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第5章
心はいつも共に 4
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「安志、話って何?」
「あぁ……その、あのな」
一体何の話だろう。安志がとても緊張しているのが伝わってくる。
「言いにくいことなのか」
「いやそうじゃない」
「じゃあ、なんでそんな緊張している? 安志大丈夫だよ。俺には何でも話せよ」
安志の手を握って続きを促すように声をかけてやる。こんなにも自信なさげな安志の姿は見たことがないので、戸惑ってしまう。暫くの沈黙の後、重い口を、ようやく開いた。
「……りょ……りょう…」
「りょう?」
安志が何を発したか、すぐには理解できなかった。
「……涼くんのことなんだ。洋の従兄弟の……」
「あぁ涼か! んっでも、どうして涼のこと知っているんだ? 俺……まだ話していないよな? 」
不思議だった。俺の大事な従兄弟の涼の名前が、俺の大事な安志の口から発せられることが。
「洋……俺さ、涼くんと夏にアメリカで偶然出会ったんだよ」
「ええっ!?」
驚いた! そんな偶然ってあるのか。えっと夏って、この夏の話なのか。世間は狭いと言うが、まさか安志が涼と知り合いになっているなんて予期せぬことだったので、俺は目を丸くしたまま固まってしまった。
「すごい偶然ってあるんだな……驚いた。涼は俺と似ていて驚いただろう? 」
「あぁ、そっくりでびっくりしたよ。最初はアメリカ出張の飛行機で見かけて。次は観光中に俺がスリに遭いそうになったのを助けてくれて」
えっ安志が助けられたのか。
そうか……涼は強くなったんだな。強くなって欲しいと願った俺との約束を守ってくれた。そう思うとほんわりと嬉しい気持ちになった。
「そうだったのか。良かったな」
「洋、それで……」
まだ躊躇うようにはっきりしない安志の様子を不思議に思った。いつだって真っすぐな安志なのに変だ。
「洋驚かないでくれ! 実は、涼くんと俺、付き合っているんだ」
「はっ?」
安志の口からまさかそんなことが零れるとは思っていなかったので、俺は持っていたペットボトルをストンと足元に落としてしまった。
「つ……付き合うって……ことは? えっ? 」
「うん、驚かせてごめん。洋と丈さんが付き合っているような付き合いをしたいと思っている」
「お前っ! もうっ涼に手を出したのか」
自分のことを棚にあげて、俺は思わず安志を問い詰めてしまった。
「うっ……」
「どこまで? どこまでしたんだ? 」
「洋っ……お…お前っ随分あからさまだな……まだその……キスしかしてない…」
安志が焦り顔で、真っ赤になっている。
キスしたってことは、本気なんだな。安志はふざけてそんなことする奴じゃない。
「悪い……涼は大事な従兄弟だから……いくらお前でも心配になって」
「分かっている。俺は遊びじゃない。真剣に涼くんと付き合っている。だから洋にも認めて欲しい」
「認めるだなんて……俺はそんな立場じゃないよ……でも」
「でも…?」
安志が不安そうに見つめてくる。そんな顔するなよ。
お前なら、いいに決まっているじゃないか。安志が幸せそうな顔をしているのが、じわじわと嬉しく感じているよ。
「安志が幸せそうで良かった! 本当に良かった。ずっとずっと……俺はお前のことを縛ってしまっていたんじゃないかと心配だった」
「洋、俺……本当のことを言うとソウルに来るまで、心の底に少しだけ洋への気持ちがまだ残っていた。でもな、今回の事件で俺が洋を救えたことで、やっとこの気持ちとさよならできるよ。俺は高校時代も五年前も……すぐ近くにいたのに洋を救えなかったことをずっと後悔していたんだ。やっとお前のピンチに役立てて、本当に嬉しかったよ」
「そんな風に思ってくれていたのか」
「あぁだから洋、俺もう行くよ。でもずっとこれからも傍にいるよ」
「安志……うん……そうだね」
俺は嬉しかった。大事な大事な安志の相手が、俺と双子のように感じる涼だなんて思いもしなかった。
あぁ俺は、また泣いてしまう。
また嬉しくて涙が込み上げてくる。
何度も泣き顔を見せるのが恥ずかしくて、安志をハグして顔を埋め、ごまかしてしまった。
「ぐすっ……安志……俺、涼にちゃんと会いたい。約束したんだ。必ずまた会おうって」
「うん。涼くんも待ってる。あいつ……お前のこと探しに日本に帰って来たんだ。今、大学の一年生だよ」
「そうか……そうなのか。うん必ず行くよ、近いうちに」
「約束だぞ。洋」
安志と俺、二人肩を並べて公園の噴水を眺めた。
高い所から勢いよく落ちてくる水流の中に、生まれたばかりの虹を見つけた。
「あっ安志見ろよ。あそこに虹が出来た!」
「本当だ、あんな風に虹って作ることも出来るんだな」
「安志……幸せってただ転がってくるわけじゃないんだな。自分で見つけて育てていくのも幸せの一つなんだな」
「洋が見つけた幸せと俺がみつけた幸せ、お互いしっかり育てていきたいな」
「そうだね」
「あぁ約束だ。じゃあ洋、俺はもう行くよ」
「うん、またすぐに会えるよ」
俺の大事な安志が見つけた幸せが、永遠に続くことを願っている。
お前の幸せは、俺の幸せとつながっている。
俺も丈と幸せな日々を送れるように一歩一歩進んでいくよ。
お互い……前に進んでいこう。
安志本当にありがとう。
「心はいつも共に」了
第5章・完
あとがき(ご不要な方はスルーで)
****
志生帆海です。こんにちは。
辛い事件も無事に解決し、第5章も今日でおしまいになりました。
途中ハラハラドキドキしましたが、安志と洋の二人が穏やかに未来に向かって、前向きに歩み出すことが出来て良かったと思っています。
日ごろの感謝を込めて、本当にありがとうございます。
『深海』というお話についてご紹介を……
こちらは五章に登場した通訳の松本優也さんとKaiの物語です!
強烈にまで切ない恋からのスタートですがハッピーエンドです。
どうぞよろしくお願いします。
「あぁ……その、あのな」
一体何の話だろう。安志がとても緊張しているのが伝わってくる。
「言いにくいことなのか」
「いやそうじゃない」
「じゃあ、なんでそんな緊張している? 安志大丈夫だよ。俺には何でも話せよ」
安志の手を握って続きを促すように声をかけてやる。こんなにも自信なさげな安志の姿は見たことがないので、戸惑ってしまう。暫くの沈黙の後、重い口を、ようやく開いた。
「……りょ……りょう…」
「りょう?」
安志が何を発したか、すぐには理解できなかった。
「……涼くんのことなんだ。洋の従兄弟の……」
「あぁ涼か! んっでも、どうして涼のこと知っているんだ? 俺……まだ話していないよな? 」
不思議だった。俺の大事な従兄弟の涼の名前が、俺の大事な安志の口から発せられることが。
「洋……俺さ、涼くんと夏にアメリカで偶然出会ったんだよ」
「ええっ!?」
驚いた! そんな偶然ってあるのか。えっと夏って、この夏の話なのか。世間は狭いと言うが、まさか安志が涼と知り合いになっているなんて予期せぬことだったので、俺は目を丸くしたまま固まってしまった。
「すごい偶然ってあるんだな……驚いた。涼は俺と似ていて驚いただろう? 」
「あぁ、そっくりでびっくりしたよ。最初はアメリカ出張の飛行機で見かけて。次は観光中に俺がスリに遭いそうになったのを助けてくれて」
えっ安志が助けられたのか。
そうか……涼は強くなったんだな。強くなって欲しいと願った俺との約束を守ってくれた。そう思うとほんわりと嬉しい気持ちになった。
「そうだったのか。良かったな」
「洋、それで……」
まだ躊躇うようにはっきりしない安志の様子を不思議に思った。いつだって真っすぐな安志なのに変だ。
「洋驚かないでくれ! 実は、涼くんと俺、付き合っているんだ」
「はっ?」
安志の口からまさかそんなことが零れるとは思っていなかったので、俺は持っていたペットボトルをストンと足元に落としてしまった。
「つ……付き合うって……ことは? えっ? 」
「うん、驚かせてごめん。洋と丈さんが付き合っているような付き合いをしたいと思っている」
「お前っ! もうっ涼に手を出したのか」
自分のことを棚にあげて、俺は思わず安志を問い詰めてしまった。
「うっ……」
「どこまで? どこまでしたんだ? 」
「洋っ……お…お前っ随分あからさまだな……まだその……キスしかしてない…」
安志が焦り顔で、真っ赤になっている。
キスしたってことは、本気なんだな。安志はふざけてそんなことする奴じゃない。
「悪い……涼は大事な従兄弟だから……いくらお前でも心配になって」
「分かっている。俺は遊びじゃない。真剣に涼くんと付き合っている。だから洋にも認めて欲しい」
「認めるだなんて……俺はそんな立場じゃないよ……でも」
「でも…?」
安志が不安そうに見つめてくる。そんな顔するなよ。
お前なら、いいに決まっているじゃないか。安志が幸せそうな顔をしているのが、じわじわと嬉しく感じているよ。
「安志が幸せそうで良かった! 本当に良かった。ずっとずっと……俺はお前のことを縛ってしまっていたんじゃないかと心配だった」
「洋、俺……本当のことを言うとソウルに来るまで、心の底に少しだけ洋への気持ちがまだ残っていた。でもな、今回の事件で俺が洋を救えたことで、やっとこの気持ちとさよならできるよ。俺は高校時代も五年前も……すぐ近くにいたのに洋を救えなかったことをずっと後悔していたんだ。やっとお前のピンチに役立てて、本当に嬉しかったよ」
「そんな風に思ってくれていたのか」
「あぁだから洋、俺もう行くよ。でもずっとこれからも傍にいるよ」
「安志……うん……そうだね」
俺は嬉しかった。大事な大事な安志の相手が、俺と双子のように感じる涼だなんて思いもしなかった。
あぁ俺は、また泣いてしまう。
また嬉しくて涙が込み上げてくる。
何度も泣き顔を見せるのが恥ずかしくて、安志をハグして顔を埋め、ごまかしてしまった。
「ぐすっ……安志……俺、涼にちゃんと会いたい。約束したんだ。必ずまた会おうって」
「うん。涼くんも待ってる。あいつ……お前のこと探しに日本に帰って来たんだ。今、大学の一年生だよ」
「そうか……そうなのか。うん必ず行くよ、近いうちに」
「約束だぞ。洋」
安志と俺、二人肩を並べて公園の噴水を眺めた。
高い所から勢いよく落ちてくる水流の中に、生まれたばかりの虹を見つけた。
「あっ安志見ろよ。あそこに虹が出来た!」
「本当だ、あんな風に虹って作ることも出来るんだな」
「安志……幸せってただ転がってくるわけじゃないんだな。自分で見つけて育てていくのも幸せの一つなんだな」
「洋が見つけた幸せと俺がみつけた幸せ、お互いしっかり育てていきたいな」
「そうだね」
「あぁ約束だ。じゃあ洋、俺はもう行くよ」
「うん、またすぐに会えるよ」
俺の大事な安志が見つけた幸せが、永遠に続くことを願っている。
お前の幸せは、俺の幸せとつながっている。
俺も丈と幸せな日々を送れるように一歩一歩進んでいくよ。
お互い……前に進んでいこう。
安志本当にありがとう。
「心はいつも共に」了
第5章・完
あとがき(ご不要な方はスルーで)
****
志生帆海です。こんにちは。
辛い事件も無事に解決し、第5章も今日でおしまいになりました。
途中ハラハラドキドキしましたが、安志と洋の二人が穏やかに未来に向かって、前向きに歩み出すことが出来て良かったと思っています。
日ごろの感謝を込めて、本当にありがとうございます。
『深海』というお話についてご紹介を……
こちらは五章に登場した通訳の松本優也さんとKaiの物語です!
強烈にまで切ない恋からのスタートですがハッピーエンドです。
どうぞよろしくお願いします。
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