「……それは少ないでしょうね」
「ないのです。ではどうしたらいいのか。自分を出来る限り着飾って、男性の目にとまればいい。そう考えるのは……おかしいことではないと思います」
「……そうね」
「でも、現実は甘くない。そう言ったことは他の令嬢の方々も当然やっているし、高位貴族の方々も素晴らしい化粧品を使っていて余念がありません。私のような弱小貴族では、資金力で勝つことも当然できません」
「……」
「そんな時、私はとある商人にマーキュリーと呼ばれる化粧品を頂きました。試しであげるから、使ってみなさい。と」
「……それで使ったと」
「はい。最初は疑問だったのですが、このまま何もできない私のままでいるよりはいいだろう。そう思って使ってみました。そうすると、多くの方々に話しかけられる様になりました。男性にはダンスに誘われ、女性には化粧品についてを聞かれたり……。その過程で、多くの情報を聞くことが可能になったのです」
「なるほど」
「マーキュリーを使えば多くの情報を得られる。その事は、私の領地の為にもなりますし、彼の……私の婚約者のためにもなりました」
「……」
「領地からも素晴らしいと、もっと……多くの情報を集めて、送ってくれ、お前は誇りだと……そう言われて私はさらにマーキュリーを使い、多くの舞踏会に出るようになっていきました。でも、素晴らしい生活は長く続かなかった」
「副作用が……出たのですか?」
「ええ、最初は気のせいかと思いました。なんとなく黒くなっているな。ただ、この時に私は毎晩舞踏会にでていて、その疲れのせいかもしれない。そう思っていました。でも、それは違った。日が経てば経つほどに黒くなり、歯も……黒ずんでいきました。そして、それを隠すように、私はさらにマーキュリーを使っていきました」
「途中でやめることはできなかったのですか?」
「領地のため、彼のため、私は情報をもっと集めなければと、そう思っていたのです。彼らの期待に応えたいと思い、そうしていたのですが……。気が付いたら意識を失い、ここに居ました……」
「なるほど。マーキュリーの入手方法の商人はどこにいるのかご存じですか?」
「……わかりません。大量に買いつけた後に、探しましたがどこかに消えていました」
「なるほど。ありがとうございました。何か聞きたいことはありますか?」
クレアさんは僕達の方をみて、そう聞いてくる。
師匠は、前のめりになって彼女に色々と質問をしていく。
「では、マーキュリーを使っている時に、肌に何か感じることはあったか?」
「そう……ですね。水分が奪われるような感じは……どこかあったかもしれません」
「それでは乾燥しやすくなった。ということか?」
「多少は……あったように思います」
「なるほど、では……」
師匠はそうやって僕が聞くことが全く無くなるほどに、彼女にマーキュリーの事を聞いていく。
どんな感じだったのか、どんなように感じたのか。
細かいことや変化についてあらゆる角度から聞いていた。
そんな師匠の質問を聞きながら、僕は思う。
彼女を……彼女たちを助けたい……と。
彼女は……自分の身を削ってでも家族や……婚約者の人の為になることをしたいと考えて行動した。
今の状況ではそれを褒められることではないのかもしれない。
それでも、彼女の……大切な人の為になることをしたいという想いは……伝わってきた。
僕も……そんな彼女の力になってあげられたらと思う。
それから師匠の聞くことも終わり、僕達は部屋を出る。
「すまなかった! お前を……お前を俺は苦しめてしまった!」
部屋の中では、婚約者の彼が患者の彼女を抱き締めていた。
「いいえ、これは……私の責任です。あなたのせいではありません」
「そんなことない。俺が……俺がお前を追い込んでしまったのだ!」
2人の話し声が僕のところにも聞こえてくる。
僕の足は思わず止まってしまうが、師匠がそれに気付き口を開いた。
「行くぞ、おれたちがすることは話を聞くことじゃない。治療することだ」
「……はい」
僕達は部屋をでて、絶対にマーキュリーを治療する。
そう決心を固めた。
僕達はマーキュリーにかかっている人達の治療……中毒性の除去をするために、体内に潜る。
そこで、僕は脳の辺りにいき、新しい魔法を試す。
脳の付近にいる全てのマーキュリーをこうやって把握することで、探す手間を省くためだ。
それをして、多くの患者を早く治療して行けるようになるだろう。
事前に師匠には話してあるので問題もない。
「師匠。それでは使いますね」
「ああ」
僕はしっかりと範囲を特定して、魔法を発動させる。
「全てを見通すはあらゆる流れ、祖が存在はあらゆる生命の母に宿るもの。解析し理解し解きほぐせ水の解析」
患者の脳の情報がこれでもかと入ってきて、それでも、僕は範囲を絞っていたお陰もあってあってなんとか耐えることに成功する。
でも、それ以上の情報を得ることができた。
「嘘……」
「どうした? エミリオ」
「あの……これ……もしかしたら、黒くなった肌を……治療できるかもしれません」
僕は……魔法によって得た情報を使えば、治療できるかもしれないということに気付いた。
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