31 / 38
公爵騎士の独り言5
しおりを挟む
「スヴァンテ様。よければ、お付き合いからはじめませんか?」
「……お付き合い?」
「はい。お付き合いをする中で、互いにいい落としどころを見つけていけばいいと思うんです。私ちょっとだけ、恋人同士というものにも憧れておりましたし! せっかくなので、スヴァンテ様とデートとかしてみたいです!」
ニカナは少し早口で言ってから、にこりと愛らしい笑みを浮かべる。そんなニカナが愛おしすぎて……私は衝動的に華奢な体を強く抱きしめていた。
「ど、どうしたんですか?」
「君が……愛おしくて」
「スヴァンテ様って、こんなでしたっけ? そういう甘い言葉、言いそうにない方だとばかり」
「……自分でも、驚いている」
こんなにも人を好きになることがあるなんて、想像もしていなかった。どうすれば、ニカナに憂いなくこの手を取ってもらえるのだろう。どうすれば……一緒に人生を歩んでもらえる?
「デートとやらは、どこに行きたい?」
「畑に撒く、肥料を買いに行きたいです!」
問いかければニカナは瞳を輝かせながら言う。世間知らずの上に、少々変わった娘だ。珍妙な場所に行きたいと言う可能性は考慮していたが。まさか肥料を買いに行きたいと言い出すとは。
「……そうか」
「それと、農具も見たいです!」
呆然とつぶやく私に気づかず、ニカナはきらきらとした表情で言葉を続ける。
「ほかには?」
「えっと、靴がほしくて。今の靴、そろそろ底が抜けちゃいそうなんですよね」
ニカナはそう言うと、恥ずかしそうに笑う。
「……靴か」
過去にさほど親しくもない令嬢に靴をねだられたことが何度かあった。この国では、男性が女性に靴を贈ることは求婚と同義である。図々しい輩たちめと、すべて邪険にしていたが。その中には今教会で持ち上げられている聖女アングスティアもいたなと、ふと思い出した。
あまり性根のよい女性には思えない、あれが大神様に選ばれたのか?
まぁ、今はそんなことはどうでもいい。
ニカナは恐らく、男が女に靴を贈る意味を理解していないのだろう。
たくさんの靴を贈ったあとに、その意味を教えて驚く顔を見るのも楽しそうだな。
「君の愛らしい足を彩る靴を、何足か買おう」
そう言いながら、そっと彼女の太ももを撫でる。するとニカナの頬が赤くなり、青の目がうろうろと泳ぎ出した。
「いえ、その。く、く、靴くらい自分で買いますよ?」
「遠慮しなくていい。いくらでも買ってやる。懐事情が暖かいわけではないんだろう?」
「うう……それはそうなんですけど。申し訳なくて」
ニカナは慎み深いな。靴など何千足買っても、私の身代は揺るぎはしないのに。
「私が、君に買いたいんだ」
「うう。スヴァンテ様の態度が甘い」
ニカナはそう言うと、真っ赤になった顔を両手で覆ってしまった。
「恋人だからな」
「ひぇ」
耳元で囁けば、蚊の鳴くような声が零れる。ニカナは指の間から、そろりとこちらに視線をやった。
「スヴァンテ様の行きたいところも、考えておいてくださいね?」
そうしながら、なんとも可愛らしいことを言う。
「……私の行きたいところ」
行きたいところ……か。しばらく考えてはみたが、まったく思いつかない。
「……思いつかないな」
「そうなのですか?」
「ああ。趣味というのが、あまりなくてな」
幼い頃から剣術に勉学にと明け暮れ、遊ぶことを覚えないまま大人になってしまった。
そんな私なので、趣味というものがないに等しい。強いて言えば、職務が趣味になるのだろうか。
我ながら、つまらない男だな。ニカナに幻滅されないように、趣味のひとつでも見つけるべきか……。
「では、一緒に楽しめる趣味を見つけましょう! それがいいです!」
ニカナは顔を覆っていた手を取り去ると、弾けるように笑う。その笑顔に私は、見惚れてしまった。
「……好きだ」
唇から、自然に好意が零れてしまう。ニカナはそれを聞いて目を丸くすると、頬を赤くしながら「私もですよ」と恥ずかしそうに言ってくれた。
「……お付き合い?」
「はい。お付き合いをする中で、互いにいい落としどころを見つけていけばいいと思うんです。私ちょっとだけ、恋人同士というものにも憧れておりましたし! せっかくなので、スヴァンテ様とデートとかしてみたいです!」
ニカナは少し早口で言ってから、にこりと愛らしい笑みを浮かべる。そんなニカナが愛おしすぎて……私は衝動的に華奢な体を強く抱きしめていた。
「ど、どうしたんですか?」
「君が……愛おしくて」
「スヴァンテ様って、こんなでしたっけ? そういう甘い言葉、言いそうにない方だとばかり」
「……自分でも、驚いている」
こんなにも人を好きになることがあるなんて、想像もしていなかった。どうすれば、ニカナに憂いなくこの手を取ってもらえるのだろう。どうすれば……一緒に人生を歩んでもらえる?
「デートとやらは、どこに行きたい?」
「畑に撒く、肥料を買いに行きたいです!」
問いかければニカナは瞳を輝かせながら言う。世間知らずの上に、少々変わった娘だ。珍妙な場所に行きたいと言う可能性は考慮していたが。まさか肥料を買いに行きたいと言い出すとは。
「……そうか」
「それと、農具も見たいです!」
呆然とつぶやく私に気づかず、ニカナはきらきらとした表情で言葉を続ける。
「ほかには?」
「えっと、靴がほしくて。今の靴、そろそろ底が抜けちゃいそうなんですよね」
ニカナはそう言うと、恥ずかしそうに笑う。
「……靴か」
過去にさほど親しくもない令嬢に靴をねだられたことが何度かあった。この国では、男性が女性に靴を贈ることは求婚と同義である。図々しい輩たちめと、すべて邪険にしていたが。その中には今教会で持ち上げられている聖女アングスティアもいたなと、ふと思い出した。
あまり性根のよい女性には思えない、あれが大神様に選ばれたのか?
まぁ、今はそんなことはどうでもいい。
ニカナは恐らく、男が女に靴を贈る意味を理解していないのだろう。
たくさんの靴を贈ったあとに、その意味を教えて驚く顔を見るのも楽しそうだな。
「君の愛らしい足を彩る靴を、何足か買おう」
そう言いながら、そっと彼女の太ももを撫でる。するとニカナの頬が赤くなり、青の目がうろうろと泳ぎ出した。
「いえ、その。く、く、靴くらい自分で買いますよ?」
「遠慮しなくていい。いくらでも買ってやる。懐事情が暖かいわけではないんだろう?」
「うう……それはそうなんですけど。申し訳なくて」
ニカナは慎み深いな。靴など何千足買っても、私の身代は揺るぎはしないのに。
「私が、君に買いたいんだ」
「うう。スヴァンテ様の態度が甘い」
ニカナはそう言うと、真っ赤になった顔を両手で覆ってしまった。
「恋人だからな」
「ひぇ」
耳元で囁けば、蚊の鳴くような声が零れる。ニカナは指の間から、そろりとこちらに視線をやった。
「スヴァンテ様の行きたいところも、考えておいてくださいね?」
そうしながら、なんとも可愛らしいことを言う。
「……私の行きたいところ」
行きたいところ……か。しばらく考えてはみたが、まったく思いつかない。
「……思いつかないな」
「そうなのですか?」
「ああ。趣味というのが、あまりなくてな」
幼い頃から剣術に勉学にと明け暮れ、遊ぶことを覚えないまま大人になってしまった。
そんな私なので、趣味というものがないに等しい。強いて言えば、職務が趣味になるのだろうか。
我ながら、つまらない男だな。ニカナに幻滅されないように、趣味のひとつでも見つけるべきか……。
「では、一緒に楽しめる趣味を見つけましょう! それがいいです!」
ニカナは顔を覆っていた手を取り去ると、弾けるように笑う。その笑顔に私は、見惚れてしまった。
「……好きだ」
唇から、自然に好意が零れてしまう。ニカナはそれを聞いて目を丸くすると、頬を赤くしながら「私もですよ」と恥ずかしそうに言ってくれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
171
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる