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その37

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連れて行かれた部屋は、初日にお茶をご馳走になった部屋だった。
此処ってもしかして…

「入れ。すぐに夕食を用意させる」
と王太子殿下は言うが、

「い、いえ。此処で私が夕食なんて、滅相もありません!此処…王太子殿下の執務室ですよね?」

「あぁ、そうだ。居室は別にあるが、一々戻るのも面倒だからな。
俺は此処に寝泊まりしてる。広さも十分だし。
ただ、夕食を食べれるようなテーブルがないからな…直ぐに一緒に用意させるから、少しその長椅子に座って、待っておけ」

「いえいえ。私の夕食の事はもうお気になさらず。
あの…殿下は私にご用があったのではないのですか?お話とは?」
と私が訊ねるも、

「お前はまだ夕食を食べていないのだろう?腹が減っていては、話しにならん。此処で食えば良い。遠慮はするな」
と、全然私の願いを聞いてくれない。

遠慮したい…出来れば全力で。

そして、王太子殿下は近くの使用人に指示をすると、数人がテキパキとテーブルと私の夕食を用意して、部屋を出て行った。
部屋の隅には殿下の側近らしき侍従が控えているが、私はどうしたら良いのかと途方に暮れる。


「さぁ、用意出来たぞ。遠慮せず食べると良い」
と王太子殿下は、私を手招きして、夕食がセッティングされたテーブルの椅子に腰掛けさせた。

王太子殿下はその向かいの席に腰かける。
夕食は私の前にしかない。
………え?私1人で食べるの?

「どうした?遠慮するな。さぁ、食べろ」

「あの…王太子殿下の分は…」

「クリスだ」

「え?」

「クリスと呼べと言っただろう?」

「あの時は、王太子殿下と知らず、御無礼を致しました。
どのような処分でも受けるつもりですが、せめてミシェル王女殿下がこの国に慣れるまでは…」
と私が謝罪をしていると、

「ん?何故俺がお前を処分せねばならないんだ?クリスと呼べと言ったのは俺だ。
王太子自らが許可したのだから、呼ばない方が問題だろう?いいから、今までのようにクリスと呼べ」

……不敬については不問にしてくれるようだが、流石に一介の侍女が王太子殿下を名前で呼ぶのは、いくらなんでも不味 いだろう。

「流石にそれは…出来かねます」
と私が頑なに固持するも、

「じゃあこれは王太子命令だ。
シビル、お前は俺を『クリス』と呼べ。呼ばぬなら、罰を下す」

「ば、罰?呼ばねば罰を下す?それは、あんまりでは…」

「なら呼べば良い。簡単な事だ」
……暴君かよ!

「では…失礼ながら…。クリス様。クリス様は何もお召し上がりにならないので?」
と私は訊ねる。
だって、こんな所で、クリス様に見られながら1人だけ夕食食べるなんて、なんの拷問?
これは罰?罰なの?いや、でも今、クリス様と呼んだんだから、セーフじゃない?

「ん?俺はさっきの晩餐会で食べてたろ?お前も見てた筈だが?」

確かに見てました!でも、私1人だけなんて、居たたまれないんですって!
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