重なる月

志生帆 海

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第5章

心はいつも共に 3

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 待ち合わせの月光広場に着くと、もう安志とKaiが来ていた。この二人はなんだか似ているところがあると、遠目に楽しそうに話している二人を見て思った。背格好もそうだが、明るく快活で人を包み込むような大らかで温かい空気を持っている。

 俺は本当にこの二人に出会えてよかった。一生付き合っていける大事な人たちが、今の俺にはいる。そう思えることが心の自信に繋がっていく。

 盤浦大橋を中心に東西にシンメトリーの三日月型をとる「月光広場」には丸い月のような石の舞台があった。その上にこうやって四人で立っていると、この広い世界で出会った大切なメンバーが月の上に降り立ったような、そんな不思議な気持ちになっていく。

「お待たせ」
「洋! もう大丈夫なのか」
「無理してないか」

 二人とも真顔で心配してくれる。

「あぁこの通り、君たちに大量のランチを作れるほどに快復したよ」
「おっそれ弁当? 」
「うん」
「もしかしてあの食べ損ねたやつか」

 Kaiが俺の抱えてたランチボックスをヒョイと持ち上げる。安志も微笑んでいる。

「洋、もしかしてあのおにぎりか? まさかソウルで食べられるとはな」
「ふふっそうだね」
「早速ランチにするか」
「あぁ」

 俺達は、「月光広場」を抜けて「ピクニック場」に移動して、ふかふかの芝生の上に座った。漢江を望みながら肩を並べると爽やかな秋風が真正面から吹いて来た。

「Kaiにはこれ。キムチとチーズを入れてみたよ」
「おお! うまそう!」
「それから安志にはこっち……定番の鮭と卵だよ」
「懐かしいな」
「丈にはこれ」
「おいっ丈だけ特別か? 」
「違うよっ丈には普通のおにぎりだ」
「なんで丈だけ? 」
「いや別に……さぁ食べよう」

  それぞれにそれぞれの想いを込めた。
  ソウルで出会ったKaiにはソウルの味を。
  安志とはあの思い出のおにぎりを一緒にまた食べたかった。

  そして……丈には俺だけの味を届けたかった。

  皆で一気におにぎりを頬張った。

  美味しくて美味しくて、泣けてくる。一人で食べるのでは味わえない美味しさだ。

 「洋、良かったな」

  三人が俺に微笑みかけてくるので、涙がこらえ切れずに、ポロポロと零れ落ちてしまった。そうか、この涙……悲しい寂しい辛い悔しい……そういう涙ではないのか。

 嬉しくて泣けるなんて。
 こんな日がくるなんて。

「洋、お前またすぐに泣く。参ったなぁ」

 安志が苦笑している。

「ごめんっ……でも、俺……嬉しくて」
「ははっいいよ洋らしい」

 そう言ってKaiが頭をぐりぐりと撫でてくる。

「子供扱いするなよっ」
「洋、良かったな」
「皆のおかげなんだ……俺が今こうしていられるのは」

 丈が本当に嬉しそうに見つめてくれる。

 やっと言える。これを言いたかったんだ。伝えたかった。
 もう一度、何度でも伝えよう。

「みんな、昨日は俺を助けてくれて……守ってくれてありがとう。今度は俺も皆を守りたい」
「あぁそうだな。俺たちは助け合っていこう」

 安志とKaiが口をそろえて言った。そして顔を見合わせて笑った。

「お前っ」
「くくっ気が合うな~」

 ランチを食べ終わると月光レインボー噴水の※噴水ショーが始まった。

「すごい! 迫力あるな」
「あぁ綺麗だ」
「夜はライトアップされてもっと綺麗だって」
「洋、夜に丈さんと二人でデートしてみろよ」

 そんな話をしていると突然Kaiが立ち上がった。

「Kai、どうした? 」
「あっ……うん。あっちに松本さんを見かけて」
「え……通訳の松本さん? 」
「ほら」

 Kaiが指さした方向を見ると、松本さんがひとりで噴水のショーをぼんやりと見つめていた。何故か寂しそうな背中に、ズキッっと胸の奥が痛んだ。

「洋、俺ちょっと松本さんの所に行ってくる。また明日ホテルでなっ。安志くん、会えてよかったよ。俺達似ているよな。だから洋を守るメンバーとしてインプットしておいてくれ。また会おう! 」

 Kaiは松本さんの所へ駆け寄っていった。その様子を見ていると突然話しかけられた松本さんは驚いてびくっと肩を揺らして、その後こちらを振り返った。

 松本さんと視線が絡み合うと、その目に何故か冷たいものを感じてしまった。俺は今まで人と深く関わらないようにしていたけど、あの視線を何度か感じていたことを思い出した。俺に向けられる冷たい……何か思う所があるような視線だ。

「洋、俺さ」

 その時安志に話しかけられた。

「何? 」
「今日の夜便で日本に帰るよ」
「えっ今日? 急だな」
「帰る前にどうしてもお前に話しておきたいことがあって」

 安志が真顔で何かを告白しようとしているので、思わず緊張が走った。その様子を見ていた丈が気を利かせて席を立った。

「洋、私は少し歩いてくるから。安志くんと積もる話があるだろう、久しぶりだし」
「あっ、うん……」

 丈の背中を見送りながら、緊張しながら安志と向かい合った。

「何? 話って?」
「ん、実はな……」








◎月光レインボー噴水
噴水の長さは1.140メートル。盤浦大橋の両側に380個のノズルが設置され、そこから、水中ポンプでくみ上げた漢江の水を20m下に落とすという月光レインボー噴水。1日5~7回稼動し、音楽とともに夜間にはライトアップまでプラスされて、ロマンチックな雰囲気を楽しめます。照明が200個ほどあり夜空に虹のようにさまざまな光を放つことから、この噴水の名前が「タルピッ(月光)ムジゲ(虹)」噴水とつけられました。

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