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第6話:側近と侍女の見聞
しおりを挟む(ディオン視点)
王宮の侍女から奥様が怪我をしたと知らせを受けて、リゼットとともに二人の部屋へ急ぐ。
詳細はわからない。明日のパーティーに大きな支障がなければいいけど……
「や、やめてください公爵……!」
「暴れないでもらえますか」
部屋の前まで来て、ノックをしようと手を伸ばしたところでただならぬ声が聞こえてきた。
「だって、き、汚いです……!」
「そうですね」
い、いったい中で何をしているんだ……!?
奥様のか細い声は簡単に男の想像力を掻き立てた。
手を止めたままリゼットと目を合わせる。多分リゼットも同じことを考えている。
……いやいや、公爵がこんなところでそんなことをするわけない。大丈夫、潔癖で堅物な我が主君を信じよう。
コンコン
「ディオンとリゼットです」
「入れ」
「本当にいいんですよね? 大丈夫なんですよね??」
「いいから入れ」
信じてはいるけど、万が一にもそういう場面に出くわすのは気まずい。念入りに声をかけてからドアを開けた。
中に入って目に映ったのは椅子に座る奥様と、その足に触れる公爵だった。
「大丈夫ですか!?」
「ちょっと捻っただけなの。歩けるし、大丈夫よ」
どうやら階段で足を捻ったらしい。
さっき聞こえてきた問答は、患部を診ようとする公爵に奥様が抵抗していただけのようだ。
「念のため冷やして包帯を巻いてくれ」
「かしこまりました!」
大した怪我ではないようで安心した。公爵の指示通り、救急箱を持ってきたリゼットが手当てを始めると奥様は大人しく足を差し出した。
それにしても……正直公爵が手当てをしようとしてたのは意外だった。他人の足なんて絶対触りたがらないはずなのに。怪我人は例外なんだろうか。それとも奥様が例外なのか……。
「夕食は部屋まで持ってくるように伝えてくれ」
「かしこまりました」
政略結婚で嫁いできた奥様が肩身の狭い思いをしないよう、公爵なりにいろいろと気を遣っているのは知っている。奥様は奥様で、潔癖な公爵に対して過剰な気遣いをしている。
お互いに思いやりを持って接しているのは明白。もう少し時間が経てば二人の距離はもっと縮まるだろう。
明日はきっと皇太子以上にこの夫婦が注目されるに違いない……楽しみだ。
***(リゼット視点)
軽く白粉を塗っただけで際立つ白い肌に、バラ色の頬紅を重ねる。口紅は濃い赤が流行っているけれど、ナタリー様はオレンジ系の方が似合う。
亜麻色の髪を高い位置でまとめ、わざと残した後れ毛で色気を演出。新しく購入したイヤリングとネックレスを着ければ……
「史上最高にお綺麗です!」
「ありがとう」
史上最高に美しいナタリー様の完成である。
「……で、昨夜はどうだったんですか?」
「別に何もないわよ」
準備がひと段落して、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
昨夜、ナタリー様は結婚して初めて旦那様と同じお部屋で過ごした。最近のお二人はお互いに歩み寄っているみたいだし期待していたけど、どうやら本当に何もなかったみたい。ナタリー様は嘘をつけない性格だから、何かあったら挙動不審になってるはずだもの。
コンコン
「夫人、準備は終わりましたか」
「はい」
約束の時間きっちりに旦那様が迎えに来た。ふふふ……いくらあの堅物な旦那様でも、ナタリー様のこのお姿を見たらきっと頬を赤らめずにはいられないわ!
「……よくお似合いです」
「あ、ありがとうございます」
心こもってねぇ~~~……!
こんなに美しい女性を前にしてここまで動じないことってある?そもそもナタリー様と一晩同じ部屋で過ごして手を出さないってどういうこと??
「行きましょう」
「!」
自然と差し出されたエスコートの手に私もナタリー様も驚いちゃったけど、別にこれは普通のことだ。
「……昨日より重くなりましたね」
「!?」
「よかったです」
ナタリー様がおずおずと旦那様の腕をとって歩き出すと、デリカシーのないことを言ってきた。
いや言いたいことはわかる。今まで遠慮してかけてなかった体重が、足を捻ったことによりちゃんとかけられるようになったことを言っているんだと思う。
だとしても「重い」という言葉は女性に対して禁句だ。
「はあ……」
女性に対する配慮には欠けるけれど、旦那様のお顔立ちは非の打ち所がない。ナタリー様と並ぶとそれはもう名画のような美しさだ。思わず感嘆のため息が出た。
皇太子の誕生日パーティー?いいえ、今日は帝国一高貴で美しい夫婦のお披露目会になるだろう。
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