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嵐の前の静けさ

僕とアル兄様の問答

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さっきまでの僕の戸惑いをすっかり忘れてしまうくらい、僕はアル兄様と楽しいひと時を過ごした。少しのワインが僕をリラックスさせた事もあるし、アル兄様の仕事の面白い話にも笑ってばかりだった。

「ふふふ。雨に振られてどうしようかと思いましたけど、こんなにアル兄様とゆったりと過ごせるのなら返って良かったですね。」

そう言ってご機嫌に笑う僕をアル兄様は、優しく眺めながら言った。


「…私は時々、サミュエル従兄弟じゃなければ良いと思う事があるんだ。そう思っているのは多分エドワードも一緒じゃないかな。」

僕はハッとしてアル兄様の顔を見つめた。アル兄様は微笑んでいるけれど、少し苦し気な表情だったからだ。僕はアル兄様が何が言いたいのか分からずに、真意を探ろうとアル兄様の顔を見つめた。

アル兄様はすっかり大人の男の人だった。エイデン様がそうである様に、青臭さが抜けた落ち着きと、匂い立つ様な若い生命力が滲み出ている。しかもアル兄様は美しい金髪をサラリと下ろして、海色の青い瞳を浮かべた王都でも有名な優美な騎士だった。


「…それは僕と兄弟関係になりたくなかったという事ですか?」

僕は兄様が何を言おうとしているのかを知りたくて、重ねて尋ねてしまった。後から考えると、その時僕は、自分からこの抜けることの出来ないドロリとした何かに足を踏み入れてしまった瞬間だったのかもしれない。

その時のアル兄様の表情と、さっきのアル兄様の裸体が僕の中で何か渦巻いているのは間違いなかった。


アル兄様はワイングラスをグイッと傾けると、ふぅと小さく息を吐いて言った。

「私も酔ってしまった。余計なことを言ってしまいそうだ。これ以上言葉を重ねたら、きっと私はサミュエルを失ってしまうだろうからね。」

僕はアル兄様を真っ直ぐに見つめて言った。

「もしかして、アル兄様は僕のことが好きなんですか?」


アル兄様と僕の間の空気は今やピリついて、全ての動きを止めた様だった。ああ、そうなのか。僕はアル兄様の青い瞳が微かに揺れているのを見つめながら言った。

「…僕はアル兄様が好きですよ。この好きという気持ちは僕の根深い場所にあって、多分初めてアル兄様に会った時に植え付けられたものです。僕は自分でも説明がつきませんけど、エイデン様とは違う愛をアル兄様に感じます。」


すると、アル兄様は苦しげに呟いた。

「それはきっと肉親の愛に近いものだろうね。サミュエルはそれを3歳で失ってしまったのだから。」

僕は喉を鳴らして、胸をドキドキさせて言った。

「そうなのでしょうか。だったらさっき、アル兄様の裸を見た時に感じた衝動は何だったんでしょう。」
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