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第十一章 謀略と憎悪の大地

異変

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 翌朝、私はレグス団長の奇声によって目を覚ましています。

 寝たばかりだと思えるほど、窓の外は薄暗い。一体何が起きたというのでしょうか。

「男性の叫び声とか狂気でしかないね……」

 面倒にも感じましたが、ドレスに着替えて声のした部屋へと向かいます。

 念のために、レグス団長とルークは同じ部屋に寝泊まりしてもらっていました。

 使用人は全員契約済みですので、問題ないと思っていたのですけれど、密室で何かが起きたのは事実のようです。

「入りますよ?」

 ノックをしてから、私は客室の扉を開く。するとベッド脇にレグス団長が立っているのを見つけました。

 てことは、ルークに何か起きたってこと?

 恐る恐る近付くや、レグス団長も私に気付いています。

「アナスタシア様、ルーク殿下が!?」

「落ち着いてください。説明してもらわねば分かりません」

 言って私も気付く。

 か細いランプの明かりに照らされたルークの身体。腕や首元の皮膚に痣があることを。

「アナスタシア様、ルーク殿下はどうなっているのでしょう!?」

 レグス団長ほど取り乱していませんでしたが、正直に私も困惑しています。

 返事をする前にルークの寝間着にあるボタンを外し、身体の異変を確認し始めました。

「これは……呪い……」

 紫色の痣が身体中を締め付けるように浮かび上がっています。身体の中心部から手足に向かって螺旋状に。

 呪術に関しては本で読んだ程度の知識しかありません。

 私は女神の加護である光属性を持っているので、呪術の類は無効化してしまうのです。よって、イセリナ時代から無縁の術式でした。

「呪い? 誰に呪われたのでしょうか!?」

「落ち着いてください。少しばかり時間を……」

 どうにも不可解だわ。

 呪いは相手が必ず存在する。昨日、子爵領にやって来たばかりのルークは近衛兵と使用人くらいしか接触していないというのに。

『姫、少しよろしいですか?』

 ここで念話が飛んできます。相手は当然のことコンラッドでした。

『コンラッド、貴方どうして子爵領に戻っているの? 公爵領に潜伏していたんじゃ?』

『運良くメルヴィスと接触できましてね。雇われたことになっております。先ほど戻ったばかりです。まあそれで王子殿下の呪いはメルヴィスが放った刺客の仕業。呪術師を送り込んだと話していましたし』

 ああ、なるほど。私に呪術が効かなかったから、都合良く現れた王子殿下を呪ってしまったのね。

『呪術って非接触でも実行可能なの?』

『ザックと名乗る上位の術者です。遠隔で魂を結びつけられるほどの……』

 ようやくザックのお出ましってわけね。

 使用人たちの契約者であるザックという暗殺者が動き始めたみたい。

『魂を結びつける?』

 分からないことだらけです。

 よって解決策を見出すためには詳しく聞いておかねばなりません。

『呪いもまた二者の魂を結ぶ主従契約のようなもの。ただ術式の性質的に乱雑な縛り方であっても効果を発揮できます。高位の呪術師ならば離れていても可能です。要は死に至らしめれば良いだけですから』

 なるほどね。

 様々な条件を付加する主従契約とは異なり、殺すだけの意味合いしか持たない呪術は荒っぽい契約みたいなものか。

 溜め息を吐く私にコンラッドが続けました。

『ちなみに、隣室のご令嬢も呪われております』
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