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世話焼き侍従と訳あり王子 第五章

1-2 裏口での井戸端会議

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「いい香りだわ。素敵な花束ね」

 華やかさに欠ける花束を、ハウスの裏口で行き会ったミシェルは目ざとく褒めた。

「……フェリシア妃に」

 出迎えに来たイェオリがそばにいる手前、「母さん」とは呼ばない。めんどうなことを頼んでいるのに、ミシェルはこの小芝居を楽しんでいるふしがあった。

「きっと大喜びよ」

 ねえ? と話を振って、イェオリまでうなずかせる。

 紫を中心にした庭を見ていたら、ギャラリーで会った母のスーツを思い出したのだ。迎えに来たベイカーもやたら褒めてくれたが、らしくないことをしている自覚があるだけに、ちょっと気恥ずかしい。

 おまけにミシェルが「式のブーケも発注しようかしら」などと言うから、強めに拒否しておいた。コンペを勝ち抜いた業者に恨まれるのは勘弁だ。

「いまなら上にいらっしゃるけど、渡しに行く?」
「メイドに頼む。ラスに呼ばれてるから、あんまり時間ないし」
「そう? なら預かるわよ。わたし、これからお会いするの」
「じゃあ、頼んでいい?」
「ええ」

 正直、助かったと思いながら、ささやかな花束をミシェルに託す。

「ミリーは、きょうはなんの打ち合わせ?」
「式と晩餐会のドレスに合わせる、ネックレスとイヤリングよ。フェリシアさまが好きなものを下さるって言うから、わくわくしちゃう」
「楽しそうだね」
「死ぬほど忙しいけれどね。貴族会から首相から慈善団体の代表まで、とにかく挨拶挨拶で目が回りそう。ストレスで暴食したいけどドレスが入らなくなったら困るし、本当にまいっちゃうわ」

 あすは我が身だな。

「お疲れ」

 エリオットはもうすぐ義姉になる幼馴染をねぎらった。

 互いに約束の時間があるので、短く言葉を交わしてミシェルと別れる。
 手ぶらになったエリオットは、サイラスの書斎へ向かいながらイェオリの背中に話しかけた。

「頼みたいことがあるんだけど」
「はい、どう言ったご用でしょうか」
「頻繁に通うと思ってなかったから、シャツの持ち合わせがあんまりないんだ。何枚か見繕ってほしくて。そう言うの、イェオリに頼んでいいの?」

 仮に洗濯機を回したとして、自力でアイロンがけができる気がしなかった。バッシュが片付けたアイロン台を探しているあいだに、クローゼットの在庫が切れる。

「もちろん承ります。テーラーやブランドのご指定も、遠慮なくお申し付けください」
「おれ、そう言うの詳しくないんだよ」

 侍従やヘインズ家の使用人たちはこだわりを持ってそろえていたかもしれないが、エリオット自身は着ているもののテーラーなど気にしたことがない。着心地がいいものは好きだけれど、じゃあどこのブランドがいいのかと聞かれても分からなかった。しかしなんでもいいと言えばイェオリが困るだろう。

 しいて言うなら……。

「イェオリが着てるのと同じやつがいい」
「わたくしと、でございますか」
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