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79話

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アイザックの不思議な力。そのお陰で私達は命拾いをした。

「ザック……貴方は本当に不思議な子ね。今日は助けてくれてありがとう。
でも、きっと貴方がこの力を疎ましく思う時が来るのでしょうね。陛下も仰っていたもの。
少しでも、貴方がこの力を良い事に使えますように……。そして、なるべく心穏やかに過ごせます様に」

ゆりかごで眠るアイザックの頬をそっと撫でながら私は呟く。

すると何の気配もなく、

「アイザックには俺が居る。こいつが自分の能力を呪わない様、力を貸す」
と陛下が話しかけて来た。

私は思わずびっくりしてしまう。……が、アイザックを起こさないように小声で、

「もう!びっくりしたじゃないですか!」
と陛下を窘めた。


「すまん、すまん。……俺には助けがなかったが、アイザックには俺も、お前も居る。大丈夫だ」

「陛下。お母様の事………恨んでいらっしゃいますか?」
私が陛下に振り返りながらそう尋ねると、陛下はゆりかごに眠るアイザックを見ながら、私の横に腰掛けた。


「恨んではいない。母も苦しかっただろう。俺のこの力は母譲りだが、母が誰から受け継いだのかは分からない。母の家族はもうバラバラだからな。母は孤立無援だった。マーサを除いては」

「マーサさんは、元々お母様に付いていた侍女の方でしたの?」

「いや。マーサは王宮で働いていた侍女だ。何がどうしたのかは知らんが馬が合った様で、母はマーサだけを側に置いていた」

「そうですか。マーサに聞いてみたいです。お義母様のお話」

「楽しい話はないと思うぞ。母は父を恨んでいた。まぁ……当たり前だろうな。だが……子どもの頃はやはり納得がいかなかったから、荒れていた事も確かだ」

「私もあまり恵まれた子ども時代ではなかったかもしれません。母が亡くなるまでは、一応伯爵令嬢としての生活を送る事が出来ていましたが、その時でも父との関係は最悪でした。……というよりほとんど言葉を交わした事もありませんでした。母は優しい人でしたけど……優しすぎたのかもしれません」

私も陛下も……ちょっとだけ似ているのかもしれない。

「まぁ、あの夜会で、俺はお前を使用人だと思い込んでいた事は確かだ。あの時の会話でもお前の扱いが酷い事は十分理解出来たしな」

「聞こえていたのですね。私とイライザの会話」

「もちろんだ。耳は良い」

「私は聞こえていないで欲しいと願っていたのですがね」
と私は苦笑した。あの言葉の数々がコンラッド様を傷つける事が怖かった。

しかし、苦笑している私とは正反対に、陛下の顔は無表情になる。そして、

「クレア。お前はスティーブ・コンラッドが好きなのか?」
と私に問いかけた。
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