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:第4章 「危険なシゴト」
・4-4 第118話 「金貨の正体:2」
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・4-4 第118話 「金貨の正体:2」
源九郎はてっきり、プリーム金貨というのは金を主成分とする合金を鋳型に流し込んで鋳造したものであるのだと思い込んでいた。
金貨というのは、大抵そういうものなのだ。
その価値は含まれている金の含有量、その他の貴金属類との比率、そして全体の重量で決まる。
だが、真っ二つに割られたプリーム金貨の中には、とても貴金属とは思えないものが入っていた。
金属でできているというのは間違いない。
鼠色の、鈍い輝きを放っている。
銀ではなさそうだし、錫などでもなさそうだ。
その輝きは、そう。
鉄に似ている。
「いいかい、猫人(ナオナー)さんよ。コイツはな、鉄を金でメッキした、ただの贋金なのさ」
その推測を、トパスの言葉が肯定してくれる。
「そ、そんなの、おかしいですにゃ! できるはずがない! 」
マオは驚愕で双眸を見開き、アタフタと両手を上下に振りながら、半ば自分に言い聞かせているような口調で抗議する。
「た、確かに鉄を金でメッキすれば、見た目はごまかせますにゃ! ですが、重さは! 重さはごまかしようがないですにゃ! プリーム金貨は、ほぼ純金でできたもの! その中に鉄が入っていたら、天秤で計ればすぐにわかるはずですにゃ! 」
鉄と金は、その外見だけではなく、比重も異なっている。
同じ体積であっても、鉄の方がずっと軽いのだ。
だから表面を本物の金でコーティングしたとしても、秤にかければすぐに贋金だとわかってしまう。
本来のプリーム金貨よりも、この贋金はずっと軽いはずなのだ。
「そこよ、そこ。……そいつが、この贋金の厄介なところなのさ」
マオの必死な言葉にうなずいたトパスは頬杖を解き、子分たちに向かってちょいちょいと人差し指で合図をしてみせる。
すると鼠人が作業台に向かって行き、そこからノミとトンカチを持って戻って来る。
「まぁ、見てな」
それらを受け取った禿頭のドワーフは、半分に割られた贋金をテーブルの割れ目に挟み込み、鉄と金の層の境目を見極め、ハンマーで叩いてノミを入れ始める。
鉄と金は比重が異なっているだけではなく、その硬さも大きく違う金属だ。
だからしばら鋼鉄製のノミを入れていると柔らかい金の部分だけが削れてはがれていき、鉄の層がむき出しになる。
そしてトパスは、そのあらわになった表面を見えやすいようにテーブルの上の蝋燭の明かりにかざした。
「ここに、模様が刻み込まれているだろう? コイツは、魔法陣だ。半分に割れて効力を失っちまっているが、[実際よりも重くなる魔法]ってのがかけられている」
源九郎たちは身を乗り出し、目を細めて贋金に刻まれた魔法陣を眺める。
確かに、幾何学模様と文字のようなものを組み合わせられた、それらしい模様があった。
「さっき、金貨を叩き割った時に光が走って、衝撃波が出ただろう? それはこの魔法陣がそれまで機能していて、実際に魔法が働いていたってことなのさ」
まだ半信半疑といった様子の一行に向かって肩をすくめると、種明かしを済ませたトパスは半分に割られた贋金をじっくり手に取って観察できるようにマオに放ってよこす。
咄嗟にそれを受け取った彼は金のコーティングを削り取られてあらわになった鉄の層をしげしげと眺め、そしてあらためてそこに魔法陣が刻み込まれていることを確認すると、その場にへなへなとへたり込んでしまった。
「ま、まさか……。本当に、贋金だったなんて……」
そう呟く声は、絶望に震えている。
マオは全財産をはたいて、十枚のプリーム金貨を買いつけた。
それが破格の値段で売られており、王都であるパテラスノープルにまでもっていけば高値で売れ、大儲けできると信じて。
もちろん、彼も商人の端くれだ。
安売りされている品の真贋や出所については慎重に確認したのに違いない。
城門のところで検査を行ったドワーフの技師のように、その表面をじっくりと観察し、秤にかけて重さを確かめ、間違いなく本物だと確信したから、自身の身ぐるみまで売り払って[投資]をしたのだ。
その一世一代の賭けは、━━━大失敗に終わってしまった。
贋金とはいえ本物の金も少しは使われているのだから、決して無価値というわけではない。
しかしながら、この贋金を購入するために必要だったメイファ金貨四十枚分という財産と並ぶ価値はない。
騙され、大赤字になってしまったのだ。
「まぁそう落ち込むなよ。魔法まで使った贋金があるなんて、普通は誰も想像もしやしない。ワシらの業界でも、コイツが市場に出回っているって気づいたのはつい最近のことだ。行政の方も取り締まりに乗り出して城門での検査を強化、徹底しているわけだが、まぁ、普通に思いつくやり方じゃコイツのトリックは見破れやしない」
「そういうアンタらは、どうやって見破っているんだ? 」
「コイツが出回り始めた時は、サッパリ見抜けなかったな。けどよ、あんまり不自然な量が出回り始めたから、コイツは怪しいって気づいたのさ。今じゃ、金貨にかけられた魔法の効力を察知して見分ける専用の道具まで作っちまったからな、役人はごまかせてもワシらはもう、騙せやしないぜ」
源九郎の問いかけに、トパスはそう言って自分の指にはめられているものを得意満面に指し示す。
そこには指輪があり、どうやらそれが、贋金を見抜くための道具であるらしかった。残り九枚となった偽物のプリーム金貨の上にかざされると、指輪の一部がちかちかと光る。
贋金に働いている魔法の力に反応するようにできているようだ。
「さて、そういうわけだ。……アンタらには、ワシらをコケにしようとしたオトシマエ、きっちりつけてもらわんといかんなぁ」
本当に、マオのプリーム金貨は偽物であった。
その事実を突きつけられ、認めざるを得なかった一行が落胆してうつむいていると、トパスはテーブルの上で両手を組み合わせ、それから、勝ち誇ったような声でそう言った。
源九郎はてっきり、プリーム金貨というのは金を主成分とする合金を鋳型に流し込んで鋳造したものであるのだと思い込んでいた。
金貨というのは、大抵そういうものなのだ。
その価値は含まれている金の含有量、その他の貴金属類との比率、そして全体の重量で決まる。
だが、真っ二つに割られたプリーム金貨の中には、とても貴金属とは思えないものが入っていた。
金属でできているというのは間違いない。
鼠色の、鈍い輝きを放っている。
銀ではなさそうだし、錫などでもなさそうだ。
その輝きは、そう。
鉄に似ている。
「いいかい、猫人(ナオナー)さんよ。コイツはな、鉄を金でメッキした、ただの贋金なのさ」
その推測を、トパスの言葉が肯定してくれる。
「そ、そんなの、おかしいですにゃ! できるはずがない! 」
マオは驚愕で双眸を見開き、アタフタと両手を上下に振りながら、半ば自分に言い聞かせているような口調で抗議する。
「た、確かに鉄を金でメッキすれば、見た目はごまかせますにゃ! ですが、重さは! 重さはごまかしようがないですにゃ! プリーム金貨は、ほぼ純金でできたもの! その中に鉄が入っていたら、天秤で計ればすぐにわかるはずですにゃ! 」
鉄と金は、その外見だけではなく、比重も異なっている。
同じ体積であっても、鉄の方がずっと軽いのだ。
だから表面を本物の金でコーティングしたとしても、秤にかければすぐに贋金だとわかってしまう。
本来のプリーム金貨よりも、この贋金はずっと軽いはずなのだ。
「そこよ、そこ。……そいつが、この贋金の厄介なところなのさ」
マオの必死な言葉にうなずいたトパスは頬杖を解き、子分たちに向かってちょいちょいと人差し指で合図をしてみせる。
すると鼠人が作業台に向かって行き、そこからノミとトンカチを持って戻って来る。
「まぁ、見てな」
それらを受け取った禿頭のドワーフは、半分に割られた贋金をテーブルの割れ目に挟み込み、鉄と金の層の境目を見極め、ハンマーで叩いてノミを入れ始める。
鉄と金は比重が異なっているだけではなく、その硬さも大きく違う金属だ。
だからしばら鋼鉄製のノミを入れていると柔らかい金の部分だけが削れてはがれていき、鉄の層がむき出しになる。
そしてトパスは、そのあらわになった表面を見えやすいようにテーブルの上の蝋燭の明かりにかざした。
「ここに、模様が刻み込まれているだろう? コイツは、魔法陣だ。半分に割れて効力を失っちまっているが、[実際よりも重くなる魔法]ってのがかけられている」
源九郎たちは身を乗り出し、目を細めて贋金に刻まれた魔法陣を眺める。
確かに、幾何学模様と文字のようなものを組み合わせられた、それらしい模様があった。
「さっき、金貨を叩き割った時に光が走って、衝撃波が出ただろう? それはこの魔法陣がそれまで機能していて、実際に魔法が働いていたってことなのさ」
まだ半信半疑といった様子の一行に向かって肩をすくめると、種明かしを済ませたトパスは半分に割られた贋金をじっくり手に取って観察できるようにマオに放ってよこす。
咄嗟にそれを受け取った彼は金のコーティングを削り取られてあらわになった鉄の層をしげしげと眺め、そしてあらためてそこに魔法陣が刻み込まれていることを確認すると、その場にへなへなとへたり込んでしまった。
「ま、まさか……。本当に、贋金だったなんて……」
そう呟く声は、絶望に震えている。
マオは全財産をはたいて、十枚のプリーム金貨を買いつけた。
それが破格の値段で売られており、王都であるパテラスノープルにまでもっていけば高値で売れ、大儲けできると信じて。
もちろん、彼も商人の端くれだ。
安売りされている品の真贋や出所については慎重に確認したのに違いない。
城門のところで検査を行ったドワーフの技師のように、その表面をじっくりと観察し、秤にかけて重さを確かめ、間違いなく本物だと確信したから、自身の身ぐるみまで売り払って[投資]をしたのだ。
その一世一代の賭けは、━━━大失敗に終わってしまった。
贋金とはいえ本物の金も少しは使われているのだから、決して無価値というわけではない。
しかしながら、この贋金を購入するために必要だったメイファ金貨四十枚分という財産と並ぶ価値はない。
騙され、大赤字になってしまったのだ。
「まぁそう落ち込むなよ。魔法まで使った贋金があるなんて、普通は誰も想像もしやしない。ワシらの業界でも、コイツが市場に出回っているって気づいたのはつい最近のことだ。行政の方も取り締まりに乗り出して城門での検査を強化、徹底しているわけだが、まぁ、普通に思いつくやり方じゃコイツのトリックは見破れやしない」
「そういうアンタらは、どうやって見破っているんだ? 」
「コイツが出回り始めた時は、サッパリ見抜けなかったな。けどよ、あんまり不自然な量が出回り始めたから、コイツは怪しいって気づいたのさ。今じゃ、金貨にかけられた魔法の効力を察知して見分ける専用の道具まで作っちまったからな、役人はごまかせてもワシらはもう、騙せやしないぜ」
源九郎の問いかけに、トパスはそう言って自分の指にはめられているものを得意満面に指し示す。
そこには指輪があり、どうやらそれが、贋金を見抜くための道具であるらしかった。残り九枚となった偽物のプリーム金貨の上にかざされると、指輪の一部がちかちかと光る。
贋金に働いている魔法の力に反応するようにできているようだ。
「さて、そういうわけだ。……アンタらには、ワシらをコケにしようとしたオトシマエ、きっちりつけてもらわんといかんなぁ」
本当に、マオのプリーム金貨は偽物であった。
その事実を突きつけられ、認めざるを得なかった一行が落胆してうつむいていると、トパスはテーブルの上で両手を組み合わせ、それから、勝ち誇ったような声でそう言った。
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