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今日は新学期初めての魔導士・魔術師合同の演習授業の日。この授業では毎回魔導士・魔術師でそれぞれ組んで、魔法の演習をする。数少ない魔導士と魔術師の交流の場といったところだ。
決め方はあれだ。『好きなことパートナー組んでね~』ってやつ。私達みたいなボッチが一番困るやつである。
昔はゼルクが毎回最後まで余り物になっていた。本人は特に気にしていないようだったが。私は魔術科に所属する二つ年上の従兄弟と組んでいたから、なんとかボッチを免れてはいたが、最後まで残るのは普通の神経を持った人間であればとても惨めな気持ちになる筈だ。
だからこそ私はとある人を先程から探し続けている。キョロキョロと周囲を見回す。そしたら数歩も歩かない内に目的の人物が見つかった。
「ディリア!」
ディリア=アルテュール。それが彼の名前である。彼は背が高いし、髪も燃えるように赤いのでよく目立つ故にとても見つけやすい。しかも近づいてみれば、容姿もとても美しい人だ。……強面なだけで。
ゼルクがいない間に知り合ったのだが、彼はとても高い能力と才能あふれる魔導士だ。顔の左目の辺りに大きめの傷があって初対面の人間からはかなり怖がられる容姿をしていて現に避けられているが、話してみると普通に善い人間だ。皆が避けているのは勿体ない程に。
しかも魔力の相性もかなり良いので、私の方から合わせる必要がない。これは肉体的にも精神的にもかなり楽だ。
魔法を伝送するというのは結構気を遣うことが多いのだ。
まあこのペアは簡単に言うと、余り者同士で組んだら案外性格的にも、魔法の相性的にも、しっくり来たということだ。
「テレサ……また俺とパートナーか?物好きだな……でも、お前良いのか?」
「ん?」
物好きと言うか、私は何気に未だにボッチだったりする。私のようにある程度年齢が上がった後に、魔導士から魔術師に転向したというのはかなりの異例で、それに加えかつて魔導士として首席だったゼルクと散々一位を競い合った仲だったのは学院内で有名だ。
普通に自分よりも魔導士としての才能があるものとペアを組みたいという人間は少ない。特にこの魔導院では。基本的に貴族産まれだったり、親が騎士だったりする彼らはプライドが山よりも高いのだ。本当に面倒極まりない連中である。
「お前がずっと会いたがっていた魔導士様が帰ってきているんだろう?」
「会いたがっていたは誤解よ。あの人かなりの研究馬鹿だから心配だっただけ。それにパートナーを組むつもりはないわ。だって、ほら……」
「……ああ、そういうことか。なるほど」
私は暫く前に既に見つけていたゼルクの姿を指さす。彼は既に数えきれないくらいの数の女の子に囲まれているのだ。あの特徴ある白銀の髪の毛じゃなかったらわからなかったくらいに沢山の女の子に囲まれすぎて、殆ど頭しか見えないのが少し笑える。
そんなことを考えていたせいだろう。ディリアと『モテてるねえ』などと下らない事を言い合っていた時。いつの間に女の子たちを振り払ったのだろう、ゼルクが背後に来ていた。
「テレスタシア」
「ゼ、ゼルク……!?」
「お前は誰と話しているんだ?話している暇があるなら俺を助けに来るくらいしたらどうなんだ?」
「ああ……めんど――――折角の人気に水を差したら悪いかと思って」
「お前……今、面倒って言おうとしたよな?」
私の言い掛けた言葉を正確に読み取って、言い当ててくるところが憎らしい。それに話し始めると、先程まで話していたであろう女の子たちの視線が集まってきているのを感じる。でもまあ、どうせ私友達も殆どいないし、いいか。そう思って気分を切り替える。少し院での風当たりが強くなるだけだ……考えるだけで頭が痛いけど。
女生徒たちは意外に陰湿なことをしてくるのだ。
「気のせい……気のせいよ!!それよりも!!この人の紹介するね!彼はディリア。魔導士で私と普段パートナーを組んでくれている人よ」
「……は?魔導士のパートナー?お前は魔術師じゃない――――」
「いやいや、手紙にも書いてたわよ!?私、少し前に魔術師に転向したの」
「……読んでない」
「どうせ、研究資料の山に埋もれていたんでしょう!はあ――」
珍しく驚いた顔のゼルク。彼は表情筋自体動くことが少ないので、ちょっとした優越感に浸る。
「これでも魔術師の中でも私はトップよ。ふふん、驚いた?」
考え込んでいる彼に私は自慢げに今の成績を披露してやった。正確にはトップなのは実技のみだが、そこは敢えて言わない。一度話してしまったなら結果は同じだ。どうせならゼルクがウザがるくらいに思い切り話しまくってやろうと吹っ切れた私はゼルクの顔を更に歪めてやるために更に話しまくる。
その間ゼルクは私の話を聞いているのかいないのか……眉間の間にしわを寄せて、難しそうな顔をしていたが、私は構わず彼に自慢し続けたのだった。
決め方はあれだ。『好きなことパートナー組んでね~』ってやつ。私達みたいなボッチが一番困るやつである。
昔はゼルクが毎回最後まで余り物になっていた。本人は特に気にしていないようだったが。私は魔術科に所属する二つ年上の従兄弟と組んでいたから、なんとかボッチを免れてはいたが、最後まで残るのは普通の神経を持った人間であればとても惨めな気持ちになる筈だ。
だからこそ私はとある人を先程から探し続けている。キョロキョロと周囲を見回す。そしたら数歩も歩かない内に目的の人物が見つかった。
「ディリア!」
ディリア=アルテュール。それが彼の名前である。彼は背が高いし、髪も燃えるように赤いのでよく目立つ故にとても見つけやすい。しかも近づいてみれば、容姿もとても美しい人だ。……強面なだけで。
ゼルクがいない間に知り合ったのだが、彼はとても高い能力と才能あふれる魔導士だ。顔の左目の辺りに大きめの傷があって初対面の人間からはかなり怖がられる容姿をしていて現に避けられているが、話してみると普通に善い人間だ。皆が避けているのは勿体ない程に。
しかも魔力の相性もかなり良いので、私の方から合わせる必要がない。これは肉体的にも精神的にもかなり楽だ。
魔法を伝送するというのは結構気を遣うことが多いのだ。
まあこのペアは簡単に言うと、余り者同士で組んだら案外性格的にも、魔法の相性的にも、しっくり来たということだ。
「テレサ……また俺とパートナーか?物好きだな……でも、お前良いのか?」
「ん?」
物好きと言うか、私は何気に未だにボッチだったりする。私のようにある程度年齢が上がった後に、魔導士から魔術師に転向したというのはかなりの異例で、それに加えかつて魔導士として首席だったゼルクと散々一位を競い合った仲だったのは学院内で有名だ。
普通に自分よりも魔導士としての才能があるものとペアを組みたいという人間は少ない。特にこの魔導院では。基本的に貴族産まれだったり、親が騎士だったりする彼らはプライドが山よりも高いのだ。本当に面倒極まりない連中である。
「お前がずっと会いたがっていた魔導士様が帰ってきているんだろう?」
「会いたがっていたは誤解よ。あの人かなりの研究馬鹿だから心配だっただけ。それにパートナーを組むつもりはないわ。だって、ほら……」
「……ああ、そういうことか。なるほど」
私は暫く前に既に見つけていたゼルクの姿を指さす。彼は既に数えきれないくらいの数の女の子に囲まれているのだ。あの特徴ある白銀の髪の毛じゃなかったらわからなかったくらいに沢山の女の子に囲まれすぎて、殆ど頭しか見えないのが少し笑える。
そんなことを考えていたせいだろう。ディリアと『モテてるねえ』などと下らない事を言い合っていた時。いつの間に女の子たちを振り払ったのだろう、ゼルクが背後に来ていた。
「テレスタシア」
「ゼ、ゼルク……!?」
「お前は誰と話しているんだ?話している暇があるなら俺を助けに来るくらいしたらどうなんだ?」
「ああ……めんど――――折角の人気に水を差したら悪いかと思って」
「お前……今、面倒って言おうとしたよな?」
私の言い掛けた言葉を正確に読み取って、言い当ててくるところが憎らしい。それに話し始めると、先程まで話していたであろう女の子たちの視線が集まってきているのを感じる。でもまあ、どうせ私友達も殆どいないし、いいか。そう思って気分を切り替える。少し院での風当たりが強くなるだけだ……考えるだけで頭が痛いけど。
女生徒たちは意外に陰湿なことをしてくるのだ。
「気のせい……気のせいよ!!それよりも!!この人の紹介するね!彼はディリア。魔導士で私と普段パートナーを組んでくれている人よ」
「……は?魔導士のパートナー?お前は魔術師じゃない――――」
「いやいや、手紙にも書いてたわよ!?私、少し前に魔術師に転向したの」
「……読んでない」
「どうせ、研究資料の山に埋もれていたんでしょう!はあ――」
珍しく驚いた顔のゼルク。彼は表情筋自体動くことが少ないので、ちょっとした優越感に浸る。
「これでも魔術師の中でも私はトップよ。ふふん、驚いた?」
考え込んでいる彼に私は自慢げに今の成績を披露してやった。正確にはトップなのは実技のみだが、そこは敢えて言わない。一度話してしまったなら結果は同じだ。どうせならゼルクがウザがるくらいに思い切り話しまくってやろうと吹っ切れた私はゼルクの顔を更に歪めてやるために更に話しまくる。
その間ゼルクは私の話を聞いているのかいないのか……眉間の間にしわを寄せて、難しそうな顔をしていたが、私は構わず彼に自慢し続けたのだった。
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