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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

377.お爺ちゃんと聖魔大戦21

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 激しい攻防の末、精も根も尽きたくま君がその巨体をどう、と大地に横たわらせた。
 全ての技を出し切ったのか、満足したかのように私を見上げている。
 って言うか。


「くま君、とっくに正気に戻ってたでしょ。なんで急に私につっかかってきたのさ?」

『流石にバレてたくまね。アキカゼさんに隠し事はできないくま。でも、これが乗り越えなきゃならない壁だとそう思ったくま。そのお陰でこの姿になれたくま。一歩前進できたくま』


 そう彼は語る。
 同時に能力に限界がきたのか、はたまた戦う気力も残ってないのかくま君の肉体がしゅるしゅると元のサイズへと戻り、私でも手を貸せば起こせるサイズになった。
 まぁ手を貸すと不可抗力でぶん殴ってしまうのでやらないけど。
 そして少し大きめなハーフビーストになったくま君の傍には不機嫌そうなアール君も健在だ。一時期暴走状態になったと言うのによくここまで持ち直してくれたと言うべきか。
 

「アール君も気が済んだかね?」

「なんで、なんでお前は妾の全てを尽くしても倒しきれないのだ!」


 何故かその怒りの矛先が私へとぶつけられる。
 なんでと言われても、私だって訳もわからず負けたくないよ。
 でもアール君的にそれでは納得が行かないらしい。
 仕方ない、ネタバラシをするか。
 私はこの世界における拠点の効果と、そこに神格を据えることで発揮する効果の二つの説明をする。
 その後にクトゥルフの能力を開示した。
 するとようやく納得いったと言う顔でこちらを見やるアール君。


「つまり貴様は本来より40%強い状態で妾達と戦っておったと言うのか?」

「ちなみに拠点内での状態は同じ魔導書側、つまり君達も補正を受けていたことになる。だからパワーアップしていたのは君たちもだよ、アール君」

「そうか。だとすると厄介なのはクトゥルフの能力の方か。しかし貴様、斯様な能力を対価なしで扱えるなどチートでは無いか?」

「チートって何ですか?」

「ズルじゃ、ズル! 本来はゲームにハッキングするなりして自分に都合の良い設定に書き換える違法行為のことを指す。が、最近はよくわからんものでの。そのズル行為をあり得ない現象に喩えてできた造語じゃ。本来ほどの意味は持たぬ」

「つまり何が言いたいんです?」

「アールはアキカゼさんの能力を羨ましいと思ってるくま。くま達の能力は大概正気度を減らす効果がついて回るので扱いが難しいくまね」


 アール君がくま君の説明に頷いて見せる。
 いや、その設定私にもあるよ?
 ただクトゥルフさんと絆を結んでからは消えてなくなった気がする。
 もしかしなくても過去改竄で変化したかもしれない。
 神格にとって都合の未来をゲーム世界に落とし込んだ。
 それによって私に対するロックが外れたのでは?
 そう仮定して話すとアール君は眉を顰めた。


「待て貴様。今何と言った?」

「だから過去を書き換えて……」

「そうではない。あの邪智暴虐なクトゥルフが人に寄り添ったと言うのが信じられん。貴様、妾を謀っておるのか?」


 やれやれ、この子からすれば外の神は全て悪いやつなのだな。
 なんて器の狭い子なのだろう、可哀想に。


「謀るも何も事実です。私はね、幻影のスズキさん。彼女と接触してからいろんな冒険をしました。あの人はなんて言うか、ちょっとお茶目な方でしょ? そんな人に導かれるままに少しづつクトゥルフさんに近づいてしまったと言うのも確かにあります。でも悪い人じゃないんですよ」

「貴様はさっきから何を言っておる? クトゥルフの幻影はルルイエじゃろう?」

「そのルルイエが外の世界を見聞きするために精神を飛ばしてプレイヤーのフリをしていたのがスズキさんだったんです。私はまんまと騙された訳ですが、何故かすっかり懐かれちゃって。当然君たちもそういう経緯で出会ったんでしょ?」


 私たちの会話にくま君とアール君は顔を見合わせた。
 そしてお互いに首を横に振った。どうやら違うらしい。
 私達の様な出会いがあって、そして導かれた訳ではない?
 スズキさんがレアケースだった?


「妾の記憶は生憎とマスターと出会ってからしかないのでの」

「くまも同じくま。ベルトが巻かれると同時、フレーバーの中から白紙の本が、断片を見つけるたびに意思を持ち、それが重なってようやくアールになったくま」

「ふぅむ。じゃあ私だけ運が良かったと?」

「それこそ反則級に幸運じゃな」

「よくわからないと言うことだけよく分かったよ。それも含めてウチの幻影を紹介しよう」


 呼べばいつでも現れる。
 呼ばなくても勝手にやってくる便利な相棒を心の中で呼ぶが……返事はない。


「あれ、出ない?」


 またナイアルラトホテプに別空間に飛ばされたか?
 そう思って周囲を見回していると、閃光が雲を割る様に空に描かれた。
 その閃光が発射された先には見上げるほどの光り輝く巨人とそれに対峙する二柱の邪神が睨み合っていた。


「アレは……ツァトゥグァさんとハスターさんかな? するとあの二人が神格召喚に成功したのか。しかし……」


 その二柱を圧倒している光の巨人はなんだろうか?
 グラーキはどうなった?
 なぜあの二人が押さえ込まれてるのか。
 訳のわからないことばかり立て続けに起きている。


「スズキさん、状況は……スズキさん?」


 再度スズキさんに呼びかけるも、すぐに返事が返ってこない。どう言うことだ……何が起きている?


「これは、ちとまずいかもしれんの。あの巨人からアフラ・マズダーの気配と釈迦の気配、両方を感じ取れる。二柱が手を組んだか? しかしそれにしたって気配が妙だ」


 アール君の呟きに、私が解説を加える。


「アフラ・マズダーといえば探偵さんか? なら彼はアトランティスの巨大決戦兵器を依代にして神格召喚を行なったのかもしれないね。無茶をするものだ」

「アトランティスの巨神兵機だと?」

「いや、君がそれを知らないのはまずいでしょ。くま君はムー陣営のグラップラーだからこそ小さくなったり大きくなったりできるんだから。ここにいる全員のプレイヤーがアトランティス、ムー、レムリアのどれかに与してるよ。私はアトランティスでテイマーに就いている」

「そうなのか、マスター?」

「アールには言ってなかったかくま?」

「聞いておらぬ!」


 アール君はヘソを曲げた様に不機嫌になった。


「まずい、まずいぞ。斯様な巨大人型兵器を野放しにしておけぬ。何か策はないか?」

「いや、大きいくらいなら別になんとでもなるでしょ。ね、くま君?」

「こちらも巨大化するくま?」

「それも良いけどこちらもタッグを組むと言うのは如何だろうか?」

「タッグくま?」


 頭の上に?マークを浮かべてくま君に私が意味深な笑みを浮かべる。
 私の領域内だからこそできる合体能力を更に悪用しようと思ったその時だ。
 頭の中にアラームが走った。


<聖典陣営から拠点に略奪戦が仕掛けられてます!>

 シェリル   信仰40
 とろサーモン 信仰80
 秋風疾風   浄化50
 とりもち   浄化100


 略奪を仕掛けてくると言うことはグラーキはすでに破れたか?
 が、こちらに作戦を練る暇を与えないつもりか?
 くま君には拠点のお話こそすれど、それを奪う行為。略奪戦に関してはまだ話していなかった。

 というか、話す必要性を感じなかったのだ。
 彼の正義に人の物を奪うのは相応しくないからね。

 しかしそれよりもシェリルが低い数値を提示してきたのが解せない。
 だが前回どうやっても勝てなかったとろサーモン氏のデータも信仰だった。

 もしかして信仰は私の提示した侵食に対するメタだろうか?
 奇しくも4vs4。
 3回勝利すれば略奪は可能だが、私以外のステータスって私も詳しく知らないのだよね。
 だからここは私も違うステータスで勝負すべきだろう。
 何故か勝手に増えていた束縛で勝負だ!

 私に続き、他三人が高いステータスを出した。


 アキカゼ・ハヤテ 束縛50
 ( ͡° ͜ʖ ͡°)        貫通40
 森のくま     幻影80
 アンブロシウス  侵食25


 アンブロシウス氏はもしかして平均に振ったのだろうか?
 やけに数値が中途半端だ。いや、まさかね?


<JUDGE!>

 アキカゼ・ハヤテ 束縛50 ×
 シェリル   ◯
 とろサーモン ×
 秋風疾風   ×
 とりもち   ×

 ( ͡° ͜ʖ ͡°)        貫通40 ×
 シェリル   ー
 とろサーモン ×
 秋風疾風   ◯
 とりもち   ×

 森のくま     幻影80 ◯
 シェリル   ◯
 とろサーモン ◯
 秋風疾風   ×
 とりもち   ×

 アンブロシウス  侵食25 ◯
 シェリル   ×
 とろサーモン ×
 秋風疾風   ◯
 とりもち   ◯

 
<略奪戦の防衛に成功しました>


 ふー、あぶないあぶない。


「今のは何くま?」

「我々プレイヤーはそれぞれの拠点をその地域に敷くことで行動力を増加させる恩恵がある事を先ほど伝えたね?」

「それは知っておる。だが略奪とはなんじゃ? 拠点を奪うことになんのメリットがある? いや、己にバフが掛かるのじゃったか? では相手側にはデバフか」

「その通り。彼らはここにいる人数分のデバフがかかった状態で戦闘をこなしている。圧倒的に不利な形の状態で戦闘しているんだ」


 けど、それでもグラーキを討伐させたのは見事という他ない。
 が、だからと言ってすぐにこちらを狙うのはシェリルらしくない。
 それをやってのける相手は……光の巨人の持ち主、探偵さんか?
 彼ならやりかねない。
 なんせあの人勝てる試合しかしないから。

 そしてそれを見越した様に光の巨人は鳥の頭を激しく発光させながら何かをチャージしている。
 それはどう見たってエネルギーの収束を意味する物で、それを撃たれたらまずいのは私たちである。
 が、行動値にバフがかかってる今の状態でなら回避は余裕……が、そのバフが切れたら?


「そう言うことか!」

「何かわかったくま?」

「向こうの狙いが分かった。パーティーチャットを開く。くま君は私のパーティーに入って」

「入ったくま!」

「妾も入ってしまえる様じゃの? 良いのか?」

「構わないよ」


 そしてパーティーチャットで連絡を入れようとしたまさにその時、もう一度略奪戦が仕掛けられた。


 提示された数値は全員が信仰。
 つまり先程の私達のステータスの提示でより検証が進んだ形になる。
 これ、もしかして向こうの攻撃チャンスのたびに差し込まれるの?
 防衛に失敗した途端に全滅しかねない最悪の攻撃だ。

 まだもりもりハンバーグ君が残ってるとはいえ、あの人どうせ負けるならってこちらを道連れにする気だな?
 そうはさせない!

 私はパーティーチャットに入るなりメンバー達にこう伝えた。


アキカゼ・ハヤテ:誰か! 今すぐこの拠点に神格配置して!

( ͡° ͜ʖ ͡°):今更やってきてなんだぁ?

アンブロシウス:無事であったかアキカゼ氏

森のくま:お願いくま! 向こうはこっちの拠点を奪って相打ちを狙ってるくま!

( ͡° ͜ʖ ͡°):くま公、お前正気に戻ったのかよ

アンブロシウス:流石アキカゼ氏と言ったところか

アキカゼ・ハヤテ:それよりも誰か神格置いて

( ͡° ͜ʖ ͡°):そうしてやりたいのはやまやまなんだが

アンブロシウス:ううむ、なんて言って良いものやら


 散々間を開けた後、口を開いた( ͡° ͜ʖ ͡°)氏が申し訳なさそうに言った。


( ͡° ͜ʖ ͡°):悪い、神格の召喚に成功はしたが肉体は乗っ取られちまってるんだ

アンブロシウス:同じく、である

アキカゼ・ハヤテ:な、なんだってーーー!!?

森のくま:ΩΩΩ<な、なんだってーー!!?

アール:遊ぶな、マスター


 結局、くま君の暴走を抑えたと思ったら新たにもう二つの厄災が降りかかっていた。
 もうめちゃくちゃだよ。


スズキ:|◉〻◉)あ、ハヤテさんやっぽー。僕がいない間元気でした?

アキカゼ・ハヤテ:あ、スズキさん。ちょうど良いところに。何処にいるんです?

スズキ:|ー〻ー)ちょっと野暮用でアーカムに戻ってました。

アキカゼ・ハヤテ:アーカムに? なんでまた

スズキ:|◉〻◉)主人が新たにヨグ=ソトース陣営に入るからと言うことでその手続きに。

アキカゼ・ハヤテ:その話初耳ですよ?

スズキ:|◉〻◉)だって本邦初公開ですもん。プークスクス

もりもりハンバーグ:申し訳ありません、お義父さん。僕の方で話を進めてしまって

アキカゼ・ハヤテ:君が主導ならば良いんだけど、ヨグ=ソトースさんがそんな事をね。

スズキ:|◉〻◉)!

アール:こいつは何が言いたいの? 情報は揃えて提示せよ

アキカゼ・ハヤテ:他意はなく、この子はこんな子だから。

森のくま:見慣れた景色くま。じゅるり。

スズキ:|◉〻◉)! ハヤテさん! 僕身の危険がします! そっちに戻らなくても良いですか?

アキカゼ・ハヤテ:はいはい。君が無事なら良いよ。ヨグ=ソトースさんにもよろしくと言っておいて

( ͡° ͜ʖ ͡°):それって俺らも入れるのか?

もりもりハンバーグ:神格と意思疎通が出来次第ですかね?

アール:神格に肉体乗っ取られてる様ではダメじゃと言うことだな?

もりもりハンバーグ:そう言うことになりますかね

アンブロシウス:まだまだ精進が足りぬと言うことか

アキカゼ・ハヤテ:そういえば君達、略奪戦のステータスなに提示した?

( ͡° ͜ʖ ͡°):あん? 何ってそりゃ高いステータスだが?

アキカゼ・ハヤテ:勝敗は見えてるんだよね?

アンブロシウス:なんの話であろうか?


 見えていない?
 もしかしてジャッジ判定が見えるのは仕掛けられた本人と略奪者のみなのだろうか?
 これは少しまずいことになったぞ。


 こうやってだべってる間にも略奪戦は続く。
 信仰に対するメタステータスは幻影である可能性が高い。
 もし相手が信仰押しならばその時は幻影を提示してくれと申し出てみるも、相手が何を提示したかを見れるのも拠点を敷いたもののみと言う徹底ぶりにようやく私だけがその数値を見れているのだと認識する。

 これは一歩も二歩も向こうに遅れをとっているなと気づきつつ、それ以外にも向こうに戦略に気付いて逃走を図る事で話がつく。

 いつ判定に負けても良い様に逃走ルートを決めて方々に逃げ去ることにした。
 問題は向こうがそれを見逃してくれるかにあるが。
 無理だろうなぁ。
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