女装と復讐は街の華

女装と復讐 -発起編-

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僕は園原智恵先生に呼ばれ、先生の元へ駆け寄って、靴を脱ぎ靴下も脱いだ。
準備…って言っても素足になるだけ。


『じゃあ…まずは、姿勢良く立ちましょう』

『…はい』


僕の横に立った先生。その智恵先生が僕の両肩を後ろへと引き、背中を軽くポンと叩いて胸を張らせる。


『あっち。鏡を見て。自分の姿勢を、自分の目で、ちゃんと確かめて』

『はい』


先生が鏡の貼られている壁を指差した。僕の両肩にもう一度手を添えて、鏡に向かって横を向かせたり、正面を向かせたりと、僕の体をくるくると回す。


『これがウォーキングの基本となる正しい立ち姿勢よ。ちゃんと体で覚えて』

『…はい』


次に先生は僕に、左掌の上で右手の人差し指と中指を交互に動かして見せた。


『こんな感じ…明るく楽しそうに、リズム良く弾むように歩くの。でも、弾みすぎもダメよ。やってみて』

『はい』


僕は頷いて、先生の前で歩いて見せる。


『うーん…ちょっと違うなぁ。肩の平行を保ったままスーッと歩くと、何だか楽しそうじゃないわ。もう少し、気持ち弾むように、ほんのちょっと体全体を上下させて』

『はい』


僕は、今注意されたことに気をつけながら、もう一度歩いて見せた。


『あー。上下はバッチリ。良くなった。けど、今度は一歩一歩が大股すぎ。大股歩きだから歩くスピードも速くなってるし。もうちょっとだけ、小股でゆっくりと。テンポは乱さないように』


…女の子らしく、可愛く歩くって…難しい…。






智恵先生を紹介してくれたのは、もちろんアンナさんと詩織。先生はアンナさんの美容院のお客様であり、詩織の中学２年生までの社交ダンスの先生だったお方だ。

紹介…僕が大学の演劇部所属であり、今度女性役を演じるから、その為に女の子らしい可愛い歩き方を僕に…と言う《偽のシナリオ》まで用意してくれて…。これを考えたのはアンナさん。


『凄く良くなったわ。ずっと50分も続けてたから疲れたでしょ？じゃ、休憩しましょう』

『…はい。ありがとうございます』


先生は部屋の隅から丸椅子を２つ、部屋の真ん中へ持ってきてくれた。一礼をして僕も座る。


『…智恵先生。詩織ちゃんは中学２年生まで社交ダンスを習ってたんですよね？なんで急に辞めてしまったんですか？詩織ちゃん』


先生は、僕の顔を見ながら苦笑した。


『当時…詩織ちゃんは高校１年生の男子とダンスのパートナーを組んでたの。今もだけど可愛かったわよ。中学生の頃の詩織ちゃん』


…分かります。本当に可愛かったんだろうなぁ、って僕でも想像できます。先生。


『…けど、ダンスのレッスンの途中…その男子に触られたんだって…お尻を。しかも、黙ってたら２回も』

『……。』

『わんわん泣いてたわ…詩織ちゃん。可哀想に…』