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第1章 1度目の婚約破棄
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わたしが婚約破棄を決めた日から、テックの誕生日パーティーまでは、あと二十日程あった。
だから、その間にデスタから手紙や花束が贈られてきたり、本人が訪ねてくることもあった。
だけど、全て返したし、会うこともなかった。
デスタが訪ねてくる度に、応接室で少しだけ待っていてもらう。
そうしている内にソレーヌ様から呼び出しがかかり、わたしが何もせずとも、デスタは勝手に帰ってくれた。
家に入れる理由は、お父様からちゃんと話すようにと言われているからだが、婚約破棄を告げる日まで、わたしはデスタと話すつもりはない。
――顔を見たら決心が揺らぐかもしれないと思う時点で駄目なことはわかっている。
出会ってすぐのデスタは、デート中に帰るような人じゃなかった。
昔はあんな人ではなかった。
……と思おうとしていた。
考えてみたら、昔のデートは親が付き添ってくれていたから、ソレーヌ様が駄々をこねても意味がなかったんだわ。
デスタがあんなに素敵に思えていたのに、熱が冷めてしまうと、まるであの頃の自分が自分ではなかったみたいに思えてくる。
熱に浮かされたというのは、こういうことなのかもしれない。
「おい、セフィリア! 手が止まっているぞ!」
仕事が一段落ついたので、お父様の執務室のソファに座って休憩していたら怒鳴られてしまった。
けれど、許可は取ってある。
「先程、休憩をしますとお伝えしましたが?」
「休憩している暇があったら、ロイアン家の子息とのことをどうにかしろ!」
「お父様、何を言っていらっしゃるのか意味がわかりませんわ。お父様だっておわかりになったでしょう? デスタが家に何度訪ねてきたと思います? そして、やって来てすぐに、わたしに会わずに何度帰ったかくらい、優秀なお父様でしたら覚えていらっしゃるでしょう?」
「ああ、そうだな、八回だ!」
「公爵令嬢に対して無礼だとは思いませんの!?」
お父様はソファに座っている私を睨みつけたあと、手に持っていた書類を横に置く。
そして、引き出しから二つに折りたたまれた白い紙を取り出した。
それを無言でわたしのほうに差し出す。
近寄って受け取ると、紙には報告書と書かれていた。
「お父様、これは?」
「ロイアン家にうちの手の者がいる」
「……そうだったんですね。ロイアン伯爵はご存知なのですか?」
「薄々、気付いてはいるだろう。だが、自分のことを探っているわけではないから気にしていないといったところか」
報告書の中身を見てみると、ソレーヌ様とデスタのことが書かれていた。
『デスタ様がソレーヌ様に、セフィリアは僕にベタ惚れだから、絶対に婚約破棄をすることはないと言っていた』
その文章を見た時に、色々な感情が渦巻いた。
悔しくて、また、涙が出そうになるのを何とかこらえた。
「お父様、わたしは」
「かまわん。婚約破棄しろ」
「……え?」
聞き返すと、お父様は立ち上がって机を叩く。
「ただの公爵家じゃないんだぞ! ロイアン伯爵家のバカ息子は、エルテ公爵家を馬鹿にしたんだ!」
まさかの発言に驚きはしたけれど、お許しが出た。
「ありがとうございます、お父様」
「そのかわり、条件がある」
条件の一つ目は、お父様の見ている前で、デスタを土下座させて謝らせること。
二つ目は、ロイアン伯爵とソレーヌ様の前で婚約破棄をすることだった。
二つ目については、テックの誕生日パーティーの後に帰らずに残ってもらえば良いだけだから簡単だ。
一つ目はロイアン伯爵が婚約破棄の話を聞いて、どう反応するかにも違ってくる。
テックの誕生日までに、わたしはロイアン伯爵が、ソレーヌ様とデスタの関係を知っているのかを調べた。
結果、ロイアン伯爵は二人の仲を知らないことがわかった。
二人は使用人にお金を渡して口止めしていたのだ。
このことを知ったら、ロイアン伯爵は怒り狂うでしょうね。
デスタ、ソレーヌ様。
わたしから婚約破棄させていただきます。
だから、どうぞ二人で幸せになってください。
そして、あっという間に、決行の日はやって来た――
だから、その間にデスタから手紙や花束が贈られてきたり、本人が訪ねてくることもあった。
だけど、全て返したし、会うこともなかった。
デスタが訪ねてくる度に、応接室で少しだけ待っていてもらう。
そうしている内にソレーヌ様から呼び出しがかかり、わたしが何もせずとも、デスタは勝手に帰ってくれた。
家に入れる理由は、お父様からちゃんと話すようにと言われているからだが、婚約破棄を告げる日まで、わたしはデスタと話すつもりはない。
――顔を見たら決心が揺らぐかもしれないと思う時点で駄目なことはわかっている。
出会ってすぐのデスタは、デート中に帰るような人じゃなかった。
昔はあんな人ではなかった。
……と思おうとしていた。
考えてみたら、昔のデートは親が付き添ってくれていたから、ソレーヌ様が駄々をこねても意味がなかったんだわ。
デスタがあんなに素敵に思えていたのに、熱が冷めてしまうと、まるであの頃の自分が自分ではなかったみたいに思えてくる。
熱に浮かされたというのは、こういうことなのかもしれない。
「おい、セフィリア! 手が止まっているぞ!」
仕事が一段落ついたので、お父様の執務室のソファに座って休憩していたら怒鳴られてしまった。
けれど、許可は取ってある。
「先程、休憩をしますとお伝えしましたが?」
「休憩している暇があったら、ロイアン家の子息とのことをどうにかしろ!」
「お父様、何を言っていらっしゃるのか意味がわかりませんわ。お父様だっておわかりになったでしょう? デスタが家に何度訪ねてきたと思います? そして、やって来てすぐに、わたしに会わずに何度帰ったかくらい、優秀なお父様でしたら覚えていらっしゃるでしょう?」
「ああ、そうだな、八回だ!」
「公爵令嬢に対して無礼だとは思いませんの!?」
お父様はソファに座っている私を睨みつけたあと、手に持っていた書類を横に置く。
そして、引き出しから二つに折りたたまれた白い紙を取り出した。
それを無言でわたしのほうに差し出す。
近寄って受け取ると、紙には報告書と書かれていた。
「お父様、これは?」
「ロイアン家にうちの手の者がいる」
「……そうだったんですね。ロイアン伯爵はご存知なのですか?」
「薄々、気付いてはいるだろう。だが、自分のことを探っているわけではないから気にしていないといったところか」
報告書の中身を見てみると、ソレーヌ様とデスタのことが書かれていた。
『デスタ様がソレーヌ様に、セフィリアは僕にベタ惚れだから、絶対に婚約破棄をすることはないと言っていた』
その文章を見た時に、色々な感情が渦巻いた。
悔しくて、また、涙が出そうになるのを何とかこらえた。
「お父様、わたしは」
「かまわん。婚約破棄しろ」
「……え?」
聞き返すと、お父様は立ち上がって机を叩く。
「ただの公爵家じゃないんだぞ! ロイアン伯爵家のバカ息子は、エルテ公爵家を馬鹿にしたんだ!」
まさかの発言に驚きはしたけれど、お許しが出た。
「ありがとうございます、お父様」
「そのかわり、条件がある」
条件の一つ目は、お父様の見ている前で、デスタを土下座させて謝らせること。
二つ目は、ロイアン伯爵とソレーヌ様の前で婚約破棄をすることだった。
二つ目については、テックの誕生日パーティーの後に帰らずに残ってもらえば良いだけだから簡単だ。
一つ目はロイアン伯爵が婚約破棄の話を聞いて、どう反応するかにも違ってくる。
テックの誕生日までに、わたしはロイアン伯爵が、ソレーヌ様とデスタの関係を知っているのかを調べた。
結果、ロイアン伯爵は二人の仲を知らないことがわかった。
二人は使用人にお金を渡して口止めしていたのだ。
このことを知ったら、ロイアン伯爵は怒り狂うでしょうね。
デスタ、ソレーヌ様。
わたしから婚約破棄させていただきます。
だから、どうぞ二人で幸せになってください。
そして、あっという間に、決行の日はやって来た――
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