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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

382.お爺ちゃんと家族対抗懇親会3

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 やはり適度に頭を使うのはいい事だ。
 フィールやフィロー、イクスは一体なんの旨みがあるのかわからないと絶賛不貞腐れているが、パープルだけが一度体験してその先を知っている。


「お父さん、次は高い場所にブロックがあるわ、任せてもいい?」

「勿論だとも」


 一度イベントで使った通路を記憶しているのか、パープルの指示で私は壁を登ってブロックを難なく回収する。
 本当は風操作で一気にブロックを回収してもいいのだけど、それをしたらどうやって登るかを考える楽しみを奪ってしまうのでしない。


「それにしてもお爺ちゃん、どうしてそんなに早く壁を登れるの?」


 フィローの純粋な疑問。
 戦闘特化の彼女にとっては壁を登るなんて技術は横に捨てて置いてるに違いない。
 彼女にとってその技術を伸ばすメリットが見つからないのだろう。


「私はパッシヴにしかスキルを割り振ってないからね。勿論これを楽しむためのスキルビルドだよ」


 暫定ナイアルラトホテプから提供されたカメラを持ち上げ、にこりと笑う。


「なのに今や知らない人の方が少ないくらいの有名人なんだから呆れて物も言えないわ」

「お爺ちゃんて実は凄い人なの?」


 AWOを長く離れていたフィローには私がどう言う人物なのかよくわからない様だ。
 シェリルやヒャッコ君と一緒に行動してるとあまり外の景色に触れる機会もないのかな?
 それとも思考が随分と狭まっている証拠だろうか?

 自分には必要ないと切り捨てて見ることもしない。
 もしかしなくてもそうなのだろう。


「どうだろうねぇ? 私はただ家族やフレンドさんに撮った写真を自慢したかっただけだよ。そうしたら周囲が勝手に騒ぎ出したんだ。何をそんなに驚いてるのかさっぱりわからなかったけどね」


 そう言って同意を促せば、フィールが半眼になりながら解説を付け加える。パープルに至っては笑っていた。


「フィローちゃんにとっては意外だろうけど、父さんてば空の大陸の第一発見者なのよ」

「空の大陸!?」

「そ。地上しかないと思われたこのゲームの世界に実は空にも広がりを見せる世界があった。その発見者」

「そうだったんだ」

「その上で空の素材を提供して、ついでに寄せ集めの有志で攻略もしちゃったのよ」

「えっ!? だってお爺ちゃんパッシヴ極なんでしょ? 攻略なんて可能なの?」

「でもしちゃったのよ。その謎の行動力が父さんの魅力なのかもね」

「へー、お爺ちゃんやるじゃん!」

「凄いのは私よりもフレンドさんだけどね。私なんて写真撮ってただけだし」

「そのフレンドさんからも何故か賞賛されてましたよね? 母さんからよく聞いてますよ?」


 囃し立てる娘達。
 それにフィローが羨望の眼差しで私を見る。
 なんだか照れてしまうな。

 あとイクスは余計なこと言わなくていいからね?
 そういうところはフィールにそっくりだ。
 やはり長男は母親に似ると言うのは本当だな。


「あの人達は注意が私に向くように仕向けてるだけだよ。いつも私に責任を押し付けるんだ。自分が被害を被りたくないからってね。お爺ちゃんはいつも矢面に立たされて迷惑してるんだよ」

「そうだったの? なんだったらノリノリで対応してるからむしろ望んでそのポジションにいるのかと思ったわ」


 パープルからのツッコミが内角を抉ってくる。
 フィールも頷いてるし、フィローに至ってはもう何を信じていいかわからないと言う顔だった。


「自業自得と言うやつでは?」

「イクス、君もなかなか言うねぇ」

「お爺さんに遠慮はいらないと母さんから叩き込まれてますので」

「フィール?」

「だって本当のことじゃない。全部こっちに丸投げして、後の事なんて全然考えてないでしょ? こっちはそれなりに被害受けてるんだからね。かわいい仕返しと思って受け止めてちょうだい」

「まったく、君たちが欲しいと言うから見返りを求めず渡したと言うのに。こんな風に仕返しされるんでは今後容易に上げるのは考えてしまうな」

「そうよ。本当は世間に公表してから手順を踏んで私の方に回ってくるべきなのよ。値段交渉だって段違いにやりやすくなるわ」

「それ、姉さんが取り決め面倒くさがっただけじゃないの? お父さんに非はないわ」

「そうだけど~、パープルは良いわよね。渡された素材をただ使うだけだもの。こっちは仕入れた素材の利用価値を提示して、それから売り出さなければいけないと言うのに」

「お姉ちゃん、それはうちでは禁句よ? 素材だって難易度に熟練度が追いついてなきゃ触る事だって難しいの。特にお父さんの持ってくる素材は今まで取り扱ってた素材の斜め上にぶっ飛んでる一流品ばかり。いかに失敗しないように加工するかで毎回オクトさんが神経使ってるんだからね!? 事情も知らないお姉ちゃんに言われたくないわ」


 やがて論争がヒートアップしてしまう二人。
 大の大人二人が子供の前で喧嘩するんじゃないよ、まったく。


「止めなくて良いの?」

「言いたいこと言い切ればそのうち止まるでしょ。あの二人は昔からああなんだ。でも姉妹仲は良い方だよ?」

「そうは見えませんけどね」

「イクスはもう少し母親の気持ちを汲んであげるとかした方がいいよ?」

「でも、自業自得では?」


 眼鏡をくいとあげて自分は間違ってませんが? アピールをしてくるイクス。
 ほんと、この子誰に似たんだろうか?
 フィールとも、もりもりハンバーグ君とも全然違うんだよなぁ。


「結局どっちもどっちってこと?」

「その大元にお爺さんがいるだけだね」

「分かったような分からないような?」

「つまり私が悪いと言う事にすれば全て丸く収まると言うことだ。そうやって全員の期待を背負わされてるのさ」

「でもお爺ちゃんがしたのって素材の提供だけなんでしょ? どうして下請けが責任の押し付け合いをするの?」


 フィローが本当に理解できないとばかりに眉を顰める。
 それを嗜めるのは年の近いイクスだ。


「見つけた素材が問題なんだ。フィローはオリハルコンという素材に聞き覚えは?」

「勿論あるよ。伝説上の金属で、他のゲームでは希少と言う意味合いで取り扱われてるわ……ってまさか?」

「そうだね、私が発掘した鉱石はオリハルコン、そしてアトランティス鋼、あとは龍鋼とかそう言う聞き覚えのないやつばかりだね」

「あーーー、それは……喧嘩するのもよくわかるって言うか」

「お爺さんが世間一般で戦犯と呼ばれてる理由はそこだね」

「えっ!? ひどい言いがかりを聞いたよ。何その戦犯て?」

「戦争中に自陣営に莫大なる被害をもたらした人の事を指して使う言葉だけど、お爺さんの場合はその情報一つで戦争を巻き起こすプレイヤーが後を絶たない事からそう呼ばれてるね。別名『情報の爆弾魔』。情報を公開して、特に検証もしないで次々と新しい情報を公開していくことからつけられた二つ名だよ」

「うわぁ……お爺ちゃん、地雷じゃん」

「地雷!?」

「まぁね、地雷源の上でタップダンスを踊るくらいの危険行為を何度も犯してるとは言われてるよ。その上で自分は写真撮影が趣味だなんて吹聴してるのがうちのお爺さん」

「イクス……君の言葉は悪意に満ちているよ。祖父を捕まえてなんて良い草だ」

「だって本当のことでしょ? その件で何度母さんが頭を抱えたか考えたことがありますか?」

「それは良かれと思って」

「ほら、こう言う人なんだ。良かれと思っての情報提供。後のことについてはノータッチ。だから敵が多くてね」

「みんなして酷いんだ。私だって隠すべき情報は隠してるよ! どうしても情報を公開してくれと言うから仕方なくだね……」

「これがうちのお爺さんが危険視されてる由来だよ。表に出てない情報が叩けば埃が出るくらいに持ってると言う噂だ」

「あたし、爺ちゃん誤解してたかも。ただの気のいいお爺ちゃんだとばかり思ってた」

「フィローはそんな噂に惑わされない良い子だってお爺ちゃん理解してるからね?」

「時すでに遅しってやつですよ、お爺さん?」

「私は君がナイアルラトホテプの化身だと言われても納得してしまいそうなほど怒りに満ちているよ」

「そんなまさか。僕ほどの人物を捕まえてナイアルラトホテプはないでしょう。さぁ、母さん達が和解を始めましたよ。僕たちも遅れを取り戻しませんと」

「はいはい、じゃあ巻き返すよ」



 結果、巻き返した。

 私が本気を出せばこのくらい容易い。
 まぁ変にフィローが誤解してしまったので私の中でイクスが要注意人物として挙げられてしまうが。

 他のチームが和気藹々としてる中、なんで私のチームだけがギスギスしてるんだろうね?


『|◉〻◉)どんまいです、ハヤテさん』


 スズキさんの声が頭の中でこだました。
 この人だけには言われたくないと内心思った。

 こっそりいつから見てたの? と念話で送ると、最初からですと聞かなきゃよかった返答が返ってきた。
 ストーカーかな?


 何はともあれ私達の懇親会は続いていく。
 戦闘以外での楽しみ方の模倣はやはりあそこ以外にないだろう。

 次の会場はセカンドルナ。
 そしてスタート地点はマナの大木だ。

 でもその前に、少し立ち寄る場所があるんだ。
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