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色々と問題が発生してます②

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ムルム伯爵邸についたのは、なんだかんだでティータイムになっており、お土産のチョコレートを抱えながらティータイムに滑り込む形になった。

「伯爵、お久しぶりです」

そう言って中に入ったのは伯爵の寝室だった。

伯爵はリオネルに聞いていたよりも体調が悪くなり、寝ている時間も増えたそうだ。

「こんな形ですまないね」
「いえ……お見舞いが遅くなりまして申し訳ありません」
「アレクセイから元気にしているという話を聞いていたからね。安心していたけど、こうやって会えるとまた嬉しさが違うね」

少しやつれたように見える姿にアドリアーヌは心を痛めた。

ムルム伯爵はベッドに体を起こして会話をしていたが、十分ほどで疲れてしまったようだ。

アレクセイの助言で伯爵はすぐに横になることになり、アドリアーヌもそのタイミングで寝室を辞することにした。

その後、廊下を歩いていると後ろから何かが突撃してきてアドリアーヌはバランスを崩した。

「わっ!」
「アドリアーヌ!ようやく来てくれた!」
「まぁ、クリストファー様。お元気でしたか?」

引きこもり生活からすっかり抜け出したクリストファーは若干背が伸びており、幼さが無くなっているように感じた。

にこやかにクリストファーに声をかけたアドリアーヌだったが、クリストファーはやや不満げに口をとがらせて詰め寄って来た。

「あんなに会いに来てくれるって言ってたのに、全然来ないじゃないか!酷いよ」
「すみません……色々ありまして」
「……まさか、変な男に引っかかっていないよね」

クリストファーは満面の笑みで出迎えてくれたかと思ったが、急に剣呑な雰囲気になったように感じた。

「変な男……ですか?多分大丈夫ですけど」
「……その青いバラは?」

そう指摘されて、アドリアーヌはロベルトに貰った青いバラを帽子に刺していることに気づいた。

「あぁ……実はロベルトに貰いまして」
「ロベルト⁉あんな変な奴……まだ僕のアドリアーヌにちょっかいをかけて!」
「まぁまぁ、ちょっと仕事関係とか色々ありまして。でも別に特別な関係ではないですし」
「当り前だよ!何か特別な関係になってたらあの顔をずたずたにしてやるんだから!」

なんとなく黒い笑みで不穏なことを言うクリストファーを見て、不安がよぎる。

(クリストファーもアイリスと出会って、恋のキューピッド役をやるはずなんだけど……なんかアイリスとの接点もないし、ロベルトに対してもこの言いようだと……やっぱりゲームと違うような……)

そんなことを考えて上の空なアドリアーヌだったが、今度はクリストファーに手を引っ張られて意識を戻した。

「それより、アドリアーヌ。お茶をするんでしょ?僕待っていたんだからね!」
「はい、今日はお詫びにチョコを買ってきたんですよ」
「わぁい!でもね……本当はアドリアーヌの手作りお菓子が食べたかったんだよね」
「では今度は作ってまいりますね」
「本当!絶対に約束だよ!」

そうしてティールームに入れば、執事のアレクセイが心得たとばかりにお茶の準備をしていて待っていた。

アドリアーヌはアレクセイにお土産のチョコレートを渡し、取り分けてもらおうとした時だった。

「アドリアーヌ様、このチョコは?」
「お土産です。街で流行りと聞いたので買ってきてみたのですけど……」
「……失礼ながらセギュール子爵のお店のものではないですか?」
「えぇそうですけど……」

そう答えると、クリストファーは暗い顔をし、アレクセイの顔には明らかな怒気が現れてきた。

何かまずいことでもしたのだろうか?

「このチョコ……捨ててもよろしいでしょうか?」
「えええ?ま、まぁいいですけど、どうしたんですか?」
「実はですね……この屋敷は再び窮地に陥っているのです」
「えっと……また財政難ってことですか?」

アレクセイの前回の報告ではだいぶ立て直されたと聞いていたが、また何か問題でもあったのだろうか?

財政難になる原因と言えば、一つしかない。

「もしかして……また……ムルム伯爵の甥っ子さん絡みですか?」

「ご明察です。ユーゴ様がまた借金されました。調べたところ、前回の投資話についてもセギュール子爵によるものだったのですが、今回も彼の甘言に騙されたようで……。ムルム伯爵名義で新しい綿工場に投資させられたようなんです」

そういえば以前クライアントのヘイズが言っていたことを思い出していた。

セギュール子爵が綿織物に手を出していると。

どうやらその新しい工場に投資をさせられていたものの、その契約として伯爵家の全財産に相当する金額の借金をしていたようなのだ。

「セギュール子爵はユーゴ様の借金を肩代わりしたとのことでした。高利貸しの借金を肩代わり、利子が膨らむのを防いだのでその見返りとして伯爵家の財産と伯爵家の爵位を要求してきました」

この世知辛い世の中では、財政難になった貴族がその爵位を金で譲渡する……つまり売り払うという行為が散見されていた。

一般的には家の者同士の結婚などで譲渡が行われるが、跡取りがいない場合など特殊な場合には資金面でバックアップするという名目で譲り受ける場合もあったのだ。

「今回ムルム伯爵の体調不良もその心労であり……。伯爵家を譲ることはよいがクリストファー様の行く末を考えるとなると……爵位を譲渡するのはと頭を悩ませているのです」

「ちょっと待って。前もセギュール子爵が関わって借金させられて上に、またセギュール伯爵が借金をさせてるって、この家を乗っ取ろうとしているように聞こえるんだけど」

「多分そうです。ムルム伯爵の跡取りとしては今やクリストファー様になりますが、爵位を継ぐまでの年齢に達しておりません。実質跡取りがいないという状態なのです」

多分以前から目を付けていたのだかもしれない。

金がある人間が次に欲するのは権力だからだ。

恩義のあるムルム伯爵を一度ならず二度までも窮地に立たせるとは……。

それに拍車をかけたのはルイーズがアイリスを虐めていることや、いちいち自分にもつっかかってくることもあって、ムクムクと腹が立ってくる。

(おのれー!セギュール子爵め!一度ならず二度までも!絶許!)

古のオタクであるアドリアーヌはそんな古語を思いつつ、拳に力を込めて言った。

「分かりました!これ、私の方で何とかしましょう!クリストファー様がいるのに、爵位を奪われてたまるもんですか!」
「アドリアーヌ様、どうぞよろしくお願いいたします。もう頼れるのは貴女しかいないのです」
そんな話をアレクセイとしていたアドリアーヌのドレスをクリストファーが引っ張った。
「ねえねえ……アドリアーヌ。爵位を奪われない簡単な方法があるんだけど」
「なんですか?」
「僕達が結婚すればいいんだよ」

「……はい??」
「ほら、少なくとも婚約してしまえば跡取りの資格を得ることはできるはずだよ」
「それならば、誰か言い方を見つけてクリストファー様が婚約されれば……」
「嫌だよ、好きでもない女性と結婚なんてしたくない」
「そうは言われましても……」

困った顔でアレクセイを見れば、アレクセイもため息をつきながら答えた。

「正直な話をしますと、財政難の話は貴族の方に知られておりまして。借金まみれのこの家と縁続きになろうという方がいらっしゃらないのですよ」

とは言うものの、十も年下のショタっ子に手を出すのはさすがに違法だ。

いや、例えこの世界で合法だとしても、中身二十一世紀のOLであるアドリアーヌとしてはそれは倫理的に受け入れることができない。

「えーと。やっぱりもっと堅実的な方法で行きましょう。それに……こうまでされたら、こちらも相応の仕返しをするのが流儀ってものです!やられたらやり返す!これ、常識です!」

「そうですね」
「えー、結婚が早いのに……」

納得いかなそうなクリストファーを半ば遮るようにしたアレクセイに感謝しながらも、アドリアーヌはどうやってこの窮地を乗り切るのか頭の中で算段するのだった。
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