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17 よっぽどじゃないか? こんな夢ばかり見るんです!
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ザック様に一部で変な噂を流されているという話を手紙に書いたところ、すぐに返事が返ってきた。
返事には、その事についても話をしたいのと、ロゼッタ様が話し相手が欲しいというので、空いている日を教えてほしいと書かれていたので、返事を送ったら、私が指定した日に、公爵家の馬車を迎えに出してくれるという話になった。
トルマリア公爵家には息子しかいない。
ザック様のお兄様には婚約者はいるものの、まだご結婚されていないという事もあるのと、ルキアと同じ様に大人しい方らしく、お茶会など、人と話す事が苦手なタイプらしく、ロゼッタ様としては、お話相手になって欲しいものの、無理には誘えないという事で、私に白羽の矢が立ったみたいだった。
私は人の話を聞くのも好きだし、苦にならないので丁度良かった。
私は私で、公爵夫人と仲良くしておけば、メリットもあるし。
ただ、心配なのは、ザック様の評判だ。
話をして迷惑な顔をされたら嫌だな、と思っていたけれど、私は公爵家をなめていた。
それ以上の情報を、ザック様は知っていた。
「ああ、ミゲルのファンクラブなら知ってる。略して、ミゲファン、もしくはミゲクラ。ファンの名称はミゲラーだ」
ミゲラー…。
ミゲファンも、ミゲルのファンタジーみたいで嫌だな。
いや、人の好みに文句を言ってはいけない。
ロゼッタ様は後から来られるという事で、公爵家の応接間で、先にザック様と2人で話を始めたのだけど、ザック様は、ミゲルが流している噂の事も知っていた。
「ルキア嬢が僕と浮気していたという話だが、信じてるのはミゲラーくらいだ」
「ミゲラーって何人くらいいるんでしょうか…」
「たしか、会員ナンバー41で止まっていると思う」
「41人もいるんですか…」
「母と娘で入っている人もいるからな。その家の夫の方は何を言っても無駄だから、外ではそんな話をするなとだけ言って、後は放置している様だな」
なんか、アイドルとかのファンクラブみたいだな…。
まあ、アイドルのファンクラブなら隠す必要はないけど。
「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません」
「気にするな。ミゲラーはミゲルの事が好きなんだから、彼を信じるに決まっている。多くの人が真実を知っているんだから気にしていない。それに、誤解されて困る様な令嬢もいないし」
「私がザック様の虫よけになっているのならいいですけど」
「虫よけという言い方はどうかと思うが、悩まされる日はなくなって助かってるよ」
ザック様は見た目はちょっと怖めなのに、親しくなってみると、とても安心感がある。
だから、最近、寝不足なのもあるからか、目がとろんとしてしまった。
「大丈夫か?」
「申し訳ございません。ここ最近、眠りが浅くて」
「……どうかしたのか?」
ザック様が心配げに聞いてきたので答える。
「夢を見るんです」
「夢?」
「夢の中で、私はいつも自室にいるんですけど、頭上から声が聞こえるんです」
「何て言ってるんだ?」
「ミゲル~、モゲロ~、ハゲロ~」
真剣に言ってるのに、ザック様はふき出した。
「笑い事じゃないんですよ!」
「よっぽどじゃないか」
「知りませんよ! 私はミゲルの事をあまり思い出したくないんですけど、ここ最近、こんな夢ばかり見るんです!」
「もしかしたら、ミゲルも、その夢を見ているかもしれないな」
ザック様は笑いをこらえようとしているのか、私から顔を背ける。
「ミゲルも同じ夢を見てるんでしょうか。それはそれで嫌ですけど」
「君が見てる夢が僕が代わりに見れる様にお願いしてみる」
「誰にお願いするんですか!? …ザック様、面白がってますよね」
「そんな事はないよ。ただ、正直に言うと退屈はしてない」
ザック様は私にテーブルに置かれているお茶菓子をすすめてくれてから、言葉を続ける。
「悪かったよ。謝るから機嫌を直してくれ。あと、噂の件に関しては、君は気にしないでいてくれたらいい。僕の事は僕で何とか出来るから。君が浮気していたいという件についても処理しておく」
「処理する…?」
少し怖い想像をしてしまったので、真剣な表情で聞き返すと、ザック様が首を横に振って答えてくれる。
「物騒な事はしないつもりだよ。君がどうしてもというなら考えてもいいけど」
「大丈夫です。多少は自分の力で頑張らないと、女伯爵になんかなれませんから」
「たくましいのは良い事だ」
頷いてから、ザック様が聞いてくる。
「そういえば、君は夜会は出席するのか?」
「はい。近々、行われるナコッタ侯爵家の夜会に出席予定です」
「パートナーは?」
「お父様に行ってもらうつもりです」
答えると、ザック様は組んでいた足をほどき、私に言った。
「良かったら、僕がエスコートしても良いかな?」
「え!? ザック様がですか!?」
「嫌か?」
「全然、嫌じゃないです! ただ、ご迷惑じゃないかと!」
「迷惑じゃないって言っているだろう。何より、僕は君に夢中の設定なんだ。エスコートしていてもおかしくないだろ?」
「ミゲルが来るなら、その時に、ザック様の圧勝って言えますね」
「残念ながら、ミゲルは来ない。ミゲファンのメンバーは来るみたいだが」
ザック様はきっと、私が来るという事はミゲル絡みだろうと予測して、色々と調べてくださっていたみたいだ。
それと、この人。
絶対にミゲルを珍獣か何かだと思ってそう。
「彼がどう出てくるかはわからないけれど、君の所に、エスコートしたいという連絡は来てるのか?」
「毎日、手紙や花束は届いてますが、全て送り返してます」
「ミゲルのメンタルは本当に強いな」
苦笑した後、ザック様は私に尋ねてくる。
「ドレスの手配は?」
「終わってます」
「そうか。もうすぐだものな。もっと早くに誘えば良かった。ドレスは無理だから、何かアクセサリーを送るよ。君のドレスが何色かだけ教えてくれないか」
「い、いえ、大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ?」
この世界では男性が女性のパートナーにドレスやアクセサリーを送るのは普通の事みたいだけど、私はそんな免疫がない。
指輪は歴代彼氏にもらった事はあったけど、別れた後は処理に困った。
まあ、ザック様が指輪を送ってくるとは思えないけれど。
「とにかく、ドレスの色と種類だけ教えてくれないか」
ザック様がそこまで言った時だった。
乱暴なノックの音と同時に、扉が開き、怒り顔のロゼッタ様が中に入ってきた。
「母上、どうしたんです」
「ロゼッタ様、本日はお招きいただき、ありがとうございます」
慌てて立ち上がってカーテシーをすると、ロゼッタ様は私には笑顔を向けてくれたけれど、すぐに、ザック様の方に怒りの表情を向けた。
「ザック! ドーウッド卿が来ているわよ! もういいかげん、一発殴ってもいいかと思うの!」
「ドーウッド卿というと…」
「ミゲル様に決まっているでしょう! あなたと話がしたいそうよ!」
ロゼッタ様に詳しく話を聞くと、用事が終わって、応接室まで向かう途中で、エントランスホールを通ったらしい。
その時に、ミゲルがザック様に会いたいとお願いしているところを見たのだそうだ。
「わかりました。とにかく追い返してきます」
「いい!? 一発くらい殴ってくるのよ! 男の子なんだから、それくらいの腕白さがあってもいいと思うわ! あなたは、いつも飄々としてるんだから、ちょっとは感情を見せるという事をしなさい!」
「暴力をふるう事をすすめないで下さいよ。それに男の子という年でもありません」
ロゼッタ様に呆れた顔をしてザック様は言葉を返すと、立ち上がってから私に向かって言う。
「ルキア嬢。すまないが、失礼させてもらう。ここからは母上とバトンタッチするから、ゆっくりして行ってくれ。母上。あまりルキア嬢を困らせないようにして下さい。それから、パーティーのドレスに合いそうなアクセサリーをプレゼントしたいので、そちらの方のリサーチもお願いします」
「わかったわ! やっつけて来るのよ」
「程々にしておきます」
ザック様が出て行った後、ロゼッタ様は笑顔を私に向ける。
「じゃあ、ルキアさん。行きましょうか」
「え? はい? どこへでしょう?」
「もちろん、ザック達を見に行くのよ」
よっぽどミゲルに腹を立てているのかもしれないけれど、息子が暴力をふるうかどうか確認しに行く親もいるのかな。
いや、ここにいるな。
拒否権がないので、頷くと、ロゼッタ様は立ち上がる。
「ルキアさん、明日に用事がなければ、よろしかったら、今日は泊まっていってちょうだい。もちろんお家には私から連絡を入れるわ」
「…ありがとうございます」
この件に関しても、拒否権はなさそうだったので、素直に頷く事にした。
返事には、その事についても話をしたいのと、ロゼッタ様が話し相手が欲しいというので、空いている日を教えてほしいと書かれていたので、返事を送ったら、私が指定した日に、公爵家の馬車を迎えに出してくれるという話になった。
トルマリア公爵家には息子しかいない。
ザック様のお兄様には婚約者はいるものの、まだご結婚されていないという事もあるのと、ルキアと同じ様に大人しい方らしく、お茶会など、人と話す事が苦手なタイプらしく、ロゼッタ様としては、お話相手になって欲しいものの、無理には誘えないという事で、私に白羽の矢が立ったみたいだった。
私は人の話を聞くのも好きだし、苦にならないので丁度良かった。
私は私で、公爵夫人と仲良くしておけば、メリットもあるし。
ただ、心配なのは、ザック様の評判だ。
話をして迷惑な顔をされたら嫌だな、と思っていたけれど、私は公爵家をなめていた。
それ以上の情報を、ザック様は知っていた。
「ああ、ミゲルのファンクラブなら知ってる。略して、ミゲファン、もしくはミゲクラ。ファンの名称はミゲラーだ」
ミゲラー…。
ミゲファンも、ミゲルのファンタジーみたいで嫌だな。
いや、人の好みに文句を言ってはいけない。
ロゼッタ様は後から来られるという事で、公爵家の応接間で、先にザック様と2人で話を始めたのだけど、ザック様は、ミゲルが流している噂の事も知っていた。
「ルキア嬢が僕と浮気していたという話だが、信じてるのはミゲラーくらいだ」
「ミゲラーって何人くらいいるんでしょうか…」
「たしか、会員ナンバー41で止まっていると思う」
「41人もいるんですか…」
「母と娘で入っている人もいるからな。その家の夫の方は何を言っても無駄だから、外ではそんな話をするなとだけ言って、後は放置している様だな」
なんか、アイドルとかのファンクラブみたいだな…。
まあ、アイドルのファンクラブなら隠す必要はないけど。
「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございません」
「気にするな。ミゲラーはミゲルの事が好きなんだから、彼を信じるに決まっている。多くの人が真実を知っているんだから気にしていない。それに、誤解されて困る様な令嬢もいないし」
「私がザック様の虫よけになっているのならいいですけど」
「虫よけという言い方はどうかと思うが、悩まされる日はなくなって助かってるよ」
ザック様は見た目はちょっと怖めなのに、親しくなってみると、とても安心感がある。
だから、最近、寝不足なのもあるからか、目がとろんとしてしまった。
「大丈夫か?」
「申し訳ございません。ここ最近、眠りが浅くて」
「……どうかしたのか?」
ザック様が心配げに聞いてきたので答える。
「夢を見るんです」
「夢?」
「夢の中で、私はいつも自室にいるんですけど、頭上から声が聞こえるんです」
「何て言ってるんだ?」
「ミゲル~、モゲロ~、ハゲロ~」
真剣に言ってるのに、ザック様はふき出した。
「笑い事じゃないんですよ!」
「よっぽどじゃないか」
「知りませんよ! 私はミゲルの事をあまり思い出したくないんですけど、ここ最近、こんな夢ばかり見るんです!」
「もしかしたら、ミゲルも、その夢を見ているかもしれないな」
ザック様は笑いをこらえようとしているのか、私から顔を背ける。
「ミゲルも同じ夢を見てるんでしょうか。それはそれで嫌ですけど」
「君が見てる夢が僕が代わりに見れる様にお願いしてみる」
「誰にお願いするんですか!? …ザック様、面白がってますよね」
「そんな事はないよ。ただ、正直に言うと退屈はしてない」
ザック様は私にテーブルに置かれているお茶菓子をすすめてくれてから、言葉を続ける。
「悪かったよ。謝るから機嫌を直してくれ。あと、噂の件に関しては、君は気にしないでいてくれたらいい。僕の事は僕で何とか出来るから。君が浮気していたいという件についても処理しておく」
「処理する…?」
少し怖い想像をしてしまったので、真剣な表情で聞き返すと、ザック様が首を横に振って答えてくれる。
「物騒な事はしないつもりだよ。君がどうしてもというなら考えてもいいけど」
「大丈夫です。多少は自分の力で頑張らないと、女伯爵になんかなれませんから」
「たくましいのは良い事だ」
頷いてから、ザック様が聞いてくる。
「そういえば、君は夜会は出席するのか?」
「はい。近々、行われるナコッタ侯爵家の夜会に出席予定です」
「パートナーは?」
「お父様に行ってもらうつもりです」
答えると、ザック様は組んでいた足をほどき、私に言った。
「良かったら、僕がエスコートしても良いかな?」
「え!? ザック様がですか!?」
「嫌か?」
「全然、嫌じゃないです! ただ、ご迷惑じゃないかと!」
「迷惑じゃないって言っているだろう。何より、僕は君に夢中の設定なんだ。エスコートしていてもおかしくないだろ?」
「ミゲルが来るなら、その時に、ザック様の圧勝って言えますね」
「残念ながら、ミゲルは来ない。ミゲファンのメンバーは来るみたいだが」
ザック様はきっと、私が来るという事はミゲル絡みだろうと予測して、色々と調べてくださっていたみたいだ。
それと、この人。
絶対にミゲルを珍獣か何かだと思ってそう。
「彼がどう出てくるかはわからないけれど、君の所に、エスコートしたいという連絡は来てるのか?」
「毎日、手紙や花束は届いてますが、全て送り返してます」
「ミゲルのメンタルは本当に強いな」
苦笑した後、ザック様は私に尋ねてくる。
「ドレスの手配は?」
「終わってます」
「そうか。もうすぐだものな。もっと早くに誘えば良かった。ドレスは無理だから、何かアクセサリーを送るよ。君のドレスが何色かだけ教えてくれないか」
「い、いえ、大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ?」
この世界では男性が女性のパートナーにドレスやアクセサリーを送るのは普通の事みたいだけど、私はそんな免疫がない。
指輪は歴代彼氏にもらった事はあったけど、別れた後は処理に困った。
まあ、ザック様が指輪を送ってくるとは思えないけれど。
「とにかく、ドレスの色と種類だけ教えてくれないか」
ザック様がそこまで言った時だった。
乱暴なノックの音と同時に、扉が開き、怒り顔のロゼッタ様が中に入ってきた。
「母上、どうしたんです」
「ロゼッタ様、本日はお招きいただき、ありがとうございます」
慌てて立ち上がってカーテシーをすると、ロゼッタ様は私には笑顔を向けてくれたけれど、すぐに、ザック様の方に怒りの表情を向けた。
「ザック! ドーウッド卿が来ているわよ! もういいかげん、一発殴ってもいいかと思うの!」
「ドーウッド卿というと…」
「ミゲル様に決まっているでしょう! あなたと話がしたいそうよ!」
ロゼッタ様に詳しく話を聞くと、用事が終わって、応接室まで向かう途中で、エントランスホールを通ったらしい。
その時に、ミゲルがザック様に会いたいとお願いしているところを見たのだそうだ。
「わかりました。とにかく追い返してきます」
「いい!? 一発くらい殴ってくるのよ! 男の子なんだから、それくらいの腕白さがあってもいいと思うわ! あなたは、いつも飄々としてるんだから、ちょっとは感情を見せるという事をしなさい!」
「暴力をふるう事をすすめないで下さいよ。それに男の子という年でもありません」
ロゼッタ様に呆れた顔をしてザック様は言葉を返すと、立ち上がってから私に向かって言う。
「ルキア嬢。すまないが、失礼させてもらう。ここからは母上とバトンタッチするから、ゆっくりして行ってくれ。母上。あまりルキア嬢を困らせないようにして下さい。それから、パーティーのドレスに合いそうなアクセサリーをプレゼントしたいので、そちらの方のリサーチもお願いします」
「わかったわ! やっつけて来るのよ」
「程々にしておきます」
ザック様が出て行った後、ロゼッタ様は笑顔を私に向ける。
「じゃあ、ルキアさん。行きましょうか」
「え? はい? どこへでしょう?」
「もちろん、ザック達を見に行くのよ」
よっぽどミゲルに腹を立てているのかもしれないけれど、息子が暴力をふるうかどうか確認しに行く親もいるのかな。
いや、ここにいるな。
拒否権がないので、頷くと、ロゼッタ様は立ち上がる。
「ルキアさん、明日に用事がなければ、よろしかったら、今日は泊まっていってちょうだい。もちろんお家には私から連絡を入れるわ」
「…ありがとうございます」
この件に関しても、拒否権はなさそうだったので、素直に頷く事にした。
応援ありがとうございます!
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