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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

376.お爺ちゃんと聖魔大戦20

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 くま君の目的はグラーキ。
 でもグラーキを倒したいのはシェリル達で、その間私達がくま君を抑えると言う形になった。

 まぁどのみちくま君には詳しくお話を聞きたいところだからちょうどよかったのかな?


「アンブロシウス氏、ツァールはまだ行けそう?」


 先ほど投擲していたのを見てとりあえず聞いてみる。


「まだ投げることはできるが、あまり効果は無さそうだぞ?」


 うん、知ってるよ。
 さっきくま君に片手で払われてたもんね。
 でも、私のロイガーと一緒ならどうだろう?
 腰にぶら下げた半身を取り出して見せつける。


「ならば二つで投げればどうだろう? これの本来の力は二つ合わせて一つ。私はそれを領域内で取り込んでみせようと思ったんだ」

「取り込むとは?」


 アンブロシウス氏の眉がピクリと跳ねる。
 あれ? 一緒に戦った事なかったっけ。
 いや、領域内であの力を手に入れたのはつい最近か。
 シェリルや探偵さん、( ͡° ͜ʖ ͡°)氏やもりもりハンバーグ君は知ってるけど、全員が私の能力に興味があるわけでもないものね。


「まぁ見てて。実際にやって見せよう」


 アンブロシウス氏から借りたツァールを同時に全力投擲。
 今回は私の要望なので正気度と侵食度のロール判定は私一人で行った。そして宙に放り投げられた荒れ狂う双子の風精をその場から掴むようにして取り込んだ。


「掌握領域───〝ロイガー&ツアール+クトゥルフの鷲掴み〟」


 暴れ狂う風精は、いつしか私の肉体の一部となって制御される。それを見たアンブロシウス氏が感嘆したように呟く。

 
「なんともはや、あれを制御し切るか」

「アンブロシウス氏だって自分の能力を把握すればこれくらい当たり前にできるようになるよ。ね、スズキさん?」

「|◉〻◉)えっ?」

「私にだってできたんだ。みんなもできるよね?」

「|ー〻ー)それはどうでしょう? ハヤテさん程神格に近しいプレイヤーもそうそう見ないので僕の口からはなんとも」

「えぇ?」


 とても心外だ。でもこの人が濁すときは嘘でも冗談でもない場合が多いからね。
 クトゥルフさんも変に私を持ち上げがちだし。
 私はただ孫が好きすぎるだけの年寄りだよ?


「ふむ。私の制御はどうであれ、あの存在に通用するかどうか」


 アンブロシウス氏はくま君を見上げる。
 もはや悪しき存在としてカウントされてしまっているくま君。
 それは彼が本来望むべき姿ではないはずだ。
 なんとかして元に戻してあげたい。
 その為にも、彼の意識がきちんとあるかを確かめたい。


「なんとかするしかないよ。持てる力を使ってね。そのためにも力を貸して欲しいんだ」

「私なんかで役に立つのであれば」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)俺の力は必要か?」

「勿論だとも。さて、打って出るよ」


 躍り出る私達。
 が、それをさせじとグローキの棘が伸びてくる。
 なんでこっちにくるの?
 面倒くさそうにそれをクトゥルフの握り潰しを発動させながら払いのける。


「あっ」

[GPHEEEEE!!?]


 そう言えばクトゥルフの腕にロイガー&ツァールを付与していたんだっけ?
 軽く払うつもりが悲鳴を上げるほどのダメージを与えてしまった。失敬失敬。

 会釈をしつつグラーキの足元を通り抜ける。
 目的はくま君。
 向こうも私を標的として近づいてきた。
 なんでだろうね? あの時確かに探偵さんにフェイク★をなすり付けた筈なのに。

 そんな時、頭の片隅にピロンという音と新着のメールが届く。
 差出人は探偵さん。内容は『君にフェイク★かけといたから。あと頑張って』という物だった。
 後でお礼参りに行こうと固く胸に誓いながら振り下ろされた右手を寸前で交わし、ショートワープで右腕を通り抜けて肩ポン。


「お久しぶり、くま君。随分と垢抜けたじゃない。まずは近況報告と行こうか?」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)爺さん! くま公に会話は通じねぇぞ!」

『ぐまぁああ!!?』

「おっと失礼、私の右腕も特別性だった」


 君とお揃いだね、とウィンクしつつロイガー&ツァールの宿った腕を自在に振るう。


「( ͡° ͜ʖ ͡°)どこまで冗談かわからない爺さんだぜ」

「が、これ程相手を翻弄できるのなら信頼に値する」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)負けちゃ居られねーな?」

「そうだな。ドーター、こちらも大技を使うぞ」

「アレを使うのか、プロフェッサー」


 アンブロシウス氏も何かしでかすつもりだ。
 私の後方で力強い魔力の本流が流れ出る。


「( ͡° ͜ʖ ͡°)ならこっちも打って出るしかねーな。サイ!」

「マスター、あたしは何をすればいい?」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)ウチの神様にも重い腰を上げてもらわんとな」

「分かった! 主人を呼び寄せる祈祷のダンスだな!?」


 アンブロシウス氏に触発されて( ͡° ͜ʖ ͡°)氏も動き出す。
 私も負けてられないな。



 ◇


「父さん達は順調にあのPKを引き受けてくれた様ね」

「念には念を込めてフェイク★を多重にかけておいたから。あの人だって狙われたら否応なく対処するでしょ」

「………なんでこんな人が父さんの友達面をしているのかしら?」


 シェリルは嫌悪感を募らせて秋風疾風へ振り返りつつ毒を吐く。自分だって同じことをしてるのに、自分が許されると信じてくれる様だ。
 そのままテレポートでグラーキへと飛びかかっていく。

 その場に残された秋風疾風は一人肩をすくめるだけだった。


「もう少し褒めてくれてもいいと思ったんだけど」

「やってることの悪質さにため息しか出ないのでござろうな」

『本当に、悪質ですよ探偵の人。よくアキカゼさんの友達だなんてと公言できますよね?』

「実は向こうが最初に僕にフェイク★を押し付けてきたって言ったら信じる?」

『アキカゼさんが?』

「ふむ、すぐに信じられぬでござるが」

「まぁどちらでもいいさ。それよりもコーラン君、君ってその姿で戦えるの?」

『あー、どうなんでしょ? 今だにあの人の言ってることの二割も頭に入ってこないんですよ。スジャータ任せのところはありますし』


 秋風疾風はだろうねと肩を揺らして苦笑する。
 一緒に冒険に出掛けた身内としても突拍子のなさでは右に並ぶものはない存在。それがアキカゼ・ハヤテなのだ。

 同じコミックのファンとしてこうもプレイスタイルが違うのが面白いところである。

 実の娘であるシェリルでさえそう思うのだ。
 中学時代からの親友程度の認識なら、より強くそれを感じていてもおかしくはない。


「ほらそこ、無駄口叩かない。一人減った分のノルマをこなさなきゃいけないんだからね?」

『頑張ります!』

「と、言うことだ。スジャータ君はウチの乗り物にきなさい。道教のはどうする?」

「姿を隠す術は豊富に取り揃えてる故」

「ならば僕たちもうかうかしてられないぞ」

「左様」


 グラーキが本腰を入れてこちらに狙いを定めてくる。
 くま君もあの人からも相手にされないんじゃ仕方ないか。
 秋風疾風はそう思いながらで時計型のシステムキーを起動させる。もしもの時のために用意していたものがある。

 本邦初効果でもないが、出し惜しみしていたのには理由があった。


「対策を取られたくないと言うのは考えすぎなんだろうけど、それでも念には念を入れたい。ここまでくれば病気だな」


 苦笑し、手のひらサイズのキューブにその鍵穴を差し込んだ。
 それを合図に上空を覆っている雲が割れた。
 召喚の魔法陣だ。

 アフラ・マズダー召喚の儀。
 しかし憑依させるのは自分ではない。
 それこそロボットに憑依出来ないか?
 秋風疾風はそれを思いつき、今日という日の切り札とした。

 スジャータを電車に乗り込ませたのも理由がある。
 それは、パイロットが多いほど精神コマンドが増える仕組みだからだ。
 まるで某ロボット大戦の様に、乗り込んだ機関車が、乗り物達が同じ速度で走り、線路の上で変形シークエンスを行う。
 某新幹線変形ロボの様には行かないが、概ねはそれを模したパーツ同士の連結。
 衝突事故の様な音を繰り返し、やがてそれが起き上がる。

 山が動き出したかと思うほどの巨体。
 しかしそこへアフラ・マズダーが乗り移れば……空を飛行する三つ足の巨大な鳥が現れる。
 否、鳥の頭に人の体を持つ神格が顕現したのだ。


 遠い場所で、その顕現した神格を睨めつけるものがいた。


 ◇


「アレは……凄まじい力を感じるな」

[どうした?]

「ああ、いえ。ウチの神様が少し気だるそうにしていたので何事かなと」

[ふむ。確かに強大な力が動いている。が、ガタトノーア殿が気にかける程か?]

「それもそうですね。ではヨグ=ソトース様。先程の続きといきましょうか」

[うむ。これからの領地の話である。其方とガタトノーア殿の、そして我らの幻想郷の発展を願おうではないか]

「ええ、我らの悲願のために」


 もりもりハンバーグは、神格ヨグ=ソトースを相手に交渉を繰り広げていた。
 未だ本心を語らぬガタトノーア。もとい、会話すらまともに出来ないので通訳としてもりもりハンバーグが間に入る形である。
 本来ならヤディスが間に入ればいいのだが、彼女は彼女で御大の前に立つには経験が浅すぎたのだ。
 そこでもりもりハンバーグが義父に任されたからと間を取り持っていた。

 同時に、真・シークレットクエストの発見をどのタイミングで打ち明けようか伝えそびえている。
 

<真・シークレットクエスト:ヨグ=ソトースからの誘い>
 ※聖魔大戦限定イベント
 必要期間:なし
 クエスト開始と同時に軍勢入りし、以降彼の手足として活躍することで恩恵を得る。

 成功報酬はその都度。
 一度軍勢入りすれば次回以降のドリームランドのベルト所持がパスされ、出入り自由になる。

 出現条件は一定値以上のヨグ=ソトースからの友好度の獲得。
 ほぼ義父からの引き継ぎで発動してしまった案件を、もりもりハンバーグは一人で引き受けるつもりはなかった。

 ずっと掲示板の方で待機してるが、部屋に入ってくるプレイヤーがいないので仕方なく答えの出ない会話を続けている。
 答えを急かすわけではないが、いつまで待ってもらえるか?
 
 待たせすぎて友好度が減ってしまわないか考えながらもりもりハンバーグは時間を稼ぎ続けた。


 ◇


 そして森のくまは……絶望しきっていた。
 自分のドジで一緒にヒーロー活動をしていた仲間のアールをみっともない姿にしてしまったこと。
 そして、結合してからアールの内側に閉じ込められた怨嗟の念がとめどなく溢れてしまっている。
 今まではアールがそれを堰き止めていたのに、森のくまにはそれが出来ない。

 ずっと己の正義を自己弁護してきた。
 ヒーローだと自身に言い聞かせたPKK。
 周囲からはPKと呼ばれるも、それでも自分は間違ってないと見直すことはなかった。

 が、自分の元にやってきた少し素直じゃない女の子。
 彼女に娘の将来を重ねてしまう。
 少しツンツンしてるところが娘と似てないけどいつかこうなるのかもと思うとおっかなびっくりと接してしまう。

 人の姿をしているから、クマの爪では傷つけてしまう。
 その時になってようやく、なぜ自分のアバターを熊にしてしまったのかと後悔した。

 正義の味方をするのなら、100%獣になる必要がないじゃないか。
 兄達の様にハーフビーストでもよかったのに。
 それでもどこか今の自分を脱却したかった。

 もう守られるだけの存在は嫌だ。
 守る側に立つのだ。
 そのために見た目から変える必要があった。

 だって、自分がどんな人物かなんて分かりきっていたから。

 だからこそ側だけでも力強い存在に憧れ、やがて行動もそれらしくして行った筈だった。

 出会って間もないアールとのやり取りが森のくまの中で蘇る。
 少しポンコツで放って置けないところのあるアール。
 でもいつも森のくまのことを気にかけていて、そして最後の秘術で失った右掌の代わりを受け持ってくれた。

 そんなもの、望んじゃいないのに。
 一人残したら心配するだろうからって、その身を犠牲にしてまで右腕の代わりになった。

 それが悔しくて悔しくて……自身に怒りが湧き上がる。
 正常な自我が怒りによって染め上げられ、やがて……


 暴走してしまっている。
 そんな森のくまに語りかける優しい声。


「やぁお久しぶり。イメチェンした?」


 アキカゼ・ハヤテは普段となんら変わらない口調で森のくまに相対し、ぶっ飛ばした。


「いや、失敬。私の右腕も特別性でね? どうだい、君とお揃いだ」


 なんら悪びれもなく言ってのける。
 暴走していた事実よりも、なぜこうも一方的にやられているのか理解できない頭を森のくまは振り払い、直感で右腕を薙ぎ払う。

 その右手の上にはアキカゼ・ハヤテが涼しい顔で乗っており、ダメージを受けた様子すら見せない。
 攻撃したくないと言う願いはいつしかどうやったらこの人にダメージを与えられるだろうかと言う意識に変わっていく。


『ぐーーーまーーー!!!』


 触腕が蠢く。
 腕を構成していた細胞がばらける様にそれらは鞭となってしなり、アキカゼ・ハヤテを襲った。


「が、甘いよ。私の力をこの程度だと思ってもらっては困る──掌握領域……」


 間が開き、海が世界を、大地を覆った。
 山岳地帯で大地も乾ききっているこの場所でこれほどの水遁を見せるのは神格ならでは。

 森のくまは直感的に相手にしてならない類だと理解して相手にするのは分が悪いと踵を返そうとして……


「どこに行こうと言うのかね? まだ私とのお話が済んでいないよ?」


 脇腹がえぐれる感触を得た。
 鈍痛が身体を蝕む。
 危険信号が全身に駆け巡り、すぐ側で幻影の叫ぶ様な声が聞こえた。


『マスター、聞こえるかマスター!』

『アールくま?』

『ようやく起きたかこの寝坊助め! 何度呼びかけても気を失ったままで、何がヒーローか!』


 幻影からの叱咤激励でようやく自身の身に起きた状況を知る。
 相手にしている化け物は知ってる顔だった。
 だが同時にここまでの強さを持ってるだなんて知らない。

 否、知ろうとしなかった。
 知りたくなかった。
 だって知ってしまえば自分の弱さを認める様でどうしようもないから。

 守るべき存在に守られてたなんて事実は知りたくなくて、そっと耳を塞いだ。
 人間と同じ姿なら雑音を耳に入れなくていいからとアバターからして人の姿から逸脱して、そうして森に引きこもった自分を思い出してしまうから。


『あぁあああああああああああああ!!』

『倒すぞ、奴を! アレを乗り越えなければ、貴様の成長はここで止まる! 止まってしまう!』


 倒す? 恩のある人を?
 自分勝手な願望の捌け口にする?
 それをしてしまっていいのか?
 もしそれを父ちゃんに知られたら……

 そう思ったら体が強張った。


『ではここで縮こまって誰かが救いの手を差し伸べてくれるのを待つか!? 今まで通り、頼れる兄達や弟達に追い越されていく自分と同じままでいいのか!? マスター、決断せよ!!』

『嫌くま。それだけは絶対に、嫌くま!!』

『ならば我を使えマスター。我は元より人と違う。今は我の自我が制御できておらぬだけ。それを制御できればマスターは飛躍的に強くなれるぞ』

『アキカゼさんよりもくま?』

『誰よりもさ。かのアザトースでさえマスターに一目置くぞ? どうだ? 我の力を欲しくはないか?』


 ああ、そうなったらどんなにいいだろう。
 森のくまに新しく勇気の炎が焼べられる。
 そして閉じ籠った殻から出るための第一歩が、踏み込まれる。


 バキン……バキン……!!
 立て続けに金属音が轟いた。
 森のくまの体表が鋼の様に凍りつき、やがてそれは羽化をする前の卵の様に割れて生まれ変わる。

 中から誕生したのは……


 人の姿にクマの特徴を持つ生まれ変わった森のくまの姿だった。どこか気弱そうな目元をキリリとさせ、そして武術の心得がある様に構えを取る。
 目標はアキカゼ・ハヤテ。
 今乗り越えるべき相手に、森のくまは躍り出た。


『チェストォオオオオオオ!!』


 疾風迅雷。
 稲妻の様な速度で山の様な巨体が真っ直ぐにその目標地点に向かって振われる。
 だが一歩も臆することなくアキカゼ・ハヤテがそれを払った。

 否、払ったのはその足元。
 背後から膝かっくんを仕掛けた様にその場で膝がかくんと折れる。拳が、空を切る。
 タイミングをずらされたのだ。


「今のはなかなか良かったよ? でもまだ甘い。掌握領域──九尾の狐+クトゥルフの鷲掴み(左腕)」


 右手にはロイガー&ツァール。
 そして左腕には九尾の狐が付与される。
 まるで腹話術の様に両手で全く違う存在を宿したアキカゼ・ハヤテ。
 だが相手にとって不足なしと森のくまは駆け出した。

 もう勝ち負けはどうでもいい。
 今の自分がどこまで通用するかを試したい、それだけだった。


 ◇


 うーん、これ。どう見ても私が悪者ポジションだよね?
 それだけが腑に落ちないけど、仕方ないかな?
 くま君が正気に戻ってくれそうだし、もう少し頑張りますか。
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