召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

文字の大きさ
上 下
538 / 830
第二十六章 王都の演者

さんにん

しおりを挟む
 呪い子か……。
 幸か不幸かオレ達は、今まで名の知れた呪い子だったからこそ快適に過ごせていた。
 今回は、変装したことで、無名な呪い子とその一行になってしまった。その結果、わけもわからず嫌がらせを受けるという状況に陥った。
 嫌な思いをしただけで、王都の様子を楽しむ気にもなれずオレ達は物静かに帰路につく。

「お芋、食べながら帰ろうよ」

 そんな雰囲気を何とかしようとばかりに、ミズキが皆に熱々の芋を配る。
 見れば見るほど焼き芋だな。サツマイモの焼き芋。
 熱々の焼き芋に何度も息を吹きかけた後、パクリと食べる。

「甘っ」

 予想外の甘さに驚く。元の世界にあった焼き芋の味そのままだが、こちらの方が甘いと思う。
 甘いもの好きのピッキーはパクパクとすごい勢いで食べていく。
 熱いのに、凄いな。それに、見ていて楽しい。
 美味しいものを食べると皆が上機嫌になる。

「いい買い物をしたよね」
「ピッキー君。俺のも半分やろう」
「いいのですか?」
「兄ちゃん……」
「俺は、甘い物はそんなに得意じゃないからな」

 会話も弾む。
 ピッキーは本当に気に入ったみたいだな。焼き芋だったら、オレでも作れそうだし、材料を見つけたら買い込むのもいいな。

「でも、これからどうします?」
「そうスね。練習を淡々として、褒美を貰った後は、さっさと帰った方がいいかもしれないっスね」

 プレインが用事を済ませたら、すぐに戻ることを主張し、ノアも小さく頷いた。
 だがオレは、それとは別の考えが頭に浮かんでいた。
 美味しい物を食べると前向きになるのだ。

「せっかくだから観光しよう」
「でも田舎者に冷たいって……」
「皆、忘れたのか?」
「忘れたって?」
「オレ達はただの田舎者じゃない。吟遊詩人に歌われるような田舎者なんだ」
「えっと……まぁ、そう言われれば……」
「変装なんてコソコソする必要ないんだ。ネームバリューを生かそう」
「そうだね」

 オレの主張にミズキが大きく頷く。
 悪意の問題は、改めて考えればいいのだ。
 ずっとオレ達は問題には対策をしてきた。今回もなんとかできる自信がある。

「あれ? お客様でちか?」

 前向きな気分のままに館に戻ると、入り口近くで2人の子供が口論していた。
 今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうな勢いで、何やら言い合っている。白を基調としたゆったりとした服……神官のようだ。

「何かこちらの館に用ですか?」

 少し警戒して二人に近づき声をかけてみる。

「はい。大神殿より参りました」

 2人はやはり神官だった。
 片方はエルフの女の子、そうしてもう1人は人間の男の子。

「アルコル姉様の汚名をそそぐ為に来たんだ」
「違います。そうではありません」

 神官2人の言っている事は、要領を得ない。
 オレ達を尋ねてきたのか、それとも違うのか、それすら分からない。
 館の前での小さなもめ事。相手が神官で子供だからか、門番のパッターナも、対処に困っていた。

「二人ともおやめなさい」
「げっ。ピンシャルだ」

 そんなよく分からない言い争いは、さらに後からやってきた、もう1人の神官によって終わった。その神官、真っ黒いドーベルマンに似た強面の獣人であるピンシャルが、二人を諭してくれたのだ。

「つまり、お嬢様に会いに来たと?」
「えぇ。聖女ノアサリーナ様と、賢者リーダ様が、王都に来られたと情報を聞き及びましてな。これは、もう、是非にも、大神殿にお招きせねばということになりましてですな」

 さらにピンシャルの説明で、2人の目的もわかった。
 どうやら、オレ達を尋ねてきたようだ。
 ちなみに、エルフの女の子がヤクツーノ神官のラタッタ。
 もう1人の男の子がルタメェン神官でグンターロという名前だそうだ。

「それで私が来てやったんだ」
「いえ、違います。勝手にラタッタが押しかけようとしたのです」
「2人とも黙りなさい」
「へいへい。いつもピンシャルは静かに、黙れだ」
「ダメですよ。ラタッタ。そんな言い方」

 ワイワイ騒がしい。
 でも、先ほどまで嫌な事ばかりだったので、この騒がしさは悪くない。

「というわけで、是非ともノアサリーナ様におかれましては、大神殿にお越し頂ければ……と」

 そう言って、ピンシャルが、ノアへ向かって頭を下げる。

「え?」

 驚きの声をあげて、ノアが変装を解いた。

「あ!」
「ノアサリーナ様?」

 それをみて、二人の子供が驚いた様子で声をあげた。

「だから修行が足りないと……私達は、こう見ても神に仕える者。聖女様が多少姿を変えていても見破ることはわけありません」

 ノアと二人の驚きに、ピンシャルはそう厳かに答えた。
 本当は、どうなのだろう。呪い子だからわかったのだろうか、少し不安になる。
 それにしても、大神殿か。あの、お城の次に巨大な建物だよな。
 縦長の尖った屋根が印象的な建物だ。

「大神殿というのは、あの……大きな建物でしょうか?」

 ノアは小さく頷き、巨大な建物をチラリと見て質問する。

「そうでございます。この世で最も巨大な神殿」
「実際のところ、イフェメト帝国にある方が、横幅広いんだけどな」

 ノアの質問に、ピンシャルは大きく頷き、エルフの女の子ラタッタが付け足すような小声が聞こえた。加えて、もう1人の男の子が、その口を塞いだ姿も視界の端に見えた。
 大神殿は、帝国にもあるのか。
 そういえば、ギリアにも大神殿作る計画があるって言っていたな。
 確か、この世界の大神殿というのは、複数の神様を祭る巨大な神殿といったものだ。

「お招きは嬉しいのですが……」

 言いよどみ、チラリとノアはオレを見る。

「何か問題でも?」

 それに対しピンシャルが不安げな声をあげ、ノアと同じようにオレを見た。
 ノアが言いたい事はわかる。

「えぇ、少し問題がありまして、解決策が見つかれば伺いたいと思います」

 身の危険があるので、すぐに行くとは約束しきれないのだ。
 というわけで、具体的な約束はせず、とりあえずは前向きですよといった調子で回答する。

「すぐにというは……難しいのですね」

 断ったわけではないので、問題ないだろうと思っていたのだが、ピンシャルはひどくガッカリしていた。
 なんでだろうか?
 焦っている?

「何かお急ぎの事情があるのでしょうか?」

 ふとした疑問。

「せっかく王都にいらして頂けたので、是非とも皆が早くお目にかかりたいと……」

 そんな疑問に、苦笑しつつピンシャルは答える。
 だが、それは本音ではないようだ。
 ここには彼一人ではない。
 口の軽い人がいるのだ。
 ラタッタ。エルフの女の子だ。

「えっ。新年の祝賀前に来て貰わないと信徒の……モガガ」

 小さい声だったが、確かに聞こえた。もう1人の男の子が思いっきり口を押さえているが、聞こえてしまった。どうやら彼女は思ったことを発言しないではいられない性分のようだ。
 今までの神官どもの態度と、先ほどのラタッタの発言。
 すぐに理解できてしまった。
 こいつら。信徒の勧誘に、ノアを利用するつもりだ。
 新年の祝賀が、かき入れ時なのだろう。つまり、大事な時期を前にノアを呼んで、宣伝材料にする。
 大した裏など無い、いつもの神殿だった。
 そっちがその気なら、オレにも考えがある。

「そうでしたか。せっかくのお招きですが……実は、ノアサリーナ様を狙う者がいるようなのです。それで、皆の安全が確保されない限り、今後しばらくは出歩くのも難しいのです」

 ことさらに、深刻そうに、もの悲しさを演出しつつ答える。
 こう言うのは臨場感が大切なのだ。

「なんという……。そう言うことであれば、我らが対処可能です」

 思った通りの反応をピンシャルが返してくれる。神殿がノアを利用するつもりなら、こちらも神殿を利用する。
 この館の警備も、町を歩き回るオレ達の護衛も、神殿に任せるのだ。快適な観光ができるなら、歩く広告塔くらいにはなってやってもいい。

「それは! 願ってもいないことです。是非とも、お願いしたい」

 オレは、計画通り話が進むことに、内心ほくそ笑みながら、驚いた態度をとる。

「承りました。お任せあれ。では、すぐにでも皆に話をしますので、今日はこれにて失礼」

 そう言って、3人は去って言った。

「なんだかさ、上手くいったよね」
「さすが先輩っス」
「あぁ、なんだかんだと言って神官達は頼りになるからな。大丈夫だろう。さて、神官の皆さんに護衛されて、楽しく観光だ」
「ついでに、案内もお願い出来るかもしれないと思います」
「そうだな。どれくらいの期間、護衛してもらえるのか……そのあたりも要交渉だ」

 3人が去ったあと、笑顔の皆と館へと戻る。
 その時、オレは思いがけない良い展開に上機嫌だった。
 だからと言って、全てが順調というわけではない。
 一応、その日の夜にノアの呪いについて、同僚達には伝えておく。

「そっか。だから……」
「でも、今回は何とかなるんスよね」
「そうだな。だが、何か対策は考えるべきだと思うぞ」

 サムソンの言う通りだ。対策は必要だな。
 でも、とりあえず明日はなんとかなりそうだ。
 楽しく観光できるだろう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...