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第1章 1度目の婚約破棄
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テックの誕生日パーティーはエルテ家のダンスホールを使って行われた。
盛大なパーティーが開かれ、多くのお客様が来てくれた。
その中には、お姉様の婚約者であるロビースト様と、先代当主がご健在の時にラソウエ公爵家の養子になった、シード様も来られていた。
シード様は今年20歳になられるとのことで、ロビースト様よりも5歳年下だ。
なぜ、シード様が養子になったのかはわかっていない。
というよりか、明かされていないと言うべきか。
お父様など、公爵家の当主は理由を知っているようだけど、わたしには教えてもらえなかった。
パーティーは滞りなく終わり、いよいよという時になった。
テックを巻き込みたくなかったので、彼には部屋に帰るようにお願いした。
お父様から婚約破棄の許可が出たことを知っているテックは「頑張ってください」と言って、素直に自分の部屋に戻っていってくれた。
「セフィリア、本当に婚約破棄するつもり?」
お姉様が近づいてきて、不安そうな表情を見せる。
今日のお姉様はロビースト様に痩せた姿を見せるのだと張り切って、ウエストを絞った紺色のドレスを着ていた。
腰の締めつけが強いのか、お姉様の顔色が青くなっているように見えるので心配になる。
「婚約破棄はするつもりです。それよりも、お姉様、顔色が悪いですし、お姉様もお部屋にお戻りになってください」
「それが駄目なの」
デスタたちと話をすることになっている談話室に向かって歩き出すと、お姉様は追いかけてきて首を横に振る。
「ロビースト様にあなたの婚約破棄の話をしたら、自分も立ち会いたいって言っていらしたの。あと、弟のシード様もね。だから、私も一緒に行くわ」
「お姉様、婚約破棄の話は他の方に話さないようにとお願いしたじゃないですか」
「ロビースト様は家族になるのだから良いじゃないの!」
お姉様は必死の形相で叫んだ。
この言い方だと、ロビースト様とお姉様は無事に結婚できることになったのかしら。
わたしとしては痩せないと結婚できないという言葉に、何か深い意味があるのなら許せる。
でも、外見のことだけ言っているのであれば、破談になっても良い相手だと思っている。
でも、お姉様はロビースト様に夢中だ。
やめておけば良い。
そう思うのに口に出せないのは、過去の自分の姿を見ているようで、あの頃のわたしに何を言っても無駄だとわかっているからだ。
でも、諦めずに一応、確認しておく。
「本当にロビースト様のことが好きなんですか?」
「……ええ。大好きよ。厳しいことを言うけれど、私が泣いたら謝ってくれるの」
「お姉様は、そんなお方が好きなんですか?」
「だって、ロビースト様は他の女性に優しくしたりしないもの。私にだけよ!」
「そうですか。それなら良いのです」
ロビースト様はデスタと違って、お姉様という婚約者がいる前で、他の女性と仲良くするほどの馬鹿ではない。
そう思った時に、応接室までたどり着いた。
部屋の中にはお父様、ロイアン伯爵、デスタ、ソレーヌ様、そして、ロビースト様がすでに待ってくれていた。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
応接室を入ってすぐにある、応接セットのソファは黒のローテーブルを囲むように置かれている。
一人掛けのソファがローテーブルを挟んで1つずつ。
3人がけのソファが同じくローテーブルを挟んで1つずつあり、入ってすぐに顔が見える、奥の一人がけのソファにお父様がすでに座っていた。
ロイアン伯爵、デスタ、ソレーヌ様は三人がけに並んで座っていて、ロビースト様がその向かいの三人がけのソファに座っていた。
「シード様も来られるとのことですが、お待ちしたほうがよろしいですか?」
ロビースト様に尋ねると、縁無しのメガネを指で押し上げて答えてくれる。
「後ほど、来られるようですから、先に話をしても良いでしょう」
どうして、弟に敬語を使っているのかしら?
不思議に思ったけれど、今はそんな場合ではない。
お姉様がロビースト様の横に座ったことを確認してから、不安そうにしているロイアン一族に向かって話しかける。
「もう遅い時間ですので、挨拶と前置きは省略させていただきます。……デスタ様」
黒の燕尾服姿のデスタが体を震わせて、扉の前に立っているわたしを見上げた。
「この場で、あなたとの婚約を破棄させていただきます。今までありがとうございました」
深々と頭を下げると、デスタが立ち上がって叫ぶ。
「そんな! 待ってくれ! 僕と婚約破棄だなんて正気か!?」
「そうだわ! こんなに素敵なお兄様の何が不満だって言うの!」
まるで妖精のような可愛らしいピンク色のドレスを着たソレーヌ様も立ち上がり、デスタの腕を掴んで叫んだ。
二人を無視して、呆然とした表情で何も言わないロイアン伯爵に声を掛ける。
「ロイアン伯爵」
「な、なんでしょうか」
デスタよりも背が高く、たくましい体型で目付きの鋭いロイアン伯爵は、動揺した様子を隠せないまま聞き返してきた。
「このお二人、とっても仲がよろしいの。ここ最近、デートやパーティーに出かけても、デスタ様は早くに戻ってくることが多かったのではありませんか?」
「そ、それは、セフィリア様の体調が良くないからだと……」
そこまで言って、ロイアン伯爵は目を見開く。
「まさか、お前たち! いつも一緒にいると思ったら!」
ロイアン伯爵は立ち上がって叫ぶ。
そして、デスタの襟首を掴むと、問答無用でデスタの頬を拳で殴った。
盛大なパーティーが開かれ、多くのお客様が来てくれた。
その中には、お姉様の婚約者であるロビースト様と、先代当主がご健在の時にラソウエ公爵家の養子になった、シード様も来られていた。
シード様は今年20歳になられるとのことで、ロビースト様よりも5歳年下だ。
なぜ、シード様が養子になったのかはわかっていない。
というよりか、明かされていないと言うべきか。
お父様など、公爵家の当主は理由を知っているようだけど、わたしには教えてもらえなかった。
パーティーは滞りなく終わり、いよいよという時になった。
テックを巻き込みたくなかったので、彼には部屋に帰るようにお願いした。
お父様から婚約破棄の許可が出たことを知っているテックは「頑張ってください」と言って、素直に自分の部屋に戻っていってくれた。
「セフィリア、本当に婚約破棄するつもり?」
お姉様が近づいてきて、不安そうな表情を見せる。
今日のお姉様はロビースト様に痩せた姿を見せるのだと張り切って、ウエストを絞った紺色のドレスを着ていた。
腰の締めつけが強いのか、お姉様の顔色が青くなっているように見えるので心配になる。
「婚約破棄はするつもりです。それよりも、お姉様、顔色が悪いですし、お姉様もお部屋にお戻りになってください」
「それが駄目なの」
デスタたちと話をすることになっている談話室に向かって歩き出すと、お姉様は追いかけてきて首を横に振る。
「ロビースト様にあなたの婚約破棄の話をしたら、自分も立ち会いたいって言っていらしたの。あと、弟のシード様もね。だから、私も一緒に行くわ」
「お姉様、婚約破棄の話は他の方に話さないようにとお願いしたじゃないですか」
「ロビースト様は家族になるのだから良いじゃないの!」
お姉様は必死の形相で叫んだ。
この言い方だと、ロビースト様とお姉様は無事に結婚できることになったのかしら。
わたしとしては痩せないと結婚できないという言葉に、何か深い意味があるのなら許せる。
でも、外見のことだけ言っているのであれば、破談になっても良い相手だと思っている。
でも、お姉様はロビースト様に夢中だ。
やめておけば良い。
そう思うのに口に出せないのは、過去の自分の姿を見ているようで、あの頃のわたしに何を言っても無駄だとわかっているからだ。
でも、諦めずに一応、確認しておく。
「本当にロビースト様のことが好きなんですか?」
「……ええ。大好きよ。厳しいことを言うけれど、私が泣いたら謝ってくれるの」
「お姉様は、そんなお方が好きなんですか?」
「だって、ロビースト様は他の女性に優しくしたりしないもの。私にだけよ!」
「そうですか。それなら良いのです」
ロビースト様はデスタと違って、お姉様という婚約者がいる前で、他の女性と仲良くするほどの馬鹿ではない。
そう思った時に、応接室までたどり着いた。
部屋の中にはお父様、ロイアン伯爵、デスタ、ソレーヌ様、そして、ロビースト様がすでに待ってくれていた。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
応接室を入ってすぐにある、応接セットのソファは黒のローテーブルを囲むように置かれている。
一人掛けのソファがローテーブルを挟んで1つずつ。
3人がけのソファが同じくローテーブルを挟んで1つずつあり、入ってすぐに顔が見える、奥の一人がけのソファにお父様がすでに座っていた。
ロイアン伯爵、デスタ、ソレーヌ様は三人がけに並んで座っていて、ロビースト様がその向かいの三人がけのソファに座っていた。
「シード様も来られるとのことですが、お待ちしたほうがよろしいですか?」
ロビースト様に尋ねると、縁無しのメガネを指で押し上げて答えてくれる。
「後ほど、来られるようですから、先に話をしても良いでしょう」
どうして、弟に敬語を使っているのかしら?
不思議に思ったけれど、今はそんな場合ではない。
お姉様がロビースト様の横に座ったことを確認してから、不安そうにしているロイアン一族に向かって話しかける。
「もう遅い時間ですので、挨拶と前置きは省略させていただきます。……デスタ様」
黒の燕尾服姿のデスタが体を震わせて、扉の前に立っているわたしを見上げた。
「この場で、あなたとの婚約を破棄させていただきます。今までありがとうございました」
深々と頭を下げると、デスタが立ち上がって叫ぶ。
「そんな! 待ってくれ! 僕と婚約破棄だなんて正気か!?」
「そうだわ! こんなに素敵なお兄様の何が不満だって言うの!」
まるで妖精のような可愛らしいピンク色のドレスを着たソレーヌ様も立ち上がり、デスタの腕を掴んで叫んだ。
二人を無視して、呆然とした表情で何も言わないロイアン伯爵に声を掛ける。
「ロイアン伯爵」
「な、なんでしょうか」
デスタよりも背が高く、たくましい体型で目付きの鋭いロイアン伯爵は、動揺した様子を隠せないまま聞き返してきた。
「このお二人、とっても仲がよろしいの。ここ最近、デートやパーティーに出かけても、デスタ様は早くに戻ってくることが多かったのではありませんか?」
「そ、それは、セフィリア様の体調が良くないからだと……」
そこまで言って、ロイアン伯爵は目を見開く。
「まさか、お前たち! いつも一緒にいると思ったら!」
ロイアン伯爵は立ち上がって叫ぶ。
そして、デスタの襟首を掴むと、問答無用でデスタの頬を拳で殴った。
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