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きっかけ

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私達は伯爵夫妻と4人で昼食を共にした。
食事中2人の馴れ初めについて、夫人から色々と聞かれたが、なんとか打ち合わせ通りにこなしていった。
妊娠についても、レオナルド様が『想像妊娠』という症状がある事を調べてくれていたらしく、それで乗り切る事にした。
うちのコッカス伯爵家にはもう成人もしているし、レオナルド様だけが挨拶に来る事にし、ランバード伯爵様からのお手紙を預かる事となった。
とりあえず、両家を会わせたくはない。色々と矛盾を指摘されては困る。

「え~!結婚式しないの?どうして?」
と夫人が残念そうな声をあげる。


「ジョシュア様とソフィア様のお話は聞いております。ソフィア様にはレオナルド様以外の方を一刻も早く見つけていただいた方がよろしいと思うのです。私達が1日も早く結婚する事で、ソフィア様も、他の方に目を向ける事が出来るのではないかと思って。」


「確かに。妊娠していなかった事がばれると、2人を別れさせて自分と結婚しろと言ってくる可能性は大いにあるな。妊娠していなかった事は、ガンダルフ侯爵にはばれないようにした方が良いだろう。」と伯爵様がおっしゃると

「でも、結婚式しないなんて、うちは良くても、コッカス伯爵がなんと言うか…」
と夫人が心配そうにうつむいた。

「それは、これから私が話しますけど、私は両親からさほど大切にされてはいないので、大丈夫だと…」
と私が言いかけると、ランバード夫人が悲しそうな顔をした。

「あ、いえ愛されていないとか、そういう事ではないのです。家族として大事にされてはきたと思っていますが、私にこだわる事はないと。両親は忙しい人達でしたから。」


「私達はジョシュアの気持ちを考えず、婚約を強いてしまった。その事で大切な息子を追い詰めてしまったんだ。
もっと早くにジョシュアが自分の気持ちを言ってくれていればと思ったが、それを言えない状況を作ってしまった私達の責もある。
レベッカ嬢も自分の気持ちをなるべくご両親に伝えて欲しい。お互い言わなければわからない事も多いからね。
結婚式については、2人が納得してるなら、それで良いよ。
したくなったら、いつでもしたら良い。
子どもができてからでも問題ないのだから。」
と伯爵様は言ってくださいました。

確かに、私は自分の両親に我が儘を言った事がないかもしれません。
心のどこかで、どうせ私の事を見てくれていないのだからと、最初から諦めていた事が多かったのかもしれないと、伯爵様の言葉を聞いて初めて気がつきました。
お兄様達はそんな私に気がついて、その分私を甘やかしてくれていたのかも…
そんな事を考えていると、レオナルド様が

「レベッカ?」
と声を掛けてくださいました。
少しボーッとしていたのかもしれませんね。


「レベッカ、少し疲れたかな?大丈夫?」


「すみません。大丈夫です。ご心配おかけしました。」


「もう食事も終わったし、少しレオナルドの部屋でゆっくりしたら?私達と一緒では、緊張してしまうでしょ?
お茶を用意させましょう。」と夫人が提案してくれました。

「じゃあ、レベッカそうしようか。お茶を飲んだら、送っていくよ。サミュエル殿が帰ってきていたら、改めて挨拶させていただきたいし。」


「サミュエル殿は王都にいらっしゃるのかい?」と伯爵様に聞かれたので

「はい、兄はこちらで医学を学んでおりますので、タウンハウスで暮らしております。今日は学校がありますが、夕方には戻ってくるかと。夕食はうちでレオナルド様もご一緒にと考えておりまして。そのように準備させております。」


「おお。医学を学ばれていらっしゃるのか。コッカス伯爵令息のお二人は、学園でも優秀であったと聞いているよ。」

「ありがとうございます。自慢の兄ですの」
大好きなお兄様を伯爵に褒められて、私は心から笑顔になった。


食堂を後にして、私はレオナルド様のお部屋にお邪魔する。家族以外の異性の部屋に入るのは初めてだ。
なんとなくソワソワするのは仕方ないと思う。
お茶を用意したメイドが下がったのを確認して、レオナルド様がドアを閉める。
普通、結婚前の男女が2人きりになるのは、いかがなものかと思うが、まぁ、もう体の関係のある(設定の)2人だ。細かいことは気にしなくて良いのだろう。

「あー。なんとか無事にすんだな。」

レオナルド様はかなり、私に対してフランクになったと思う。共犯者のような妙な連帯感があるのだろう。それは私も同じだし。


「そうですね。とりあえず第1関門突破ですね。」
と私は淹れてもらったお茶を飲む。スッキリとした風味のハーブティーだ。


「想像妊娠というのがあるんですね。妊娠してないとレオナルド様が言い始めた時は、ちょっと焦りました。」

「あー、ごめん。ごめん。ちょっと調べてて。咄嗟に言い訳に使ってしまったんだ。」

「レオナルド様って、意外と後先考えず、口にしちゃうんですね。恋人の事といい。妊娠の事といい。」


「!確かにそうだな。学園での成績が悪かったわけではないんだが、所謂、脳筋ってやつだ。考えるより先に動いてしまう。」


「そういえば、私、ずっと疑問に思っていた事があるんですが、聞いても?」

「もちろん。なんだい?」

「あの時、どうして私だったんですか?そういう事を頼める相手を街で探していたのでしょう?
女性は私以外にも沢山歩いていたと思うんですが。1人歩きの女性が私以外いなかったとか?」

「あ、いやなんだろうな。別にそんな相手を探して、街にいたわけではないんだ。」

「え?そうなのですか?」


「ああ。昨日、長期の休みの申請に王宮に行って、フィリップ殿下への挨拶を済ませてから家に帰るはずだったんだ。
いつもは騎士団の寮にいるが、兄の事で、両親もタウンハウスに来ていたし、俺もちょこちょこ家に帰ってたんだが、まとめて休めと団長に言われて。
だけど、なんだか家に帰る気持ちにならずにブラブラと街を歩いてた。
そしたら、目の前を君が通り過ぎて行って、気がついたら腕を掴んでた。」


「え?じゃあ、結婚してくれと言ったのは?」

「レベッカの腕を掴んだ瞬間、この子と結婚する事にしたら良い!ってなんか閃いて。気がついたら結婚をお願いしてた。」
とレオナルド様は笑った。

私の頭は疑問符だらけだ。私はてっきり妊娠した恋人役を探す為に街にいて、なんなら私の前に2、3人に断られたりしてるんじゃないかと思ってた。そのぐらい必死だったし。
私が最初に引っ掛かったカモだったとは。

「でも。なぜ私だったんでしょうね?」

「うーん。なんか、レベッカが目の前を通り過ぎそうになったときに、離しちゃダメな感じがしたんだよ。
このチャンスを逃しちゃダメな気がして。
こんな馬鹿な願いを叶えてくれる子だって、俺の第六感が教えてくれたのかな。
まぁ、深くは考えてなかったって事だよ。ほら俺、脳筋だから。」
と楽しそうに笑った。

私はなんとなく釈然としないながらも

「でも、レオナルド様ぐらいかっこよかったら、私じゃなくても、あの突拍子もないお願いを受けてくださる方もいらっしゃったかも知れませんよ?」
と聞くと。

「俺、次男だけどこういう仕事してるし、伯爵だけど、そこそこ裕福だから、結構色んなご令嬢から声をかけられる事が多かったんだよ。
もちろん、縁談もちょこちょこ来てたらしいし。
でも、女性が苦手だから、どんなにすり寄ってこられても、気持ちが悪いとしか思えなくて。
どう対応して良いかもわからないから、凄く冷たくしちゃって。
そのうち色々めんどくさくなっちゃって、夜会にもほとんど出なくなったんだ。
出席しなくちゃならない王家主宰の夜会では、護衛として仕事してれば良いし。
そのうち冷たくされた令嬢達から女嫌いだと言われるようになったんだけど。その方が楽だし、都合が良いからね。そのままにしといたんだ。
だから、女性に自分から声を掛けたのなんて、レベッカが初めてだよ。多分、最初で最後だね。」


もしかしたら、レオナルド様は気がついていないかもしれませんが…レオナルド様は私の事……………






女と認識してないのでは?
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