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第二十六章 王都の演者
せいこうきしだん
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翌日、謁見の練習をしていたときのことだ。
ラングゲレイグが呼んでいると言われ、外に出た。
「どういうことだアレは」
待ち構えるように待っていた彼が、館の入り口に立つ集団を見て言った。
夢かと思った。
そこには予想外の光景が広がっていた。
白い鎧で全身を纏った集団。馬も白い鎧を纏っている。雲1つ無い晴れやかな日の光に照らされて、キラキラと輝く白い騎士団。大軍が、館の前に勢揃いしていた。
「なんなのでしょう?」
「なんなのでしょう……ではない。あれは、聖光騎士団だ。ヨラン王国で王に従わない唯一の騎士団。大神殿に所属し、神官によって構成される騎士団だ」
「聖光騎士団ですか」
かっこいい名前だな。名前だけでは無い微動だにしない騎士の一団は迫力があった。
「しかも普通は、王都外周に分散しているはずの、隊長格が揃っている。尋常な状況ではないぞ」
「詳しいのですね」
「私は第3騎士団にいた。付き合いぐらいはある……で、お前の望みに応じはせ参じたと奴らは言っているのだが?」
げ?
あの人達、そんな事を言っているのか。
望みに応じ……そう言われたら、そうだな。嘘は言っていない。
「いや、まぁ……観光と護衛をお願いできればと思いまして……」
「いいか、なんとかしろ。こんな状況を放置していたら、どう話が転ぶか分からない」
言われなくともなんとかしたい。
洒落にならない大部隊だ。ここから見える範囲……何百人といる。こんな大部隊で、一体、誰と戦うというのだろう。
オレが望んだのは、ささやかな護衛だ。
しょうがないかと、トコトコと彼らに近づくと、ヒラリと馬から下りて2人の全身鎧姿が近づき、兜を脱いだ。
一人は、ピンシャル。昨日やって来たドーベルマンっぽい頭をした獣人だ。
もう1人は、目つきの鋭いスキンヘッド。普通に怖い。
「初めまして賢者リーダ様。私は、聖光騎士団総帥にして、軍神キトレソノに仕えるチェンバレンと申します。帝国での行進、魔物との激戦、冥府の盟主との決戦……その場に、軍神に仕える身ながらはせ参じることができず申し訳ございません。こたびは、その雪辱を果たすため、全身全霊をかける所存。以後お見知りおきを」
バッと跪き、スキンヘッドの、そんな自己紹介があった。
ちなみにピンシャルは、副総帥という立場らしい。
いたたまれない。
とはいうものの、何と言えばいいのだろうか。
大げさすぎます……いや、ダメだ。なんか感極まっているこの人達にヘタな事を言って怒らせたら、オレが死にそうだ。
どうしようかなと、後を振り返ると、同僚達が目を逸らしやがった。
あいつら、オレに丸投げするつもりだ。
後は、柔やかな営業スマイルを浮かべるラングゲレイグと、ノアだけ。
そんなノアはトコトコと近づいてきた。
「おぉ、ノアサリーナ様。お初にお目にかかります」
そして、始まる自己紹介。今回は、加えて側に居る部隊長が自己紹介に加わる。
ロンロの助言をうけて、そつなくノアがこなしていくが、今日は初日ということで全員が揃っているそうだ。
「これから大神殿へ……ですか?」
「左様でございます。いえ、用事があるようであれば、お待ちしますので、急がれる必要はございません」
ノアの問いかけに、柔やかなスキンヘッド、チェンバレンが答える。
待たれても困る。
小さく頷くノアに任せ、そそくさとラングゲレイグの元へと向かう。
「この際、大神殿まで行って、そこで解散をお願いしようかと思います」
「そうか……、確かに彼らのあの勢いでは、この場での解散を申し入れるのは難しいだろう。任せる」
「かしこまりました」
大神殿までは、聖光騎士団の面々に任せ、向こうで条件をいろいろ話し合うというオレの考えにラングゲレイグも賛成してくれた。
「なんか盛り上がっているからな、リーダの考えでいいと思うぞ」
サムソンを始め、同僚達も賛成してくれる。
「それでは、あの馬車へ」
チェンバレンが手で示す先には、真っ白で、メルヘンチックな幌の無い馬車があった。
「うっ」
アレに乗れというのか。
うーん。
しょうがないか。最近は特に投げやりだなと思いつつ、観念して乗ることにした。
さっさと大神殿まで言って、やり過ぎな現状を是正しようと思ったのだ。
ピッキー達はお留守番。
そして、ピッキー達と一緒にお留守番したいと言う同僚達を、なんとか道連れにして馬車に乗る。
『ジャーン、ジャーン! ドンドコドンドコ』
ドラの音と、太鼓の音が鳴り、馬車が動き出す。
次いで笛の音やハープの音が鳴り響き、ちょっとした大神殿までの移動がパレードのようになっていく。
辺りにはいつの間にか集まった見物人。どこの大統領だよ、オレ達。
これ、やり過ぎだろう。
「済みません。あの音楽……」
「あぁ、あれは、我ら軍神キトレソノの神官自慢の楽器達です。キトレソノ神は、楽器と戦の神。見事なものでしょう。それにしても、今日という日に、神も祝福しています。ほら、この通り、旗が見事にはためく良い風が吹いている」
オレの音楽を止めて欲しいという訴えは、最後まで言い終わらないうちに、満面の笑みを浮かべたチェンバレンの言葉で打ち切られた。
その先は、にこやかなノア、諦めたオレと、同様に諦めて死んだ魚のような目をした同僚達が、馬車で大神殿への道を進む。鳴り響く楽器の音色と、巨大な旗をたなびかせ進むチェンバレンを始め、真っ白い騎士達と共に。
そして、途中からやり過ぎ感がどんどん強くなる。
空から、紙吹雪のような色とりどりの小さく四角い欠片が降り注ぎ、それが太陽の光に照らされてキラキラと輝く。
さらに、その欠片に誘われるように、大量の聖獣が……魚の群れが空を踊るように飛び周り、とても幻想的な雰囲気になっていた。
笑顔を貼り付け、目から光りが失われていたカガミも、幻想的な光景に見入っていた。
確かに、それだけの光景だった。オレだって、この状況の中心にいなかったら、ずいぶんと楽しめただろう。
そして、それはゴールである大神殿でピークに達した。
大神殿は、いままで見た中でも一番立派な建物だった。
名前のとおり、神々しさを感じる厳かな巨大建築物。カガミとプレインが、ゴシック建築がどうとか言っているので、元の世界にも似たような建物があるのだろう。
建物に対してやや小さな庭を馬車が進んだ先には、立派な神官服に身を包んだおじいさんが待っていた。
「大神殿長ボルカウェンでございます。名を隠し次へと繋ぐ月、静かに希望待つ頃、心温まる隣人を得て笑みを隠せません。ノアサリーナ様、よくぞおいで下さいました」
そのおじいさん……大神殿長ボルカウェンが、馬車から降りたノアを出迎えたのだが、そこがピークだった。
キラキラと輝き降り注ぐ色とりどりの破片、それがフワリと吹いた風によってノアを中心に舞い上がる。
ノアがスカートの端を摘まみお辞儀した瞬間に起こった出来事。それは、晴れ渡った明るい日差しにより、一層、辺りをキラキラとあたりを輝かせ、美しく見せていた。
それが、真っ白い騎士が囲む中で繰り広げられたのだ。
「おぉ……」
大神殿の周りで、様子を見物していた人の溜め息のような喚声があがる。
なんだ、この状況……妙に派手で、おかしくないか……。
うん?
やつらか!
ふと、視線の先に、大きく頷くヌネフと、ウィルオーウィスプの姿が見えた。
どう考えても、いろいろ不自然だと思っていた。
過剰な演出の効果もあって、ノアとオレ達は、感嘆の声を浴び大神殿へと足を踏み入れた。
ラングゲレイグが呼んでいると言われ、外に出た。
「どういうことだアレは」
待ち構えるように待っていた彼が、館の入り口に立つ集団を見て言った。
夢かと思った。
そこには予想外の光景が広がっていた。
白い鎧で全身を纏った集団。馬も白い鎧を纏っている。雲1つ無い晴れやかな日の光に照らされて、キラキラと輝く白い騎士団。大軍が、館の前に勢揃いしていた。
「なんなのでしょう?」
「なんなのでしょう……ではない。あれは、聖光騎士団だ。ヨラン王国で王に従わない唯一の騎士団。大神殿に所属し、神官によって構成される騎士団だ」
「聖光騎士団ですか」
かっこいい名前だな。名前だけでは無い微動だにしない騎士の一団は迫力があった。
「しかも普通は、王都外周に分散しているはずの、隊長格が揃っている。尋常な状況ではないぞ」
「詳しいのですね」
「私は第3騎士団にいた。付き合いぐらいはある……で、お前の望みに応じはせ参じたと奴らは言っているのだが?」
げ?
あの人達、そんな事を言っているのか。
望みに応じ……そう言われたら、そうだな。嘘は言っていない。
「いや、まぁ……観光と護衛をお願いできればと思いまして……」
「いいか、なんとかしろ。こんな状況を放置していたら、どう話が転ぶか分からない」
言われなくともなんとかしたい。
洒落にならない大部隊だ。ここから見える範囲……何百人といる。こんな大部隊で、一体、誰と戦うというのだろう。
オレが望んだのは、ささやかな護衛だ。
しょうがないかと、トコトコと彼らに近づくと、ヒラリと馬から下りて2人の全身鎧姿が近づき、兜を脱いだ。
一人は、ピンシャル。昨日やって来たドーベルマンっぽい頭をした獣人だ。
もう1人は、目つきの鋭いスキンヘッド。普通に怖い。
「初めまして賢者リーダ様。私は、聖光騎士団総帥にして、軍神キトレソノに仕えるチェンバレンと申します。帝国での行進、魔物との激戦、冥府の盟主との決戦……その場に、軍神に仕える身ながらはせ参じることができず申し訳ございません。こたびは、その雪辱を果たすため、全身全霊をかける所存。以後お見知りおきを」
バッと跪き、スキンヘッドの、そんな自己紹介があった。
ちなみにピンシャルは、副総帥という立場らしい。
いたたまれない。
とはいうものの、何と言えばいいのだろうか。
大げさすぎます……いや、ダメだ。なんか感極まっているこの人達にヘタな事を言って怒らせたら、オレが死にそうだ。
どうしようかなと、後を振り返ると、同僚達が目を逸らしやがった。
あいつら、オレに丸投げするつもりだ。
後は、柔やかな営業スマイルを浮かべるラングゲレイグと、ノアだけ。
そんなノアはトコトコと近づいてきた。
「おぉ、ノアサリーナ様。お初にお目にかかります」
そして、始まる自己紹介。今回は、加えて側に居る部隊長が自己紹介に加わる。
ロンロの助言をうけて、そつなくノアがこなしていくが、今日は初日ということで全員が揃っているそうだ。
「これから大神殿へ……ですか?」
「左様でございます。いえ、用事があるようであれば、お待ちしますので、急がれる必要はございません」
ノアの問いかけに、柔やかなスキンヘッド、チェンバレンが答える。
待たれても困る。
小さく頷くノアに任せ、そそくさとラングゲレイグの元へと向かう。
「この際、大神殿まで行って、そこで解散をお願いしようかと思います」
「そうか……、確かに彼らのあの勢いでは、この場での解散を申し入れるのは難しいだろう。任せる」
「かしこまりました」
大神殿までは、聖光騎士団の面々に任せ、向こうで条件をいろいろ話し合うというオレの考えにラングゲレイグも賛成してくれた。
「なんか盛り上がっているからな、リーダの考えでいいと思うぞ」
サムソンを始め、同僚達も賛成してくれる。
「それでは、あの馬車へ」
チェンバレンが手で示す先には、真っ白で、メルヘンチックな幌の無い馬車があった。
「うっ」
アレに乗れというのか。
うーん。
しょうがないか。最近は特に投げやりだなと思いつつ、観念して乗ることにした。
さっさと大神殿まで言って、やり過ぎな現状を是正しようと思ったのだ。
ピッキー達はお留守番。
そして、ピッキー達と一緒にお留守番したいと言う同僚達を、なんとか道連れにして馬車に乗る。
『ジャーン、ジャーン! ドンドコドンドコ』
ドラの音と、太鼓の音が鳴り、馬車が動き出す。
次いで笛の音やハープの音が鳴り響き、ちょっとした大神殿までの移動がパレードのようになっていく。
辺りにはいつの間にか集まった見物人。どこの大統領だよ、オレ達。
これ、やり過ぎだろう。
「済みません。あの音楽……」
「あぁ、あれは、我ら軍神キトレソノの神官自慢の楽器達です。キトレソノ神は、楽器と戦の神。見事なものでしょう。それにしても、今日という日に、神も祝福しています。ほら、この通り、旗が見事にはためく良い風が吹いている」
オレの音楽を止めて欲しいという訴えは、最後まで言い終わらないうちに、満面の笑みを浮かべたチェンバレンの言葉で打ち切られた。
その先は、にこやかなノア、諦めたオレと、同様に諦めて死んだ魚のような目をした同僚達が、馬車で大神殿への道を進む。鳴り響く楽器の音色と、巨大な旗をたなびかせ進むチェンバレンを始め、真っ白い騎士達と共に。
そして、途中からやり過ぎ感がどんどん強くなる。
空から、紙吹雪のような色とりどりの小さく四角い欠片が降り注ぎ、それが太陽の光に照らされてキラキラと輝く。
さらに、その欠片に誘われるように、大量の聖獣が……魚の群れが空を踊るように飛び周り、とても幻想的な雰囲気になっていた。
笑顔を貼り付け、目から光りが失われていたカガミも、幻想的な光景に見入っていた。
確かに、それだけの光景だった。オレだって、この状況の中心にいなかったら、ずいぶんと楽しめただろう。
そして、それはゴールである大神殿でピークに達した。
大神殿は、いままで見た中でも一番立派な建物だった。
名前のとおり、神々しさを感じる厳かな巨大建築物。カガミとプレインが、ゴシック建築がどうとか言っているので、元の世界にも似たような建物があるのだろう。
建物に対してやや小さな庭を馬車が進んだ先には、立派な神官服に身を包んだおじいさんが待っていた。
「大神殿長ボルカウェンでございます。名を隠し次へと繋ぐ月、静かに希望待つ頃、心温まる隣人を得て笑みを隠せません。ノアサリーナ様、よくぞおいで下さいました」
そのおじいさん……大神殿長ボルカウェンが、馬車から降りたノアを出迎えたのだが、そこがピークだった。
キラキラと輝き降り注ぐ色とりどりの破片、それがフワリと吹いた風によってノアを中心に舞い上がる。
ノアがスカートの端を摘まみお辞儀した瞬間に起こった出来事。それは、晴れ渡った明るい日差しにより、一層、辺りをキラキラとあたりを輝かせ、美しく見せていた。
それが、真っ白い騎士が囲む中で繰り広げられたのだ。
「おぉ……」
大神殿の周りで、様子を見物していた人の溜め息のような喚声があがる。
なんだ、この状況……妙に派手で、おかしくないか……。
うん?
やつらか!
ふと、視線の先に、大きく頷くヌネフと、ウィルオーウィスプの姿が見えた。
どう考えても、いろいろ不自然だと思っていた。
過剰な演出の効果もあって、ノアとオレ達は、感嘆の声を浴び大神殿へと足を踏み入れた。
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