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世話焼き侍従と訳あり王子 第五章

1-3 生真面目侍従の煩悶

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 思わず、と言う風に自分の服装を見下ろすイェオリ。初対面で燕尾服だった彼は、侍従にスイッチしたからなのか、翌日からずっと三つ揃えのスーツだ。

 侍従の服装規定は、「白いシャツに華美でないスリーピース」となっているだけで、意外とひとりひとり個性が出る。バッシュは太い首に似合いの大きな襟で、ぱっと見は白一色なのにジャケットを脱ぐと同色の細かいストライプになっていたりと洒落ていたし、イェオリはたいていクラシカルな丸襟で、柔らかいシーツに似た質感のシャツを着ている。

「それ、首元詰まった感じがしなくていいよ。イェオリにも似合ってる」

 威圧感を感じないのもいいよな、と付け足すと、前を歩いていたイェオリがはにかんだように「ありがとうございます」と言った。

 初々しい。同じように昇格したてのはずのだれかさんとは大違いだ。

 ほんと、二十八には見えないわー。

「フットマンの燕尾服って貸与だろ? スーツは各自で用意しとくもんなの?」
「はい。侍従に昇格すると衣装手当がいただけますが、上級職を希望する者はフットマンのあいだに自分で何着かは」
「急に『明日から侍従やれ』って言われることもあるし?」
「非常に特殊な例ではありますが」
「でも、いきなり自分で選べって難しくない? やっぱり周りの侍従のを参考にしてんの?」
「さようですね。ただ、もっと直接的に、先輩の侍従からアドバイスをいただくことも多いです。侍従への昇格は狭き門ですから、そうして顔をつなぐのも重要なので」

 もちろん、優秀でなければ登用されませんが、とイェオリが言うのを聞いて、以前バッシュも、人脈が作れるかが評価基準だと話していたことを思い出す。

「じゃあ、イェオリも優秀なんだ」
「あ、いえ! そうではなくてですね!」

 慌てたように振り返り、新人侍従が両手を振る。

 べつに嫌味で言ったわけではないのに、あまりにも焦るので笑ってしまった。

「そんな焦んなくていいよ。本当にそう思ってるから」
「それは、はい。非常にありがたいのですが……。わたくしは、臨時で兼任させていただいている身で、ヘインズさまがお役目を終えられましたら、フットマンに戻ることになっておりますので」

 だから、まだ自覚が足りないのだと肩を落として反省する。

「申し訳ございません。ベイカーのように不足なくお仕えできればよいのですが」
「じゃあ、あと四十は歳を取らないとな」
「あの、せめてもう少し……」

 早く、と言いかけて、それもベイカーに失礼だと気づいたのだろう。イェオリは言葉を探して黙り込む。

「冗談だよ」

 生真面目で正直な青年だ。いろいろ苦労しそうな性格だが、イェオリを侍従に指名してくれたことには感謝したい。

 くびは撤回してやるよ、人事責任者。
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