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そのろく
そのろく-6
しおりを挟む河べりの土手、二人でしゃべりながら。
「なに、二宮?」
気付くと原田くんの唇凝視してるあたし。
涼香達がキスとか言うから意識してしまう。
「いや、なんもない…」
原田くんの唇とあたしの唇が。
想像出来ん。
「まあ、座れや」
土手にカバン放り出す原田くん。
なんとなく距離置いて座るあたし。
「にの…」
原田くんの手が伸びた瞬間、後ろ翔びすさる。
腰上げた原田くんと間合い取る。
じりっ、と詰まる間合い。
じりっ、と後退する。
原田くんが左に一歩。右に一歩ずれて間合い図る。
互いに無言のまま高まる緊張感。
「…って、お前なにがしたいんや!?」
呆れる原田くん。
確かに、なにがしたいんやろ。
「こっち来いや、もう」
原田くんが笑うんで、隣に座った。
「お前、ホント時々不気味」
「照れるなあ」
「褒めてねえし!もー、なんでこんなワケわからんの、好きなんかなあ」
面と向かって。好きと言われたのは初めてやった。
言葉の意味考えて赤くなるあたしに。
原田くんの顔が近付いて。
人生で初めて。
キスってもんをした。
まあ、その後もそれ以上は無く。
手繋いで時々キスして。
原田くんが違う女の子好きになって、終わった。
そんだけの可愛いお付き合いですよ。
まさかね。
再会するとはな。しかも。
家の玄関でな。
「…それじゃあ私はこれで…おほほほほ」
ドア越しに対峙するあたし達の隙間から。
なんとかさんが出て行った。
「…久しぶり…びっくりした」
スーツ姿の原田くんが言った。
「いや…びっくりしたよ。久しぶりだね」
しばし、感慨にふける二人。
「ここ、二宮ん家やったんや」
「あ。今は水原やけどね」
お前でも結婚出来たか。
原田くんが失礼な事言った。
しかし、住宅の営業とは大変だな。
そんなお仕事してるとは。
「あ、違う。ホントは設計なんやけどな。たまに研修で営業やらされるんだ」
なるほど。
「まあ、ここん家は新しいのはわかってたけど」
「建てたばっかやし」
笑いながら。
「今困ってんの、襖が穴空いてるくらいだよ」
何気に言ったら。
「ふうん。建具なら安く卸せるよ。ちょっと見せて」
原田くんが言うから客間のぼろぼろなった襖、見てもらった。
「あー、ひどいな。なに、お前がやったんか?」
んな事あるかっ。
「ちょっと測らせてな」
メジャー出してあちこち計測する原田くん。
「ウチとこの業者で安く出来るけど、一応見積り出しとく?」
そうやな。
どこからか知らんが修理代もらったけど。
金額見て尊に相談するか。
「じゃあ、明日見積り持ってくる」
玄関で靴履きながら原田くんがくすっと笑った。
「なによ」
「いやあ?久しぶりに会ったのに。お茶も出してもらえんて、なんか二宮らしいわ」
「…失礼」
まったく気がききませんで。
「じゃあな」
原田くんが帰って。ぼろぼろの襖見ながら。
安くしてくれるんならいいか。
呑気に考えた。
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