7 / 61
第6話 令嬢と第三王子の秘密
しおりを挟む
お城に着いてからは、それはもう、大忙しでした。
まずは両陛下への謁見を済ませ、別室に連れて行かれると、契約書と婚姻届にサインをすることになり、それを済ませたあとは、侍女やメイドに連れられて、第三王子殿下が住んでおられるという三階建ての大きな洋館にやって来ました。
城の敷地内にあるだけでなく、渡り廊下でお城と繋がっていて、雨でも濡れずに行き来できるようになっているとのことで、普段は行き来できる扉には鍵が締められているのと、騎士が立っているので、関係者以外の外部からの侵入は難しいとのことでした。
屋敷に入ったあとは、私専用だという、今まで住んでいた部屋の三倍以上はある大きな部屋まで連れて行かれると、メイド達が言うには簡単な食事を出してもらえました。
でも、私にとってはご馳走でした。
白いテーブルクロスが掛けられた丸テーブルに並べられたのは、ステーキにサラダ、スープにパンといった定番といえば定番メニューなのかもしれませんが、私にとっては夢のような食べ物でした。
だって、ステーキですよ!
夢にまで見たステーキが目の前にあるのです!
「切り分けさせていただきますね」
メイドがステーキを一口サイズに切っていってくれました。
そして、それを恐る恐る口に運ぶと、それはもう……!
「幸せです。明日の朝を迎えなくても良い気になってきました」
咀嚼してから笑みを浮かべると、メイド達に苦笑されてしまいます。
すると、私の専属侍女になってくれる一人の女性が口を開きます。
「奥様、私共に敬語は必要ございません」
「……ですが」
「私共は奥様に仕えさせていただくのですから、堂々となさってくださいませ」
「は、はい! あ、いえ、えっと! わかりました! ああ、駄目ですね。使い慣れていないので、少しずつでも良い……かしら?」
「もちろんでございます」
厳しい表情をしていた侍女でしたが、頬を緩めて首を縦に振ってくれました。
その後は和やかに食事を終え、屋敷の中を案内してもらうと、次はバスタブのある部屋に行き、身体を隅々まで洗われ、既製品ではありますが、赤色のベビードールを着させられてしまいました。
痩せていて胸もないからか、私が着ると、セクシー感が一切なくなり、姿見に映る自分を見た時は自分で自分に上着を掛けてあげたい気分になりました。
「悲しくなってきました……」
「ルーラス殿下は体型のことで何か言われるような方ではございません。ですが、奥様は痩せ過ぎですわ。これからは健康的な身体にしていきましょう! 料理長も奥様の食べっぷりに感動しておりましたよ」
「とても美味しかったです。毎日、食べられると思うと今から幸せです」
なんだかんだとしている間に日も暮れ、夜遅い時間になりましたので、夫婦の寝室に連れて行ってもらいました。
もちろん、ベビードールの上に上着を羽織って移動します。
本来ならば寝室で着替えるべきなのかもしれませんが、事情があって無理なんだそうで、その事情は殿下が話してくださるとのことでした。
「殿下に目だけでも楽しませてあげてくださいませ」
「……え? 目だけ?」
聞き返した時には扉が開かれてしまったので、私は答えをもらえぬまま部屋の中に入りました。
最初に目に入ったのは正面の窓際に置かれた丸い木のテーブルで、その上にはティーポットやティーカップ、水差しやコップ、お酒が置かれていました。
私達の国では十六歳から飲酒が可能なため、置かれているのだと思います。
部屋の中を見回してみると、ドレッサーや書き物机に大きな本棚が二つ、ベッドの左右にサイドテーブル、窓際には二つの安楽椅子が置かれてあるのがわかりました。
部屋の中央にあるベッドは大人が三人以上は眠れそうな大きさです。
気になったのは、ベッドの上に小さな子供が座っていることでした。
「あ、あの、どうしてここにいるのですか? あなたはどちら様でしょう」
「ルーラスだよ」
メイドの子供に会ったことがあるのですが、その子と同じくらいの大きさですから、三歳くらいでしょうか。
白と黒のチェック柄のパジャマを着た男の子は、けろりとした顔で答えました。
「ルーラス様の弟君ですか? そんな話は世間では知られておりませんが……」
「違う! 本人だよ!」
ルーラス様を名乗る少年は小さな身体を動かして胡座をかくと、ベッドの脇で立ち尽くしている私を見上げて言います。
「これが秘密の一つだ。俺は夜になるとなぜか子供になってしまう」
「も、もしかして、初夜を迎えられないというのは」
「そ、そうだ。この体じゃ、そういうことが出来ないんだよ!」
ルーラス様は白い頬をピンク色に染め、両目を瞑って必死に訴えてこられました。
「意味は理解できました。このことが外部に知れますと、殿下の命が危なくなりますわね」
「……そういうことだ。だから、こうなることを知っている人間以外には話さないで欲しい。リルーリアが人の顔を覚えるまで、使用人の交代はさせない。彼女達には悪いが俺のことを知っているのは今日、屋敷内にいる使用人だけだ」
「普段は殿下の秘密を知らない方も働いておられるのですね?」
「そうだ。四六時中、同じ人間を働かせるわけにはいかないだろ」
「秘密を多くの人に知らせるわけにもいきませんしね」
大きなお屋敷ですのに人が少ないと思っていたのですが、それで納得です。
秘密を知る人が多くなればなるほど、漏れる可能性は高くなりますものね。
「では、殿下。殿下の秘密も教えていただいたことですし、私の秘密もお伝えしたいと思います」
「……秘密? あ、あと、俺のことはルーラスでいい」
「承知いたしました。ルーラス様とお呼びさせていただきます」
首を縦に振ったあと、確認しておかなければいけないことを、しっかりと確認しておきます。
「話す前に確認しておきたいのですが、この力が知られたら、私の力を利用しようとする人間が現れるかもしれません。良いことに使うのはかまいません。ですが、悪い人間に狙われた場合、その時は守っていただけますでしょうか」
「もちろん。君は俺の妻だからな」
ルーラス様は迷うことなく頷いてくださりました。
ここまで来たのです。
ルーラス様を信用するしかありません。
「……では、ルーラス様、お手をお借りできますか?」
「いいけど……」
おずおずと手を伸ばすルーラス様の子供のお姿はとても可愛くて、つい抱きしめたくなってしまいますが我慢です。
「あ、その前にお洋服を脱いでいただけますか?」
「え!?」
「あ、もちろん、シーツで身体を隠してくださいませ」
慌てて言うと、ルーラス様は不思議そうな顔をされながらも、もぞもぞとシーツの中に潜り、顔だけ出されました。
「これでいいか?」
とっても可愛いです。
ニコニコしていると照れてしまわれたのか、視線を逸らされてしまいましたので、早速、挑戦してみようと思います。
「では、手を出していただけますか」
お願いすると、ルーラス様は素直に私に右手を差し出してこられたので、その手に触れました。
その瞬間、ルーラス様が元の大人の姿に戻られました。
私には予想できていたことでしたが、ルーラス様は上半身をシーツで隠すのも忘れて驚かれます。
上半身だけとはいえ、男性の裸を見るなんて初めてでドキドキしてしまいます!
「ど、どうなってるんだ!?」
「ルーラス様、あなたは、どうやら、かなり効力が高い上に持続性のある魔法をかけられています」
神経を手に集中させて、魔法を発動させていないと駄目なくらい強いものです。
褒めたくはありませんが、この魔法をかけたのは、かなりのやり手です。
手を離せばすぐに、ルーラス様は子供の姿に戻ってしまうでしょう。
「いや、それはわかるんだが、どうして」
「ルーラス様、これが私の秘密です。私は魔法を無効化する魔法が使えるのです」
私が幼い頃に生活魔法が使えなかった理由は、無意識に無効化の魔法を使っていたため、生活魔法を発動しても、無効化の魔法で相殺してしまう形になっていたからでした。
まずは両陛下への謁見を済ませ、別室に連れて行かれると、契約書と婚姻届にサインをすることになり、それを済ませたあとは、侍女やメイドに連れられて、第三王子殿下が住んでおられるという三階建ての大きな洋館にやって来ました。
城の敷地内にあるだけでなく、渡り廊下でお城と繋がっていて、雨でも濡れずに行き来できるようになっているとのことで、普段は行き来できる扉には鍵が締められているのと、騎士が立っているので、関係者以外の外部からの侵入は難しいとのことでした。
屋敷に入ったあとは、私専用だという、今まで住んでいた部屋の三倍以上はある大きな部屋まで連れて行かれると、メイド達が言うには簡単な食事を出してもらえました。
でも、私にとってはご馳走でした。
白いテーブルクロスが掛けられた丸テーブルに並べられたのは、ステーキにサラダ、スープにパンといった定番といえば定番メニューなのかもしれませんが、私にとっては夢のような食べ物でした。
だって、ステーキですよ!
夢にまで見たステーキが目の前にあるのです!
「切り分けさせていただきますね」
メイドがステーキを一口サイズに切っていってくれました。
そして、それを恐る恐る口に運ぶと、それはもう……!
「幸せです。明日の朝を迎えなくても良い気になってきました」
咀嚼してから笑みを浮かべると、メイド達に苦笑されてしまいます。
すると、私の専属侍女になってくれる一人の女性が口を開きます。
「奥様、私共に敬語は必要ございません」
「……ですが」
「私共は奥様に仕えさせていただくのですから、堂々となさってくださいませ」
「は、はい! あ、いえ、えっと! わかりました! ああ、駄目ですね。使い慣れていないので、少しずつでも良い……かしら?」
「もちろんでございます」
厳しい表情をしていた侍女でしたが、頬を緩めて首を縦に振ってくれました。
その後は和やかに食事を終え、屋敷の中を案内してもらうと、次はバスタブのある部屋に行き、身体を隅々まで洗われ、既製品ではありますが、赤色のベビードールを着させられてしまいました。
痩せていて胸もないからか、私が着ると、セクシー感が一切なくなり、姿見に映る自分を見た時は自分で自分に上着を掛けてあげたい気分になりました。
「悲しくなってきました……」
「ルーラス殿下は体型のことで何か言われるような方ではございません。ですが、奥様は痩せ過ぎですわ。これからは健康的な身体にしていきましょう! 料理長も奥様の食べっぷりに感動しておりましたよ」
「とても美味しかったです。毎日、食べられると思うと今から幸せです」
なんだかんだとしている間に日も暮れ、夜遅い時間になりましたので、夫婦の寝室に連れて行ってもらいました。
もちろん、ベビードールの上に上着を羽織って移動します。
本来ならば寝室で着替えるべきなのかもしれませんが、事情があって無理なんだそうで、その事情は殿下が話してくださるとのことでした。
「殿下に目だけでも楽しませてあげてくださいませ」
「……え? 目だけ?」
聞き返した時には扉が開かれてしまったので、私は答えをもらえぬまま部屋の中に入りました。
最初に目に入ったのは正面の窓際に置かれた丸い木のテーブルで、その上にはティーポットやティーカップ、水差しやコップ、お酒が置かれていました。
私達の国では十六歳から飲酒が可能なため、置かれているのだと思います。
部屋の中を見回してみると、ドレッサーや書き物机に大きな本棚が二つ、ベッドの左右にサイドテーブル、窓際には二つの安楽椅子が置かれてあるのがわかりました。
部屋の中央にあるベッドは大人が三人以上は眠れそうな大きさです。
気になったのは、ベッドの上に小さな子供が座っていることでした。
「あ、あの、どうしてここにいるのですか? あなたはどちら様でしょう」
「ルーラスだよ」
メイドの子供に会ったことがあるのですが、その子と同じくらいの大きさですから、三歳くらいでしょうか。
白と黒のチェック柄のパジャマを着た男の子は、けろりとした顔で答えました。
「ルーラス様の弟君ですか? そんな話は世間では知られておりませんが……」
「違う! 本人だよ!」
ルーラス様を名乗る少年は小さな身体を動かして胡座をかくと、ベッドの脇で立ち尽くしている私を見上げて言います。
「これが秘密の一つだ。俺は夜になるとなぜか子供になってしまう」
「も、もしかして、初夜を迎えられないというのは」
「そ、そうだ。この体じゃ、そういうことが出来ないんだよ!」
ルーラス様は白い頬をピンク色に染め、両目を瞑って必死に訴えてこられました。
「意味は理解できました。このことが外部に知れますと、殿下の命が危なくなりますわね」
「……そういうことだ。だから、こうなることを知っている人間以外には話さないで欲しい。リルーリアが人の顔を覚えるまで、使用人の交代はさせない。彼女達には悪いが俺のことを知っているのは今日、屋敷内にいる使用人だけだ」
「普段は殿下の秘密を知らない方も働いておられるのですね?」
「そうだ。四六時中、同じ人間を働かせるわけにはいかないだろ」
「秘密を多くの人に知らせるわけにもいきませんしね」
大きなお屋敷ですのに人が少ないと思っていたのですが、それで納得です。
秘密を知る人が多くなればなるほど、漏れる可能性は高くなりますものね。
「では、殿下。殿下の秘密も教えていただいたことですし、私の秘密もお伝えしたいと思います」
「……秘密? あ、あと、俺のことはルーラスでいい」
「承知いたしました。ルーラス様とお呼びさせていただきます」
首を縦に振ったあと、確認しておかなければいけないことを、しっかりと確認しておきます。
「話す前に確認しておきたいのですが、この力が知られたら、私の力を利用しようとする人間が現れるかもしれません。良いことに使うのはかまいません。ですが、悪い人間に狙われた場合、その時は守っていただけますでしょうか」
「もちろん。君は俺の妻だからな」
ルーラス様は迷うことなく頷いてくださりました。
ここまで来たのです。
ルーラス様を信用するしかありません。
「……では、ルーラス様、お手をお借りできますか?」
「いいけど……」
おずおずと手を伸ばすルーラス様の子供のお姿はとても可愛くて、つい抱きしめたくなってしまいますが我慢です。
「あ、その前にお洋服を脱いでいただけますか?」
「え!?」
「あ、もちろん、シーツで身体を隠してくださいませ」
慌てて言うと、ルーラス様は不思議そうな顔をされながらも、もぞもぞとシーツの中に潜り、顔だけ出されました。
「これでいいか?」
とっても可愛いです。
ニコニコしていると照れてしまわれたのか、視線を逸らされてしまいましたので、早速、挑戦してみようと思います。
「では、手を出していただけますか」
お願いすると、ルーラス様は素直に私に右手を差し出してこられたので、その手に触れました。
その瞬間、ルーラス様が元の大人の姿に戻られました。
私には予想できていたことでしたが、ルーラス様は上半身をシーツで隠すのも忘れて驚かれます。
上半身だけとはいえ、男性の裸を見るなんて初めてでドキドキしてしまいます!
「ど、どうなってるんだ!?」
「ルーラス様、あなたは、どうやら、かなり効力が高い上に持続性のある魔法をかけられています」
神経を手に集中させて、魔法を発動させていないと駄目なくらい強いものです。
褒めたくはありませんが、この魔法をかけたのは、かなりのやり手です。
手を離せばすぐに、ルーラス様は子供の姿に戻ってしまうでしょう。
「いや、それはわかるんだが、どうして」
「ルーラス様、これが私の秘密です。私は魔法を無効化する魔法が使えるのです」
私が幼い頃に生活魔法が使えなかった理由は、無意識に無効化の魔法を使っていたため、生活魔法を発動しても、無効化の魔法で相殺してしまう形になっていたからでした。
応援ありがとうございます!
92
お気に入りに追加
6,062
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる