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78話

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陛下は私と二人になると、

「怖い思いをさせたな」
と私の前に跪くと両手で私の頬を挟む様に包みこんだ。
私はまた泣きそうになるのをグッと耐えた。

陛下は静かに、

「もっと早く手を打てば良かったが……。いや今更だな。言い訳はよそう」
と私に言った。

「陛下には今回の事が予想出来ていたのでしょうか?」

「いや。流石にこんな馬鹿な事をしでかすとは思っていなかった。こんな事をすれば誰が犯人か直ぐわかる」

「あの者達は……」

「生け捕りに出来た者も居る。口を割るかは分からないが、証拠として使えるかもな」

「陛下……私……いえ、アイザックの命を狙うとしたら、私には一人しか思い浮かびません……」

「お前が考えている通りの人物が犯人だろう。こんな事をすれば嫌でも分かる」

……そうか。そこまで焦っていたのか……。
黙り込む私に、

「俺の動きがバレたのかもしれない。ならば全て俺のせいだ。すまない」

「陛下の?」

「それは……また今度。とにかくあの庭の抜け穴は塞ぐ」

「では………あの穴を通って?」
と私が尋ねると、陛下は頷いた。

「だからと言ってローランドに責任を負わせるつもりはない。幸か不幸か……ローランドはあの女と出掛けている。巻き込まれなくて良かった」
私はその言葉を聞いてホッとした。

「今日を狙ったのは、ロータスが居ないからだろう」

「……!そう言えばあの若い護衛は?!」

「残念ながら他の護衛に切り捨てられた」

「実はあの時……ダイアナが私達の姿を見て手を振ろうとした瞬間、ザックが声を上げたんです。でもそれまでは……彼の殺意を感じ取れなかった」

「ずっと躊躇っていたのか……いや、本当は殺意なんてなかったのかも。今あの男の事を調べている。どうして、あんな馬鹿な事に手を貸したのか」

近衛であったあの若い護衛の事を語る陛下の顔は努めて無表情だったが、少しだけ辛そうだ。

陛下は冷酷無比なんかじゃない。本当はとても温かい人だ。それを無表情という仮面で隠している。私は無意識に、私の前に跪く彼の頬に手を伸ばした。

「陛下……。何か事情があったのかもしれません。彼には彼の事情が」

「だが、お前達を害そうとした事にはかわりない」

「ご両親に……真実を」

「そうだな。約束する」

「陛下、改めて助けていただいてありがとうございました」
と微笑む私に、   

「アイザックのお陰だ。何故か心がざわついて、導かれるようにあそこに。お陰で、議会をほっぽり出したままだ」
と陛下も微笑んだ。
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