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その36

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「なに?!どういうことだ?!俺はそんな事聞いてない!」

…王太子殿下が焦ったように大声を出す。

「あーもう。煩いなぁ。大きな声を出さなくても聞こえてるよ。
どうして僕がシビルちゃんに交際申し込んでる事をお前に言わなきゃいけないんだよ…って何でお前が騒いでるのさ?」
とキャンベル医師は飄々と答える。

私は自分が怒られた訳でもないのに、王太子殿下の声にびっくりして固まった。

「ほら~お前が大声出すから、シビルちゃんがびっくりしちゃったじゃないか!
シビルちゃん大丈夫?びっくりしたよね?」
今度は私に優しく話しかけてくれる、キャンベル医師。

「あ、あの…少しびっくりしてしまいましたが、大丈夫です」

…多分顔には出てなかったと思うのに、私が驚いている事に気づいてくれたキャンベル医師にもびっくりする。

私は自他共に認める能面顔だ。


「あ、いや、すまない。だが、オットーが馬鹿みたいな事を言うから…」
と王太子殿下が拗ねたように言うと、

「馬鹿みたいな事ってなんだよ!僕は真面目にシビルちゃんを口説いてる最中なんだから、クリスティアーノも邪魔しないでね?」
とキャンベル医師は王太子殿下に反論した。

……いや…私…断りましたよね?その話し。

「邪魔するなって…!いや、ダメだ。それはダメなんだ!」
ダメを連発する王太子殿下。
それを無視して、

「あの…発言よろしいでしょうか?
私、キャンベル様のそのお話、お断りしましたよね?」
と私がおずおずとキャンベル医師へ告げると、

「え~!だって僕は諦めてないもん。
ほら、僕って結構お買い得だと思うよ?
侯爵家の次男だけど、宮廷医師をしてるから、給料は良いし、顔も結構自信あるよ?それに女の子には優しいしさ」

確かに、キャンベル医師はお買い得男子だと思うけれど、私は婚約解消した傷物女子だ。結婚適齢期もギリギリだし。
しかも頬に傷まであるし…。
貴族と付き合えるようなスペックがない。

平民なら…なんとかいける?いやいや、此処でずっとあのミシェル殿下の下僕として支えなければならないのだから、お付き合い自体無理な相談だ。
私にはそんな時間はない。

「オットー。しつこい男は嫌われるぞ。フラれたならさっさと諦めろ」
…王太子殿下はさっきの刺々しさは鳴りを潜め、にこやかになる。

さっきから、王太子殿下とキャンベル医師の関係性が気になる。かなり気安い関係なのか?2人の口調はお互いにかなり砕けていた。

「諦めが悪いのは僕の長所だからね。
シビルちゃん、今は僕の事、好きじゃないだろうけど、これから好きになって貰えるように僕は努力するから!ね、ゆっくり愛を育んでいこう!」
って手を出されても…。

キャンベル医師が私に差し出した手を、王太子殿下が叩き落とす。

「もう、手当ては終わりだろう?なら、俺達は行く。じゃあな、オットー」
と言って、王太子殿下は私の手を掴み、医務室を出た。

後ろで、
「え!ちょっと何処に行くの?僕も連れていってよ~」
と言うキャンベル医師の声が聞こえたが、王太子殿下は 無視してズンズンと進んで行く。

握られた手が少し痛むが、今はそれを言える雰囲気ではなかった。
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