69 / 334
世話焼き侍従と訳あり王子 第五章
1-2 裏口での井戸端会議
しおりを挟む
「いい香りだわ。素敵な花束ね」
華やかさに欠ける花束を、ハウスの裏口で行き会ったミシェルは目ざとく褒めた。
「……フェリシア妃に」
出迎えに来たイェオリがそばにいる手前、「母さん」とは呼ばない。めんどうなことを頼んでいるのに、ミシェルはこの小芝居を楽しんでいるふしがあった。
「きっと大喜びよ」
ねえ? と話を振って、イェオリまでうなずかせる。
紫を中心にした庭を見ていたら、ギャラリーで会った母のスーツを思い出したのだ。迎えに来たベイカーもやたら褒めてくれたが、らしくないことをしている自覚があるだけに、ちょっと気恥ずかしい。
おまけにミシェルが「式のブーケも発注しようかしら」などと言うから、強めに拒否しておいた。コンペを勝ち抜いた業者に恨まれるのは勘弁だ。
「いまなら上にいらっしゃるけど、渡しに行く?」
「メイドに頼む。ラスに呼ばれてるから、あんまり時間ないし」
「そう? なら預かるわよ。わたし、これからお会いするの」
「じゃあ、頼んでいい?」
「ええ」
正直、助かったと思いながら、ささやかな花束をミシェルに託す。
「ミリーは、きょうはなんの打ち合わせ?」
「式と晩餐会のドレスに合わせる、ネックレスとイヤリングよ。フェリシアさまが好きなものを下さるって言うから、わくわくしちゃう」
「楽しそうだね」
「死ぬほど忙しいけれどね。貴族会から首相から慈善団体の代表まで、とにかく挨拶挨拶で目が回りそう。ストレスで暴食したいけどドレスが入らなくなったら困るし、本当にまいっちゃうわ」
あすは我が身だな。
「お疲れ」
エリオットはもうすぐ義姉になる幼馴染をねぎらった。
互いに約束の時間があるので、短く言葉を交わしてミシェルと別れる。
手ぶらになったエリオットは、サイラスの書斎へ向かいながらイェオリの背中に話しかけた。
「頼みたいことがあるんだけど」
「はい、どう言ったご用でしょうか」
「頻繁に通うと思ってなかったから、シャツの持ち合わせがあんまりないんだ。何枚か見繕ってほしくて。そう言うの、イェオリに頼んでいいの?」
仮に洗濯機を回したとして、自力でアイロンがけができる気がしなかった。バッシュが片付けたアイロン台を探しているあいだに、クローゼットの在庫が切れる。
「もちろん承ります。テーラーやブランドのご指定も、遠慮なくお申し付けください」
「おれ、そう言うの詳しくないんだよ」
侍従やヘインズ家の使用人たちはこだわりを持ってそろえていたかもしれないが、エリオット自身は着ているもののテーラーなど気にしたことがない。着心地がいいものは好きだけれど、じゃあどこのブランドがいいのかと聞かれても分からなかった。しかしなんでもいいと言えばイェオリが困るだろう。
しいて言うなら……。
「イェオリが着てるのと同じやつがいい」
「わたくしと、でございますか」
華やかさに欠ける花束を、ハウスの裏口で行き会ったミシェルは目ざとく褒めた。
「……フェリシア妃に」
出迎えに来たイェオリがそばにいる手前、「母さん」とは呼ばない。めんどうなことを頼んでいるのに、ミシェルはこの小芝居を楽しんでいるふしがあった。
「きっと大喜びよ」
ねえ? と話を振って、イェオリまでうなずかせる。
紫を中心にした庭を見ていたら、ギャラリーで会った母のスーツを思い出したのだ。迎えに来たベイカーもやたら褒めてくれたが、らしくないことをしている自覚があるだけに、ちょっと気恥ずかしい。
おまけにミシェルが「式のブーケも発注しようかしら」などと言うから、強めに拒否しておいた。コンペを勝ち抜いた業者に恨まれるのは勘弁だ。
「いまなら上にいらっしゃるけど、渡しに行く?」
「メイドに頼む。ラスに呼ばれてるから、あんまり時間ないし」
「そう? なら預かるわよ。わたし、これからお会いするの」
「じゃあ、頼んでいい?」
「ええ」
正直、助かったと思いながら、ささやかな花束をミシェルに託す。
「ミリーは、きょうはなんの打ち合わせ?」
「式と晩餐会のドレスに合わせる、ネックレスとイヤリングよ。フェリシアさまが好きなものを下さるって言うから、わくわくしちゃう」
「楽しそうだね」
「死ぬほど忙しいけれどね。貴族会から首相から慈善団体の代表まで、とにかく挨拶挨拶で目が回りそう。ストレスで暴食したいけどドレスが入らなくなったら困るし、本当にまいっちゃうわ」
あすは我が身だな。
「お疲れ」
エリオットはもうすぐ義姉になる幼馴染をねぎらった。
互いに約束の時間があるので、短く言葉を交わしてミシェルと別れる。
手ぶらになったエリオットは、サイラスの書斎へ向かいながらイェオリの背中に話しかけた。
「頼みたいことがあるんだけど」
「はい、どう言ったご用でしょうか」
「頻繁に通うと思ってなかったから、シャツの持ち合わせがあんまりないんだ。何枚か見繕ってほしくて。そう言うの、イェオリに頼んでいいの?」
仮に洗濯機を回したとして、自力でアイロンがけができる気がしなかった。バッシュが片付けたアイロン台を探しているあいだに、クローゼットの在庫が切れる。
「もちろん承ります。テーラーやブランドのご指定も、遠慮なくお申し付けください」
「おれ、そう言うの詳しくないんだよ」
侍従やヘインズ家の使用人たちはこだわりを持ってそろえていたかもしれないが、エリオット自身は着ているもののテーラーなど気にしたことがない。着心地がいいものは好きだけれど、じゃあどこのブランドがいいのかと聞かれても分からなかった。しかしなんでもいいと言えばイェオリが困るだろう。
しいて言うなら……。
「イェオリが着てるのと同じやつがいい」
「わたくしと、でございますか」
56
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説


飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる