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:第4章 「危険なシゴト」
・4-5 第119話 「断れない仕事:1」
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・4-5 第119話 「断れない仕事:1」
「お、おい。ちょっと、待ってくれよ!? 」
オトシマエをつけてもらわないといけない。
そのトパスの声に顔をあげた源九郎は、困惑した口調で言う。
「た、確かにマオさんの持ち込んだプリーム金貨は、贋金だったんだろうけどよ……。だけど、俺たちは別に、アンタらを騙そうとしたわけじゃねぇんだ! コイツが贋金だって、知らなかったんだよ。しかも、普通の検査では見抜けないような、魔法で細工をしてある金貨なんだろ? 俺たちも騙された側、被害者なんじゃねぇか? 」
「ま、おめぇさんの言いたいことは、もっともなこった」
禿頭で白髭のドワーフは深々とうなずいたが、こちらへ向けて来る眼光は鋭いものだった。
「けどな、形としては、贋金を持ち込んでワシらから不当に金を巻き上げようとしたってのは変わらねぇし、最初からおめぇさんらが贋金だってことを知っていて、こっちを騙そうとしたっていうこともあり得るからな。……特に、そこの猫人(ナオナー)。金貨を買って、ここに持ち込んだのはそいつだ。……おめぇさん、自分たちがその猫人(ナオナー)にはめられたとは、考えないのか? 」
「そ、そんなわけないっぺ! 」
責任は免れ得ないし、自分たちは贋金であることを知らなかったという主張を信じることもない。
特に、金貨を持ち込んだマオは、怪しい。
そんな容赦のない言葉に、今まで黙っていたフィーナが思わず声をあげた。
「親分さん、見てくんろ! この、マオさんの落ち込みようを! まるでこの世の終わりみたいな顔をしてるべさ! 最初っから贋金だって知ってたわけないべよ! 」
「さて、どうだかな? 贋金がバレたってことで落ち込んでるだけかもしんねぇぞ? 」
真っ青な顔色でうつむき、へたり込んだまま両目を見開き、口を半開きにして絶望しているマオのことを元村娘はかばったが、トパスはまったく取り合わなかった。
「ワシらもな、この贋金が出回るようになったおかげで、難儀しとるんだ。カラクリが分かって対策ができるまでは、ワシら両替商でさえコイツに騙されて、大損を食らっちまっていたのさ。だからいい加減、なんとかしてやろうってなっていてな」
禿頭のドワーフは肩をすくめてみせると、声のトーンを一段下げて、凄む。
「おめぇさんらは、いわば糸口なのさ。贋金をばらまいていやがる奴らを見つけて、オトシマエをつけさせるための、な。だから、ワシらに協力してもらわなきゃなんねぇ」
「協力って……、なにをさせるつもりなんだ? 」
源九郎が緊張からゴクリ、と唾を飲み込んでからたずねると、トパスは即答せず、ずっと扉を守ったまま我関せずと無言でいた犬頭の獣人、ラウルへと視線を向けた。
「おい、ラウル。……こいつらは、どの程度[使える]? 」
「そこの小娘と、猫人(ナオナー)は論外でしょう。ですが、そこの大男……、タチバナ、とかいう人間は、まぁ、[凄腕]ですよ」
ラウルはちらりと視線をサムライに向けると、言葉少なに、率直にそう言った。
どうやらこちらの実力は相応に認めているらしい。
「ほうほう、そいつは、そいつはなんとも素晴らしい」
するとトパスは両手を広げ、愉快そうに大げさな仕草で笑ってみせる。
そして彼はあらためて一行を見つめると、有無を言わせぬ声で命じた。
「あんたたちには、この贋金の出所を探る仕事を引き受けてもらいてぇな。そんで、うまく突き留めてくれりゃぁ、ワシらんところに贋金を持ち込んでコケにしてくれたこと、チャラにしてやらぁ。なんなら、必要経費と、いくらかの報酬も出してやる」
その言葉は、主に源九郎へと向けられているようだった。
そのことを感じ取ったフィーナは、不安そうな顔をこちらへと向けて来る。
彼女の横では、相変わらず絶望した表情のマオが呆然としていた。どうやらなにが話し合われているのかさえ、もう聞こえていない様子だ。
「できれば、断りたい話だな。……アンタたち、危なそうな臭いがプンプンするぜ。厄介ごとに関わるのはゴメンだ」
少し考えた後、サムライはまず、正直な気持ちを答えてみる。
こちらも贋金の被害者であるし、怪しげな雰囲気をさせているトパスたちにこれ以上関わりたくはない。
「フン、断れるとでも思ってんのか? 」
するとトパスは嘲笑するように口元を歪め、それから、こちらを値踏みするような視線を向けながら言う。
「おめぇらはこっから逃げられねぇし、逃がしはしねぇ。それにそこのしょげてる猫人(ナオナー)、贋金を作ってる奴らと会ったことがあるんだろう? だとすりゃ、ワシらの中じゃ一番、元凶に近いってことにもなる。ぜひとも協力してもらうぜ」
「俺たちにはアンタたちの都合なんて関係ないんじゃないか? そもそもこっちも騙された側だ。これ以上巻き込まれたくないもんだ」
「おいおい、忘れてもらっちゃ困る。うちの店をぐちゃぐちゃにしてくれたのは、そこの猫人(ナオナー)、おめぇさんの仲間じゃねぇか。おかげでうちは今日、[表]の商売あがったりで大損だ。最低でもその分の責任はもってもらいてぇな。……取らねぇっていうなら、今、取り立てられる分をいただくしかねぇなぁ」
トパスが獰猛な笑みを浮かべて凄むと、壁際で大人しく成り行きを見守っていた三人組が懐からナイフを取り出したり、腕をならしたりして脅迫してくる。
どうやら彼らはどうしても源九郎たちを逃がさないつもりであるらしい。
これはなんとか頑張ってみても断れない性質の仕事だと理解したサムライは、小さく嘆息してその事実を受け入れざるを得なかった。
━━━だが、黙ったまま言いなりになるつもりもない。
「わかった。なにができるかはわからんが、ひとまずはアンタたちに協力させてもらう。……それで? 贋金の出所を突き留めたら、アンタたちはどうするんだ? せめて、狙いを教えちゃもらえねぇか? 」
すると禿頭のドワーフは、ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。
「もちろん、贋金づくりのノウハウをそっくり、いただいちまうのよ」
「お、おい。ちょっと、待ってくれよ!? 」
オトシマエをつけてもらわないといけない。
そのトパスの声に顔をあげた源九郎は、困惑した口調で言う。
「た、確かにマオさんの持ち込んだプリーム金貨は、贋金だったんだろうけどよ……。だけど、俺たちは別に、アンタらを騙そうとしたわけじゃねぇんだ! コイツが贋金だって、知らなかったんだよ。しかも、普通の検査では見抜けないような、魔法で細工をしてある金貨なんだろ? 俺たちも騙された側、被害者なんじゃねぇか? 」
「ま、おめぇさんの言いたいことは、もっともなこった」
禿頭で白髭のドワーフは深々とうなずいたが、こちらへ向けて来る眼光は鋭いものだった。
「けどな、形としては、贋金を持ち込んでワシらから不当に金を巻き上げようとしたってのは変わらねぇし、最初からおめぇさんらが贋金だってことを知っていて、こっちを騙そうとしたっていうこともあり得るからな。……特に、そこの猫人(ナオナー)。金貨を買って、ここに持ち込んだのはそいつだ。……おめぇさん、自分たちがその猫人(ナオナー)にはめられたとは、考えないのか? 」
「そ、そんなわけないっぺ! 」
責任は免れ得ないし、自分たちは贋金であることを知らなかったという主張を信じることもない。
特に、金貨を持ち込んだマオは、怪しい。
そんな容赦のない言葉に、今まで黙っていたフィーナが思わず声をあげた。
「親分さん、見てくんろ! この、マオさんの落ち込みようを! まるでこの世の終わりみたいな顔をしてるべさ! 最初っから贋金だって知ってたわけないべよ! 」
「さて、どうだかな? 贋金がバレたってことで落ち込んでるだけかもしんねぇぞ? 」
真っ青な顔色でうつむき、へたり込んだまま両目を見開き、口を半開きにして絶望しているマオのことを元村娘はかばったが、トパスはまったく取り合わなかった。
「ワシらもな、この贋金が出回るようになったおかげで、難儀しとるんだ。カラクリが分かって対策ができるまでは、ワシら両替商でさえコイツに騙されて、大損を食らっちまっていたのさ。だからいい加減、なんとかしてやろうってなっていてな」
禿頭のドワーフは肩をすくめてみせると、声のトーンを一段下げて、凄む。
「おめぇさんらは、いわば糸口なのさ。贋金をばらまいていやがる奴らを見つけて、オトシマエをつけさせるための、な。だから、ワシらに協力してもらわなきゃなんねぇ」
「協力って……、なにをさせるつもりなんだ? 」
源九郎が緊張からゴクリ、と唾を飲み込んでからたずねると、トパスは即答せず、ずっと扉を守ったまま我関せずと無言でいた犬頭の獣人、ラウルへと視線を向けた。
「おい、ラウル。……こいつらは、どの程度[使える]? 」
「そこの小娘と、猫人(ナオナー)は論外でしょう。ですが、そこの大男……、タチバナ、とかいう人間は、まぁ、[凄腕]ですよ」
ラウルはちらりと視線をサムライに向けると、言葉少なに、率直にそう言った。
どうやらこちらの実力は相応に認めているらしい。
「ほうほう、そいつは、そいつはなんとも素晴らしい」
するとトパスは両手を広げ、愉快そうに大げさな仕草で笑ってみせる。
そして彼はあらためて一行を見つめると、有無を言わせぬ声で命じた。
「あんたたちには、この贋金の出所を探る仕事を引き受けてもらいてぇな。そんで、うまく突き留めてくれりゃぁ、ワシらんところに贋金を持ち込んでコケにしてくれたこと、チャラにしてやらぁ。なんなら、必要経費と、いくらかの報酬も出してやる」
その言葉は、主に源九郎へと向けられているようだった。
そのことを感じ取ったフィーナは、不安そうな顔をこちらへと向けて来る。
彼女の横では、相変わらず絶望した表情のマオが呆然としていた。どうやらなにが話し合われているのかさえ、もう聞こえていない様子だ。
「できれば、断りたい話だな。……アンタたち、危なそうな臭いがプンプンするぜ。厄介ごとに関わるのはゴメンだ」
少し考えた後、サムライはまず、正直な気持ちを答えてみる。
こちらも贋金の被害者であるし、怪しげな雰囲気をさせているトパスたちにこれ以上関わりたくはない。
「フン、断れるとでも思ってんのか? 」
するとトパスは嘲笑するように口元を歪め、それから、こちらを値踏みするような視線を向けながら言う。
「おめぇらはこっから逃げられねぇし、逃がしはしねぇ。それにそこのしょげてる猫人(ナオナー)、贋金を作ってる奴らと会ったことがあるんだろう? だとすりゃ、ワシらの中じゃ一番、元凶に近いってことにもなる。ぜひとも協力してもらうぜ」
「俺たちにはアンタたちの都合なんて関係ないんじゃないか? そもそもこっちも騙された側だ。これ以上巻き込まれたくないもんだ」
「おいおい、忘れてもらっちゃ困る。うちの店をぐちゃぐちゃにしてくれたのは、そこの猫人(ナオナー)、おめぇさんの仲間じゃねぇか。おかげでうちは今日、[表]の商売あがったりで大損だ。最低でもその分の責任はもってもらいてぇな。……取らねぇっていうなら、今、取り立てられる分をいただくしかねぇなぁ」
トパスが獰猛な笑みを浮かべて凄むと、壁際で大人しく成り行きを見守っていた三人組が懐からナイフを取り出したり、腕をならしたりして脅迫してくる。
どうやら彼らはどうしても源九郎たちを逃がさないつもりであるらしい。
これはなんとか頑張ってみても断れない性質の仕事だと理解したサムライは、小さく嘆息してその事実を受け入れざるを得なかった。
━━━だが、黙ったまま言いなりになるつもりもない。
「わかった。なにができるかはわからんが、ひとまずはアンタたちに協力させてもらう。……それで? 贋金の出所を突き留めたら、アンタたちはどうするんだ? せめて、狙いを教えちゃもらえねぇか? 」
すると禿頭のドワーフは、ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。
「もちろん、贋金づくりのノウハウをそっくり、いただいちまうのよ」
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