423 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
377.お爺ちゃんと聖魔大戦21
しおりを挟む
激しい攻防の末、精も根も尽きたくま君がその巨体をどう、と大地に横たわらせた。
全ての技を出し切ったのか、満足したかのように私を見上げている。
って言うか。
「くま君、とっくに正気に戻ってたでしょ。なんで急に私につっかかってきたのさ?」
『流石にバレてたくまね。アキカゼさんに隠し事はできないくま。でも、これが乗り越えなきゃならない壁だとそう思ったくま。そのお陰でこの姿になれたくま。一歩前進できたくま』
そう彼は語る。
同時に能力に限界がきたのか、はたまた戦う気力も残ってないのかくま君の肉体がしゅるしゅると元のサイズへと戻り、私でも手を貸せば起こせるサイズになった。
まぁ手を貸すと不可抗力でぶん殴ってしまうのでやらないけど。
そして少し大きめなハーフビーストになったくま君の傍には不機嫌そうなアール君も健在だ。一時期暴走状態になったと言うのによくここまで持ち直してくれたと言うべきか。
「アール君も気が済んだかね?」
「なんで、なんでお前は妾の全てを尽くしても倒しきれないのだ!」
何故かその怒りの矛先が私へとぶつけられる。
なんでと言われても、私だって訳もわからず負けたくないよ。
でもアール君的にそれでは納得が行かないらしい。
仕方ない、ネタバラシをするか。
私はこの世界における拠点の効果と、そこに神格を据えることで発揮する効果の二つの説明をする。
その後にクトゥルフの能力を開示した。
するとようやく納得いったと言う顔でこちらを見やるアール君。
「つまり貴様は本来より40%強い状態で妾達と戦っておったと言うのか?」
「ちなみに拠点内での状態は同じ魔導書側、つまり君達も補正を受けていたことになる。だからパワーアップしていたのは君たちもだよ、アール君」
「そうか。だとすると厄介なのはクトゥルフの能力の方か。しかし貴様、斯様な能力を対価なしで扱えるなどチートでは無いか?」
「チートって何ですか?」
「ズルじゃ、ズル! 本来はゲームにハッキングするなりして自分に都合の良い設定に書き換える違法行為のことを指す。が、最近はよくわからんものでの。そのズル行為をあり得ない現象に喩えてできた造語じゃ。本来ほどの意味は持たぬ」
「つまり何が言いたいんです?」
「アールはアキカゼさんの能力を羨ましいと思ってるくま。くま達の能力は大概正気度を減らす効果がついて回るので扱いが難しいくまね」
アール君がくま君の説明に頷いて見せる。
いや、その設定私にもあるよ?
ただクトゥルフさんと絆を結んでからは消えてなくなった気がする。
もしかしなくても過去改竄で変化したかもしれない。
神格にとって都合の未来をゲーム世界に落とし込んだ。
それによって私に対するロックが外れたのでは?
そう仮定して話すとアール君は眉を顰めた。
「待て貴様。今何と言った?」
「だから過去を書き換えて……」
「そうではない。あの邪智暴虐なクトゥルフが人に寄り添ったと言うのが信じられん。貴様、妾を謀っておるのか?」
やれやれ、この子からすれば外の神は全て悪いやつなのだな。
なんて器の狭い子なのだろう、可哀想に。
「謀るも何も事実です。私はね、幻影のスズキさん。彼女と接触してからいろんな冒険をしました。あの人はなんて言うか、ちょっとお茶目な方でしょ? そんな人に導かれるままに少しづつクトゥルフさんに近づいてしまったと言うのも確かにあります。でも悪い人じゃないんですよ」
「貴様はさっきから何を言っておる? クトゥルフの幻影はルルイエじゃろう?」
「そのルルイエが外の世界を見聞きするために精神を飛ばしてプレイヤーのフリをしていたのがスズキさんだったんです。私はまんまと騙された訳ですが、何故かすっかり懐かれちゃって。当然君たちもそういう経緯で出会ったんでしょ?」
私たちの会話にくま君とアール君は顔を見合わせた。
そしてお互いに首を横に振った。どうやら違うらしい。
私達の様な出会いがあって、そして導かれた訳ではない?
スズキさんがレアケースだった?
「妾の記憶は生憎とマスターと出会ってからしかないのでの」
「くまも同じくま。ベルトが巻かれると同時、フレーバーの中から白紙の本が、断片を見つけるたびに意思を持ち、それが重なってようやくアールになったくま」
「ふぅむ。じゃあ私だけ運が良かったと?」
「それこそ反則級に幸運じゃな」
「よくわからないと言うことだけよく分かったよ。それも含めてウチの幻影を紹介しよう」
呼べばいつでも現れる。
呼ばなくても勝手にやってくる便利な相棒を心の中で呼ぶが……返事はない。
「あれ、出ない?」
またナイアルラトホテプに別空間に飛ばされたか?
そう思って周囲を見回していると、閃光が雲を割る様に空に描かれた。
その閃光が発射された先には見上げるほどの光り輝く巨人とそれに対峙する二柱の邪神が睨み合っていた。
「アレは……ツァトゥグァさんとハスターさんかな? するとあの二人が神格召喚に成功したのか。しかし……」
その二柱を圧倒している光の巨人はなんだろうか?
グラーキはどうなった?
なぜあの二人が押さえ込まれてるのか。
訳のわからないことばかり立て続けに起きている。
「スズキさん、状況は……スズキさん?」
再度スズキさんに呼びかけるも、すぐに返事が返ってこない。どう言うことだ……何が起きている?
「これは、ちとまずいかもしれんの。あの巨人からアフラ・マズダーの気配と釈迦の気配、両方を感じ取れる。二柱が手を組んだか? しかしそれにしたって気配が妙だ」
アール君の呟きに、私が解説を加える。
「アフラ・マズダーといえば探偵さんか? なら彼はアトランティスの巨大決戦兵器を依代にして神格召喚を行なったのかもしれないね。無茶をするものだ」
「アトランティスの巨神兵機だと?」
「いや、君がそれを知らないのはまずいでしょ。くま君はムー陣営のグラップラーだからこそ小さくなったり大きくなったりできるんだから。ここにいる全員のプレイヤーがアトランティス、ムー、レムリアのどれかに与してるよ。私はアトランティスでテイマーに就いている」
「そうなのか、マスター?」
「アールには言ってなかったかくま?」
「聞いておらぬ!」
アール君はヘソを曲げた様に不機嫌になった。
「まずい、まずいぞ。斯様な巨大人型兵器を野放しにしておけぬ。何か策はないか?」
「いや、大きいくらいなら別になんとでもなるでしょ。ね、くま君?」
「こちらも巨大化するくま?」
「それも良いけどこちらもタッグを組むと言うのは如何だろうか?」
「タッグくま?」
頭の上に?マークを浮かべてくま君に私が意味深な笑みを浮かべる。
私の領域内だからこそできる合体能力を更に悪用しようと思ったその時だ。
頭の中にアラームが走った。
<聖典陣営から拠点に略奪戦が仕掛けられてます!>
シェリル 信仰40
とろサーモン 信仰80
秋風疾風 浄化50
とりもち 浄化100
略奪を仕掛けてくると言うことはグラーキはすでに破れたか?
が、こちらに作戦を練る暇を与えないつもりか?
くま君には拠点のお話こそすれど、それを奪う行為。略奪戦に関してはまだ話していなかった。
というか、話す必要性を感じなかったのだ。
彼の正義に人の物を奪うのは相応しくないからね。
しかしそれよりもシェリルが低い数値を提示してきたのが解せない。
だが前回どうやっても勝てなかったとろサーモン氏のデータも信仰だった。
もしかして信仰は私の提示した侵食に対するメタだろうか?
奇しくも4vs4。
3回勝利すれば略奪は可能だが、私以外のステータスって私も詳しく知らないのだよね。
だからここは私も違うステータスで勝負すべきだろう。
何故か勝手に増えていた束縛で勝負だ!
私に続き、他三人が高いステータスを出した。
アキカゼ・ハヤテ 束縛50
( ͡° ͜ʖ ͡°) 貫通40
森のくま 幻影80
アンブロシウス 侵食25
アンブロシウス氏はもしかして平均に振ったのだろうか?
やけに数値が中途半端だ。いや、まさかね?
<JUDGE!>
アキカゼ・ハヤテ 束縛50 ×
シェリル ◯
とろサーモン ×
秋風疾風 ×
とりもち ×
( ͡° ͜ʖ ͡°) 貫通40 ×
シェリル ー
とろサーモン ×
秋風疾風 ◯
とりもち ×
森のくま 幻影80 ◯
シェリル ◯
とろサーモン ◯
秋風疾風 ×
とりもち ×
アンブロシウス 侵食25 ◯
シェリル ×
とろサーモン ×
秋風疾風 ◯
とりもち ◯
<略奪戦の防衛に成功しました>
ふー、あぶないあぶない。
「今のは何くま?」
「我々プレイヤーはそれぞれの拠点をその地域に敷くことで行動力を増加させる恩恵がある事を先ほど伝えたね?」
「それは知っておる。だが略奪とはなんじゃ? 拠点を奪うことになんのメリットがある? いや、己にバフが掛かるのじゃったか? では相手側にはデバフか」
「その通り。彼らはここにいる人数分のデバフがかかった状態で戦闘をこなしている。圧倒的に不利な形の状態で戦闘しているんだ」
けど、それでもグラーキを討伐させたのは見事という他ない。
が、だからと言ってすぐにこちらを狙うのはシェリルらしくない。
それをやってのける相手は……光の巨人の持ち主、探偵さんか?
彼ならやりかねない。
なんせあの人勝てる試合しかしないから。
そしてそれを見越した様に光の巨人は鳥の頭を激しく発光させながら何かをチャージしている。
それはどう見たってエネルギーの収束を意味する物で、それを撃たれたらまずいのは私たちである。
が、行動値にバフがかかってる今の状態でなら回避は余裕……が、そのバフが切れたら?
「そう言うことか!」
「何かわかったくま?」
「向こうの狙いが分かった。パーティーチャットを開く。くま君は私のパーティーに入って」
「入ったくま!」
「妾も入ってしまえる様じゃの? 良いのか?」
「構わないよ」
そしてパーティーチャットで連絡を入れようとしたまさにその時、もう一度略奪戦が仕掛けられた。
提示された数値は全員が信仰。
つまり先程の私達のステータスの提示でより検証が進んだ形になる。
これ、もしかして向こうの攻撃チャンスのたびに差し込まれるの?
防衛に失敗した途端に全滅しかねない最悪の攻撃だ。
まだもりもりハンバーグ君が残ってるとはいえ、あの人どうせ負けるならってこちらを道連れにする気だな?
そうはさせない!
私はパーティーチャットに入るなりメンバー達にこう伝えた。
アキカゼ・ハヤテ:誰か! 今すぐこの拠点に神格配置して!
( ͡° ͜ʖ ͡°):今更やってきてなんだぁ?
アンブロシウス:無事であったかアキカゼ氏
森のくま:お願いくま! 向こうはこっちの拠点を奪って相打ちを狙ってるくま!
( ͡° ͜ʖ ͡°):くま公、お前正気に戻ったのかよ
アンブロシウス:流石アキカゼ氏と言ったところか
アキカゼ・ハヤテ:それよりも誰か神格置いて
( ͡° ͜ʖ ͡°):そうしてやりたいのはやまやまなんだが
アンブロシウス:ううむ、なんて言って良いものやら
散々間を開けた後、口を開いた( ͡° ͜ʖ ͡°)氏が申し訳なさそうに言った。
( ͡° ͜ʖ ͡°):悪い、神格の召喚に成功はしたが肉体は乗っ取られちまってるんだ
アンブロシウス:同じく、である
アキカゼ・ハヤテ:な、なんだってーーー!!?
森のくま:ΩΩΩ<な、なんだってーー!!?
アール:遊ぶな、マスター
結局、くま君の暴走を抑えたと思ったら新たにもう二つの厄災が降りかかっていた。
もうめちゃくちゃだよ。
スズキ:|◉〻◉)あ、ハヤテさんやっぽー。僕がいない間元気でした?
アキカゼ・ハヤテ:あ、スズキさん。ちょうど良いところに。何処にいるんです?
スズキ:|ー〻ー)ちょっと野暮用でアーカムに戻ってました。
アキカゼ・ハヤテ:アーカムに? なんでまた
スズキ:|◉〻◉)主人が新たにヨグ=ソトース陣営に入るからと言うことでその手続きに。
アキカゼ・ハヤテ:その話初耳ですよ?
スズキ:|◉〻◉)だって本邦初公開ですもん。プークスクス
もりもりハンバーグ:申し訳ありません、お義父さん。僕の方で話を進めてしまって
アキカゼ・ハヤテ:君が主導ならば良いんだけど、ヨグ=ソトースさんがそんな事をね。
スズキ:|◉〻◉)!
アール:こいつは何が言いたいの? 情報は揃えて提示せよ
アキカゼ・ハヤテ:他意はなく、この子はこんな子だから。
森のくま:見慣れた景色くま。じゅるり。
スズキ:|◉〻◉)! ハヤテさん! 僕身の危険がします! そっちに戻らなくても良いですか?
アキカゼ・ハヤテ:はいはい。君が無事なら良いよ。ヨグ=ソトースさんにもよろしくと言っておいて
( ͡° ͜ʖ ͡°):それって俺らも入れるのか?
もりもりハンバーグ:神格と意思疎通が出来次第ですかね?
アール:神格に肉体乗っ取られてる様ではダメじゃと言うことだな?
もりもりハンバーグ:そう言うことになりますかね
アンブロシウス:まだまだ精進が足りぬと言うことか
アキカゼ・ハヤテ:そういえば君達、略奪戦のステータスなに提示した?
( ͡° ͜ʖ ͡°):あん? 何ってそりゃ高いステータスだが?
アキカゼ・ハヤテ:勝敗は見えてるんだよね?
アンブロシウス:なんの話であろうか?
見えていない?
もしかしてジャッジ判定が見えるのは仕掛けられた本人と略奪者のみなのだろうか?
これは少しまずいことになったぞ。
こうやってだべってる間にも略奪戦は続く。
信仰に対するメタステータスは幻影である可能性が高い。
もし相手が信仰押しならばその時は幻影を提示してくれと申し出てみるも、相手が何を提示したかを見れるのも拠点を敷いたもののみと言う徹底ぶりにようやく私だけがその数値を見れているのだと認識する。
これは一歩も二歩も向こうに遅れをとっているなと気づきつつ、それ以外にも向こうに戦略に気付いて逃走を図る事で話がつく。
いつ判定に負けても良い様に逃走ルートを決めて方々に逃げ去ることにした。
問題は向こうがそれを見逃してくれるかにあるが。
無理だろうなぁ。
全ての技を出し切ったのか、満足したかのように私を見上げている。
って言うか。
「くま君、とっくに正気に戻ってたでしょ。なんで急に私につっかかってきたのさ?」
『流石にバレてたくまね。アキカゼさんに隠し事はできないくま。でも、これが乗り越えなきゃならない壁だとそう思ったくま。そのお陰でこの姿になれたくま。一歩前進できたくま』
そう彼は語る。
同時に能力に限界がきたのか、はたまた戦う気力も残ってないのかくま君の肉体がしゅるしゅると元のサイズへと戻り、私でも手を貸せば起こせるサイズになった。
まぁ手を貸すと不可抗力でぶん殴ってしまうのでやらないけど。
そして少し大きめなハーフビーストになったくま君の傍には不機嫌そうなアール君も健在だ。一時期暴走状態になったと言うのによくここまで持ち直してくれたと言うべきか。
「アール君も気が済んだかね?」
「なんで、なんでお前は妾の全てを尽くしても倒しきれないのだ!」
何故かその怒りの矛先が私へとぶつけられる。
なんでと言われても、私だって訳もわからず負けたくないよ。
でもアール君的にそれでは納得が行かないらしい。
仕方ない、ネタバラシをするか。
私はこの世界における拠点の効果と、そこに神格を据えることで発揮する効果の二つの説明をする。
その後にクトゥルフの能力を開示した。
するとようやく納得いったと言う顔でこちらを見やるアール君。
「つまり貴様は本来より40%強い状態で妾達と戦っておったと言うのか?」
「ちなみに拠点内での状態は同じ魔導書側、つまり君達も補正を受けていたことになる。だからパワーアップしていたのは君たちもだよ、アール君」
「そうか。だとすると厄介なのはクトゥルフの能力の方か。しかし貴様、斯様な能力を対価なしで扱えるなどチートでは無いか?」
「チートって何ですか?」
「ズルじゃ、ズル! 本来はゲームにハッキングするなりして自分に都合の良い設定に書き換える違法行為のことを指す。が、最近はよくわからんものでの。そのズル行為をあり得ない現象に喩えてできた造語じゃ。本来ほどの意味は持たぬ」
「つまり何が言いたいんです?」
「アールはアキカゼさんの能力を羨ましいと思ってるくま。くま達の能力は大概正気度を減らす効果がついて回るので扱いが難しいくまね」
アール君がくま君の説明に頷いて見せる。
いや、その設定私にもあるよ?
ただクトゥルフさんと絆を結んでからは消えてなくなった気がする。
もしかしなくても過去改竄で変化したかもしれない。
神格にとって都合の未来をゲーム世界に落とし込んだ。
それによって私に対するロックが外れたのでは?
そう仮定して話すとアール君は眉を顰めた。
「待て貴様。今何と言った?」
「だから過去を書き換えて……」
「そうではない。あの邪智暴虐なクトゥルフが人に寄り添ったと言うのが信じられん。貴様、妾を謀っておるのか?」
やれやれ、この子からすれば外の神は全て悪いやつなのだな。
なんて器の狭い子なのだろう、可哀想に。
「謀るも何も事実です。私はね、幻影のスズキさん。彼女と接触してからいろんな冒険をしました。あの人はなんて言うか、ちょっとお茶目な方でしょ? そんな人に導かれるままに少しづつクトゥルフさんに近づいてしまったと言うのも確かにあります。でも悪い人じゃないんですよ」
「貴様はさっきから何を言っておる? クトゥルフの幻影はルルイエじゃろう?」
「そのルルイエが外の世界を見聞きするために精神を飛ばしてプレイヤーのフリをしていたのがスズキさんだったんです。私はまんまと騙された訳ですが、何故かすっかり懐かれちゃって。当然君たちもそういう経緯で出会ったんでしょ?」
私たちの会話にくま君とアール君は顔を見合わせた。
そしてお互いに首を横に振った。どうやら違うらしい。
私達の様な出会いがあって、そして導かれた訳ではない?
スズキさんがレアケースだった?
「妾の記憶は生憎とマスターと出会ってからしかないのでの」
「くまも同じくま。ベルトが巻かれると同時、フレーバーの中から白紙の本が、断片を見つけるたびに意思を持ち、それが重なってようやくアールになったくま」
「ふぅむ。じゃあ私だけ運が良かったと?」
「それこそ反則級に幸運じゃな」
「よくわからないと言うことだけよく分かったよ。それも含めてウチの幻影を紹介しよう」
呼べばいつでも現れる。
呼ばなくても勝手にやってくる便利な相棒を心の中で呼ぶが……返事はない。
「あれ、出ない?」
またナイアルラトホテプに別空間に飛ばされたか?
そう思って周囲を見回していると、閃光が雲を割る様に空に描かれた。
その閃光が発射された先には見上げるほどの光り輝く巨人とそれに対峙する二柱の邪神が睨み合っていた。
「アレは……ツァトゥグァさんとハスターさんかな? するとあの二人が神格召喚に成功したのか。しかし……」
その二柱を圧倒している光の巨人はなんだろうか?
グラーキはどうなった?
なぜあの二人が押さえ込まれてるのか。
訳のわからないことばかり立て続けに起きている。
「スズキさん、状況は……スズキさん?」
再度スズキさんに呼びかけるも、すぐに返事が返ってこない。どう言うことだ……何が起きている?
「これは、ちとまずいかもしれんの。あの巨人からアフラ・マズダーの気配と釈迦の気配、両方を感じ取れる。二柱が手を組んだか? しかしそれにしたって気配が妙だ」
アール君の呟きに、私が解説を加える。
「アフラ・マズダーといえば探偵さんか? なら彼はアトランティスの巨大決戦兵器を依代にして神格召喚を行なったのかもしれないね。無茶をするものだ」
「アトランティスの巨神兵機だと?」
「いや、君がそれを知らないのはまずいでしょ。くま君はムー陣営のグラップラーだからこそ小さくなったり大きくなったりできるんだから。ここにいる全員のプレイヤーがアトランティス、ムー、レムリアのどれかに与してるよ。私はアトランティスでテイマーに就いている」
「そうなのか、マスター?」
「アールには言ってなかったかくま?」
「聞いておらぬ!」
アール君はヘソを曲げた様に不機嫌になった。
「まずい、まずいぞ。斯様な巨大人型兵器を野放しにしておけぬ。何か策はないか?」
「いや、大きいくらいなら別になんとでもなるでしょ。ね、くま君?」
「こちらも巨大化するくま?」
「それも良いけどこちらもタッグを組むと言うのは如何だろうか?」
「タッグくま?」
頭の上に?マークを浮かべてくま君に私が意味深な笑みを浮かべる。
私の領域内だからこそできる合体能力を更に悪用しようと思ったその時だ。
頭の中にアラームが走った。
<聖典陣営から拠点に略奪戦が仕掛けられてます!>
シェリル 信仰40
とろサーモン 信仰80
秋風疾風 浄化50
とりもち 浄化100
略奪を仕掛けてくると言うことはグラーキはすでに破れたか?
が、こちらに作戦を練る暇を与えないつもりか?
くま君には拠点のお話こそすれど、それを奪う行為。略奪戦に関してはまだ話していなかった。
というか、話す必要性を感じなかったのだ。
彼の正義に人の物を奪うのは相応しくないからね。
しかしそれよりもシェリルが低い数値を提示してきたのが解せない。
だが前回どうやっても勝てなかったとろサーモン氏のデータも信仰だった。
もしかして信仰は私の提示した侵食に対するメタだろうか?
奇しくも4vs4。
3回勝利すれば略奪は可能だが、私以外のステータスって私も詳しく知らないのだよね。
だからここは私も違うステータスで勝負すべきだろう。
何故か勝手に増えていた束縛で勝負だ!
私に続き、他三人が高いステータスを出した。
アキカゼ・ハヤテ 束縛50
( ͡° ͜ʖ ͡°) 貫通40
森のくま 幻影80
アンブロシウス 侵食25
アンブロシウス氏はもしかして平均に振ったのだろうか?
やけに数値が中途半端だ。いや、まさかね?
<JUDGE!>
アキカゼ・ハヤテ 束縛50 ×
シェリル ◯
とろサーモン ×
秋風疾風 ×
とりもち ×
( ͡° ͜ʖ ͡°) 貫通40 ×
シェリル ー
とろサーモン ×
秋風疾風 ◯
とりもち ×
森のくま 幻影80 ◯
シェリル ◯
とろサーモン ◯
秋風疾風 ×
とりもち ×
アンブロシウス 侵食25 ◯
シェリル ×
とろサーモン ×
秋風疾風 ◯
とりもち ◯
<略奪戦の防衛に成功しました>
ふー、あぶないあぶない。
「今のは何くま?」
「我々プレイヤーはそれぞれの拠点をその地域に敷くことで行動力を増加させる恩恵がある事を先ほど伝えたね?」
「それは知っておる。だが略奪とはなんじゃ? 拠点を奪うことになんのメリットがある? いや、己にバフが掛かるのじゃったか? では相手側にはデバフか」
「その通り。彼らはここにいる人数分のデバフがかかった状態で戦闘をこなしている。圧倒的に不利な形の状態で戦闘しているんだ」
けど、それでもグラーキを討伐させたのは見事という他ない。
が、だからと言ってすぐにこちらを狙うのはシェリルらしくない。
それをやってのける相手は……光の巨人の持ち主、探偵さんか?
彼ならやりかねない。
なんせあの人勝てる試合しかしないから。
そしてそれを見越した様に光の巨人は鳥の頭を激しく発光させながら何かをチャージしている。
それはどう見たってエネルギーの収束を意味する物で、それを撃たれたらまずいのは私たちである。
が、行動値にバフがかかってる今の状態でなら回避は余裕……が、そのバフが切れたら?
「そう言うことか!」
「何かわかったくま?」
「向こうの狙いが分かった。パーティーチャットを開く。くま君は私のパーティーに入って」
「入ったくま!」
「妾も入ってしまえる様じゃの? 良いのか?」
「構わないよ」
そしてパーティーチャットで連絡を入れようとしたまさにその時、もう一度略奪戦が仕掛けられた。
提示された数値は全員が信仰。
つまり先程の私達のステータスの提示でより検証が進んだ形になる。
これ、もしかして向こうの攻撃チャンスのたびに差し込まれるの?
防衛に失敗した途端に全滅しかねない最悪の攻撃だ。
まだもりもりハンバーグ君が残ってるとはいえ、あの人どうせ負けるならってこちらを道連れにする気だな?
そうはさせない!
私はパーティーチャットに入るなりメンバー達にこう伝えた。
アキカゼ・ハヤテ:誰か! 今すぐこの拠点に神格配置して!
( ͡° ͜ʖ ͡°):今更やってきてなんだぁ?
アンブロシウス:無事であったかアキカゼ氏
森のくま:お願いくま! 向こうはこっちの拠点を奪って相打ちを狙ってるくま!
( ͡° ͜ʖ ͡°):くま公、お前正気に戻ったのかよ
アンブロシウス:流石アキカゼ氏と言ったところか
アキカゼ・ハヤテ:それよりも誰か神格置いて
( ͡° ͜ʖ ͡°):そうしてやりたいのはやまやまなんだが
アンブロシウス:ううむ、なんて言って良いものやら
散々間を開けた後、口を開いた( ͡° ͜ʖ ͡°)氏が申し訳なさそうに言った。
( ͡° ͜ʖ ͡°):悪い、神格の召喚に成功はしたが肉体は乗っ取られちまってるんだ
アンブロシウス:同じく、である
アキカゼ・ハヤテ:な、なんだってーーー!!?
森のくま:ΩΩΩ<な、なんだってーー!!?
アール:遊ぶな、マスター
結局、くま君の暴走を抑えたと思ったら新たにもう二つの厄災が降りかかっていた。
もうめちゃくちゃだよ。
スズキ:|◉〻◉)あ、ハヤテさんやっぽー。僕がいない間元気でした?
アキカゼ・ハヤテ:あ、スズキさん。ちょうど良いところに。何処にいるんです?
スズキ:|ー〻ー)ちょっと野暮用でアーカムに戻ってました。
アキカゼ・ハヤテ:アーカムに? なんでまた
スズキ:|◉〻◉)主人が新たにヨグ=ソトース陣営に入るからと言うことでその手続きに。
アキカゼ・ハヤテ:その話初耳ですよ?
スズキ:|◉〻◉)だって本邦初公開ですもん。プークスクス
もりもりハンバーグ:申し訳ありません、お義父さん。僕の方で話を進めてしまって
アキカゼ・ハヤテ:君が主導ならば良いんだけど、ヨグ=ソトースさんがそんな事をね。
スズキ:|◉〻◉)!
アール:こいつは何が言いたいの? 情報は揃えて提示せよ
アキカゼ・ハヤテ:他意はなく、この子はこんな子だから。
森のくま:見慣れた景色くま。じゅるり。
スズキ:|◉〻◉)! ハヤテさん! 僕身の危険がします! そっちに戻らなくても良いですか?
アキカゼ・ハヤテ:はいはい。君が無事なら良いよ。ヨグ=ソトースさんにもよろしくと言っておいて
( ͡° ͜ʖ ͡°):それって俺らも入れるのか?
もりもりハンバーグ:神格と意思疎通が出来次第ですかね?
アール:神格に肉体乗っ取られてる様ではダメじゃと言うことだな?
もりもりハンバーグ:そう言うことになりますかね
アンブロシウス:まだまだ精進が足りぬと言うことか
アキカゼ・ハヤテ:そういえば君達、略奪戦のステータスなに提示した?
( ͡° ͜ʖ ͡°):あん? 何ってそりゃ高いステータスだが?
アキカゼ・ハヤテ:勝敗は見えてるんだよね?
アンブロシウス:なんの話であろうか?
見えていない?
もしかしてジャッジ判定が見えるのは仕掛けられた本人と略奪者のみなのだろうか?
これは少しまずいことになったぞ。
こうやってだべってる間にも略奪戦は続く。
信仰に対するメタステータスは幻影である可能性が高い。
もし相手が信仰押しならばその時は幻影を提示してくれと申し出てみるも、相手が何を提示したかを見れるのも拠点を敷いたもののみと言う徹底ぶりにようやく私だけがその数値を見れているのだと認識する。
これは一歩も二歩も向こうに遅れをとっているなと気づきつつ、それ以外にも向こうに戦略に気付いて逃走を図る事で話がつく。
いつ判定に負けても良い様に逃走ルートを決めて方々に逃げ去ることにした。
問題は向こうがそれを見逃してくれるかにあるが。
無理だろうなぁ。
0
お気に入りに追加
1,986
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
VRMMOで神様の使徒、始めました。
一 八重
SF
真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。
「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」
これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。
「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」
「彼、クリアしちゃったんですよね……」
あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる