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公爵騎士様とのちょっぴり最悪な邂逅2
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「今の雷は一体……」
グラッツェル公爵閣下が呆然としながらつぶやく。私は大神様との会話を切り上げて、グラッツェル公爵閣下に向き直った。
「し、自然現象でしょう。晴天でも雷が落ちることがたまにあるそうですよ」
私がそう言うとグラッツェル公爵閣下は納得できないという顔をしながら立ち上がり、トラウザーズについた泥を手で払う。
「あの、グラッツェル公爵閣下は……。なにをしにここへ?」
恐る恐る私が訊ねると、グラッツェル公爵閣下は苦い顔をしながら私を見つめた。
「さまざまな貴族の令息を惑わせて教会の信用を失墜させた淫婦が、一人で放逐されたと耳にしてな。よからぬことでも企んでいないかと、監視にきたのだ」
『淫婦』とグラッツェル公爵閣下が口にした瞬間。空がチカリと光ろうとしたので、私は心の中で『ダメです!』と声を上げる。大神様は私の意図を汲み取ってくれたようで、今度は雷は落ちなかった。
「公爵家のご当主様がわざわざそんなことを……?」
「悪事の芽がここにあるのなら、芽吹く前に摘まねばならないだろう。教会に進言もしたのだが、なぜか及び腰でな」
そりゃあなぁ。教会は及び腰に決まっている。私が本物だと知っていて、難癖をつけて追い出した張本人なのだし。
……それを知らないこの人は、教会派貴族ではないんだろうな。
教会と癒着している教会派貴族たちは、聖女が裏金で入った偽物だらけだという秘匿事項を当然のことながら知っている。だから私の追放劇の実情も、ある程度想像がつくはずだ。
この人は……。表向きの噂を信じて私を『監視』にここに来てしまうくらいの、ただの根っから真面目な人なんだろうな。
「……大神様。この人、めちゃくちゃ真面目なだけの人みたいです」
『……そのようだな』
小声で言うと、大神様の声が返ってくる。その声には、なんともいえない複雑な感情が滲んでいるように思えた。
それはそうだよなぁ。信心深くあるべきの教会には偽物がはびこり、その偽物たちの行動がこうして真面目な人物を妙な義憤に駆らせてしまうのだから。
なんだかやりきれない気持ちになって大きな溜息をつくと、ずっと入ったままのグラッツェル公爵閣下の眉間の皺がさらに深くなった。
「ひとまず、お茶でもしませんか? 私、お腹空いたので」
「……は?」
私の言葉に、グラッツェル公爵閣下の目が瞠られる。そんな閣下の様子にかまわず、私は山小屋へと向かう。すると警戒心露わなグラッツェル公爵閣下が、しぶしぶという様子であとからついてきた。
「茶になにかを混ぜても無駄だからな。私には毒に対する耐性がある」
「……混ぜませんよ」
毒に対する耐性があるということは、その危険に備えて毎日少量の毒を服毒するなどの訓練を積んでいたということだろう。公爵閣下の毎日には、きっと危険がつきものなのに違いない。
こちらにシャーシャー言っている猫を招き入れたような気持ちになり、少しばかり辟易とした気持ちになる。いや、猫なら可愛いなぁで済むのだけど。
「ここに、座っていてください」
私がぼろぼろのダイニングテーブルを指し示すと、グラッツェル公爵閣下は微妙なお顔になる。
「……君の得意先は、家具も買ってくれないのか?」
「そんなもの、いませんって」
そう言いながら、私は麦わら帽子を脱いで薪を抱えた。そしてため息をつきながら、薪を燃やしてクッキングストーブでお湯を沸かす。ちなみにお水は、奇跡で手から出した。
畑で育てたハーブティーを淹れる私の手つきを、グラッツェル公爵閣下はじっと見つめる。毒や媚薬を入れられないか、警戒してるんだろうな。
「お茶菓子はアマイモのパイでいいですか?」
「いや、私は結構だ」
「なにも入ってませんよ」
「それは、わからない」
険悪な空気が漂う会話をしながら、私はお茶と茶菓子の準備を終わらせる。そして、グラッツェル公爵閣下と同じテーブルについた。
グラッツェル公爵閣下が呆然としながらつぶやく。私は大神様との会話を切り上げて、グラッツェル公爵閣下に向き直った。
「し、自然現象でしょう。晴天でも雷が落ちることがたまにあるそうですよ」
私がそう言うとグラッツェル公爵閣下は納得できないという顔をしながら立ち上がり、トラウザーズについた泥を手で払う。
「あの、グラッツェル公爵閣下は……。なにをしにここへ?」
恐る恐る私が訊ねると、グラッツェル公爵閣下は苦い顔をしながら私を見つめた。
「さまざまな貴族の令息を惑わせて教会の信用を失墜させた淫婦が、一人で放逐されたと耳にしてな。よからぬことでも企んでいないかと、監視にきたのだ」
『淫婦』とグラッツェル公爵閣下が口にした瞬間。空がチカリと光ろうとしたので、私は心の中で『ダメです!』と声を上げる。大神様は私の意図を汲み取ってくれたようで、今度は雷は落ちなかった。
「公爵家のご当主様がわざわざそんなことを……?」
「悪事の芽がここにあるのなら、芽吹く前に摘まねばならないだろう。教会に進言もしたのだが、なぜか及び腰でな」
そりゃあなぁ。教会は及び腰に決まっている。私が本物だと知っていて、難癖をつけて追い出した張本人なのだし。
……それを知らないこの人は、教会派貴族ではないんだろうな。
教会と癒着している教会派貴族たちは、聖女が裏金で入った偽物だらけだという秘匿事項を当然のことながら知っている。だから私の追放劇の実情も、ある程度想像がつくはずだ。
この人は……。表向きの噂を信じて私を『監視』にここに来てしまうくらいの、ただの根っから真面目な人なんだろうな。
「……大神様。この人、めちゃくちゃ真面目なだけの人みたいです」
『……そのようだな』
小声で言うと、大神様の声が返ってくる。その声には、なんともいえない複雑な感情が滲んでいるように思えた。
それはそうだよなぁ。信心深くあるべきの教会には偽物がはびこり、その偽物たちの行動がこうして真面目な人物を妙な義憤に駆らせてしまうのだから。
なんだかやりきれない気持ちになって大きな溜息をつくと、ずっと入ったままのグラッツェル公爵閣下の眉間の皺がさらに深くなった。
「ひとまず、お茶でもしませんか? 私、お腹空いたので」
「……は?」
私の言葉に、グラッツェル公爵閣下の目が瞠られる。そんな閣下の様子にかまわず、私は山小屋へと向かう。すると警戒心露わなグラッツェル公爵閣下が、しぶしぶという様子であとからついてきた。
「茶になにかを混ぜても無駄だからな。私には毒に対する耐性がある」
「……混ぜませんよ」
毒に対する耐性があるということは、その危険に備えて毎日少量の毒を服毒するなどの訓練を積んでいたということだろう。公爵閣下の毎日には、きっと危険がつきものなのに違いない。
こちらにシャーシャー言っている猫を招き入れたような気持ちになり、少しばかり辟易とした気持ちになる。いや、猫なら可愛いなぁで済むのだけど。
「ここに、座っていてください」
私がぼろぼろのダイニングテーブルを指し示すと、グラッツェル公爵閣下は微妙なお顔になる。
「……君の得意先は、家具も買ってくれないのか?」
「そんなもの、いませんって」
そう言いながら、私は麦わら帽子を脱いで薪を抱えた。そしてため息をつきながら、薪を燃やしてクッキングストーブでお湯を沸かす。ちなみにお水は、奇跡で手から出した。
畑で育てたハーブティーを淹れる私の手つきを、グラッツェル公爵閣下はじっと見つめる。毒や媚薬を入れられないか、警戒してるんだろうな。
「お茶菓子はアマイモのパイでいいですか?」
「いや、私は結構だ」
「なにも入ってませんよ」
「それは、わからない」
険悪な空気が漂う会話をしながら、私はお茶と茶菓子の準備を終わらせる。そして、グラッツェル公爵閣下と同じテーブルについた。
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