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嵐の前の静けさ

アル兄様と一晩

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「アル兄様、お風呂どうぞ。ここ、浴室も素敵でした。僕を待ってて冷え切ってしまったんじゃありませんか?ゆっくり温まって下さいね。」

そう僕が声を掛けると、アル兄様は言葉少なに頷くと、濡れた騎士服をバーの上に掛けて行った。僕はぼんやりとその様子を見ていたのだけど、あの優しくも優美なアル兄様のすっかり大人になった身体が思いの外逞しく、筋肉美に長けていると知ってドギマギしてしまった。

特にウエスト部分から引き締まった腹筋に伸びる、髪より濃い銀色の体毛が艶かしくて、僕はもっと見たい様な、見てはいけない様な葛藤を覚えて身体が熱くなってしまった。


アル兄様様にこんな邪な気持ちを感じるなんていけない事なのに、僕は一体どうしたんだろう…。ズボンを脱ぐアル兄様を見ていられなくて、僕はローブを胸元に手で寄せるとベッドへ座った。

今夜僕、あのアル兄様と同じベッドに眠るの?ああ、僕は何て馬鹿だったんだろう。僕たちはあの頃の幼い関係のままではいられないほど成長しているというのに。


僕がさっきアル兄様を見ていて感じたのは欲情だった筈だ。エイデン様とは違う愛情をアル兄様には感じる。それは親愛なのか、従兄弟としての愛なのか、それとも幼い頃に植え付けられたアル兄様への絶対的な愛なのか…。

僕は自分がよく分からなくなってしまった。今夜僕が間違ってしまったらどうしようかという、自分への不安も感じる。落ちつかない気分で部屋の中を歩き回っていると、宿から夕食が届いた。ワゴンに載せられたそれは従業員が部屋のテーブルに綺麗にセットしてくれた。


温かな湯気を立てたとろみのある具沢山の肉のスープとパン、ワインが僕のお腹を動かした。丁度その時、アル兄様が浴室から姿を現した。濡れた銀色の長い髪を胸に垂らして、こちらをじっと見つめるアル兄様は僕の知らないアル兄様だと思った。

「夕食が来たのかい?今、雫を拭いてローブを着てそっちに行くから、先に食べていてくれ。」

僕はモゴモゴと待ってるとだけ言うと、椅子に座ってワインをグラスに注いだ。何だか素面じゃまともにアル兄様の顔を見られない。僕はこっそりワインを少しだけ飲んだ。


喉にひりつくアルコールが、僕の身体をゆっくり熱くしてリラックスさせた。アル兄様がローブを着込んで椅子に座ると、僕をじっと見つめてから困った様に微笑んで言った。

「さあ、食べよう。まずは腹ごしらえだ。」
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