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女装と復讐 -完結編-
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更に日が過ぎて…一週間後の8月21日。
僕が冴嶋プロダクションと、タレント契約を交わすのか、それとも…。
その《決断宣言》を冴島社長に、電話で伝える予定の日。
ただ今の時刻…アルバイトの終わったあとの午後3時31分。
場所はナオさんの化粧品店《BlossoM.》の店内…少し狭い控え室。
椅子に座り、スマホを右手に握って冴嶋社長からの電話を待っている僕。
その僕の目の前に、向かい合うように椅子に座っている詩織。
この控え室に、僕と詩織以外は誰もいない。
『…ね。冴嶋社長さんから電話くるの、まだかなぁ。いつ頃だろうね』
緊張しながらも心を躍らせ、少し嬉しそうな詩織。
『信吾は冴嶋社長さんに、なんて宣言するの?もちろん…だよね?』
僕は詩織のその問い掛けに、満面の笑みで応えてあげることはできなかった…。
固い表情のままの僕…少し俯いた。
『ほんとはね…私、なんとなく分かってるの。信吾が冴嶋社長さんに…なんて宣言しようとしてるのか…』
物音ひとつ無い…静かな控え室…。
詩織の小さな溜め息も、今はっきりと聞こえた…。
『…やっぱりお断りします。ごめんなさい…って、返事するんだよね…』
『えっ!?』
僕は顔を上げて詩織を見た。
詩織の顔から、さっきまでの明るい表情は消えていた…。
『…信吾がやめるって言うのなら…私もやめちゃおうかな…』
『ダメだよ詩織!それだけは!…だって、詩織が芸能界で活躍するの、アンナさんと雄二さんの、ずっと前からの夢だったじゃん!』
『でも、それって《詩織一人で東京に行ってらっしゃい》って…ことにならない?』
…んまぁ…確かに。そういうことになる…。
そして、また僅かの沈黙…。
『…ねぇ、なんで信吾は…お断りしようって思ったの?』
僕は鼓動を少し速めながら…真剣な眼差しで詩織と互いを見合った。
『それは…一週間前にも言ったはずだけど…やっぱり何度考えても、女装男子なんて誰が見ても《変わった奴》《頭のおかしな奴》って思われるに違いないんだ。だから…』
『そうなんだ…』
詩織は僕に笑って見せた。哀しげに…。
『…私、やっぱり…大好きなみんなと離れて…大好きなこの街から離れて…一人だけで東京に行くのなんて嫌だ…寂しいの、嫌だ…そんな毎日がこれからずっと続くなんて考えたら…私…耐えられない…』
…あっ!!
詩織の目から溢れ出た、大粒の涙が…詩織の頬を滑り伝って床へと落ちた…。
僕は、椅子に座った詩織の前まで慌てて行って、膝立ちをする。
そして手を伸ばし、涙を流した詩織の両頬を両手で触れて、優しく包んだ…。
『だけど、芸能界に入れたら、毎日毎日楽しいことがいっぱいだよ』
『でも…たまには失敗したりとか、辛い日だってあるでしょ?…ない?』
…うーん。
あるかもしれない…確かに。
『私は毎日がほんとに楽しいのか、それとも辛いのか分からない芸能界より、大好きなみんなと一緒に居られるこの街…藤浦のほうがいい…』
……。
僕が冴嶋プロダクションと、タレント契約を交わすのか、それとも…。
その《決断宣言》を冴島社長に、電話で伝える予定の日。
ただ今の時刻…アルバイトの終わったあとの午後3時31分。
場所はナオさんの化粧品店《BlossoM.》の店内…少し狭い控え室。
椅子に座り、スマホを右手に握って冴嶋社長からの電話を待っている僕。
その僕の目の前に、向かい合うように椅子に座っている詩織。
この控え室に、僕と詩織以外は誰もいない。
『…ね。冴嶋社長さんから電話くるの、まだかなぁ。いつ頃だろうね』
緊張しながらも心を躍らせ、少し嬉しそうな詩織。
『信吾は冴嶋社長さんに、なんて宣言するの?もちろん…だよね?』
僕は詩織のその問い掛けに、満面の笑みで応えてあげることはできなかった…。
固い表情のままの僕…少し俯いた。
『ほんとはね…私、なんとなく分かってるの。信吾が冴嶋社長さんに…なんて宣言しようとしてるのか…』
物音ひとつ無い…静かな控え室…。
詩織の小さな溜め息も、今はっきりと聞こえた…。
『…やっぱりお断りします。ごめんなさい…って、返事するんだよね…』
『えっ!?』
僕は顔を上げて詩織を見た。
詩織の顔から、さっきまでの明るい表情は消えていた…。
『…信吾がやめるって言うのなら…私もやめちゃおうかな…』
『ダメだよ詩織!それだけは!…だって、詩織が芸能界で活躍するの、アンナさんと雄二さんの、ずっと前からの夢だったじゃん!』
『でも、それって《詩織一人で東京に行ってらっしゃい》って…ことにならない?』
…んまぁ…確かに。そういうことになる…。
そして、また僅かの沈黙…。
『…ねぇ、なんで信吾は…お断りしようって思ったの?』
僕は鼓動を少し速めながら…真剣な眼差しで詩織と互いを見合った。
『それは…一週間前にも言ったはずだけど…やっぱり何度考えても、女装男子なんて誰が見ても《変わった奴》《頭のおかしな奴》って思われるに違いないんだ。だから…』
『そうなんだ…』
詩織は僕に笑って見せた。哀しげに…。
『…私、やっぱり…大好きなみんなと離れて…大好きなこの街から離れて…一人だけで東京に行くのなんて嫌だ…寂しいの、嫌だ…そんな毎日がこれからずっと続くなんて考えたら…私…耐えられない…』
…あっ!!
詩織の目から溢れ出た、大粒の涙が…詩織の頬を滑り伝って床へと落ちた…。
僕は、椅子に座った詩織の前まで慌てて行って、膝立ちをする。
そして手を伸ばし、涙を流した詩織の両頬を両手で触れて、優しく包んだ…。
『だけど、芸能界に入れたら、毎日毎日楽しいことがいっぱいだよ』
『でも…たまには失敗したりとか、辛い日だってあるでしょ?…ない?』
…うーん。
あるかもしれない…確かに。
『私は毎日がほんとに楽しいのか、それとも辛いのか分からない芸能界より、大好きなみんなと一緒に居られるこの街…藤浦のほうがいい…』
……。
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