女装と復讐は街の華

女装と復讐 -街華編-

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…そして、遂に来た６月第２土曜日。僕は一人、ナオさんのコスメ専門店《BlossoM.》に来ていた。現在の時刻は午前８時23分。

ナオさんが店内のレジカウンター横の接客席に座る、女装を済ませた僕に一生懸命、丁寧にメイクを施している。

今日は《BlossoM.》の専属モデルとしての初めての撮影日…緊張。ドキドキ。






『…もしもし？あ、アンナ？おはよう…うん、居るわよ…今メイクを済ませたところ…はいはーい…じゃあ代わるね』


午前８時51分…ナオさんのiPhoneに電話を掛けてきたアンナさん。ナオさんからナオさんのiPhoneを受け取り、僕は電話に出る。


『もしもし。代わりました。金魚です』

『金魚！大変よ！』


…えっ！？
全く予想すらしていなかった…アンナさんにしては珍しい、この慌て振り…。

何がどうした、と…！？


『ど…どうしたんですか！？』

『丹波彩乃が撮影スタジオに来るらしいの！』

『えぇっ！？なんでですか！？…だって、彩乃の撮影って…』


丹波彩乃のウェディングドレス姿でのモデル撮影日は、《G.F.》の撮影の行われる《３の倍数の月》にとらわれず、不定期に撮影されてた…はず。

なぜかというと、彩乃の素人モデル活動は《G.F.》だけでなく、他の結婚情報誌やファッション雑誌、間接的にモデル契約する総合ウェディング運営会社《寿鶴殿》のパンフレットモデル等にまで及んでいるからだ。


『ただ、なぜ丹羽彩乃が撮影スタジオに来るのかは…分からないの』


そうアンナさんは言うけど、僕はなんとなくその理由が推測できていた。あくまでも僕の推測だけど。

とりあえずアンナさんとの電話が終わったので、iPhoneをナオさんに返す。


『金魚ちゃん…なにか問題でもあったの？』

『あ…いえ。大したことじゃないんです…』


…そうナオさんに言って誤魔化したけど…本当はめちゃくちゃ大したことだ。

彩乃が藤浦市尾久保区にある笹川ビルディングの３階…《藤浦市商業開発広告製作委員会》の撮影スタジオ…に来る理由。それはもちろん撮影のためではない。

樋口が本当に専属モデルを辞めたのかの確認…そして金魚が本当に噂どおり、専属モデルになったのかの確認…このどちらかの１つ、または両方の理由のため。

…でも来るのかぁ…彩乃。
本当は今はまだ、会いたくなかったんだけどな…。






午前９時18分。《G.F.》編集局からの電話での連絡を受けて、ナオさんは僕を呼んだ。


『さぁ金魚ちゃん、初のモデル撮影…行きましょう』

『はい…！』


僕は決意したように、ゆっくりと立ち上がった…行こう。

ほんの少し、色々な意味で今ドキドキしてる。緊張はしてるけど…大丈夫。

僕は樋口みたいに、彩乃のことなんか怖いなんて思ってないし…たぶん。






…ナオさんの車内。僕は運転するナオさんの左隣…助手席に座っている。

目の前に見えてきた《広告製作委員会》編集局のある笹川ビルディング。その地下駐車場へと、ナオさんの車は滑り込む。