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学園編
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「ではお言葉に甘えて。」
イタズラ好きを自負する僕は、やられっぱなしなのは癪に障るためふわりと微笑む。
「ニコくん。」
「はっ...い。」
まさかの礼儀正しい返事に僕は顔を顰める。
「君は敬語なのか?」
「ああ、いや、キルシュ...。よろしくネ。」
何故か言われるがままのニコくんだったが最後は笑顔で応えてくれた。
それにしても微笑むだけで照れるのはレニーにだけか。
やはりあの反応は大袈裟だったのだな、と思い直す。
兄上が国王に惚れられているというのもただの噂に違いない。
そう結論づけた僕は試験の観戦に戻ったが、ふと横を見るとニコくんが自分の赤い耳を指先で触っていてなんとも言えない気持ちになった。
それにしてもくん付けがどうにも馴れない。
勢いだけで言ってしまったことを少し後悔する。
ニコくん、ルッソ、ニコ。
「ニコって呼んでも?」
「ああ勿論。俺としてもそっちの方が馴染みがまだあるしネ。」
「ニコくん、キルシュ様と仲良くなりすぎじゃない?」
急にレニーの声が聞こえたと思ったら、浮遊魔法で下から上がってきた。
「レニー、お友達はもういいのですか?」
「キルシュ様!僕にも敬語付けずに話してください!」
レニーが僕の手を両手で包むように握る。
ヒューにも敬語を外さなきゃいけないのかな、と先が思いやられるが、まずは目の前のことだ。
「そうだね、ニコだけじゃ不公平だ。でも僕だけというのも不公平だろう?」
レニーは敬語を外してくれるときもあるので簡単だと思ったが...何故か狼狽え始めた。
タメ口...オシ...距離間...と口から漏れ出ている。
オシ?途切れ途切れで分からないところもあるけれど、距離間に迷っていることは分かった。
僕はキルシュを真っ直ぐ見て、これから言うことを考えて恥ずかしくなって、やっぱり視線を少し外しながら言った。
「僕たちは友達でしょう?」
それを聞いたレニーは僕をしっかり見た。
「そう、だよね。僕はキルシュ様のファンである前に友達だ!」
分厚いメガネで顔の大半を隠していても、輝かんばかりの笑顔だということが分かる。
一方で僕はファンがなんなのか分からず焦る。
...これは早く市井に遊びに行かなくては。
僕は平民もいる学校にいたから貴族が使わない言葉も知っていると思っていた。
しかしこんなにも分からないとは。
いや、まさか...田舎貴族だからか...!?
流行りに乗り遅れた田舎貴族...。
「僕もレニーのファンであり友達ですよ。」
僕は少し緊張してレニーの様子を伺う。
レニーは袖で口を隠し
「そっそう?ありがとう。」
と聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
その後逃げるように僕!次、試験だから!と嵐のように去っていった。
これは使い方は合っていたのか...?
「ニコ。今度一緒に市井に遊びに行かないか?」
「レニーを誘わなくていいのかい?」
「...レニーも誘うよ。」
「ん...ふふっ。」
なんだ、その笑い。全てお見通しなら、言葉の意味くらい教えてくれればいいものを。
僕は不貞腐れる。
一方でニコは楽しそう。
そんな穏やかとも言える空気は一瞬にして終わった。
「いやっ!いやいやいやああああ!!!」
試験中の生徒が叫ぶ。
彼女の手は光り輝き、いくら振り払おうと、いくら手首を強く握ろうと光はどんどん上へ上がっていく。
「過剰生成っ。」
隣から焦った声が聞こえた。
過剰生成とはその名の通り、身体が魔力を過剰に生成しようとすることだ。
人は魔力が尽きると倦怠感や頭痛、息切れなど、症状は異なるが何かしら異常が発生する。
しかしそれに気付かず、または無視して魔力を込め続けると、魔力は魔力を作ろうとする。エネルギーを求める。
エネルギー、それは脂肪、肉、質量。
まずは魔法発動の起点となる部位が無くなると言われている。主に手だ。
次に腕。次は胸。お腹、頭、腰、足。
魔力は『魔力を込めろ』という命令に従うために、人の身体を食べる。
身体が全て無くなると命令が無効になり、増えた魔力は魔力のまま自然の一部となる。
これが過剰生成である。
僕とニコは考える間もなく飛び降りた。
2つのマントが羽ばたく。
安全のために組み込まれていたのだろう風魔法が発動し、身体を上へと持ち上げようとするが上手くかわす。
ニコは重力を増やしたらしい。
キルシュはしなやかに、ニコは豪快に降りると、生徒を掻き分けて試験会場の真ん中へ走る。
真ん中ではレニーと教師が過剰生成を起こしてしまった女生徒に寄り添っていた。
「大丈夫。落ち着いて。」
「いやっいやよ!やだやだやだ、消えたくない!」
「落ち着きなさい。」
レニーは女生徒の目をしっかり見ながら先程より強く言う。
女生徒は言葉が喉のつまったように、か細い息だけを吐き出した。
隣で教師が集中しているのを感じながら、レニーは女生徒に言い聞かせる。
「今、君が持つ魔力は2つ。『炎を打ち出せ』と命令されたものと『魔力を込めろ』と命令されたもの。わかるね?」
女生徒は頷きはしないものの、瞳を揺らす。
「今、先生が『魔力を込めろ』と命令されたものだけを君の身体の外へ出している。」
その方が効率がいいからだ。しかし難点もある。
ここ一帯を魔力で満たすことになるのだ。
それは宛ら、ガスのように。
ガスで満ちたところで火を燃やせばどうなるのか。
「君に残るのは『炎を打ち出せ』と命令された魔力だけ。打ち出したあと、ここに満ちている君の魔力を出来る限り制御するんだ。他の生徒を傷つけないために。」
1度身体の外へ出た魔力は、自分のものであろうと操ることは出来ない。
レニーはそれを知っているが、今必要なのは彼女を落ち着けること。そんな魔力の法則は数年後の授業で知ればいい。
迅速な教師の対応によって彼女の光は収まりつつある。
もうすぐ爆発が起こるだろう。
他の教師が防御結界を張ったみたいだけど。
薄い。
会場が広すぎるのだ。防御結界は大きくすれば強度は落ちる。
それに生徒は過剰生成のことを人が消えることだと思っている。
助かったあと何が起こるかなんて分からず、新入生たちは校内の構造だってよくわかっていない。避難はあまり上手くいっていないようだ。
完璧と言えない不安が、嫌な予感が、レニーを焦らせる。
そんなとき、視界の端でマントが揺れた。
「防御結界」
「隔離結界」
そんなレニーの耳に聞こえてきたのは友達の声。
「ニコくん!キルシュ様っ!」
イタズラ好きを自負する僕は、やられっぱなしなのは癪に障るためふわりと微笑む。
「ニコくん。」
「はっ...い。」
まさかの礼儀正しい返事に僕は顔を顰める。
「君は敬語なのか?」
「ああ、いや、キルシュ...。よろしくネ。」
何故か言われるがままのニコくんだったが最後は笑顔で応えてくれた。
それにしても微笑むだけで照れるのはレニーにだけか。
やはりあの反応は大袈裟だったのだな、と思い直す。
兄上が国王に惚れられているというのもただの噂に違いない。
そう結論づけた僕は試験の観戦に戻ったが、ふと横を見るとニコくんが自分の赤い耳を指先で触っていてなんとも言えない気持ちになった。
それにしてもくん付けがどうにも馴れない。
勢いだけで言ってしまったことを少し後悔する。
ニコくん、ルッソ、ニコ。
「ニコって呼んでも?」
「ああ勿論。俺としてもそっちの方が馴染みがまだあるしネ。」
「ニコくん、キルシュ様と仲良くなりすぎじゃない?」
急にレニーの声が聞こえたと思ったら、浮遊魔法で下から上がってきた。
「レニー、お友達はもういいのですか?」
「キルシュ様!僕にも敬語付けずに話してください!」
レニーが僕の手を両手で包むように握る。
ヒューにも敬語を外さなきゃいけないのかな、と先が思いやられるが、まずは目の前のことだ。
「そうだね、ニコだけじゃ不公平だ。でも僕だけというのも不公平だろう?」
レニーは敬語を外してくれるときもあるので簡単だと思ったが...何故か狼狽え始めた。
タメ口...オシ...距離間...と口から漏れ出ている。
オシ?途切れ途切れで分からないところもあるけれど、距離間に迷っていることは分かった。
僕はキルシュを真っ直ぐ見て、これから言うことを考えて恥ずかしくなって、やっぱり視線を少し外しながら言った。
「僕たちは友達でしょう?」
それを聞いたレニーは僕をしっかり見た。
「そう、だよね。僕はキルシュ様のファンである前に友達だ!」
分厚いメガネで顔の大半を隠していても、輝かんばかりの笑顔だということが分かる。
一方で僕はファンがなんなのか分からず焦る。
...これは早く市井に遊びに行かなくては。
僕は平民もいる学校にいたから貴族が使わない言葉も知っていると思っていた。
しかしこんなにも分からないとは。
いや、まさか...田舎貴族だからか...!?
流行りに乗り遅れた田舎貴族...。
「僕もレニーのファンであり友達ですよ。」
僕は少し緊張してレニーの様子を伺う。
レニーは袖で口を隠し
「そっそう?ありがとう。」
と聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
その後逃げるように僕!次、試験だから!と嵐のように去っていった。
これは使い方は合っていたのか...?
「ニコ。今度一緒に市井に遊びに行かないか?」
「レニーを誘わなくていいのかい?」
「...レニーも誘うよ。」
「ん...ふふっ。」
なんだ、その笑い。全てお見通しなら、言葉の意味くらい教えてくれればいいものを。
僕は不貞腐れる。
一方でニコは楽しそう。
そんな穏やかとも言える空気は一瞬にして終わった。
「いやっ!いやいやいやああああ!!!」
試験中の生徒が叫ぶ。
彼女の手は光り輝き、いくら振り払おうと、いくら手首を強く握ろうと光はどんどん上へ上がっていく。
「過剰生成っ。」
隣から焦った声が聞こえた。
過剰生成とはその名の通り、身体が魔力を過剰に生成しようとすることだ。
人は魔力が尽きると倦怠感や頭痛、息切れなど、症状は異なるが何かしら異常が発生する。
しかしそれに気付かず、または無視して魔力を込め続けると、魔力は魔力を作ろうとする。エネルギーを求める。
エネルギー、それは脂肪、肉、質量。
まずは魔法発動の起点となる部位が無くなると言われている。主に手だ。
次に腕。次は胸。お腹、頭、腰、足。
魔力は『魔力を込めろ』という命令に従うために、人の身体を食べる。
身体が全て無くなると命令が無効になり、増えた魔力は魔力のまま自然の一部となる。
これが過剰生成である。
僕とニコは考える間もなく飛び降りた。
2つのマントが羽ばたく。
安全のために組み込まれていたのだろう風魔法が発動し、身体を上へと持ち上げようとするが上手くかわす。
ニコは重力を増やしたらしい。
キルシュはしなやかに、ニコは豪快に降りると、生徒を掻き分けて試験会場の真ん中へ走る。
真ん中ではレニーと教師が過剰生成を起こしてしまった女生徒に寄り添っていた。
「大丈夫。落ち着いて。」
「いやっいやよ!やだやだやだ、消えたくない!」
「落ち着きなさい。」
レニーは女生徒の目をしっかり見ながら先程より強く言う。
女生徒は言葉が喉のつまったように、か細い息だけを吐き出した。
隣で教師が集中しているのを感じながら、レニーは女生徒に言い聞かせる。
「今、君が持つ魔力は2つ。『炎を打ち出せ』と命令されたものと『魔力を込めろ』と命令されたもの。わかるね?」
女生徒は頷きはしないものの、瞳を揺らす。
「今、先生が『魔力を込めろ』と命令されたものだけを君の身体の外へ出している。」
その方が効率がいいからだ。しかし難点もある。
ここ一帯を魔力で満たすことになるのだ。
それは宛ら、ガスのように。
ガスで満ちたところで火を燃やせばどうなるのか。
「君に残るのは『炎を打ち出せ』と命令された魔力だけ。打ち出したあと、ここに満ちている君の魔力を出来る限り制御するんだ。他の生徒を傷つけないために。」
1度身体の外へ出た魔力は、自分のものであろうと操ることは出来ない。
レニーはそれを知っているが、今必要なのは彼女を落ち着けること。そんな魔力の法則は数年後の授業で知ればいい。
迅速な教師の対応によって彼女の光は収まりつつある。
もうすぐ爆発が起こるだろう。
他の教師が防御結界を張ったみたいだけど。
薄い。
会場が広すぎるのだ。防御結界は大きくすれば強度は落ちる。
それに生徒は過剰生成のことを人が消えることだと思っている。
助かったあと何が起こるかなんて分からず、新入生たちは校内の構造だってよくわかっていない。避難はあまり上手くいっていないようだ。
完璧と言えない不安が、嫌な予感が、レニーを焦らせる。
そんなとき、視界の端でマントが揺れた。
「防御結界」
「隔離結界」
そんなレニーの耳に聞こえてきたのは友達の声。
「ニコくん!キルシュ様っ!」
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