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16 許せない? どうして、結婚前に言ってくださらなかったんですか?
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「私を馬鹿にしないで! 後継者がなんだって言うの!?」
「あなたの家の爵位を継がせてあげられるなら、ミゲル様は結婚してくれると思うから言っただけなのですが…?」
「ミゲル様を馬鹿にしないでよ!」
「馬鹿にしてるつもりは…って、いうか、してるか…」
馬鹿にしていないと言ったら嘘になる。
だって、あんな手に引っかかるんだもの。
ところで、この令嬢は誰なんだろう?
「メアリー、この人知ってる?」
上半身で息をしながら、私を睨んでくる令嬢の名前がどうしても思い浮かばなくて、呆気にとられているメアリーに話しかけてみると、大きく首を縦に振って、私の耳に口を寄せて教えてくれる。
「オミナ・ビスカス伯爵令嬢です」
オミナ・ビスカス。
名前だけ聞けば、どんな人かはわかった。
今いる繁華街に隣接する領地を管理する伯爵の娘で、確か年齢は、20歳だっただろうか。
よくわからないけれど彼女はミゲルが好きらしい。
しかも、ファンクラブのナンバー3。
今、何番まで続いているのかもわからないけれど、1と2がいる事は確かだ。
もしかしたら、これから社交場で1と2に顔をあわすことがあるのかもしれない。
ミゲルのファンクラブというものを、面倒だけど帰ったら調べないといけない。
とにかく、今は、この令嬢にかまっている暇はないので、適当に相手をして、本来の目的に移ろう。
「ビスカス伯爵令嬢、ごきげんよう」
「何よ! 上品ぶろうとしたって、私はあなたの本性を知っているんだからね!」
「はあ…」
何を言っても、意味がなさそうなので、頷いた後に、困った表情を浮かべている店員に声を掛ける。
「あの、予約していたレイングですけど」
「お待ちしておりました! どうぞ、こちらへ」
店員はホッとした様な顔をして、私を奥へと案内しようとする。
「ちょっと待ちなさいよ! 逃げるの!?」
「どこへ逃げるというんですの? 私はドレスを仕立てに行くだけですの。そんなにお話がしたいのでしたら、数時間待っていて下さる?」
お嬢様言葉がこれであっているかはわからないけれど、店の中でキャンキャン喚き立ててくる相手に対し、同じレベルに立つ必要はないと考えた。
本来なら、もっと言いたい事を言いたい!
だけど、淑女は言っては駄目らしい!
「数時間もあなたの為に待っていられるわけないでしょう!」
「では、日にちを改めましょう。本日はお帰りあそばせ」
笑顔で言うと、ビスカス伯爵令嬢は唇をかんで、私を睨んできた。
店員は苦笑しながらも、私を奥へと案内してくれ、まずは、どんなドレスを希望しているかの確認が始まった。
今までに何度か利用していた店だけれど、私がルキアの中に入ってから、食生活が改善されたからか、少しずつだけれど、病気かと心配されるレベルの細さから、やせすぎ、くらいの体型になってきた。
なので、寸法を測り直したり、ドレスの希望を伝えていると、あっという間に時間が経ち、気が付いた時には3時間以上は経過していた。
さすがに、ビスカス伯爵令嬢も帰ったかなと思ったけれど、私達が店を出ると、向かいにあったカフェの窓際の席に座っているのが見えた。
向こうもこちらに気が付いて立ち上がったので、笑顔で会釈してから、迎えに来てくれた馬車にさっさと乗り込もうとした。
こっちは日にちを改めようと言ったし、彼女も何も言わなかったんだから、帰っても良いはずだ。
何より、早く帰らないと夕食の時間に間に合わない。
けれど、護衛が馬車の扉を開けてくれたところで、ビスカス伯爵令嬢が店から出てきて叫んだ。
「ちょっと待ちなさい! 言いたい事があるのよ!」
御者の所に行き、ビスカス伯爵令嬢は馬車が勝手に走り出さないように指示を出すと、私の所へやって来たけれど、護衛に止められる。
「何よ! 危ない人間ではないわ!」
「ありがとう、話を聞くわ」
護衛に告げると、彼は横に避けてくれた。
すると、ビスカス伯爵令嬢が聞いてくる。
「あなた、夜会には出席しないの?」
「…出席する予定はありますけど」
「いつなの?」
「防犯上の観点からお教えできませんわ」
「ぼ、防犯上の観点?」
こっちの世界ではあまり使われない言葉なのかな。
ビスカス伯爵令嬢は眉根を寄せて聞き返してきた。
まあ、今回の場合は、調べればわかる事だし、一々、教えてあげるのが嫌なだけだけど。
だって、その夜会にトップ3がやって来るかもしれなくなるから。
一番嫌なのは、あのミゲルが来る事だけれど。
こんな事を考えている間も、ビスカス伯爵令嬢の動きが止まっているので、意味がわからなかったのかなと思って聞いてみる。
「あの、意味、わかります?」
「わ、わかるけれど、そんな事、令嬢が言うものじゃないでしょう。その為に護衛がいるんじゃないの?」
「それはそうかもしれませんけど、少しでも安全な方がよろしいと思いません?」
「そんな事を私達が考える必要はないでしょう!?」
「わたくしは命が惜しいですし、護衛の命も大事ですわ。ですから、そう考えただけですわ。何もおかしくなんかございませんでしょう?」
「ミゲル様はかばっていたけれど、あなたは本当に嫌な性格ね!」
「…ミゲル様と最近、お話されたんですか?」
さっさと帰りたいけれど、少しだけ気になって聞いてみた。
すると、彼女は悲しげな表情を見せて答える。
「お可哀想なミゲル様。心無い噂に心を痛めておられたわ。ミゲル様はあなたのせいじゃないと言っていたけれど、絶対にあなたのせいよ! 何より、私達のミゲル様の愛を独り占めしようとするなんて許せない!」
「それ、どうして、結婚前に言ってくださらなかったんですか?」
「…え?」
「あなた達が全力で、ミゲル様と私の結婚を止めてくださっていれば、こんな事にはならなかったと思うのですが」
「責任転嫁するのは止めてちょうだい! ミゲル様というものがありながら、ザック様と浮気するだなんて!」
びしりと私を指差して叫ぶビスカス伯爵令嬢に、大きく息を吐いてから言う。
「わたくしの事を悪く言う事については勝手にすればよろしいですが、ザック様の事を悪く言う発言をしてよろしいんですの?」
「べ、べつに私はザック様の事を悪くだなんて」
「わたくしがザック様と浮気をしたというのであれば、ザック様もわたくしが既婚者だと知っていて、わたくしの浮気相手になってくれた事になりますが? ザック様はそんな不誠実な方でしょうか」
「えっと…、そ、それは…」
「この件に関しては、ザック様にご連絡して相談しておきます。わたくしとザック様が浮気したという嘘の話を流しているご令嬢がいる事を」
「ちょ、待ってよ」
ビスカス伯爵令嬢はまだ何か言いたそうだったけれど、私はもう用はないので、馬車に乗り込む。
メアリーも乗り込むと、御者の代わりに護衛が扉を閉めようとしてくれた。
なので、扉が閉まる前に、ビスカス伯爵令嬢に笑顔で手を振る。
「では、ごきげんよう」
彼女は焦った顔で何か言っていたけれど、護衛は扉を閉めてくれて、その後に、ビスカス伯爵令嬢を遠ざけてくれた為、無事に帰途につくことが出来た。
くだらない噂だけれど、迷惑をかけてはいけないし、ザック様に手紙を書く事にしよう。
馬車の窓の外の景色を眺めながら、ぼんやりと思った。
「あなたの家の爵位を継がせてあげられるなら、ミゲル様は結婚してくれると思うから言っただけなのですが…?」
「ミゲル様を馬鹿にしないでよ!」
「馬鹿にしてるつもりは…って、いうか、してるか…」
馬鹿にしていないと言ったら嘘になる。
だって、あんな手に引っかかるんだもの。
ところで、この令嬢は誰なんだろう?
「メアリー、この人知ってる?」
上半身で息をしながら、私を睨んでくる令嬢の名前がどうしても思い浮かばなくて、呆気にとられているメアリーに話しかけてみると、大きく首を縦に振って、私の耳に口を寄せて教えてくれる。
「オミナ・ビスカス伯爵令嬢です」
オミナ・ビスカス。
名前だけ聞けば、どんな人かはわかった。
今いる繁華街に隣接する領地を管理する伯爵の娘で、確か年齢は、20歳だっただろうか。
よくわからないけれど彼女はミゲルが好きらしい。
しかも、ファンクラブのナンバー3。
今、何番まで続いているのかもわからないけれど、1と2がいる事は確かだ。
もしかしたら、これから社交場で1と2に顔をあわすことがあるのかもしれない。
ミゲルのファンクラブというものを、面倒だけど帰ったら調べないといけない。
とにかく、今は、この令嬢にかまっている暇はないので、適当に相手をして、本来の目的に移ろう。
「ビスカス伯爵令嬢、ごきげんよう」
「何よ! 上品ぶろうとしたって、私はあなたの本性を知っているんだからね!」
「はあ…」
何を言っても、意味がなさそうなので、頷いた後に、困った表情を浮かべている店員に声を掛ける。
「あの、予約していたレイングですけど」
「お待ちしておりました! どうぞ、こちらへ」
店員はホッとした様な顔をして、私を奥へと案内しようとする。
「ちょっと待ちなさいよ! 逃げるの!?」
「どこへ逃げるというんですの? 私はドレスを仕立てに行くだけですの。そんなにお話がしたいのでしたら、数時間待っていて下さる?」
お嬢様言葉がこれであっているかはわからないけれど、店の中でキャンキャン喚き立ててくる相手に対し、同じレベルに立つ必要はないと考えた。
本来なら、もっと言いたい事を言いたい!
だけど、淑女は言っては駄目らしい!
「数時間もあなたの為に待っていられるわけないでしょう!」
「では、日にちを改めましょう。本日はお帰りあそばせ」
笑顔で言うと、ビスカス伯爵令嬢は唇をかんで、私を睨んできた。
店員は苦笑しながらも、私を奥へと案内してくれ、まずは、どんなドレスを希望しているかの確認が始まった。
今までに何度か利用していた店だけれど、私がルキアの中に入ってから、食生活が改善されたからか、少しずつだけれど、病気かと心配されるレベルの細さから、やせすぎ、くらいの体型になってきた。
なので、寸法を測り直したり、ドレスの希望を伝えていると、あっという間に時間が経ち、気が付いた時には3時間以上は経過していた。
さすがに、ビスカス伯爵令嬢も帰ったかなと思ったけれど、私達が店を出ると、向かいにあったカフェの窓際の席に座っているのが見えた。
向こうもこちらに気が付いて立ち上がったので、笑顔で会釈してから、迎えに来てくれた馬車にさっさと乗り込もうとした。
こっちは日にちを改めようと言ったし、彼女も何も言わなかったんだから、帰っても良いはずだ。
何より、早く帰らないと夕食の時間に間に合わない。
けれど、護衛が馬車の扉を開けてくれたところで、ビスカス伯爵令嬢が店から出てきて叫んだ。
「ちょっと待ちなさい! 言いたい事があるのよ!」
御者の所に行き、ビスカス伯爵令嬢は馬車が勝手に走り出さないように指示を出すと、私の所へやって来たけれど、護衛に止められる。
「何よ! 危ない人間ではないわ!」
「ありがとう、話を聞くわ」
護衛に告げると、彼は横に避けてくれた。
すると、ビスカス伯爵令嬢が聞いてくる。
「あなた、夜会には出席しないの?」
「…出席する予定はありますけど」
「いつなの?」
「防犯上の観点からお教えできませんわ」
「ぼ、防犯上の観点?」
こっちの世界ではあまり使われない言葉なのかな。
ビスカス伯爵令嬢は眉根を寄せて聞き返してきた。
まあ、今回の場合は、調べればわかる事だし、一々、教えてあげるのが嫌なだけだけど。
だって、その夜会にトップ3がやって来るかもしれなくなるから。
一番嫌なのは、あのミゲルが来る事だけれど。
こんな事を考えている間も、ビスカス伯爵令嬢の動きが止まっているので、意味がわからなかったのかなと思って聞いてみる。
「あの、意味、わかります?」
「わ、わかるけれど、そんな事、令嬢が言うものじゃないでしょう。その為に護衛がいるんじゃないの?」
「それはそうかもしれませんけど、少しでも安全な方がよろしいと思いません?」
「そんな事を私達が考える必要はないでしょう!?」
「わたくしは命が惜しいですし、護衛の命も大事ですわ。ですから、そう考えただけですわ。何もおかしくなんかございませんでしょう?」
「ミゲル様はかばっていたけれど、あなたは本当に嫌な性格ね!」
「…ミゲル様と最近、お話されたんですか?」
さっさと帰りたいけれど、少しだけ気になって聞いてみた。
すると、彼女は悲しげな表情を見せて答える。
「お可哀想なミゲル様。心無い噂に心を痛めておられたわ。ミゲル様はあなたのせいじゃないと言っていたけれど、絶対にあなたのせいよ! 何より、私達のミゲル様の愛を独り占めしようとするなんて許せない!」
「それ、どうして、結婚前に言ってくださらなかったんですか?」
「…え?」
「あなた達が全力で、ミゲル様と私の結婚を止めてくださっていれば、こんな事にはならなかったと思うのですが」
「責任転嫁するのは止めてちょうだい! ミゲル様というものがありながら、ザック様と浮気するだなんて!」
びしりと私を指差して叫ぶビスカス伯爵令嬢に、大きく息を吐いてから言う。
「わたくしの事を悪く言う事については勝手にすればよろしいですが、ザック様の事を悪く言う発言をしてよろしいんですの?」
「べ、べつに私はザック様の事を悪くだなんて」
「わたくしがザック様と浮気をしたというのであれば、ザック様もわたくしが既婚者だと知っていて、わたくしの浮気相手になってくれた事になりますが? ザック様はそんな不誠実な方でしょうか」
「えっと…、そ、それは…」
「この件に関しては、ザック様にご連絡して相談しておきます。わたくしとザック様が浮気したという嘘の話を流しているご令嬢がいる事を」
「ちょ、待ってよ」
ビスカス伯爵令嬢はまだ何か言いたそうだったけれど、私はもう用はないので、馬車に乗り込む。
メアリーも乗り込むと、御者の代わりに護衛が扉を閉めようとしてくれた。
なので、扉が閉まる前に、ビスカス伯爵令嬢に笑顔で手を振る。
「では、ごきげんよう」
彼女は焦った顔で何か言っていたけれど、護衛は扉を閉めてくれて、その後に、ビスカス伯爵令嬢を遠ざけてくれた為、無事に帰途につくことが出来た。
くだらない噂だけれど、迷惑をかけてはいけないし、ザック様に手紙を書く事にしよう。
馬車の窓の外の景色を眺めながら、ぼんやりと思った。
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