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第1章 迷いの森

012 元勇者と神殿騎士の女 前編

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今日も女達を連れ、北に向かって歩いている。

魔物が強くないか?

強いと言っても俺には雑魚なんだが、勇者パーティのメンバーでは苦戦するレベルの魔物が多い。

俺が居ない今は苦戦どころか全滅だろう。

この方向は森の奥に向かっているのか?

だから魔物が強くなってきているのだろうか。

方向を変えた方がいいのか判断に迷うな。



一撃で全ての魔物を屠っている。

このお方は本当に何者なんだろうか。

今は見たことの無い剣を使っている。

片刃で反りのある剣だ。

魔物を察知するスピードも異常なのだ。

私も索敵には自信があった。

なのに全く私は気付きもしないのに、注意を促してくる。

今もそうだ、こんな森の中の300mも先にいる魔物を注意しろと促し、接敵後、即殺だ。

事も無げに魔物の首を跳ねていく。

魔物に囲まれたこともある。

それでも私達を守りながらも瞬殺する。

魔法で一掃するのだ。

風魔法が得意なのだろうか。

風の刃を飛ばし首を跳ねていると言っていた。

この方に教えを乞えば、私はもっと高みに登れるのだろうか。

街に着いたら聞いてみるのもいいかもしれない。



代表の女は、見たところ武芸の心得があるのだろう。

動きが1人だけ違う。

戦いに参加したそうにしているのか、じっくりと観察されている。

剣を渡してもいいんだが⋯マントの下が裸じゃなければ⋯

この刀のことも聞かれるし魔法についても聞かれるし、向上心があるのだろう。

勇者パーティにいた頃は本気を出してなかったからな。

今はすこぶる快適だ。

戦いの世話をするのがあれほど大変だとは思わなかったよ。

もう二度とすることは無いと思いたい。

追放されて本当に良かった。

しかしなんで追放することになったのか。

真相は分からない、知りたくもないし知る必要もない。



今日はみんな元気だな、サクサク進めている。

しかしそろそろ街道に出たりしたいもんだ。

魔力溜まりから元来た道を戻るのが手っ取り早かったんだろうが、急いで魔力溜まりに向かっていたし、もう道を覚えてなかったんだ。

どっちに進むのが正解なんだろうか。

このまま北に向かって行くしかないか。

女達がどこの国かも聞いてないから分からんが、とにかくまずは人のいるところに行こう。

相変わらず女達は無防備だからな⋯

特にケイトだ。

見せたいのか?もう何度もその豊満な胸をチラつかせてくる。

わざとなのか?わざわざ俺の隣に来て素材を取ったり、こんなのがあったと報告してはマントから手を出しはだけさせる。

1人で出しまくってなかったらやばかったろうな。

見ないようにしてるんだが見えてしまう。

その度に何も無かったかのように頭を撫でるんだが⋯

それを見る他の女達の視線がこれまた鋭いのなんのって。



あのケイトという小柄な女はなんなのだ。

あの方の背中を独り占めしたあげく、頭を撫でられているのだ。

朝からずっと羨ましいと思ってしまう。

男性にそんなことをされたいと思ったことなど1度たりともなかったのに⋯

なぜなのだろう、なぜ私はこんなにも嫉妬してしまうのだろうか。

私は神殿騎士なのだ、そして騎士団長なのだ。

こんなことで嫉妬してはならない。

ならないのに⋯私もして欲しい。

そう思ってしまう。

あの方の隣にいたい。

あの方に触れたい。

あの方の大きな手で撫でられたい。

とめどない欲望が私の脳を心を身体を侵食してくる。



少し開けた場所があったので休憩を取ることにした。

女達に皮袋に水を入れ手渡していく。

魔物が多かったから少し疲れたな。

地面に座り木に寄りかかる。

女達から少し離れ一息ついている。

近すぎると見えてしまうからだ。

特にリーシャとエルフの女を見るのはまずい。

昨夜のことを思い出してしまう。

例のキノコの効果は切れているだろうが、あれを思い出すのはダメだ。

キノコのことなど関係なく暴れん棒が聞かん棒になってしまうだろうな。

そんなことを考えていると、代表の女が近寄ってきた。



「失礼します。少し聞きたいことがありまして⋯」

あのお方が少し離れたところで休んでいるのをチャンスと思い、私は話しかけに行った。

「どうした?何かみんなから不満でも出たのか?」

疲れているだろうに私達の心配をしている⋯

なんて優しいお方なのだろう。

私の知る男はこうではなかった。

私の強さを嫉妬し、私の出世を妬み、妨害してくるような男ばかりだった。

中には私に愛人になれと言ってくる輩までいたのだ。

しかも神殿に使える神官がそれを言ってくるのだ。

私の知る男はクズしかいないのか、そう思えるほど愚かな男しかいなかった。



「いえ、そうではありません。みんな不満などなく過ごしております。」

何やら言いづらそうにしているが⋯

「それならどうした?何が知りたいんだ?」

「あなたの事を知りたくて!」

ん?俺の事?



なんで私はこんなことを言ってしまったのだ!

「い、いや、そそ、そうではないのです!あなたはなぜこんなにも強いのか知りたくて!」

「それなら道中に言ったじゃないか。故郷で特殊な訓練を受けてたんだ。魔法も少し特殊なのをな。詳しくは教えることが出来ないんだ。そして魔法を教えることも出来ない。剣なら教えてもいいがな。」

魔法など最初から使えぬのだ、剣を教えてもらえるのならこれほど嬉しいことはない。

「それなら⋯」

「今はやめておくんだ。」

なぜだ、なぜ今すぐはダメなのだ⋯



「どうして今はダメなのでしょうか。」

それを聞いてしまうのか?

え?言わないとダメ?

「いや、その⋯なんて言ったらいいのか⋯」



「はっきり申して頂いて構いません!」

なんでこんなに言い淀んでおられるのだ?

いまさっき教えてくれると言ってくれたではないか。

それなのになぜ急に⋯



「⋯見えるんだ。」

「え?どういう⋯」

「今の君は、マントの下はどうなっているか忘れたのか?」

ここまで言わないと分かってくれないのか⋯

顔を真っ赤にしてるじゃないか。

やっと気付いたか。



「⋯⋯⋯⋯⋯し、失礼しました!」

私は今どんな顔をしていた?

恥ずかしい。

羞恥で死んでしまいそうだ。

この方と話しているだけで嬉しくて、今の私の現状をすっかりと忘れていたではないか。

待ってくれ、まさか⋯ずっと?

何度も何度も私はマントを⋯

顔から火が出るのでは無いかと言うほど、赤くなっているであろう事が自分でも分かる。

それほどに赤面している。



「落ち着いてくれ。分かったのならいいんだ。せめて街に着いてからでも遅くはないだろう?」

「⋯そ、そうですね。少し焦りすぎたのかもしれません。本当に申し訳ございませんでした。」

「そんなに畏まらなくていいんだ。それにみんなをまとめてくれていて助かっているよ。君は見たところ武芸が得意なんだろ?どこかの騎士団に所属していたりするのか?冒険者って感じではないしな。」

話を逸らす為に話題を変えてみよう。

なんで俺がこんな気を遣わなければならないんだ。



「は、はい!私はハーリルと申します。ティリズム教国で神殿騎士をしています。少数の騎士団員を率いる騎士団長です。」

何を丁寧に騎士団長であることまで言っているのだ。

「教国の⋯それで立ち居振る舞いが綺麗なんだな。納得したよ。」

き、綺麗?私が?

そんなこと言われたのは初めてだ⋯



ハーリルって言うのか。神殿騎士とはな。

神殿騎士になるのも狭き門だと聞いたことがある。

見たところ俺と同じくらいの年齢ではなかろうか。

それなのに騎士団長とは⋯なかなかやるな。

背も高く170はありそうだ。

スラッとしているが程よく筋肉が付いていて引き締まった身体をしている。

髪は濃い茶色で肩甲骨辺りまで伸ばしている。

瞳の色も茶色がかっているな。

顔もとても美人だ。

気が強そうで責任感の強そうな顔立ちをしている。

しばらくハーリルと話をし、休憩を終わりにした。

これはまた野営になりそうだ。



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