召還社畜と魔法の豪邸

紫 十的

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第二十六章 王都の演者

だいしんでん

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 大神殿長ボルカウェンの案内で、ノアを先頭に大神殿の中を進む。
 石造りのとても年季の入った作りの建物だ。
 等間隔で建っている石の柱は、遙か上にあるであろう天井に向かって、どこまでも高くそびえて、見えない暗闇の中に消えていく。
 それにしても、どれだけ天井が高い建物なのだろう。
 入る前は何階建てなのかと、疑問に思っていた。だけれど、この様子だと建物はこのフロアで終わりかも……いわゆる平屋建てと言われても納得する。
 縦も高ければ、横も広い。だだっ広い空間の左右両端には、巨大な神の像がみえた。
 そして、その手前には、高さこそないが、まるでこじゃれた雑貨屋のように、棚が置いてある。数限りなく置かれた棚には、壺や本を始め様々な品物がぎっしりと積まれていた。
 陳列の仕方はまるでスーパーマーケットだ。
 多分あれは物販なのだろうな。建物は立派でも、やっていることは何時もの神殿。
 そんな大神殿の中には、オレ達を除き、ほとんど人がいなかった。

「聖女様をお迎えするにあたり、静かな神殿をみていただきたく人払いをしました」

 ノアを案内するように先を歩く大神殿長ボルカウェンは、低く小さな声で言った。
 だが、とても静かで幻想的な空間では、その声ははっきりと聞こえる。
 確かに、この大神殿は人が居ない方が神秘的だな。
 大神殿の床を見てしみじみと思う。この場所は、天井こそ見えないが真っ暗闇ではない。
 建物の壁に沿って、巨大なステンドグラスが貼られていて、そこから光が差し込んでくるからだ。
 差し込む光は建物の中を明るく照らし、床にカラフルなステンドグラスの影を作っていた。
 歩きながら大神殿長であるボルカウェンが、床に作られた鮮やかな影が作る絵を説明してくれる。

「今、私達が歩いているのは、ルタメェン神が全てを飲み込む泥の波で、イレクーメ神を攻撃する様子を描いた物です」

 その言葉で始まった説明。床に照らされた絵は、神々の戦いに関する話だ。
 今の神殿では考えられない、戦いの話、権力争いの話が続く。

「私は、今の……神殿の皆様が好きです」

 ノアの素朴な感想にオレも同意する。営業、営業だけれど、憎めず親近感がわく、そんな神殿でいて欲しい。

「そのお言葉、嬉しい限りでございます。さて、もう少し進んだ先に、席を用意しております」

 さらに進むと、巨大ならせん階段が見えてきた。
 真っ白く、巨大ならせん階段。あれを、登るのか……。

「神の世界は、らせん階段に似ていると言われます。そこに腰掛け、我らを見守っているのだとか」
「とても立派です。でも、登るのも大変そうです」

 ノアのコメントに完全同意だ。
 それにすぐ側まで近づいて分かったが、一段一段の幅が高すぎる。ノアの腰くらいの幅だ。
 さすがにドレス姿で、登るのは無理だ。
 だが、階段は使わなかった。
 らせん階段を支える巨大な支柱。その支柱には扉が付いていた。
 促されるまま、入ってみると一人の神官が待っていた。

「上にまいりまーす」

 全員が部屋に入るなり、中で待っていた神官が軽快な声をあげる。
 グンという、ちょっとした重力を感じ、部屋ごと上に登っていく。
 エレベーターか、これ。
 上がるにつれ、先ほどまで歩いていた床の全貌が見えた。
 等間隔に並ぶ長方形の絵。
 日の光によって床に映り込んだステンドグラスの絵が、映画フィルムに描かれた連続した景色に見えた。

「これは、踊るつぼみですか?」

 グングン登っていく部屋で、ノアが上を見て声をあげる。

「はい。わたくしが、ケルワッル神に祈り、動かしています。ちなみに、このゴンドラは南方で名の知れた細工師集団ケレンジットによる物でございます」
「こんな形の踊るつぼみがあるのですね」
「ノアサリーナ様は、踊るつぼみに……あぁ、ケルワテで、乗られたのですね」
「はい。それに、ピッキーと……私の従者が、踊るつぼみを動かせます」
「それは、それは。素敵です」

 踊るつぼみを動かしていた神官は、とても嬉しそうにノアの話に応じていた。
 へぇ、これはケルワッル神殿の踊るつぼみ……つまりは気球なのか。

「では、あちらに」

 2階にあたるフロアで、オレ達は降りて、一室に通された。
 窓から見える景色は見事なもので、あたりの町並みが一望できた。
 王都には、巨大な建築物が沢山あるな。

「さて、ノアサリーナ様をお呼びしたのは、是非とも大神殿を見て頂きたかったのです」
「とても大きく見事な建物に、沢山の神像が建ち並ぶ大神殿には驚きました」
「それは、嬉しいお言葉です。大神殿はいくつかあれど、この王都にある大神殿ほど見事な神像は他にはありません。それで……ですな、もう一つ、こちらをお渡ししたいと考えていたのです」

 大神殿長であるボルカウェンはテーブルに一冊の本を置いた。
 正方形の大きな本だ。
 本の装丁は、木の細工でされているようで、ふんわりと新鮮な木の香りがする。

「綺麗な本です」
「はい、まだ最初の一冊目にすぎないのですが……」

 そう言って、ボルカウェンがノアの前で本を開く。
 地図?
 マス目に仕切られた地図に、記号が書いてある。
 次のページも、また地図だ。
 パラパラと、ノアの目の前でボルカウェンはページをめくり続けた。
 綺麗に描かれた地図は、ページを進むにつれ細部を示していき、しばらく進むと大神殿が書いてあるページとなった。
 そして、大神殿を含む一画はクーオ・ラドラ・ペペトと書いてある。

「リーダ様が、希望されていた標の言葉、一通り取りまとめて本にいたしました。リーダ様……如何でしょう?」

 まだ、我らが知る世界の全てとはいかないまでも、王都と、その周辺は十分まかなえております。
 おー。
 これは凄い。標の言葉か。あの巨大ペリカン……トーク鳥の強化版である白孔雀の、行き先を指定する言葉を、これだけ集めてくれたのか。
 しかも、地図付き。
 立派な装丁で、こりに凝った代物。

「これは、見事です……地図も立派なものですし」

 リーダ様にそう言って頂き嬉しい限りです。

「精巧な地図ですね」

 カガミは地図の絵を見て、感嘆の声をあげた。
 確かに、立派な地図だ。所々に書き込まれている建物のイラストも見事で、元の世界でみた観光案内地図の超豪華版といった感じだ。

「地図はケルワッル神官が踊るつぼみを上げ、空より絵に長けた者が描き記した物です」
「皆様で協力して作られた地図なのですね」
「ノアサリーナ様の言われる通りです。皆様の言葉、そして、神鳥使いユテレシア様よりもたらされた、神々の力を束ねて対処するという教えに基づき進めています。それで、受け取りのサインを……ですな」

 そう言って、ボルカウェンは、側に控えていた神官から色紙サイズの薄い板を受け取り、ノアの前にそっと差し出した。
 白く塗られた木製の板だ。真っ白というわけではなく、絵が描かれている。
 ややデフォルメされた宗教画といった様子の絵に、ここは神殿なのだなと感じる。
 だけど、受け取りのサインを書く物じゃないだろ……これ。

「名もなき月、晴れ渡る日、念願叶い、王都ヨランの大神殿を訪れることができました。素晴らしい場、素晴らしい出会いに感謝し、大神殿の皆様に感謝致します……ですか」

 すでに書いてある一文を小さく読み上げる。
 受け取りのサインじゃないよねって意味を込めて。
 というか、この絵も……あらかじめ用意していた物だ。油絵っぽいし、昨日今日で描けるとは思えない。

「はははは。そうでございます。やはり準備は大事かと思いまして、皆が頑張りました」

 笑ってごまかしやがった……。
 まぁ、いっか。
 悪い事が書いてあるわけでもないし、立派な地図帳も貰った。
 それに、これからの事を話すのに、事を荒立てる必要もない。

「では、お嬢様……こちらにお名前をお願いします」

 そっと差し出されたペンの刺されたインク壺を、ノアの前に置いてサインをお願いする。
 ノアは神妙な顔でコクリと頷くと、ゆっくり、丁寧に名前を書いていく。
 こうやって見るとノアは字も上手くなったな。
 しばらくして、ノアがサインを書き終え、そっとボルカウェンに差し出した。
 彼はしばらくサインを見ていたが、その表情はやや曇っていた。

「リーダ……」

 そんなボルカウェンの表情に気がついたノアは、自らが書き記したサインと、彼の顔を何度も眺め、困ったようにオレを見た。
 サインの文字に間違いはない。
 だが、ボルカウェンは、ひどく残念そうだ。
 何が起こった?
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