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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

383.お爺ちゃんと家族対抗懇親会4

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 私がセカンドルナで濁ったついでに訪れたのは領主邸だった。
 マリンやオクト君は向かう先を聞いてなるほど、と言う顔をした。


「話には聞いていたけど、本当に入れるのね」

「ここって探索できない場所じゃなかったの?」

「そう言われていただけで、実は入る為には順序が必要だったパターンだよ。人を連れて行くのはこれで三度目。他に来たことのあるプレイヤーは居ないかな?」

「僕はまだ知りませんね。もし言っていたとしてお義父さんほど有意義な会話に持ち込める人を知りません」

「そうなの? 手記とか大盤振る舞いしたのになぁ。残念」


 かつて地下大陸の攻略イベントを起こした時にポイント交換で配った冒険手記。
 当たり枠には私の体験談を記した情報も入れていた。
 まさか額縁に入れて大事に保管しているとかじゃないよね?
 私は行動記録をなぞって欲しくて放出したのに、頼むよ?


「さて、ここだ。アポイントメントなしだから領主様の機嫌は頗る悪いと思うけどそう言うものだと思ってくれ」


 入り側にそんなアドバイスを家族に向けて言うと、みんながみんな困った様な顔をした。なぜ事前にアポイントメントを取らないかと言う顔だが、そもそも私がここに赴く際は一切アポイントメントなしだから問題ない。
 というか、アポイントメントなんて気にしてたら一生会えないよ?
 ただでさえプレイヤー嫌いなんだから。


「やぁこんにちわ領主様。今日はたくさんの土産話を持ってきたんだ。ついでに家族も連れてきた。人数が多い点は目を瞑ってくれると嬉しいね」

「ふむ、貴殿か。相も変わらず唐突だな。人数については問題ない。それくらいの懐は深いつもりだ。席に着いてくれないか? もてなしてやろう」


 なんだか今日は機嫌が良い?
 事前に土産話を持参したと言ったアピールが良かったのだろうか?


「なんだか随分と丸くなりました?」


 オクト君が前々回、前回と比べて領主様の態度が緩和してるのに気がついて私に耳打ちしてくる。


「そうみたいだね。嘘でも土産話があるって言ってみるもんだ」

「え、あれ嘘だったんですか?」

「私の秘匿してる情報はあまり表に出せないものだ。しかしその中には彼らの欲してる情報もあるかもしれないだろう? 私としてはどこからどこまで彼らムーの一族が欲しい情報なのかわからないんだよ。情報そのものはあるけど、空より地下の情報の方が嬉しいかなという感じだ」

「やっぱりあるんじゃないですか。それって義姉さんは知ってる情報ですか?」

「地下の情報なら私より詳しいだろうね。ヒャッコ君にも聞いてみたら? 彼女の事だ、メンバーとの情報共有も万全なはずだよ。私と違ってね?」


 ただ、レムリアの器は表に出さない方がいいな。
 今回は探偵さんを連れてきていない。
 音の族長の様に気分を激昂させた場合の対処が面倒だ。

 ムーを信仰してるなら特に龍人族に着いては興味を示すだろうからね。その点を話していこうと思う。
 あと天使さんもまたムーの一族。
 そう思うと私のなんとも思ってない情報も役に立ちそうだ。

 皆が海を内包したソファの反応を楽しんでいると、不意にテーブルの前が開いてドリンクの入ったカップが迫り上がってくる。
 随分と近未来的なドリンクの手配方に特に驚きもせずに受け取り、口に運んでいく。
 

「どうだろうか、我が一族の誇る古代の遺産は。お楽しみいただけてるかな?」

「ええ、本日は忙しい中私どもの相手をしていただきありがとうございます」

「良い、たまにはこうやって外の空気も入れる様にしておるのだ。貴殿以外にもよく人を通しておるのでな」

「おや、私以外にも来訪者が来ているのですか?」

「ああ、あまりにも熱心に頼み込んでくるので根負けして迎えたのだ。そこで貴殿の活躍を聞いてな。次はいつ訪れてくるのだろうかと期待していたのだ」


 なるほど、それで今回大勢で押しかけたのにも関わらず歓迎ムードだったのだな?
 ならばこちらも話題を振らねば無作法というもの。
 どこまで話そうか思案し、厳選してから言葉を紡いだ。


「ほう、我が同胞が天上世界と地下世界に逃げ延びていたと? これは誠に興味深い!」

「地下への手引きはこちらにいるヒャッコ君が詳しいので彼と連絡を取り合ってください。そして空への手引きは私がいたしましょう。どうせ今から行こうと思っていた所です。少しお時間をいただきますが宜しいでしょうか?」

「なんと! 直接お会いすることができるのか!」

「勿論。領主様のお時間の都合を鑑みてですが」

「そんなもの、是が非でもついて行くに決まっておろう! 他の街の領主達に自慢ができるぞ!」


 そう言えば他の街にも領主さんが居るんだっけ?
 詳しく探索してないから知らなかったけど。


「マリンはサードウィルの領主邸の近くにまで行ったんだっけ?」

「行ったけど、途中で逃げてきちゃったから」

「ああ、そう言えばあそこは一回滅んだものね。じゃあ領主邸への手引きができないのか」

「うむ、他の領主への面通しが必要であるか?」

「それはそうですよ。一緒の世界に住んでるのに会えないなんて寂しいじゃないですか。知らないから会わなくていいなんて私にはできません。それは彼らにも言える事です。彼らはね、私よりも随分と先の街へ進んでいるんです。でもそこら辺の探索を疎かにしてまして」

「ならば私から掛け合ってみようか? 無論、それは先に地下と天上世界へ案内してもらってからに限るが」

「おお、それはありがたい事です。良かったね、ヒャッコ君」


 領主様は相変わらず私以外と会話しなかったけど、私が話を振ればそちらへも興味を示す様だ。
 なにせ手がかりの一つを握っているのだからね。


「ああ、妻にいい土産話が出来る。しかしどの様に連絡を取り合えば良いだろうか?」

「それならば次はこれを持って来訪すれば良い。アポイントメントがなくとも取り合おう」


 何と気前の良いことに私の持ってる称号をヒャッコ君が受け取っていた。同胞、もといムー一族の生き残りの手がかりを握っているのだ。
 是が非でも手に入れたい情報なのだろう。
 実際に行けるかどうかは問題だけどね?
 地下ってめちゃくちゃ熱いんだよね、物理的に。
 溶けちゃわないか心配だ。
 そこら辺はまぁ、ヒャッコ君に一任しよう。


『|◉〻◉)僕、何度も焼き魚になりましたもん』


 スズキさん、まだいたの?


『|ー〻ー)僕はいつでもハヤテさんと一緒ですよ?』


 はいはい。急に出てこられるとびっくりするからね。
 出てくる時はひとこと言ってね?


『|◉〻◉)b』


 自称心の友達はそれから出てこなくなった。
 本当にストーカーのようだよ。
 まぁ彼女のおかげで気が滅入る事も少ないからいいけど。


「それでは早速向かいましょうか。本来なら赤の禁忌へは飛空挺で行くのが通例ですが、せっかくですからマナの大木ルートでいきましょう」

「マナの大木と言うと我が街のシンボルになっているあの巨木ですかな?」

「それです。その大木の頂上が空の世界の玄関口になってるんですよ。私のスキルで一度に全員を連れて行くことができますけど、どうしますか?」

「ふむ、安全性が心配だが背に腹はかえられぬな。良いだろう、少し待っておれ」


 こうして私たちの旅路へセカンドルナの領主さんがついてくることになった。
 そしてもう一人、ついでとばかりに連れていきたい人物? がいる。


[我を祖先の元に連れて行ってくれると言うのは本当か?]

「ええ、以前はイベント前でしたが、今の私はもうイベント関係者ではありませんから、いつでも出かけられますよ」

[そうか、既に資格を得ていたか。ならば門の先に進むことを認めよう]

「ならば貴方もお役御免ですね?」

[そう言うわけにもいかないのだが、ここのルートはまだ情報開示をしておらぬのか?]

「私は詳しく知りませんし、私以外が誰かここにきましたか?」

[我は知らぬな]

「ならばそう言うことです」


 何がそう言うことなのか自分で言っててもよくわからなかったが、言いくるめるにはこれくらい強気の方がいい。
 そうして私たち親戚の他にイ=スの民が加わることになる。
 ただ彼は恥ずかしがり屋なのかその姿を認識させない術式で身を覆っていた。

 一応私たちのSAN値を消失させないための配慮だろう。
 しかしその認識阻害を暴く人物が私の他にもう一人いた。
 もりもりハンバーグ君である。

 彼もまた、私と同じく聖魔大戦のイベントフリー資格者だ。


「お義父さん、どこ行ってるかと思ったら、彼は誰です?」

「イ=スの民」

「うわぁ」

「え、え? ここに居る以外に誰かいるの?」


 私ともりもりハンバーグ君の会話にマリンが入ってくる。
 しかし彼女の視力では捉えきれない超常現象。
 

「彼は少しシャイでね。人前に姿を表すのは苦手なんだ」

「そうなんだね。あたしはマリン! お爺ちゃんの孫です。どうぞよろしくお願いします!」


 ペコリ、と明後日の方向に頭を下げるマリン。
 そっちじゃないよ、と言いそうになるが彼女には見えてないのだから仕方がない。


[ふむ、あれは我に対しての挨拶であるか?]

「うん、本人はそのつもりだろうけどね、あいにくと君の姿が見えないらしい」


 彼がイベント資格者以外に興味を持つのは珍しいことだ。
 普段から研究一辺倒ぽいのに。


[ならば少し興味が湧いた]


 イ=スの民が何かを掲げる様にその触腕を動かした。
 すると、マリンがイ=スの民を認識した様だ。
 

「あ、こっちにいたんだ。ごめんなさい!」


 しかしその姿をはっきりと視認することはできない様で、ぼんやりと認識することで精一杯だった様だ。
 彼も粋なことをするじゃないか。
 みたら正気を失う姿をしてる癖にね。


[良い。礼は不要だ]

「僕が思ってたイメージとだいぶ違いますね、この方」

「だよね。多分その姿をまともに見れない人たちの思い込みだと思うんだ。ほら、彼って人類には刺激が強すぎる姿をしてるじゃない?」

「たしかに。僕は慣れましたけど」

「私も慣れたね」

[むしろ慣れて貰わねば会話どころではないがな]


 どこかで対話を望んでいたのだろう、イ=スの民が会話に割り入ってくる。
 なんだ、この人も寂しがりやなんじゃないの。

 そして私たち親戚に二人のNPCを加えてマナの大木の麓へ到着した。

 ここから先は自力で、と言いたいが普通に裏技を使わせてもらう。


「領域展開・ルルイエ」


 ぐおん、と風景が歪み、世界に海が介入してくる。


「なぜここでその技を?」


 ヒャッコ君が訝しげに尋ねてくる。


「私のスキルで運ぶと息切れするからだ。だったら少しくらいズルをしないと」

「まぁ、分からんでもないが」

「オクト君、ボートはまだある?」

「ありますけど、一度クランに取りにいかないとこの人数を運びきれませんよ?」

「一つあればいいよ。あとは手持ちのものとくっつけて運用する」

「スキルの足し算、それって日常的に使えるのか?」

「領域が消えなければずっと使えますよ。まぁ今はまだクトゥルフさんの影響下なので限定的な能力ですけどね」


 暗にクトゥルフさんが支配権を失えばその能力の効果が消えるとヒャッコ君に匂わせておく。
 聖魔大戦はこのチュートリアルエリアと地続きである。
 ベルト持ちプレイヤーの及ぼした影響でどこに転がるか判ったものではないのだ。
 それを理解してもらえれば、世界の支配者には誰が相応しいなどとは考えなくなる。

 なんせイベントをクリアしたら支配者の資格を失うのだから。
 世代を交代して神格は次代と共有する。
 一度信仰した絆は消えず、神格が他人の手を通じてその影響力を高めて行くのが本質だと、私は思うんだよね。


「掌握領域、ボート+リフトボード」


 あまり使ってないスキルを合わせて使う。
 それ自体がSP消費で使用できる浮く板なのだが、重力無視を手に入れてから一度も使ってなかったりする。
 今ここで使わなければ多分二度と使わないだろう。

 空間からクトゥルフの手を抜き出してボートを叩いて押して広げて行く。
 形は少し無骨になったけど、まぁ何とか全員乗れるだろう。

 突然異形の腕を出したから若干名喚き出した子供達がいたが知らんぷりした。

 そして一同は天空の地へ。
 ボートに揺られながら、青の禁忌が座するその場所へと近づいて行く。
 そしてこちらの向かって天上人、天使様が舞い降りた。


「なんだ、この強烈な寒気は!? 何奴!!」


 そしてイ=スの民の気配に怯える様に槍を明後日の方向へ向けていた。
 親戚一同(マリンを除く)がジトッとした視線を私に向けてくる。
 いや、悪かったって。相入れぬ存在を連れてきてしまったことは謝るよ。
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