上 下
407 / 490
女装と復讐 -完結編-

page.396

しおりを挟む
僕は自分が放った言葉に引け目を感じ、俯いたまま恐る恐る冴嶋社長を見た…。


『すみません…でも、やっぱり《女装男子》なんて、この国の《一般常識》や《社会的世論》という観点から見たら…まだまだ《変な人》《頭のおかしな奴》だと受け取られ、そう思われてしまうものだと思うんです…』


僕みたいなのが芸能界で活動なんてして、もし全国に…日本中で有名にでもなったら、それはただの《笑われ者の対象》にしかならないと思う…。




それと僕が一番恐れているのは…僕の両親や親戚の叔父さんや叔母さんのこと…。

僕が《宮端学院大学》の何巻試験に合格し、入学したとき…叔父さんや叔母さん、それに他の親戚の人たちも、僕のことを《自慢の身内の子》だと言って、僕を褒めてくれたんだ…。

そんな僕が1年ほどして《女装男子》になっていて、それを親戚のみんなが知って…そのうえ、その姿を全国に晒すようなことになったら…。

僕は《自慢の子》から一転…《身内の恥晒し》《馬鹿で愚かな子》だと言われ、嫌われるようになって…。

…そうなるかもしれない。それが一番、僕は恐い…。






『…信吾くん。顔を上げて』


冴嶋社長の、掛けてくれたその優しそうな声に…僕はゆっくりと顔を上げて社長を見た。


『あなたのことを…本当に全国のみんなが馬鹿にして笑うかしら?』

『…。』


その優し気な表情の冴嶋社長に、僕は《はい。笑うと思います》なんて…そう思ってても言えない。絶対。


『あなたは女装…というよりメイクの技術を、今日まで同年代の女の子たちの誰よりも、人一倍努力して、磨いてきた…そうでしょ?』

『…はい』

『私は、その《無尽の努力》と《メイク技術》を…信吾くんのその《天与の資》を、誇りに思ってほしい…自信を持って堂々と世に知らせてほしい…そう、あなたに言いたい』

『私も、詩織ちゃんもアンナさんも思ってる。信吾くん…こんなに頑張って、上手にメイクができるようになった男の子なんて…なんか凄くカッコいいなって』


鈴ちゃんはそう言って、僕に大きく頷いて見せてくれた。僕も鈴ちゃんに頷いて見せる。

詩織もアンナさんも、僕に『自信を持って!』と僕にエールを送るように、優しく微笑んでくれていた。


『信吾くん。《ニューハーフタレント》や《女装タレント》が…』


おっと!
僕は慌てて振り返って、再び語りはじめた冴嶋社長を見た。


『…今や芸能界では《ひとつのカテゴリー》として世間から認められ、確立を成していることも、芸能界の歴史の一つとして覚えておいて』


へぇ…そうなんだ。僕はあまりテレビを見ないから…判らないけど。
とりあえず今は…。


『はい』


…そう答えて返すしかなかった。


『信吾くんは、もちろん自分の《女装メイク顔》は、毎日自分でメイクしてるんだから…十分解ってるはずよね?』

『えっ?あ…』


冴嶋社長は、にこりと笑った。


『あなたの《女の子メイク》した顔は《本物の女の子以上に、女の子らしい可愛らしい顔》よね』


『…よね』って言われても、さすがに『はい。そうなんです』なんて大馬鹿な、そんな珍返答は僕はしない。


『私は、ここではっきりと断言させてもらうわ』


…なにを断言されるんだろう…。
僕は静かに息を呑んだ…。


『あなたは…女装した信吾くんの姿《池川金魚ちゃん》は…その存在の全てが《常識をも凌駕した》そのものよ』


…えっ?























しおりを挟む
感想 224

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

処理中です...