不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

文字の大きさ
上 下
116 / 129
6章

127話 院長先生

しおりを挟む
「エミリオ様?」
「サシャ。この孤児院が地下で水脈と繋がっている。という事は聞いていたよね?」
「はい。この街は湖の側に作られた……というので、その水が入ってきている。ということだったと思いますが」
「うん。それでなんだけれど、その水を伝って、何か生き物が入ってきているんじゃないのかな。って思ったんだ」
「それは……」

 サシャはちょっと疑うような目をしているけれど、僕としてはこれはすっごく役に立つかもしれないと思う。

「だって、その水脈から生き物……魚とかが来ていたら、それを取って食べられるかもしれないんだよ!」
「なるほど」
「そうしたら、孤児院の子達も少しはいいものが食べられるんじゃないのかな!」
「エミリオ様……とてもお優しいのですね。その考えは思いつきませんでした」
「本当!? 良かった!」

 僕は名案を思いついたと思う。
 きっと……普通に魚を取りにいこうとしたりすると、この前のジェシカのようになにか……襲われてしまうかもしれない。
 だけど、孤児院の中で魚を取ることができるのであれば、食糧事情が少しは改善するのかもしれない。

「早速この事を院長先生に言いにいこう!」
「え? エミリオ様!?」

 僕はちょっと早足で歩き出し、院長先生を探す。

 孤児院の中では、院長先生は子供たち何人も同時に面倒をみていた。

「せんせー! せんせーはおかあさんね!」
「はい。わかりましたよ。アンディ、おかえりなさい」
「ただいまー! きょうもまほうをいっぱいつかっておしごとしてきたよー!」
「まぁ、それはご苦労様。今日の夕飯はあなたの好きなものよ」
「やったー!」
「アンディーばっかりずるいー! わたしもせんせいとあそぶー!」
「もちろんいいですよ。それでは何をしますかー?」
「せんせいといっしょにいられるだけでいいー!」
「それはうれしいことを言ってくれますね。わたしも一緒に居られて嬉しいですよ」
「やったー!」

 院長先生は、そんな風に多くの子供たちの面倒を笑顔で見続けている。
 正直、その先生の邪魔をする気にはなれなかった。

「すごいね」
「ええ、彼女が子供皆から好かれているのがこうしているだけでも分かります。話しかけますか?」
「ううん。もうすぐお昼寝の時間だろうし、それが終わってからもでいいんじゃないのかな」
「そうですね。ではそうしましょう」

 僕とサシャは少し離れたところで子供たちが寝入るのを待つ。

 先生はずっと……子供たちの相手を笑顔でやっていて、心から孤児院の仕事が好きなんだと思った。

 それから、少し待つと、院長先生は子供たちを寝かせ始めた。
 院長先生は子供たちを寝かしつけると、僕達の方に歩いてくる。

 その姿はいつもの長袖で、首から上以外は一切肌を見せない姿をしていた。

「お待たせしました。わたしに御用がおありですか?」

 院長先生は僕達の視線に気が付いていたのか、そう聞いてくる。

 僕は、嬉しくなって見つけたことを院長先生に話す。

「あの、一つ……この孤児院の為になるかもしれないことを思いつきまして」
「あらあら、それは嬉しいこと。どのようなことですか?」

 こうして話していると、母さんを思い出させるような、包み込んでくれるなにかがあった。
 自分の病のことすらも優しく受け止めてくれるような気がする。

 そんな院長先生の為に、僕はさっき考えたことを話す。

「この孤児院って、地下に水脈が通っているじゃないですか」
「ええ、そのようですね」
「その水脈になにか生き物がいるみたいなんですよ」
「……ええ」
「なので、その生き物をとって、食事にくわえたら、食糧事情も少しは解決するんじゃないかと……おも……ったん……で……す」

 僕はなんとか最後まで話しきったけれど、院長先生の表情が抜け落ちていることに気付き言葉が出なくなっていく。
 でもその雰囲気は一瞬で、勘違いだったのかと思ってしまう程にすぐに院長先生の顔色は元に戻っていた。

「エミリオ君。大丈夫ですか?」
「え、ええ……。大丈夫です」
「そうですか。それは良かったです。ただ、水脈に住む生き物の話ですが、水脈に行くことは危険なのでできません。あなたの気持ちは嬉しいのですけど……」

 申し訳なさそうに話す院長先生の雰囲気は先ほどの恐ろしいもの嘘だったかのように感じる。

「そ、そう……ですか。すみません。勝手な事を言って」
「いえ、そういった提案をして下さるのはとても嬉しいです。ディオンも小さい時からこの孤児院の為に色々と献策けんさくをしてくださいました。その時があったからこの孤児院があるのです。あなたの言葉もそうなってくれる事があると信じています」
「本当ですか? それは良かったです。もしまたなにかあったら、言いますね」
「そうして頂けると助かります」
「では僕達はこれで……」

 院長先生は忙しいだろうから、僕は彼女から離れようとする。
 すると、まだ話は思わっていないと声をかけられた。

「あ、少しお待ちください」
「はい?」
「少々お聞きしたいのですが、どうやって水脈の中に生き物がいることを知ったのですか?」
「それは……」

 僕はそこまで話してどうしようかと思う。
 さっきの一幕がなければ、僕は素直に魔法で調べた。
 そう言っていただろう。

 でも、さっきのあの雰囲気……。
 それを思うと、言ってはいけないような気がする。

「それは……」

 僕はどう言おうか迷ったところで、話しかけられた。

「院長、エミリオ。そんな雰囲気をさせてどうかしたのか?」

 ロベルト兄さんが僕と院長先生の間に入ってくれた。

「兄さん……」
「ようエミリオ。子供の体力と言うのは無限だな。勉強でなまった体がまた動き出すように感じる」

 そんな兄さんを気にしないように、院長は再び僕に聞いてきた。

「それで、どうして知っておられるのですか?」
「なんだなんだ。エミリオ。お前もなにかやらかしたのか?」
「そういうんじゃないよ」

 院長先生はじっとした表情で僕から視線を動かさない。

「エミリオ君はこの孤児院の地下に水脈があり、生き物がいる。という事を知っていたのですよ。そして、それをどこで聞いたのか。ということを聞いていました」

 院長先生は聞くまで逃がさない。
 そう言ってるような圧力があった。

 そんな院長先生に兄さんは笑って答える。

「なんだそんなことか。子供たちみんな知っているじゃないか」
「……」
「……そうなの?」
「ああ、みんな秘密を教えてあげる。っていって毎回その秘密を教えてくれるんだよ。エミリオ。お前、誰から聞いたか言ったらその子に迷惑がかかるって思ったんだろう? みんな言ってるから気にしなくてもいいぞ」
「……」

 兄さんは笑っているけれど、院長先生は怒っているというよりも頭を抱えていた。

「あの子達……」

 そう言って色々と考えを巡らせているように見える。

「あ、あの……それでは僕はこれで」
「……ええ。失礼しました。ここ最近孤児院を狙う人も多いらしく、それで少し気が経って居ました。申し訳ありません」
「い、いえ。そういうこともあると思います。それでは」

 僕はそう言ってそそくさと院長先生のそばを離れる。

「え? もう行くのか?」
「あ、兄さんは好きにして、僕はちょっと外に出るだけだから」
「わかった。気を付けて」

 僕の後ろからはサシャがついて来てくれて、そして誰も居なくなったところで院長先生の事を聞く。

「ねぇ、サシャ。院長先生……何か隠していない?」
「そうですね。ほぼ確実に隠しているでしょう」
「でも……何を隠しているのかな。悪いことをするような人には思えなかったけど……」
「詳しいことはわかりませんが彼女の説明もおかしかったです」
「なにが?」
「地下に生き物がいることと、この孤児院をつけ狙う者がいることが繋がらないのです」
「あ……」

 確かに、サシャの言う通りだ。
 彼女はそれから続けて言う。

「ただ、一つ可能性があります」
「……なに?」
「この孤児院には、外の人に狙われるような金銭に変わる様な価値のあるものが隠されているのかもしれません」

 僕はサシャの言う言葉を、否定することができなかった。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。