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番外編 第二世代の恋模様
一番弟子ルミエ②
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私室のベットに潜り込み、悶々とあの姿を思い出す。
可愛かった…あの切ない歌声…たまらない…
アデル様はあれを歌劇の一場面と言っていた。ならば他があるということか。
観たい!それも、今すぐにだ!
夜も明けて翌朝、12歳になり父母と同じ食卓に着けるようになった朝食の場で思いきって懇願する。
「父上、母上、近々バーガンディに行きたいのです。ぜひ許可をねがえませんか?アデル様と約束していた歌劇場…どうしてもすぐに行きたいのですっ!」
「ええ…アデルとの約束なら、まぁ…。アデルはともかく叔父様にあまりご迷惑をお掛けしないようにね」
「そう、アデルは良いとして叔父上はとてもお忙しいのだから」
アデル様もお忙しいとは思うのだけど、アデル様なら大丈夫というのが両親ともの共通認識みたいだ。
ともかくこうして僕は久しぶりのバーガンディへと転移陣を起動した。
「アベニアー。来たよー。ねぇ、せっかく来たんだからどこか案内してよ。何か新しいものとか出来てないの?あれっ?」
「あ、ルミエ…」
「ああー、グレンじゃないか!可愛いグレン!いつも可愛いけど今日も可愛いねっ!」
「うるさい!いつもいつもそればかり。兄さまなら稽古場だよ。早く行きなよ」
「こらグレン!王子様に不敬だよ。それに言葉使いも悪すぎる。マナーの先生に叱られても母様は庇ってあげないよ」
「だってルミエはいつもこうだもの。僕にもミルドレッドにも可愛い可愛いって。ちょっと気が多すぎるんじゃない?ベーだ。そんなんだから父様にルミエには気をつけろって言われるんだよ」
「ひどいな…僕はただ思ったことを口にしているだけなのに。そうだそのミルドレッドはどこ?一緒に写真撮るの楽しみにしていたんだ」
「はは…ぶれないね…」
アデル様に連れられて歌劇場へと足を運ぶ。
公演はちょうど今日から5日間。楽しみだな。どんな舞台が見られるんだろう…
「でね、こっちがバーガンディ歌劇美術館。過去公演の衣裳とか小道具とかが展示してあるの。」
「へぇ~」
「で、ここが物販ブース。歌劇団や音楽隊の応援用小物なんかが売られてるよ」
開演までの余った時間でアデル様は歌劇場の周辺を色々と案内してくれる。せっかくだからその物販とやらを見てみることにした。
「ふんふん、各団員の写真や…ハンカチ。それに…おおっ!似せたぬいぐるみ、それも大中小。うん?この棒は?」
「あっ、それ、魔力を流すと色が光るんだよ。ほらこんなふうに。」
「その光る棒をどうするんです?」
「主となる団員にはそれぞれ持ち色があるからそれを振って応援するんだよ」
「……キャンディスはその主となる団員で?」
「えっ、もちろんそうだよ。設立時からの団員だからね。一番人気!そっか、ルミエはキャンディー推しか。じゃぁこれ、このピンク色のペンラ持ってて」
そうして開演を迎えたのだ。
キャンディスを軸に据えた、それは切ない愛の物語。捕らえられた夫を救うため男装して監獄へと忍び込む妻の役がキャンディスだ。愛情深く勇気にあふれたその主人公の、夫を捕らわれた苦悩を、再会の歓喜を高らかに歌い上げる。
大喝采のなか幕は閉じ、僕は一歩も動けない。なんて…こんな…こんな…王宮での歌声も素晴らしかったけどもっと素晴らしいな!
いつだったかアデル様が言っていた。興奮すると語彙が無くなる…その言葉の意味が分かった…
人波のひいた物販ブースに無理を言って寄らせてもらう。
どれを買おう…迷う…全部欲しい…
「ここにあるキャンディスの棚の品物、ここからここまで全部もらおうかな!」
「げっ!」
隣で可愛いアデル様が顔に似合わない声を出した。
「アデル様~、来ました~歌劇場行きましょう」
「ああ、そうだね、歌劇は毎日微妙な変化があるからね。毎日見ても飽きないよね」
「アデル様~、今日も来ました~歌劇場行きましょう」
「ああ、うんまあ、良くお兄様良いって言ったね?」
「アデル様~、やっぱり来ました~歌劇場行きましょう」
「…ま、マカフィーさん、お願いしても?」
「アデル様~、ああっ!今日が最終日だなんて!」
「じ、じゃぁ、思いの丈を込めて花束でも贈ったら?」
さすが王家はスケールが違う。軽い気持ちで花束を勧めたら、楽屋が埋まって使えなくなるほどの花束が届けられた…。バーガンディ中の花屋から花が消えたとか消えてないとか…
ルミエール…まさか我が子よりもオタク度が高いとは…
いつの間に歌劇団ファンブックを読み込んだのか、気が付いたらたった数日で誰よりも詳しくなっていた。そう、まるで古参のファンかのように。
何を聞いても食い気味に答えるルミエの姿に懐かしさを覚えたのは僕だけの秘密だ。
それにしても恐るべしキャンディ…。
ふわっふわだったキャンディは、16を超えたあたりから妙な色気を纏うようになり…毎公演ごとに一人や二人、失神するのも恒例になった…。
だからといって国の王子をここまで夢中にさせるなんて。本人になんの自覚も無いのがまた恐ろしい…。
「ああっ、今日も良かった…アデル様!再演はっ、再演はまだですかっ!」
「まだだよ…それにこれ以上通わせたらお兄様に怒られそうだし、魔力だって馬鹿にならないんだよ」
「ちぇ、じゃぁ小物を買って帰るとします。次の公演が決まったら、親族特権で事前に教えてくださいね。」
「嫌な特権の使い方だなぁ。いや、平和でいいのか?」
「それにしてもアデル様は、毎回僕が小物を買っても何も言われないのですね?母様は、これ以上同じものを買わないようにってうるさく言うのに」
「えぇー、だって基本だよね。保存用、観賞用、布教用。オタクの基本は最低3つだよねぇルミエ。」
「そんな基本、聞いたことありませんよ…」
後ろからマカフィさんのあきれたような声がした…
可愛かった…あの切ない歌声…たまらない…
アデル様はあれを歌劇の一場面と言っていた。ならば他があるということか。
観たい!それも、今すぐにだ!
夜も明けて翌朝、12歳になり父母と同じ食卓に着けるようになった朝食の場で思いきって懇願する。
「父上、母上、近々バーガンディに行きたいのです。ぜひ許可をねがえませんか?アデル様と約束していた歌劇場…どうしてもすぐに行きたいのですっ!」
「ええ…アデルとの約束なら、まぁ…。アデルはともかく叔父様にあまりご迷惑をお掛けしないようにね」
「そう、アデルは良いとして叔父上はとてもお忙しいのだから」
アデル様もお忙しいとは思うのだけど、アデル様なら大丈夫というのが両親ともの共通認識みたいだ。
ともかくこうして僕は久しぶりのバーガンディへと転移陣を起動した。
「アベニアー。来たよー。ねぇ、せっかく来たんだからどこか案内してよ。何か新しいものとか出来てないの?あれっ?」
「あ、ルミエ…」
「ああー、グレンじゃないか!可愛いグレン!いつも可愛いけど今日も可愛いねっ!」
「うるさい!いつもいつもそればかり。兄さまなら稽古場だよ。早く行きなよ」
「こらグレン!王子様に不敬だよ。それに言葉使いも悪すぎる。マナーの先生に叱られても母様は庇ってあげないよ」
「だってルミエはいつもこうだもの。僕にもミルドレッドにも可愛い可愛いって。ちょっと気が多すぎるんじゃない?ベーだ。そんなんだから父様にルミエには気をつけろって言われるんだよ」
「ひどいな…僕はただ思ったことを口にしているだけなのに。そうだそのミルドレッドはどこ?一緒に写真撮るの楽しみにしていたんだ」
「はは…ぶれないね…」
アデル様に連れられて歌劇場へと足を運ぶ。
公演はちょうど今日から5日間。楽しみだな。どんな舞台が見られるんだろう…
「でね、こっちがバーガンディ歌劇美術館。過去公演の衣裳とか小道具とかが展示してあるの。」
「へぇ~」
「で、ここが物販ブース。歌劇団や音楽隊の応援用小物なんかが売られてるよ」
開演までの余った時間でアデル様は歌劇場の周辺を色々と案内してくれる。せっかくだからその物販とやらを見てみることにした。
「ふんふん、各団員の写真や…ハンカチ。それに…おおっ!似せたぬいぐるみ、それも大中小。うん?この棒は?」
「あっ、それ、魔力を流すと色が光るんだよ。ほらこんなふうに。」
「その光る棒をどうするんです?」
「主となる団員にはそれぞれ持ち色があるからそれを振って応援するんだよ」
「……キャンディスはその主となる団員で?」
「えっ、もちろんそうだよ。設立時からの団員だからね。一番人気!そっか、ルミエはキャンディー推しか。じゃぁこれ、このピンク色のペンラ持ってて」
そうして開演を迎えたのだ。
キャンディスを軸に据えた、それは切ない愛の物語。捕らえられた夫を救うため男装して監獄へと忍び込む妻の役がキャンディスだ。愛情深く勇気にあふれたその主人公の、夫を捕らわれた苦悩を、再会の歓喜を高らかに歌い上げる。
大喝采のなか幕は閉じ、僕は一歩も動けない。なんて…こんな…こんな…王宮での歌声も素晴らしかったけどもっと素晴らしいな!
いつだったかアデル様が言っていた。興奮すると語彙が無くなる…その言葉の意味が分かった…
人波のひいた物販ブースに無理を言って寄らせてもらう。
どれを買おう…迷う…全部欲しい…
「ここにあるキャンディスの棚の品物、ここからここまで全部もらおうかな!」
「げっ!」
隣で可愛いアデル様が顔に似合わない声を出した。
「アデル様~、来ました~歌劇場行きましょう」
「ああ、そうだね、歌劇は毎日微妙な変化があるからね。毎日見ても飽きないよね」
「アデル様~、今日も来ました~歌劇場行きましょう」
「ああ、うんまあ、良くお兄様良いって言ったね?」
「アデル様~、やっぱり来ました~歌劇場行きましょう」
「…ま、マカフィーさん、お願いしても?」
「アデル様~、ああっ!今日が最終日だなんて!」
「じ、じゃぁ、思いの丈を込めて花束でも贈ったら?」
さすが王家はスケールが違う。軽い気持ちで花束を勧めたら、楽屋が埋まって使えなくなるほどの花束が届けられた…。バーガンディ中の花屋から花が消えたとか消えてないとか…
ルミエール…まさか我が子よりもオタク度が高いとは…
いつの間に歌劇団ファンブックを読み込んだのか、気が付いたらたった数日で誰よりも詳しくなっていた。そう、まるで古参のファンかのように。
何を聞いても食い気味に答えるルミエの姿に懐かしさを覚えたのは僕だけの秘密だ。
それにしても恐るべしキャンディ…。
ふわっふわだったキャンディは、16を超えたあたりから妙な色気を纏うようになり…毎公演ごとに一人や二人、失神するのも恒例になった…。
だからといって国の王子をここまで夢中にさせるなんて。本人になんの自覚も無いのがまた恐ろしい…。
「ああっ、今日も良かった…アデル様!再演はっ、再演はまだですかっ!」
「まだだよ…それにこれ以上通わせたらお兄様に怒られそうだし、魔力だって馬鹿にならないんだよ」
「ちぇ、じゃぁ小物を買って帰るとします。次の公演が決まったら、親族特権で事前に教えてくださいね。」
「嫌な特権の使い方だなぁ。いや、平和でいいのか?」
「それにしてもアデル様は、毎回僕が小物を買っても何も言われないのですね?母様は、これ以上同じものを買わないようにってうるさく言うのに」
「えぇー、だって基本だよね。保存用、観賞用、布教用。オタクの基本は最低3つだよねぇルミエ。」
「そんな基本、聞いたことありませんよ…」
後ろからマカフィさんのあきれたような声がした…
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