【第2章完結】追放勇者はどこへ行く

音無響一

文字の大きさ
上 下
11 / 129
第1章 迷いの森

011 元勇者とキノコ入りスープ

しおりを挟む
夜が明けた。

なんて言えばいいのだろう。

濃厚な夜だった⋯

リーシャにエルフの女。

2人とも素敵だった。

夜が明けた今でも思い出してしまう。

タイプは違うが何も起こらなかったら朝までしていた、そんな気がする。

実際1人で何回もしてたしな⋯

そろそろみんな起きて来るだろう。

スープでも温め直すか。



昨日多めに作っていたスープ。

鍋に蓋をしていたのでそれを開ける。

俺は違和感を覚えた。

なんだあの具材は⋯入れた覚えがないんだが⋯

おたまでそれを掬う。

近づいて観察してみた。

え?これは⋯なんでこんなものを?

このキノコはダメなやつだ。



俺は考える。

このキノコが混入した理由を。

そうか、あの時か。

作っている最中にケイトに話しかけれたんだ。

その時に収納からキノコを取り出していた。

ケイトと話していたんだ、珍しい素材の話を。

その時に取り間違えてた。

そうとしか思えない。

このキノコは⋯欲を増大させるキノコだ。

精力増強ではない。

自分がしたいと思ったことを強く意識してしまうようになる作用があるキノコだ。



そうか、だから5人同時にしたり、リーシャを強く求めたり、エルフの女とあんなことをしてしまったりしたのだろう。

しかしだ、そうなってしまうのは⋯

自分がそれをしたいと思わなければならない。

俺も含め、全員がそう思っていた、そういうことだ。

なんて危険なキノコを入れてしまったのか⋯

毒性のあるキノコじゃなくて良かったがな。

もうこのスープは捨てよう。

オールクリア。

上手いこと鍋の中身が消えたな。

女達が目を覚ます前に新しいのを作っておこう。

今度は具材を間違えないようにな⋯



明るくなってきた。

日差しが女達に降り注ぐ。

リーシャから目を覚ましたようだ。

「おはよう⋯ございます⋯」

寝起きから昨夜のことを思い出したのだろう。

耳まで朱に染っている。

「おはようリーシャ。昨夜は⋯」

俺は言いかけたが、リーシャが恥ずかしそうに顔を背けたので昨夜のことを言うのをやめた。

でも、ただ一言こう言った。

「ありがとう。」



なぜ私はお礼を言われたのでしょうか。

私はこのお方から貰ってばかりだ。

お礼を言うなら私の方なのに。

「いいえ、お礼は私の方こそ⋯そして昨日は⋯その⋯」

私は何を言おうとしているのだろうか。

私が言葉に詰まっていると⋯



なんて可愛いんだ⋯

思わず抱きしめてしまったじゃないか。

あんなに1人で吐き出したのにまた俺は⋯

「昨夜はありがとう、そして⋯中途半端にしてしまって済まなかった。」

何を言ってるのだ俺は⋯

これじゃあ、またしようって言ってるみたいじゃないか。



こ、これは⋯ほ、ほ、ほ、抱擁⋯

なんて安心感に包まれているのでしょう。

なのに私の心臓は高鳴るばかりなのです。

昨夜のように顎に手を添えられた。

はぁ、ダメです、また、また、私は⋯

「ん、ん、はぁ、んん、あむ⋯」



朝からなんて濃厚な口付けなんだろうか。

サラッとして終わりになんて出来ないだろ。

こんなに可愛らしいのに⋯

唇を離しリーシャの顔を見る。

なんて顔をしているんだ。

潤んだ瞳を見た俺の脳内はまたリーシャで埋めつくされる。

脱がしたい、押し倒したい、このままリーシャの中に⋯



唇が離れてしまう。

目に見えるほど糸を⋯

こんなこと⋯王女なのに⋯なのに足りないのです。

もっとして欲しいと目を閉じ⋯

⋯⋯⋯⋯一向に来ません。

不思議に思い目を開けると、私達5人を仕切っている女性が目を覚ました。



「おはようございます。昨夜は⋯もっと話したかったのに急に寝てしまいました。でもおかげでぐっすりです。これからお休みでしょう。もう2人が目を覚ましたので、あなたも休んで頂きたいです。」

俺が魔法で強制的に眠らせたからな。

それはそれはぐっすりだろう。

「おはよう。スープを温めておいた。朝食にみんなで食べてくれ。」

作り直したって言うとおかしな話になるからな。

「日が真上に来たら起こしてくれ。」

手をヒラヒラと振り大きな木の窪みに向かう。

中でケイトが気持ちよさそうに寝ていた。

その真横が空いていたので寝そべり仮眠を取る。

なんでこんなタイミングで代表の女は起きてきたのか⋯

朝だしそりゃ起きてくるやつもいるか。

リーシャ⋯次こそは!



動くような気配を感じ、私は目を覚ます。

朧気ながらあの人のようなシルエットがうっすら見えた。

夢なのかと思い、背中を向けて寝ているあの人の背中にピッタリと張り付く。

大きい背中を感じ、私は安心感に包まれ、再び眠りに落ちた。



おいおいケイト⋯

俺は抱き枕じゃないんだぞ。

仕方ないか、俺より若そうだから寂しいんだろう。

俺も人肌を感じながらの方がぐっすりねれそうだ。

反対を向いて抱きしめてしまいたい欲に駆られながらも俺は眠りについた。



1人だけ起きてこない。

寝てていいのだけど⋯あの方の背中をあんな風に⋯

なんて羨ましいのだろう。

私はあの方に付いて行くと決めた女性達のまとめ役みたいになっている。

起こした方がいいのかもしれないのだけど、それであの方も起きたら困る。

どうしたらいいのか悩んでしまう。

むしろ変われるなら私があの方の背中を抱いていたい。

しかし私は神殿騎士の騎士団長だ。

節度を持って行動しなければならない。

祖国に戻った時に恥ずかしくない自分でいる為に。

恥ずかしく⋯

なんで昨日の夕飯後のことを思い出すのだ⋯

1人で、自分で自分のをあんな風に⋯



私は幼少の頃から神殿騎士になるために血のにじむような努力をしてきた。

同年代の男女が遊びや色恋にうつつを抜かしてる時でも、私は鍛錬に励んでいた。

そして私は神殿騎士に、更に最年少で騎士団長になった。

騎士団長と言っても少数の部隊員しかいない、騎士団の一つだったがな。

それでも私は神殿騎士として恥ずかしくない言動、行動を心掛けて生きてきた。

私は任務で、部下数人を引き連れて魔物の討伐に向かっていた。

強い魔物だった、黒いオーガなど初めて見た。

部隊員は全員殺された。

私は右腕を引きちぎられ、殺されずに森に連れ去られた。

気が付いたら魔物に⋯

私は壊れる寸前だった。

人間の男にすら触られたことがなかったのに⋯



私は右腕を引きちぎられたはずだ。

なのに治っている、右腕があるのだ。

人体の部位欠損を治せるほどの回復魔法など、伝説の聖女様しか出来ないと言われている。

あの方に聞いた。

事も無げに言われたのだ、「俺が治した。」と。

あの方は何なのだろう。

まだ名前も知らないのだ。

聖職者ではない?

確かに聖職者とは思えないほどに強い。

私も神殿騎士として強さを磨いてきた。

そんな私なんかよりも遥か高みにいる。

剣を使うところも見た。

震えるほどに美しい太刀筋だった。

魔法も私の知る誰よりも洗練されていた。

聖職者ではないのに回復魔法を?

それに15人を女神様の元へ送ったあの魔法。

見たことも聞いたこともない魔法だった。

私もあのまま16人目になってしまいそうなほど、あの光景に吸い込まれていた。

もしも死ぬ時は、あの方に送られたい。

そう思ってしまった。



日が真上に来たわ。あの方を起こしましょう。

この役は譲れない。

あの方に触れて起こす。

肩に触れ声を掛ける。

「起きてください。日が真上にきました。」

私は⋯私は⋯この方をもっと知りたい。



「む、もうそんな時間か⋯」

代表の女に起こして貰えた。

1人でやりすぎたせいかぐっすり寝てしまったな。

それにケイトの温もりが気持ちよかった。

「おはようみんな。軽く何か食べてから移動しよう。今日中にこの森を抜けられるといいんだがな。」

森を抜ける。

俺がそう言うと、女達は悲しそうな顔をした。

なぜだ?そこは喜んでいいとこだぞ?

さて、腹ごしらえも済んだし北へ向かって移動だ。

「じゃあみんな行こう。」

「「「「「はい!」」」」」

うん、元気でよろしい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...