8 / 61
第7話 新妻と新夫の初夜
しおりを挟む
「無効化の魔法なんて、この国では聞いたことがないぞ? そんな魔法が存在するのか?」
「存在するみたいです。昔の本に一冊だけ、無効化の魔法など、珍しい魔法や魔術について書かれている本があったので、それを読んで知りました」
ルーラス様は私の手を握りしめたまま聞いてこられます。
「こんなにすごい魔法が使えるのに、どうしてリルーリアの両親はこのことについて何も言わなかったんだ? リルーリアが狙われるかもしれないからか?」
「話をしていないからです」
ルーラス様に今までの家族からの仕打ちについてお話しますと、眉根を寄せられます。
「何だよ、それ。普通の親がすることじゃないだろ」
「普通の親ではありませんから」
苦笑しますと、ルーラス様は口をへの字に曲げられます。
「子供の頃なら親に嫌われたくなくて何も言えなかったんだろうとわかる。でも、もう大人なんだし、リルーリアも、もう少し怒れよ」
「あの両親に期待しても無駄ですし、落ちこぼれが生まれてきて恥ずかしいという思いは貴族の方は多く思っているようですし、そんなものなのでしょう。だからといって、生きていることを否定されても良いとも思いませんが」
「お前がそれで良いのなら良いけど、俺は気に入らない。もし、あいつらが俺の前でリルーリアを馬鹿にしたら怒るからな」
ルーラス様は私の手を強く握り直して言いました。
気持ちはとても有り難いです。
私のことで怒ってくださる方がいるだなんて、とても嬉しいことでもあります。
それにしても、殿下にかけられた魔法は、やはり、すぐに無効化できる魔法ではなさそうです。
「ルーラス様、一度、手を離しますね」
「ああ」
手が離れた途端、ルーラス様は子供の姿に戻ってしまわれました。
「どうなってるんだ?」
「ルーラス様は魔法陣を使える魔導師に魔法をかけられているのではないかと思います」
「魔法陣? 魔導師?」
このことについては、アラーセリア国の魔法を深く研究している人しかわからないため、一から説明することにします。
「基本、魔法は呪文を唱える、もしくは上級者になれば頭の中で唱えるだけで発動できますよね」
「そうだな」
「例えば、毒の魔法をかけられた場合、解毒魔法をかければ解毒できます。本で読んだのですが、魔法陣というものに自分の魔力を注ぎ込めば、その魔法陣を消さない限り、その魔法の効力は続きます。もちろん、相手が亡くなってしまったら別ですが……」
「魔法陣というものがピンとこないんだが……」
「そうですね。簡単に言えば、平らな場所に円を書き、その中に魔導師と呼ばれる者だけが知っている文字で、呪いたい相手や、相手がどのようになって欲しいかなどを書くんだそうです。より大きな円を魔導師の血で書くと一番、効果が高いと書かれていました」
「その魔導師が死んでも効果は続くのか?」
「相手が死んでしまえば別ですが、術者が死んでも続くと、本には書かれていました」
ルーラス様はシーツで自分の体を隠して後ろに倒れ込むと、可愛らしいお顔を歪めます。
「ということは、俺がかけられている魔法は、その魔法陣とやらをどうにかしないと解けないってことか」
「そうなります。ただ、逆を言いますと魔法陣を消してしまえば簡単に解けることになります」
「それがどこにあるのかわからないんだろ?」
「……ルーラス様はこの魔法をかけられそうな人に心当たりはございますか?」
「ない」
きっぱりと答えられたので、これではどうしようもありません。
でも、心当たりがあれば、今のような状況には陥ってませんよね……。
小さく息を吐くと、ルーラス様は悲しそうな顔になって言います。
「兄上を楽にするために色々と試したけれど、何の魔法も効かなかったんだ」
「……はい?」
「第二王子が亡くなったことは、リルーリアも知ってるだろ?」
「……亡くなられたことは存じ上げておりますが、死因については何も知りません」
「……兄上は三日三晩苦しんで、あまりの苦しさに殺してくれと叫ぶほどだった。毒の耐性をつけるために、何度も苦しい思いをしてきた。それでも我慢出来ないくらいに辛かったんだ」
真っ白な天井を見上げたまま、ルーラス様は震える声で言葉を続けます。
「気付いた時には自分で命を絶ってた。俺は何も出来なかった」
声を震わせるルーラス様のお姿を見るのも辛くて、涙が出そうになってしまいました。
でも、私が今、泣いても意味がありません。
出来ることは、新たな被害者を増やさないことです。
「……第二王子殿下を苦しめた犯人はわかったのですか?」
「……いや。俺のことを含めて調べてはいるんだが、未だにわかっていない。ただ、魔法陣の話は知らないはずだ。だから、そちらについては調べていない」
「そこまで強い効果だとしますと、その人の髪の毛や血などが必要になるそうです。ですので、身近な人物の可能性が高いです」
「その魔法陣ってのは、気付かれにくいものなのか?」
「私は専門家ではありませんので詳しくはわかりませんが、人が来ない場所に書けば気付かれないのでは?」
素人考えでしかありませんが、今はこれくらいしか思い付きません。
本をもっと読み込んでおけば良かったです。
ただ、その人が書いた本は知り合いに配っただけのようですし、その本しか出されていないので、信憑性がないのですよね。
「魔法陣ってのはどれくらいの大きさになれば、強い効果になるんだ?」
「それについてもわかりません。魔法陣というものは一部の人間が何年も調べて、やっとわかった結果みたいなものなんです。だから、王家の方やその周りの方々も知らなくて当然です。著者は趣味で調べて本にされたのです。明らかに嘘だと思われるものを王家の関係者の方も調べたりしないでしょう? しかも、かなり前の本です」
「でも、嘘じゃないんだよな?」
「わかりません。ただ、ルーラス様の魔法は私が無効化魔法をかけている間しか解除できません。ということは、何かがあるのは確かです」
私の言葉を聞いたルーラス様は起き上がり、私のほうに手を伸ばしてこられたので、手に魔力を集中させて無効化魔法を発動させると、ルーラス様がまた大人の姿に戻られました。
「これはどれくらい持続できる? 魔力量を自分で感じることは出来るのか?」
「はい。お腹が減ってくるので」
「人によっては体力を奪われることが多いんだが、リルーリアの場合はお腹が減るのか」
「極限に達したら体力を奪われるのかもしれませんね」
「……そうか。考えないことや話し合わないといけないことが山積みだが、とりあえず、どうする?」
「とりあえずどうするとは?」
首を傾げて聞き返すと、ルーラス様は耳を赤くさせ、視線を彷徨わせながら答えてくれます。
「俺は太陽が落ちると、子供の姿になるんだ。だけど、リルーリアが無効化の魔法を使い続けてくれるなら、初夜を迎えることは出来るぞ?」
「え!? 初夜ってもしかして、やはり、そっちのほうですか!?」
「そっちのほうって何だよ」
「結婚して初めての夜ではなくて、えっちなほうです!」
「……」
ルーラス様はきょとんとした後、一瞬にして顔を真っ赤にされました。
「そ、それは、初めての夜なら普通に過ごせるだろ! 俺にとっては、その初夜ってのは、そういうことをする日のことだとっ」
「一般的に貴族の間ではそれが通ってますので、お気になさらないでください! ですが、あの、その、やり方をその、習ってきていないのです。だって、迎えられないって書かれてありましたから!」
「俺も詳しくは知らない」
「はい!?」
「だって、こんなことになるとは思ってないだろ。でも、何をするかくらいは知ってる!」
「私だってそれくらいは知っておりますとも! ただ、ご奉仕のやり方は知らないんですっ!」
手を握り合い、お互いに顔を赤くして叫びあったあと、同じ結論に達します。
「今日は寝るか」
「今日は寝ましょう!」
せっかく、メイドや侍女の皆さんが綺麗にしてくれましたが、今日はそれどころではありません。
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
手を離すと、ルーラス様は子供の姿に戻られてしまいました。
裸で眠ってしまわれるのは、朝方には大人に戻るからなのでしょう。
それにしても、私がここに来たのは誰かに導かれたような感じがします。
もしかして、エッフエム公爵、もしくはエッフエム公爵家の嫡男のレイド様が、私の魔力が何か違っているとでも気付かれたのでしょうか……?
もしくは無意識に無効化魔法を使っていた……?
色々と疑問やルーラス様に聞きたいこともありましたが、私もさすがに疲れており、気付かない内に眠ってしまっていたのでした。
※
色々とご意見あるかと思いますが、私なりの世界観で書いております。
ご了承くださいませ。
「存在するみたいです。昔の本に一冊だけ、無効化の魔法など、珍しい魔法や魔術について書かれている本があったので、それを読んで知りました」
ルーラス様は私の手を握りしめたまま聞いてこられます。
「こんなにすごい魔法が使えるのに、どうしてリルーリアの両親はこのことについて何も言わなかったんだ? リルーリアが狙われるかもしれないからか?」
「話をしていないからです」
ルーラス様に今までの家族からの仕打ちについてお話しますと、眉根を寄せられます。
「何だよ、それ。普通の親がすることじゃないだろ」
「普通の親ではありませんから」
苦笑しますと、ルーラス様は口をへの字に曲げられます。
「子供の頃なら親に嫌われたくなくて何も言えなかったんだろうとわかる。でも、もう大人なんだし、リルーリアも、もう少し怒れよ」
「あの両親に期待しても無駄ですし、落ちこぼれが生まれてきて恥ずかしいという思いは貴族の方は多く思っているようですし、そんなものなのでしょう。だからといって、生きていることを否定されても良いとも思いませんが」
「お前がそれで良いのなら良いけど、俺は気に入らない。もし、あいつらが俺の前でリルーリアを馬鹿にしたら怒るからな」
ルーラス様は私の手を強く握り直して言いました。
気持ちはとても有り難いです。
私のことで怒ってくださる方がいるだなんて、とても嬉しいことでもあります。
それにしても、殿下にかけられた魔法は、やはり、すぐに無効化できる魔法ではなさそうです。
「ルーラス様、一度、手を離しますね」
「ああ」
手が離れた途端、ルーラス様は子供の姿に戻ってしまわれました。
「どうなってるんだ?」
「ルーラス様は魔法陣を使える魔導師に魔法をかけられているのではないかと思います」
「魔法陣? 魔導師?」
このことについては、アラーセリア国の魔法を深く研究している人しかわからないため、一から説明することにします。
「基本、魔法は呪文を唱える、もしくは上級者になれば頭の中で唱えるだけで発動できますよね」
「そうだな」
「例えば、毒の魔法をかけられた場合、解毒魔法をかければ解毒できます。本で読んだのですが、魔法陣というものに自分の魔力を注ぎ込めば、その魔法陣を消さない限り、その魔法の効力は続きます。もちろん、相手が亡くなってしまったら別ですが……」
「魔法陣というものがピンとこないんだが……」
「そうですね。簡単に言えば、平らな場所に円を書き、その中に魔導師と呼ばれる者だけが知っている文字で、呪いたい相手や、相手がどのようになって欲しいかなどを書くんだそうです。より大きな円を魔導師の血で書くと一番、効果が高いと書かれていました」
「その魔導師が死んでも効果は続くのか?」
「相手が死んでしまえば別ですが、術者が死んでも続くと、本には書かれていました」
ルーラス様はシーツで自分の体を隠して後ろに倒れ込むと、可愛らしいお顔を歪めます。
「ということは、俺がかけられている魔法は、その魔法陣とやらをどうにかしないと解けないってことか」
「そうなります。ただ、逆を言いますと魔法陣を消してしまえば簡単に解けることになります」
「それがどこにあるのかわからないんだろ?」
「……ルーラス様はこの魔法をかけられそうな人に心当たりはございますか?」
「ない」
きっぱりと答えられたので、これではどうしようもありません。
でも、心当たりがあれば、今のような状況には陥ってませんよね……。
小さく息を吐くと、ルーラス様は悲しそうな顔になって言います。
「兄上を楽にするために色々と試したけれど、何の魔法も効かなかったんだ」
「……はい?」
「第二王子が亡くなったことは、リルーリアも知ってるだろ?」
「……亡くなられたことは存じ上げておりますが、死因については何も知りません」
「……兄上は三日三晩苦しんで、あまりの苦しさに殺してくれと叫ぶほどだった。毒の耐性をつけるために、何度も苦しい思いをしてきた。それでも我慢出来ないくらいに辛かったんだ」
真っ白な天井を見上げたまま、ルーラス様は震える声で言葉を続けます。
「気付いた時には自分で命を絶ってた。俺は何も出来なかった」
声を震わせるルーラス様のお姿を見るのも辛くて、涙が出そうになってしまいました。
でも、私が今、泣いても意味がありません。
出来ることは、新たな被害者を増やさないことです。
「……第二王子殿下を苦しめた犯人はわかったのですか?」
「……いや。俺のことを含めて調べてはいるんだが、未だにわかっていない。ただ、魔法陣の話は知らないはずだ。だから、そちらについては調べていない」
「そこまで強い効果だとしますと、その人の髪の毛や血などが必要になるそうです。ですので、身近な人物の可能性が高いです」
「その魔法陣ってのは、気付かれにくいものなのか?」
「私は専門家ではありませんので詳しくはわかりませんが、人が来ない場所に書けば気付かれないのでは?」
素人考えでしかありませんが、今はこれくらいしか思い付きません。
本をもっと読み込んでおけば良かったです。
ただ、その人が書いた本は知り合いに配っただけのようですし、その本しか出されていないので、信憑性がないのですよね。
「魔法陣ってのはどれくらいの大きさになれば、強い効果になるんだ?」
「それについてもわかりません。魔法陣というものは一部の人間が何年も調べて、やっとわかった結果みたいなものなんです。だから、王家の方やその周りの方々も知らなくて当然です。著者は趣味で調べて本にされたのです。明らかに嘘だと思われるものを王家の関係者の方も調べたりしないでしょう? しかも、かなり前の本です」
「でも、嘘じゃないんだよな?」
「わかりません。ただ、ルーラス様の魔法は私が無効化魔法をかけている間しか解除できません。ということは、何かがあるのは確かです」
私の言葉を聞いたルーラス様は起き上がり、私のほうに手を伸ばしてこられたので、手に魔力を集中させて無効化魔法を発動させると、ルーラス様がまた大人の姿に戻られました。
「これはどれくらい持続できる? 魔力量を自分で感じることは出来るのか?」
「はい。お腹が減ってくるので」
「人によっては体力を奪われることが多いんだが、リルーリアの場合はお腹が減るのか」
「極限に達したら体力を奪われるのかもしれませんね」
「……そうか。考えないことや話し合わないといけないことが山積みだが、とりあえず、どうする?」
「とりあえずどうするとは?」
首を傾げて聞き返すと、ルーラス様は耳を赤くさせ、視線を彷徨わせながら答えてくれます。
「俺は太陽が落ちると、子供の姿になるんだ。だけど、リルーリアが無効化の魔法を使い続けてくれるなら、初夜を迎えることは出来るぞ?」
「え!? 初夜ってもしかして、やはり、そっちのほうですか!?」
「そっちのほうって何だよ」
「結婚して初めての夜ではなくて、えっちなほうです!」
「……」
ルーラス様はきょとんとした後、一瞬にして顔を真っ赤にされました。
「そ、それは、初めての夜なら普通に過ごせるだろ! 俺にとっては、その初夜ってのは、そういうことをする日のことだとっ」
「一般的に貴族の間ではそれが通ってますので、お気になさらないでください! ですが、あの、その、やり方をその、習ってきていないのです。だって、迎えられないって書かれてありましたから!」
「俺も詳しくは知らない」
「はい!?」
「だって、こんなことになるとは思ってないだろ。でも、何をするかくらいは知ってる!」
「私だってそれくらいは知っておりますとも! ただ、ご奉仕のやり方は知らないんですっ!」
手を握り合い、お互いに顔を赤くして叫びあったあと、同じ結論に達します。
「今日は寝るか」
「今日は寝ましょう!」
せっかく、メイドや侍女の皆さんが綺麗にしてくれましたが、今日はそれどころではありません。
「おやすみ」
「おやすみなさいませ」
手を離すと、ルーラス様は子供の姿に戻られてしまいました。
裸で眠ってしまわれるのは、朝方には大人に戻るからなのでしょう。
それにしても、私がここに来たのは誰かに導かれたような感じがします。
もしかして、エッフエム公爵、もしくはエッフエム公爵家の嫡男のレイド様が、私の魔力が何か違っているとでも気付かれたのでしょうか……?
もしくは無意識に無効化魔法を使っていた……?
色々と疑問やルーラス様に聞きたいこともありましたが、私もさすがに疲れており、気付かない内に眠ってしまっていたのでした。
※
色々とご意見あるかと思いますが、私なりの世界観で書いております。
ご了承くださいませ。
応援ありがとうございます!
73
お気に入りに追加
6,061
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる