6 / 61
第5話 結婚前に話しておかなければいけないこと
しおりを挟む
次の日、迎えがやって来たと知らせがあり、持ち物である鞄一つをメイドに持ってもらい、玄関ポーチまで向かいました。
今日はお姉様のお下がりのピンク色のシュミーズドレスを着ていますが、サイズが合わなくて肩がすぐにズレてきます。
メイドに扉を開けてもらい、玄関ポーチに出て驚きました。
なんと御本人が白色の正装姿で迎えに来てくださっていたのです。
2年程前になりますが、第二王子殿下が謎の死を遂げておられ、その際に葬儀の写真が新聞に載ったため、第三王子殿下であらせられるルーラス様のお顔も存じ上げておりました。
けれど、新聞では遠巻きにしか写っておらず、ぼんやりしていたためか、実際に見てみると、やはり、オーラが違いました。
目つきは鋭いですが、シルバーブロンドのストレートの短髪に海の色のような青い瞳がとても綺麗で、目が合うとなんだか吸い込まれてしまうような感覚を覚えました。
不躾だとわかっていながらも見つめてみますと、眉目秀麗という言葉がよく似合う男性だと、改めて感じました。
あの条件がなければ、もっと早くに婚約者が見つかり、今頃はご結婚されていたのではないかと思います。
私の背が低いのか、殿下の背が高いのかわかりませんが、私の目の位置は殿下の二の腕くらいの位置までしかなく、身長差がかなりあります。
お父様達が殿下への挨拶を終えたので、今度は私の番になりました。
「第三王子殿下にお会いできて、大変光栄に存じます」
「ルーラスだ。会えて嬉しいのは確かだが、それよりも、もう一度確認したい。本当にいいのか?」
「……初夜を迎えられないというお話のことでしょうか?」
「そうだ。女性にしてみれば嫌な話なんだろ」
「……そうですね。多くの女性はそう思われるのかも知れませんが、私はそうは思いません」
「なら良いんだが」
第三王子殿下は頷かれたあと、晴れ渡った空を見上げて、なぜか憂鬱そうな顔をされます。
「日が傾く前に城に帰り着きたいんだ。すぐに出られるか?」
「もちろんです」
首を縦に振ると、御者の手により目の前に停まっていた馬車の扉が開かれました。
王家の紋章が施された白い馬車で、普通の馬車よりも少しだけ大きく感じます。
御者にメイドが私の荷物を渡してくれたのを確認してから、挨拶をするために振り返ろうとすると、お父様が第三王子殿下のところまでやって来て言います。
「何の取り柄もない娘ですので、もし、離婚となりましたら、我が家へは戻さず、森にでも捨て置いてください」
「一家の恥だと思っていた娘ですが、殿下に引き取っていただけるなんて光栄ですわ。お手間をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願い致します」
お母様も一緒になって、第三王子殿下に向かって頭を下げました。
森に捨てろだなんて酷い両親です。
そんなことを言われなくても、絶対にここには戻ってきませんのに!
「ふざけるな。自分の子供だろう。それから、俺はよっぽどのことじゃないと離婚はしない。される可能性はあるけどな。……話は聞いていたが、やっぱり気分が悪くなった。行くぞ」
第三王子殿下はお父様達に冷たく言い放ったあとは、私を見て手を出されました。
エスコートしてくださるようです。
「あの、自分一人で乗れますので」
「夫が手を出してるんだから素直に取れよ」
「もう、私達は夫婦になったのでしょうか?」
「いや。嫌ならまだ間に合う」
どうするんだ、と無言で問いかけられている気がして、恐れ多いとわかっていながらも、第三王子殿下の瞳を見つめます。
やはり、殿下の瞳はとても綺麗で、悪いものが混じっているようには思えません。
「良い妻になれるように努力いたします」
「初夜は迎えられないがな」
口元に笑みを浮かべた殿下の手の上に、自分の手を置いて頷きます。
「次の日の朝が迎えられるならかまいません」
「それは当たり前だろ。どうして、そんなことを言うんだ?」
馬車の中は私が最近乗せてもらった馬車とはまったく違い、座席はふかふかで、これなら長時間乗っていてもお尻が痛くならないのではと感じました。
窓の外を見ると、使用人達の多くは手を振ってくれていましたが、すでに家族の姿は見えなくなっておりました。
落ちこぼれが出て行って清々したといったところでしょうか。
私もこの家から出られて、本当に満足しておりますけどもね!
走り出してすぐに、殿下が話しかけてこられます。
「家族と仲が悪いのか?」
「……気分を害させてしまったようで申し訳ございません」
「酷い親だな。あんなこと言う親なんて初めて見たぞ。犯罪を犯したりして勘当するとかならまだしも、嫁に出すんだぞ? しかも王家に」
「今、両親は姉の結婚のことで頭が一杯なんです」
「ああ。話は聞いた。かなり大変なことになってるな」
「どういうことでしょうか?」
向かい合って座っている殿下は長い足を組んでから背もたれにもたれかかると、現在、エッフエム公爵家で起こっていることを簡単に教えてくださいました。
内容としては、エッフエム公爵はバフュー様に対して厳しい対応をしようとしているけれど、お父様から聞いた通り、大奥様がそれに反対され、最終的に大奥様がバフュー様を養子にすると言い出したらしいとのことでした。
「どうして大奥様はバフュー様にこだわるのでしょう? 孫だから可愛いだけなのでしょうか?」
「そうだな。孫が周りから責められているのを黙って見ていられないんだろう。あとは曾孫が気になるのかもな」
「そうでした。お姉様のお腹には命が宿っていますものね」
「まあ、他人の話は今はここまでにして、俺と結婚してもらう前に契約書にサインしてもらいたい」
「承知しました」
政略結婚でもそうなのですが、この国の多くの貴族は結婚前に色々な取り決めをして結婚します。
これは、いざ、離婚となった時に揉めないためだそうです。
親権や金銭面などの話を先に決めておくようなのですが、殿下が差し出してこられた契約書には、そのようなことは書かれておらず、この文章だけが書かれていました。
『結婚後に知った秘密事項は離婚後も決して他言しないこと。その恐れがあると判断した場合は離婚を認めない、もしくは命を奪われる可能性があることを了承する』
「……とにかく秘密は外に漏らすなということですわね?」
「そういうことだ。秘密を漏らさないなら、君が危険な目に遭うことはない」
「……承知しました」
馬車の中ではサインがしにくいため、城に着いてから改めてということになりましたので、気になったことを聞いておきます。
「今晩ですが、結婚初夜に当たりますが、どうされるおつもりでしょう?」
「結婚するというサインを確認後、寝室で話す」
「殺されたりしないですわよね?」
「するわけ無いだろ!」
殿下は眉根を寄せて声を荒げられたのでした。
今日はお姉様のお下がりのピンク色のシュミーズドレスを着ていますが、サイズが合わなくて肩がすぐにズレてきます。
メイドに扉を開けてもらい、玄関ポーチに出て驚きました。
なんと御本人が白色の正装姿で迎えに来てくださっていたのです。
2年程前になりますが、第二王子殿下が謎の死を遂げておられ、その際に葬儀の写真が新聞に載ったため、第三王子殿下であらせられるルーラス様のお顔も存じ上げておりました。
けれど、新聞では遠巻きにしか写っておらず、ぼんやりしていたためか、実際に見てみると、やはり、オーラが違いました。
目つきは鋭いですが、シルバーブロンドのストレートの短髪に海の色のような青い瞳がとても綺麗で、目が合うとなんだか吸い込まれてしまうような感覚を覚えました。
不躾だとわかっていながらも見つめてみますと、眉目秀麗という言葉がよく似合う男性だと、改めて感じました。
あの条件がなければ、もっと早くに婚約者が見つかり、今頃はご結婚されていたのではないかと思います。
私の背が低いのか、殿下の背が高いのかわかりませんが、私の目の位置は殿下の二の腕くらいの位置までしかなく、身長差がかなりあります。
お父様達が殿下への挨拶を終えたので、今度は私の番になりました。
「第三王子殿下にお会いできて、大変光栄に存じます」
「ルーラスだ。会えて嬉しいのは確かだが、それよりも、もう一度確認したい。本当にいいのか?」
「……初夜を迎えられないというお話のことでしょうか?」
「そうだ。女性にしてみれば嫌な話なんだろ」
「……そうですね。多くの女性はそう思われるのかも知れませんが、私はそうは思いません」
「なら良いんだが」
第三王子殿下は頷かれたあと、晴れ渡った空を見上げて、なぜか憂鬱そうな顔をされます。
「日が傾く前に城に帰り着きたいんだ。すぐに出られるか?」
「もちろんです」
首を縦に振ると、御者の手により目の前に停まっていた馬車の扉が開かれました。
王家の紋章が施された白い馬車で、普通の馬車よりも少しだけ大きく感じます。
御者にメイドが私の荷物を渡してくれたのを確認してから、挨拶をするために振り返ろうとすると、お父様が第三王子殿下のところまでやって来て言います。
「何の取り柄もない娘ですので、もし、離婚となりましたら、我が家へは戻さず、森にでも捨て置いてください」
「一家の恥だと思っていた娘ですが、殿下に引き取っていただけるなんて光栄ですわ。お手間をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願い致します」
お母様も一緒になって、第三王子殿下に向かって頭を下げました。
森に捨てろだなんて酷い両親です。
そんなことを言われなくても、絶対にここには戻ってきませんのに!
「ふざけるな。自分の子供だろう。それから、俺はよっぽどのことじゃないと離婚はしない。される可能性はあるけどな。……話は聞いていたが、やっぱり気分が悪くなった。行くぞ」
第三王子殿下はお父様達に冷たく言い放ったあとは、私を見て手を出されました。
エスコートしてくださるようです。
「あの、自分一人で乗れますので」
「夫が手を出してるんだから素直に取れよ」
「もう、私達は夫婦になったのでしょうか?」
「いや。嫌ならまだ間に合う」
どうするんだ、と無言で問いかけられている気がして、恐れ多いとわかっていながらも、第三王子殿下の瞳を見つめます。
やはり、殿下の瞳はとても綺麗で、悪いものが混じっているようには思えません。
「良い妻になれるように努力いたします」
「初夜は迎えられないがな」
口元に笑みを浮かべた殿下の手の上に、自分の手を置いて頷きます。
「次の日の朝が迎えられるならかまいません」
「それは当たり前だろ。どうして、そんなことを言うんだ?」
馬車の中は私が最近乗せてもらった馬車とはまったく違い、座席はふかふかで、これなら長時間乗っていてもお尻が痛くならないのではと感じました。
窓の外を見ると、使用人達の多くは手を振ってくれていましたが、すでに家族の姿は見えなくなっておりました。
落ちこぼれが出て行って清々したといったところでしょうか。
私もこの家から出られて、本当に満足しておりますけどもね!
走り出してすぐに、殿下が話しかけてこられます。
「家族と仲が悪いのか?」
「……気分を害させてしまったようで申し訳ございません」
「酷い親だな。あんなこと言う親なんて初めて見たぞ。犯罪を犯したりして勘当するとかならまだしも、嫁に出すんだぞ? しかも王家に」
「今、両親は姉の結婚のことで頭が一杯なんです」
「ああ。話は聞いた。かなり大変なことになってるな」
「どういうことでしょうか?」
向かい合って座っている殿下は長い足を組んでから背もたれにもたれかかると、現在、エッフエム公爵家で起こっていることを簡単に教えてくださいました。
内容としては、エッフエム公爵はバフュー様に対して厳しい対応をしようとしているけれど、お父様から聞いた通り、大奥様がそれに反対され、最終的に大奥様がバフュー様を養子にすると言い出したらしいとのことでした。
「どうして大奥様はバフュー様にこだわるのでしょう? 孫だから可愛いだけなのでしょうか?」
「そうだな。孫が周りから責められているのを黙って見ていられないんだろう。あとは曾孫が気になるのかもな」
「そうでした。お姉様のお腹には命が宿っていますものね」
「まあ、他人の話は今はここまでにして、俺と結婚してもらう前に契約書にサインしてもらいたい」
「承知しました」
政略結婚でもそうなのですが、この国の多くの貴族は結婚前に色々な取り決めをして結婚します。
これは、いざ、離婚となった時に揉めないためだそうです。
親権や金銭面などの話を先に決めておくようなのですが、殿下が差し出してこられた契約書には、そのようなことは書かれておらず、この文章だけが書かれていました。
『結婚後に知った秘密事項は離婚後も決して他言しないこと。その恐れがあると判断した場合は離婚を認めない、もしくは命を奪われる可能性があることを了承する』
「……とにかく秘密は外に漏らすなということですわね?」
「そういうことだ。秘密を漏らさないなら、君が危険な目に遭うことはない」
「……承知しました」
馬車の中ではサインがしにくいため、城に着いてから改めてということになりましたので、気になったことを聞いておきます。
「今晩ですが、結婚初夜に当たりますが、どうされるおつもりでしょう?」
「結婚するというサインを確認後、寝室で話す」
「殺されたりしないですわよね?」
「するわけ無いだろ!」
殿下は眉根を寄せて声を荒げられたのでした。
応援ありがとうございます!
71
お気に入りに追加
6,062
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる